ガエル記

本・映画備忘録と「思うこと」の記録

「ヨーヨーマと旅するシルクロード」

2018-11-10 07:02:15 | 音楽


世界の人々、そしてその歴史のなかで音楽がある。
音楽そして楽器は世界の様々な場所で少しずつ形を変え、形式を変えていくがその心は変わらないのだ。


今も世界は争いのなかにあり、憎悪を消し去ることは不可能のように思える。それでも人は音楽を欲しそこに思いを託しそれを感じた。
世界各地の音楽かが集まり雑多な音楽を演奏することは文化を薄めてしまうと言う人がいたという。
だが音楽は長い時の中で長い道のりを旅し、絶えず変化し時には迫害されそれでも受け継がれてきたものなのだ。
その道のりをシルクロードに見立てたのはルーツを中国大陸に持つヨーヨー・マだからこそなのだろうか。


ヨーヨー・マが集めた音楽家たちにもっと自然に演奏してほしいとリクエストして自らチェロを弾いて見せる。その音楽は中国大陸を思わせてしかも郷愁を誘う響きがあった。
 
ヨーヨ・マ自身はフランスで生まれアメリカで育ったという人であるという。それでも彼のルーツは中国大陸(と台湾)にあるのだろう。西洋音楽であるチェロの大家でありながら中国の音楽への郷愁もあるのではないのかと思う。そうした思いがシルクロードという考え方に至ったのだろう。

集まった音楽家たちはそれぞれに故郷に強い思いがある。異文化の音楽と交わることでよりその思いはくっきりとした形になる。
少年の頃に革命があり、国外へと逃げなければならなかったイランのケマンチェ奏者ケイハン・カルホール、故国の人々が難民となり見捨てられ死んでいく様を語ったシリアのクラリネット奏者キナン・アズメ、世界を見たいと中国を飛び出したピパ奏者ウー・マン、文化的には豊かだが経済的に貧しい土地ガリシアで伝統楽器ガイタをロックのように演奏するクリスティーナ。
音楽は世界を変えることはできない。だけども長い歴史上でそれは受け継がれていく。
その思いが彼らに楽器を奏でさせ歌わせ、躍らせる。

おっとりとした風貌で温厚そうな(事実誰からも愛され温厚な人柄である)ヨーヨー・マの心にある力強い意志をこの映画は感じさせてくれる。そして音楽というものがどんなに人の心を揺さぶるのか。どんなに美しいのか。



ヨーヨー・マの演奏でストリート系ダンサー・リル・バックが白鳥の湖を踊る場面がある。このダンスにも驚いてしまった。
【リル・バック×ヨーヨーマ】世界的チェリストとストリートダンサーによるコラボ映像解禁 映画『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』 | Lil Buck and Yo-Yo Ma


音楽は素晴らしい。それを聞きに集まる人々も良い。音楽に合わせて歌い、踊る人も素晴らしい。そしてそれを生みだした世界はなんと素晴らしいのか。
どうか、この喜びを奪わないで欲しい。
世界の遠い道のりを音楽は旅するのだから。