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もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

「別班」を考える

2023年09月17日 | 自衛隊

 陸上自衛隊に「別班」という秘密情報部隊が存在するとされていることを知った。

 脚光を浴びたのは、現在放映中の連続ドラマ「VIVANT(ヴィヴァン)」で、堺雅人氏演じる主役の所属が陸上幕僚監部運用支援・情報部別班(通称:別班)とされていることが契機であるらしいが、実は、2013年11月に共同通信専任編集委員の石井暁氏が、「陸上幕僚監部運用支援・情報部別班が、冷戦時代から首相や防衛相(防衛庁長官)に知らせず、独断でロシア、中国、韓国、東欧などに拠点を設け、身分を偽装した自衛官に情報活動をさせてきたことが分かった」と報じたことが発端であるらしい。
 「別班」は都市伝説に近いものかと云えば、既に国会での質疑や安倍内閣時の菅義偉官房長官が記者会見で存在を否定しているなど、別班の存在に関してはQアノン好事家のみならず国会議員や官房長官の会見に参加できるレベルの記者も半信半疑ながら無視できないものであるらしい。
 自分の考えを先に述べると、「独立国として情報機関は当然に持つべきで・持って欲しいが、秘密機関については国内法と予算の壁から自衛隊は持っていない」と考える。
 特に重要な点は、若し政府に隠れて自衛隊が独自・隠密に対敵情報・テロ情報などを得たとしても、その情報を生かす・若しくは独自(政府に隠密)に反撃する術を持たないことから、情報入手に危険を冒すメリットが全くないことである。情報が価値を持つのは、その情報に対処できる意志と手段を持っていることが絶対条件であり、例えば「金の価格が高騰している」という情報も、金相場に興味があって資金を持っている人には貴重であるが、興味がなかったり資金を持たない自分には利用価値の無い噂話に過ぎない。
 別班問題に火をつけた石井暁氏は、情報の価値と意義に無知であったために別班と云う格好の噂に飛びついたものであろうし、テレビの逆取材に対して別班OBの証言を得ているとしている点についても慰安婦強制連行の吉田清治氏に近いように思える。

 古来「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」と云われるように、戦争・軍備に反対する人は往々にして軍人(自衛官)=悪人と思い込み、挙句には「悪人であるからには良からぬことをしているに違いない」まで発展させる。情報の価値・自衛隊の能力・流用できない予算制度、会計検査制度などを総合的かつ冷静に見れば、別班は荒唐無稽なものと解るはずである。
 何よりも、自衛官はシビリアンコントロールを信奉していることを理解して欲しいものである。


海自地方隊の再編報道

2023年07月03日 | 自衛隊

 海上自衛隊の地方隊改編計画が進行中であると報じられた。

 改編の概要は、陸海空3自衛隊を統合運用する統合司令部創設のために、舞鶴・大湊の地方総監部を格下げするというものであるが、報道では改編・改組の目的を「新設する統合司令官には将(甲:四つ星)を充てる必要があり、その費用(予算)捻出のために海将(乙:三ツ星)を削減するため」としているが、皮相的すぎるのではないだろうかと思える。
 舞鶴地方隊の沿革を眺めると、
・1889(明治22)年 対ロシアの戦略の軍事拠点として舞鶴鎮守府整備計画を策定
・1901(明治34)年 舞鶴鎮守府が開庁、初代司令長官に東郷平八郎中将を親補
・1923(大正12)年 ワシントン軍縮条約により要港部に格下げ。指揮官も司令長官(親補職)から司令官に格下げとなったが、例外的に海軍中将が捕職されていた。
・1936(昭和11)年 日本海警備の重要性から舞鶴要港部司令官のみが親補職に格上げ
・1939(昭和14)年 軍縮条約の失効に伴い再び鎮守府に格上げされ終戦まで存続
 大湊地方隊の沿革を眺めると、
・1890(明治23)年 室蘭鎮守府の設置を内定
・1895(明治28)年 室蘭が太平洋からの攻撃に対して脆弱であるとし、1903(明治31)年に軍港(要港)予定地を大湊に変更。規模も鎮守府より格下の要港部として1905(明治33)年開隊
・1941(昭和16)年 日米開戦に備えて大湊要港部は鎮守府と同格の大湊警備府に昇格し終戦まで存続

