ここ2ヶ月位、大きな書店を回って、隈なく探したけれども、高橋洋子氏の「雨が好き」は見当たりませんでした。
確か、中公文庫でも出ていたはずだったのですが、(勘違いかもしれませんが--)そこにもありませんでした。
日本一流の大型書店にもない本というのは、一体何なのだろうと、そう思いました。
ましてや、かつては中央公論の新人賞を獲った作品だったので、
高橋さんはもうあれで終わったのかもしれないと思ったりもしました。(絶版なのですか?)
女優としての高橋洋子さんは最近どうしているのでしょうか、
めっきり見なくなりました。(私だけかもしれませんが)
私は昔、本は二階にまとめてずっと溜め込んでいたのですが、
阪神大震災以降、書籍でさえも重みがあることで、地震などの恐れからも、
殆ど捨てたと同然の金額で書店に引き渡したので、
今は手元には10%から20%くらいしか残ってないと思います。
「雨が好き」も私の勝手で葬られた一冊でした。
やっとの思いで手に入れた本は、感動ものでした。(読まないうちから。)
手に入れた本は 高橋洋子作品集と本の中に銘打ってあって、表題は「雨が好き」となってました。
それともう一編、芥川賞候補にもなった「通りやんせ」も入ってました。
今年に入ってから長い間、読みたいと思念し続けていた作品だけに、
読み終えたあとはすっきりしました。
「雨が好き」はジャンル分けをするのであれば、恋愛小説でしょう。
ただ、内容はそんなに甘くなく、抑えられた文章、簡潔な文章が、
小説の中で、テンポよく綴られています。
普通の恋愛小説を期待した人には、期待外れでしょう。
登場人物は三人。主人公と、主人公の恋人と、主人公の女友達のみで、
回っている小説です。
主人公と恋人との間の描写も、私を中心とした内面描写が多く、
それもどろどろした感じがまるでなくて、短文の寄せ集めのような、
詩的タッチの簡潔文が多く、読み易い内容でした。
主人公と恋人との出会いはかなり通俗的で、恋人の人間像も、
やや型にはまった文学青年タイプの変わり者で、ありきたりの設定ですが、
作者自身が饒舌にならずにまとめているのが、
効果を発しているのだと思います。
見ず知らずの人間が、恋人同士になる、
どこでどうして何をしてふうのだらだらとした描写がなく、ほとんどいきなり,
さりげなく,
愛を象徴するシーンをちらりと見せたりで作者の抑えに抑えた描写には共感を覚えます。
短い小説なので、出きる限りコンパクトにまとめるには、饒舌な文章は不向きだったのでしょう。
途中、主人公が恋人の住む海の町に行き、海に潜るシーンが四ページほど書かれていますが、
ここのあたりがこの小説の隠れた山、高橋洋子氏が勝負を賭けた部分ではなかったのでしょうか?
ここの部分は主人公の内面描写一本、相変わらずの簡潔さ中心の詩的短文かと思います。
***************************************本文よりの抜粋**
水の中の音が、私は好きだ。
息を止め、思い切って水に突入していくと、
初めはキーンという金属音が耳の中に響く。
それをこらえて、もう少し押し進むと、耳の壁の圧力が限界をきたして、
生と死の境をさまよっているかのような感覚を覚える。--------------------省略--------------------------
時を忘れ、私はしばらく水の中で佇んでみた。
静まり返った水中に、グワンという音が響いてくる。
波が出てきたようだ。身体がながされる、流される。
私は均衡を失いながらも、必死でこらえた。--------------------------省略
読み始めて三十分位して、もうこの小説の残り枚数が少なくなっていた。
私は読みながら、この小説の結末はどうなるのだろうかと、考えていた。
昔読んだことを本当に覚えていなかったのだ(泣)。
もしかしたら、恋人の男が死ぬのかも知れない--。そんな風に思っていた。
ラスト近くはこうだ。恋人は猫が好きで、猫を飼い、一緒に住んでいる。
主人公が海辺の恋人の家に泊まった時、
夜、大きな鼠が死んでいるのを発見する。
新聞紙に包んで、主人公はその大鼠を捨てる訳だが、その間の飼い猫の動き等も含め、ラストはやや錯綜している。
その時、主人公は直感的に恋人との関係に胸騒ぎを感じる。
直感的に終わりを感じるのである。そしてラストの単独の、たった二行でこの小説は終る。
