(昨日の続き)
「うわぁあ、化け物だー!」
バージニア州をドライブしていたホーガン氏は突如目の前に躍り出た怪しい黒い影を見て驚きのあまり叫んでしまった。なんとそこには身長2メートルを越す全身が黒や灰色の毛で覆われ、蛾のような翼とギラギラとした赤い目をもった生物がいたからだ。この化け物こそモスマンと呼ばれ、この付近で頻繁に目撃されている怪獣である。
(『本当にあった世界怪奇怪獣大図鑑』より)
私はこんな話が大好きで、子供の頃はこの手の本を好んで読んでいたものである。
しかしこういう怪物の話は慣れてくるとどれもこれも似たような構造をしており、知れば知るほど楽しめなくなってくるものである。飽きが来るわけだ。
そこで怪物好きは話だけでは満足できず、本物の怪物を求めてさまよいだすのである。
しかしネッシーの死体はウバザメで、海岸に漂着した謎の生物はクジラの脂肪で、雪男は猿で、体長5メートルを越すというインディアンに伝わる幻の渡り鳥サンダーバードは発見される気配すらない。現代は怪物のいない世の中である。
怪物がいないならば作ってしまえばいい。江戸時代や近世ヨーロッパでは剥製を組み合わせて化け物を作るのが流行した。その目的は宗教的な理由であったり、漢方薬と称して金持ちをだますためであったり、当時流行していた博物学の学者に取り入るためであったりした。
有名なところでは猿と魚のミイラを組み合わせて作った仁徳寺の人魚のミイラがある。
そういえば私の近所の寺にも河童のミイラがあった。
そんな人工怪物を集めた『秘密の動物誌』は足の生えた蛇、牙のあるウサギ、羽の生えたライオン、火を吐くワニを紹介した素晴らしい本であった。(上の写真)
しかし偽物を楽しむのも悪くはないが、できれば本物の怪物を見てみたい。その願望をかなえてくれる稀有な存在が「大王イカ」なのである。
私が高校生の頃は日曜日になってもすることなんか何もなかった。朝から夕方まで屋上で空をながめて過ごしたこともある。とにかく暇であった。それで空を見るのにも飽きると私はイカを見に行ったものだ。
場所は上野公園の国立科学博物館。入場料の70円を払うと、私はまっすぐにそこの海の生き物コーナーへと直行するのが慣わしだった。
そこには1996年12月に鳥取県羽合海岸に打ち上げられていた、体長4メートルの本物の大王イカのホルマリン漬けの標本が展示してあるのだ。
まるで作り物のような現実感のない冗談のような生き物。こんなバカなものが何百万と海の中を泳ぎまわっているのだ。まさに怪物だ。素晴らしい化け物どもだ。
大王イカの記録ははるか昔から存在している。12世紀以降のノルウェーでは島のように巨大な生物だとか人魚と称される大王イカと思われる生物が目撃されている。また詳細は不明だが、航海中の船が襲われたという記録もある。
大王イカの実物が広く人の目に触れるようになったのは1874年にハーベイという人物が大王イカの死体を買ってきてからである。それ以降大王イカの研究は本格化した。
発見された中での最大記録は18メートルもあった。現実には更に巨大なのがいてもおかしくはない。
この大王イカはマッコウクジラの餌でもあるらしく、クジラの胃袋から発見されたり、クジラの皮膚に幾つもの巨大な吸盤の跡が残っているのが確認されている。
おそらく今この時にも、人知れず深海の闇の中で20メートルクラスの巨大生物同士が生死を賭けた闘いをしているのである。
しかし現在でも生きた大王イカの目撃例は極めて少なく、私たちは時おり打ち上げられる大王イカの死体を見るしかない。
怪物を見る日はまだ来そうにない。残念なことである。
[参考]
http://monsters.monstrous.com/kraken.htm
http://seawifs.gsfc.nasa.gov/squid.html