 両基地は1952(昭和27)年の保安庁警備隊発足時に舞鶴・大湊地方隊として発足し地方総監部が置かれたが、鎮守府(要港部)の変転には予算や人事の側面はあるものの「日露戦争⇒日露不可侵条約締結⇒対英米戦」という戦略目標の変遷とは無関係ではないと思える。

 敢て仮想敵という言葉を使用するが、仮想敵や彼我の戦力(特に、被攻撃武器)の変化に伴って、軍事拠点・基地の重要性は変化するもので、過去にも、戦闘海域への進出に難がある呉地方総監部の佐伯(大分県)や宿毛(高知県)への移転が、同様の観点から大湊地方総監部も、高炉の火が消えた室蘭・経営が傾いた函館ドックと青函連絡船廃止などの理由で函館へなどが噂に上ったものの、あまりに費用が掛かりすぎるために幕僚の机上研究に終わったのではと勝手に推測している。
 今回の地方隊改編についても、報道された四つ星海将の席と経費捻出というよりも、改編の適否を防衛指向(戦略目標)の変化という面から考えるべきではないだろうか。


陸自の発砲事案に思う

2023年06月16日 | 自衛隊

 陸自の小銃射撃訓練で、隊員3名が死傷する発砲事案が起きた。

 現在までに判明しているのは、犯人が新隊員教育中の18歳隊員、死亡したのは教官である1等陸曹(52歳)と3等陸曹(25歳)、負傷したのは3等陸曹(25歳)である。
 犯人が目標としたのは1等陸曹の教官で犯行動機は「叱られたため」と速報されているが、詳細については不明である。死傷した3名は犯人に濃密な教育を施す関係に無かったとされているので、おそらく射撃や射場における教育のみの関係であったように思える。
 海上自衛官としての経験では、本人やバディを危険に晒す実弾射撃と消火訓練だけは指導・教育に際して身体的に強固な強制を加えるのが黙認されていたが、陸自にあっても射撃時の不安な行動や射場規律違反に対しては、罵声を浴びせることもあったであろうし鉄兜の上からではあるが拳骨くらいはあったのかも知れないが、騒音下で被教育者のパニックを正すためには止むを得ないと思っている。
 日常生活を正す生活指導や、自衛官としての服務規律指導に対しては、自分の生まれ育った環境・経験則と異なるために、長期の・度重なる指導をストレスと感じ、指導者に殺意を抱くことは起こり得るかもしれないが、射場のみに限った関係で相手に殺意を抱くとは理解できない。射場に限った教育関係とは、自動車教習所における同乗教官と教習生の関係に例えることができるが、罵声やレバー操作の手を叩かれても、一過性のもので教習車を降りれば関係は消滅する。
 今回の犯人はいわば”内部の腐ったリンゴ”であり、外側から事前に知ることは困難であったように思える。また、近年増えているとされる「叱られた経験が無い」・「叩かれた経験が無い」若者にとって、同僚の前で叱責されるのは耐えられないことであるのかも知れない。まして、拳骨の一つでも食らおうものならば、青天の霹靂・カルチャーショックで、相手を殺すことでバランスを保とうとするのかも知れない。

 陸幕長や防衛大臣は原因究明と再発防止に努めるとしテレビの識者も同様であるが、いかにハード・ソフトの両面から見直しをしても、人間関係に起因する事故を局限することはできても根絶することは不可能で、国防と云う目的達成のリスクの一つと割り切るしかないように思える。
 こう書けば、「何を能天気な!!・死傷した人の身にもなってみろ」という叱責が聞こえてきそうであるが、学識豊かな人でも、殺人を犯し、ひき逃げを犯し、麻薬を服用し、公金をくすね、他人を誹謗し、・・・が茶飯事である。これらが今に至るも根絶できないのは、文明社会の病根で、文明社会のリスクの一つと捉えなければならないのではないだろうか。


