防災ブログ Let's Design with Nature

北風より太陽 ソフトなブログを目指します。

八ッ場ダムをめぐる報道から

2009年10月20日 | Design with Nature

先日関東の県知事・都知事の一行が八ッ場ダムの現場を視察した際の映像が報道されました。現場の担当者は、「このダムサイトの岩盤は、ハンマーで思いっきり叩いても火花が出るほどの岩盤で、日本中探しても屈指のよい岩盤だ」ということを説明し、各知事は一様に納得した表情。ある意味意気揚々として住民の前に説明会に言ったのでした。

その後、報道ステーションでいうところの「隠された部分」として、ダムを造成した際、地すべりが動き出すということが伝えられました。私たちのような地形・地質調査を生業としているものにとっては、「隠す」どころか真っ先に、”やばい斜面があるなあ”と予感するのですが。

前者のダムサイトの話は、まさに土木地質学の粋であり、土木経済学へとリンクする、従来型の考え方です。さらに、治水効果・利水のためにも、やはり必要なんだという論調。

養老孟司・岸 由二『環境を知るということはどういうことか』によると、大地の構成単位は流域であるとして、地理的視点を重視しなければならないとあります。地理屋の私にはこれも当然。

しかし、なんというのか”即物性”に欠けます。理念はあっても産業に結びつきにくいのです。

ダムに関しては、Natureだけでなくfutureもデザインしなければなりません。いまはDesign and buildが求められる時代です。環境地質学の視点が求められています。

かだいおうち より
http://www.sci.kagoshima-u.ac.jp/~oyo/environ.html

産業革命に端を発した工業化社会をとことん推し進めたのが20世紀でした。自然は征服の対象であり、そこから資源を収奪し、人類に都合のよいように改造してきたのです。万物の霊長とおごり高ぶり(この考え方は人間中心の天動説です)、自然環境を乱暴に破壊してきました。弱肉強食は人間社会でも実践され、資本主義と社会主義が互いに相手の打倒を目指してしのぎを削りました。宗教でも非妥協的な原理主義が台頭して他者の撲滅を誓って不毛のテロ活動が行われています。
 しかし、今やこの路線は破綻しました。資源制約と環境問題が人類の前に立ちはだかっています。人類の利益だけを追求するエゴは通用しなくなっています。人類もまた自然の一部にしか過ぎないとの認識が必要です。自然と人類との共生、宗教・イデオロギーの違いを乗り越えた平和共存が求められています。動物は決してオーバーキルはしませんし、たとえ天敵であってもそれなりに折り合いをつけて暮らしています。自然界の知恵に学ばなければなりません。21世紀は「共生」がキーワードになるでしょう。
 応用地質学も自然を人間本位に改造することに奉仕してきましたが、これからは自然環境を保全し、人間と動植物双方にとってよりよい環境を創造していくことに力を尽くさなければなりません。持続可能な開発sustainable developmentに地質学の立場から貢献するのが環境地質学です。


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