今はそれは夏の日の断片としてカサコソと乾いた音を立て始めている。
別れを感じる時は、いつもわたしの中をこんな音が摺り抜けてゆく。
最後はやや私小説風でもあります。
だれも小説の終わりにハッピーエンドを期待しないとは思いますが、この小説の終わりが、アンハッピーでよかったと思っています。
辛口の終り方で、この短編がますますよくなったような気がしました。
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現在の高橋洋子氏
いかにも作家風です--。
私も、このブログで知って一度は読んでみたいと思ってるのですが、入手困難なようですね。
想像に近い、詩的な文章で是非読んでみたいです。それにしても、美人な方で。。時代からいって同世代は森下愛子とか原田美枝子・浅野温子とかでしょうか?あの辺りの青春映画は独特な雰囲気で、そうそう歌で言うならフォーク世代ですね。
昔はよく(もちろん私はリアルタイムではありませんよ~)深夜放送とかしてましたよね。
この、「旅の重さ」の紹介文もロードムービーとして絶賛されていて、とても興味がでました☆あどけなさが可愛い感じの方ですが、こんな文才もあったのですね~。ほんと、現在は作家・教師っぽいですね
それにしても、拓郎は「旅の重さ」の歌も書いていたのですね。幅の広い活躍ですね---。
「雨が好き」はアマゾンの中古でやっと手に入れました。調べていたら、寺山修司さんの未発表の歌が単行本になってました。編集は田中未知さんです。これもアマゾンに発注したので、近々読めると思います。アマゾンは案外ありますね。(笑)
『高橋 洋子 雨が好き』で検索していてたどり着いてしまいました。
数年前の記事にコメントってどうかしら?と想ったのですが、たまらずに書き込んでいます。
私もつい最近、『雨が好き』が無性に読みたくなって押し入れの奥を探して20数年ぶりに読み返しました。
今では探し出せない程に古い本なんですね。
あの頃、恋に恋していた様な幼い想いでこの本を読んでいた自分も、すっかり大人になってしまったんだなってちょっぴり心がチクチクする様な想いで読み返していました。
だから…なんだか嬉しくなってコメント書きこんでしまいました。
今回、処分しようと想ったこの本を、いつかまた読み返す事が出来る様に、ずっと手元に残しておこうと想いました。
ここにたどり着けた事に感謝しています。
ありがとうございます
2008年に「雨が好き」を再読してからもう五年経ちました。
一生の間に、心から再読したいと思うような小説は本当に数点だと思います。
そう思えば その小説が愛しくなりますね。
本当に僅かですよね。
この作者はこの作品以降小説の分野では鳴りを潜めている感じですね。
1発屋でもいい。何十年も過ぎて、
心の奥に残る作品があれば本当に言うことはありません。
私自身の感性を捉えて離さない作品って一体何なのでしょうね?
憧れてしまいますね。
多分私もこれから先何年か経ったらまたこの作品を再再読するのだと思います。
そのときまたこの「雨が好き」が違った姿を見せるのかもしれませんね。それもまた楽しみですね。
世界は広いと思いました。
いいコメント有難うございました。
私は韓国人であり、小説家です。
ずいぶん前に本をサトジョ。関連情報を見つけるよりは良い書評を読みました。やっぱりこの節は本当にお勧めします。
水の中の音が、私は好きだ。
息を止め、思い切って水に突入していくと、
初めはキーンという金属音が耳の中に響く。
それをこらえて、もう少し押し進むと、耳の壁の圧力が限界をきたして、
生と死の境をさまよっているかのような感覚を覚える。
ありがとうございます。
忘れかけていた自分のブログに対して暖かいコメントを頂けると本当に嬉しいし、これから先もコツコツと頑張って行こうと心を新たにする次第です。
いつまでも人の心の中に残るアートは他のものには換え難い値打ちがあると思います。
そんな作品に出会えることは、幸せなことだと考えます。
私は韓国語は理解できませんが、
JOH HYUNさまがこれから先も活躍なさることを願っています。
アマゾンで一円から売ってましたね。
私は母が持っていたものを読みましたが、だいぶぼろぼろです。
海のシーンは私も好きです。
どうしても忘れられない。
これが、自分にとっての名作ですね。
理解して頂けるかたのコメントは嬉しいです。
ありがとうございました。