米艦に140m-2

2023年06月06日 | 自衛隊

 アメリカとカナダが、中国軍艦の無法接近動画を公開した。

 昨日の新聞報道では「140mで米艦の進路を横切った」とあったが、映像を見る限り「中国艦は、高速を以て米艦の後方から内寄り10~20度の針路で米艦を追い越し、両艦の針路が交差したのは米艦の前方500m、最接近距離は140mであった」が正しい様に推測されるので、米艦は緊張したではあろうが衝突の危機感までは持っていなかったのではと推測している。
 いずれにしても、中国艦の行動は悪質な「幅寄せ」行動であることには変わりないものである。
 道路上の危険運転と同じであるが、無法運転された側からは相手の意図が不明なことで疑心暗鬼の誘発・増進に繋がってしまう。韓国海軍駆逐艦の火器管制レーダ照射時にも書いたことであるが、海自機は韓国駆逐艦に攻撃の意図があるのか?・砲やミサイル発射機の安全装置は?は、知ることができないので、これらの様な軍隊間のチキンレースは極めて危険である。閑話休題。

 自分が在職していた頃の自衛艦の変速(速力の変更)について紹介すると、各艦種ごとに「変速標準」が定められており、例えば護衛艦では9ノットから12ノットに変更する場合は、速力指示から概ね○○秒でプロペラが規定回転数に達するよう操作するが、実際に艦の速力が12ノットに達するには更に時間がかかることになる。現在はこの変速操作は操縦装置で電子的に制御されているので、所定の押し釦を押したり、スロットルレバーを規定位置まで進めればあとは操縦装置が勝手にやってくれるようであるが、かっては、蒸気艦では操縦弁をディーゼル艦ではスロットルレバーを手動操作してコントロールしていた。そのために、どうしても個人差が生まれ、ある操縦員は一旦急激に所要回転数に上げたのち艦速の上昇に伴って回転数を微調整するよう操縦し、ある操縦員は一定の変化速度で○○秒間に規定回転数に達するように操縦するということがあった。
 出入港などでは操縦員が固定されているが、何らかの事情で操縦員が交代した場合には入港後に艦長から「操縦員が変わったのか?」と質問されたこともあり、各艦で得点を競う「戦術運動戦技」等では、操艦者から操縦員を指名されることもあった。


護衛艦いなづまの事故原因

2023年05月11日 | 自衛隊

 海上幕僚長が、護衛艦いなづまの事故調査が終了したことを発表した。

 新聞各社等の報道を総合すると、事故の原因は人為的ミスと結論されているようである。
 いなづまは、2022年11月から5年ごとに行われる定期検査・修理に従事し、1月に発生した事故は検査後の機関全力試験開始直後に30ノットの全力で海図記載の暗岩に接触して推進器、舵装置と艦首のソナー装置を損傷したものと報じられている。
 事故原因とされる人為的ミスについては、出港前の事前研究会が行われなかったこと、試験開始直前に艦長が予定航路を変更したこと、航海関係部署相互の連携が不十分であったことなどが指摘されているとされている。
 事故発生直後にも書いたところであるが、定期検査中の乗員は船乗りよりもサラリーマンに近い状態に置かれるために熟練者と雖も練度は低下し、更には期間中の人事交代によって事故の起きた航海が”いなずま”での初航海という隊員もいた可能性がある。当然にチームとしての練度は大きく低下することは避けられないために、相互の連携に円滑を欠いたのは避けられなかったように思える。
 事故報告書で指摘された「事前研究会」についても初航海の乗員にとっては「畳の上の水連」でしかなく、実際に行われていたとしても事故を完全に防げるものでは無く、事故機会を低減できる程度の効果しかないことは理解して欲しいところである。
 自分の拙い経験であるが、艦の運航経験(艦橋勤務)が無い職域から、一通の電報で艦橋での操艦が必要な部署に転勤したことがある。操艦号令・海図の見方・艦位の把握すら候補生学校時の座学だけの知識であったが無事故で終われたのは、海千山千の信号長(航海科の先任海曹)と電測長(レーダ担当の先任海曹)のさりげないが断固たるサポートが大きかったと思っているので、チームワークは安全運航に欠かせない要件である。このチームワークは、検査後の慣熟訓練や各種行動などを通じて徐々に涵養されるもので、定期検査前の艦が最も精強とされている。

 ”いなづま”の修復には40億円と2年以上の期間が必要とされているが、船体の歪み(プロペタ軸心の歪み)是正なども必要であることや、何よりも注文生産が必要な損傷品の再取得に時間を要することから止むを得ないことであろうが、万が一、損傷品が外国製のブラックボックス付き武器であった場合には更に取得に長期間を要することも予想される。
 岸田政権は防衛産業の育成に注力するとしているが、武器装備品の100%国産も目指して欲しいと願っている。