玄文講

日記

イラク人質事件雑感

2004-10-29 21:59:44 | 個人的記録
社会問題を語ったり、天下国家を論ずるのは、飲み屋で世界を動かす話をしている酔っ払いみたいで恥ずかしい行為である。
彼らは大きな話に酔うことで、自分の小さな現実を見失っているだけの人間に見えるからだ。

例えばいつかニュースで「今年あなたにとって一番大きな事件は何でしたか?」と聞かれて「EUの誕生」と答えた若い男性がいたが、本当にそんな遠い世界のできごとが彼にとっての一番の出来事になりうるのだろうか?
若者なら「彼女ができた」とか「就職が決まった」などの「EUの誕生」なんかよりも遥かに大事なことがいくらでもあるはずではなかろうか。

社会問題を語る人には、特にその発言者の社会的地位が低いほど、このようなこっけいさがつきまとうのである。

さて、このような前置きをした上で私は今から「イラク人質事件」について語ろうと思う。
どうか このこっけいさを嘲笑っていただきたい。



まず今回の事件に対する世間の反応は「動機」と「行為、結果」の区別がついていないものが多いように見受けられる。
香田さんのイラク入りの動機である「現場を見てみたい」を非難したり、擁護したりしている。
前回の人質事件のさいも「イラクの人々を救いたい」という動機を評価し、それゆえに彼らの行為は責められるべきではないという論調が多かった。
つまりそこでは「動機」の良し悪しばかりが問題にされている。

しかし人間の評価は何を思っていたかではなく、何をしたかで判断されるべきである。
なぜなら人は良いことを考えながら悪事を働くことも、邪悪な意思の下に善行を積むこともできるのだから。

そして人は何を思うのも自由である。それが善きことであれ 悪しきことであれ、思うことは止められないし、責められるべきではなく、特に誉める必要もない。

それがたとえ

「こんなクソマヌケは殺されて当然だ。ついでに家族も殺しちまえ」

というものであろうと

「全ては日本とアメリカ政府が悪い。いますぐ迷惑をかけたイラク国民全てに賠償金を払って軍隊を撤退させろ」

というものであろうと、暴論、極論、正論、あらゆる思考は許されるべきである。


しかし人は何かをした時には、その行為に伴う全ての結果に対して責任と義務が生じる。

「世界を見たい」「困っている人を助けたい」と思うのは自由でも、その行為がもたらした結果からは自由ではいられない。

また「こいつらは非国民だ」と思うのは自由でも、彼らの家族に心ない嫌がらせをするのは許されることではない。

動機ではなく結果を見れば、誰が悪いかは見通しがよくなる。
今回の事件で一番悪いのは犯人グループである。
最も責められるべきは政府でもなければ人質でもなければ、彼らである。
私の知る限り犯人グループを非難しているのは政府だけで、市民団体は政府を、保守系は人質を非難ばかりしている。

今のイラクとイラク国民に最も必要なのは治安の回復である。
統治者がフセインだろうと、アメリカだろうと、悪魔だろうと、イラク国民にとってそんなことはどうでもいいことである。
彼らにとっては治安が回復し、十分な衣食住、教育、医療が手に入ることが何より必要なことである。その大事に比べれば、戦争責任なんて50年後にでもゆっくりと話し合えばいい問題である。

そしてそんな大事な治安回復を妨害しているのが犯人グループである。ならば一番悪いのは彼らである。
もし彼らの動機に注目するならば「不当な戦争に対する報復」という理由にわずかの正義を見出せないわけでもない。
しかし結果だけを見れば、彼らの行為はイラク国民を苦しめ、アメリカ人、スペイン人、そして今から日本人を殺そうとしているだけである。


また「自衛隊撤退」を望む人に「日本再軍備反対論者」が多いことが私には矛盾していることにしか見えない。

日本は現在 事実上アメリカの属国である。
属国とは領土の防衛を盟主国の軍事力に頼る国のことをいうからである。こういう呼び方が不満ならば友好国と言ってもいいが、実態は同じである。
だから日本はその見返りにアメリカの軍事行動には追従しなくてはいけない。

もし自衛隊撤退ということになれば、日本はアメリカとの契約を破棄して属国をやめるということになる。
そうなれば日本は領土の防衛を完全に自分たちで行わなくてはいけない。それは日本の再軍備を意味する。
日本は空母、空中給油機、偵察衛星を自前で用意し、兵士の数を増やし、将来には徴兵制の復活もありえる。
自衛隊の派遣は日本の軍事化を防ぐためには必要なことであり、両方に反対するのは矛盾でしかない。


また人質のご家族やそれを支援する市に嫌がらせをする程度の低い人間の多いことは残念なことである。

まず国はそれがどんなバカな人物であったとしても、国民の安全と財産を守る義務がある。それを妨害する行為は許されるべきではない。

また香田さんは恐らく自分の行為に対する責任を死をもって償うことになるだろう。
それだけで彼は自分の行為に対する責任を十分に果たしている。

ましてや香田さんのご家族は何の非もなければ責任を負う必要もない上に、家族の死という悲劇に見舞われるのである。
そんな彼らに嫌がらせをする人間は品性下劣と呼んで差し支えのない恥知らずである。