「うわぁあ、化け物だー!」
バージニア州をドライブしていたホーガン氏は突如目の前に躍り出た怪しい黒い影を見て驚きのあまり叫んでしまった。なんとそこには身長2メートルを越す全身が黒や灰色の毛で覆われ、蛾のような翼とギラギラとした赤い目をもった生物がいたからだ。この化け物こそモスマンと呼ばれ、この付近で頻繁に目撃されている怪獣である。
(『本当にあった世界怪奇怪獣大図鑑』より)
私はこんな話が大好きで、子供の頃はこの手の本を好んで読んでいたものである。
しかしこういう怪物の話は慣れてくるとどれもこれも似たような構造をしており、知れば知るほど楽しめなくなってくるものである。飽きが来るわけだ。
そこで怪物好きは話だけでは満足できず、本物の怪物を求めてさまよいだすのである。
しかしネッシーの死体はウバザメで、海岸に漂着した謎の生物はクジラの脂肪で、雪男は猿で、体長5メートルを越すというインディアンに伝わる幻の渡り鳥サンダーバードは発見される気配すらない。現代は怪物のいない世の中である。
怪物がいないならば作ってしまえばいい。江戸時代や近世ヨーロッパでは剥製を組み合わせて化け物を作るのが流行した。その目的は宗教的な理由であったり、漢方薬と称して金持ちをだますためであったり、当時流行していた博物学の学者に取り入るためであったりした。
有名なところでは猿と魚のミイラを組み合わせて作った仁徳寺の人魚のミイラがある。
そういえば私の近所の寺にも河童のミイラがあった。
そんな人工怪物を集めた『秘密の動物誌』は足の生えた蛇、牙のあるウサギ、羽の生えたライオン、火を吐くワニを紹介した素晴らしい本であった。(上の写真)
しかし偽物を楽しむのも悪くはないが、できれば本物の怪物を見てみたい。その願望をかなえてくれる稀有な存在が「大王イカ」なのである。
私が高校生の頃は日曜日になってもすることなんか何もなかった。朝から夕方まで屋上で空をながめて過ごしたこともある。とにかく暇であった。それで空を見るのにも飽きると私はイカを見に行ったものだ。
場所は上野公園の国立科学博物館。入場料の70円を払うと、私はまっすぐにそこの海の生き物コーナーへと直行するのが慣わしだった。
そこには1996年12月に鳥取県羽合海岸に打ち上げられていた、体長4メートルの本物の大王イカのホルマリン漬けの標本が展示してあるのだ。
まるで作り物のような現実感のない冗談のような生き物。こんなバカなものが何百万と海の中を泳ぎまわっているのだ。まさに怪物だ。素晴らしい化け物どもだ。
大王イカの記録ははるか昔から存在している。12世紀以降のノルウェーでは島のように巨大な生物だとか人魚と称される大王イカと思われる生物が目撃されている。また詳細は不明だが、航海中の船が襲われたという記録もある。
大王イカの実物が広く人の目に触れるようになったのは1874年にハーベイという人物が大王イカの死体を買ってきてからである。それ以降大王イカの研究は本格化した。
発見された中での最大記録は18メートルもあった。現実には更に巨大なのがいてもおかしくはない。
この大王イカはマッコウクジラの餌でもあるらしく、クジラの胃袋から発見されたり、クジラの皮膚に幾つもの巨大な吸盤の跡が残っているのが確認されている。
おそらく今この時にも、人知れず深海の闇の中で20メートルクラスの巨大生物同士が生死を賭けた闘いをしているのである。
しかし現在でも生きた大王イカの目撃例は極めて少なく、私たちは時おり打ち上げられる大王イカの死体を見るしかない。
怪物を見る日はまだ来そうにない。残念なことである。
[参考]
http://monsters.monstrous.com/kraken.htm
http://seawifs.gsfc.nasa.gov/squid.html