せせらぎせらせら

日々思うこと

物語る。

2010-01-24 | せらせら
「ええ。まぁ、それはそうですがね」
と言って彼は直接的な否定を避けた。
だが、直後に沈黙に逃げ込んでしまうのが彼の悪い癖だ。
その沈黙が伏せた否定をより確実なものにしていることを彼は知っていた。
また、それが誠意の正しい示し方だと彼自身は考えていた。

そうして彼は、火をつけたばかりの煙草の煙が風に呑まれて消えていく様子を虚ろな瞳で眺めながら、確かにそこに在る物が目に見えて消えていく感覚をこれまでに経験したことのない強さで噛み締めていた。
それでもなお、次に発するべき言葉が、彼にはどうしても見つからないのだった。
次第に、もどかしさがやり場のない怒りを伴なって彼の中に込み上げてきた。
そうなるともう、場の沈黙がますます重く、また確信的なものに変わっていくのを彼に止めることは出来ない。
時間が全てを洗い流してくれるまで少し眠ろう、と彼は思った。
それが最善とは言えないにしても、残されたたった一つの方法に思えたのだった。





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