ガエル記

本・映画備忘録と「思うこと」の記録

ヒーローとヴァージン~主人公造形について

2018-11-29 07:15:30 | 思うこと
「正義の心」を持つ主人公が好きだと前回の記事で書きました。これを書くために主人公というものは、と検索をしていて面白いものに巡り合えました。

新しい主人公の作り方 ─アーキタイプとシンボルで生み出す脚本術


先に見つけたのはこちらですが

いま、求められている「新しい主人公」の作り方
――物語の語り方が変わってきている

【インタビューゲスト】キム・ハドソン、シカ・マッケンジー


これは創作をしている方は凄く面白いのではないでしょうか。
「ヒーローの物語」は男性的です。天命を受けた主人公が旅立ち敵と戦いすばらしいものを勝ち取る。天命は何かの目的であったり追放されたりもあるでしょう。敵も災害であったりドラゴンだったり恋のライバルだったりするわけです。そして成長だとか平和だとか美しいお姫様だったりを手に入れるわけですね。
一方「ヴァージンの物語」は内省的なものだというのです。女性的ではありますが男性の場合もあります。女性はどこかへ旅立つというより自分がいる場所で自分自身を見つめ成長していくわけですね。

上のインタビューから引用させていただきます。


「ヒーローの物語(英雄の旅)では、コミュニティーを守り、コミュニティー自体は変化しない。村を安全にするためにヒーローは出て行って悪者を阻止し、殺さなくてはならない。帰ってきて、村や人々は元のままである。平和でよかった、という感じですね。
でも、ヴァージンの物語では、人々もコミュニティーもともに成長していきます。人々はヴァージンを愛するためにしかるべき居場所を作り、彼らもまた変化するのです。これはヒーローと正反対です。また、ヒーローの物語を前に進めるためには、常に「危機」が必要なのですが、ヴァージンの物語は、キャラクターが「本当になりたい自分」や「愛」などを知って強くなっていき、話が進展していくところが最大の違いです。ですから、一難去ってまた一難という構造ではありません。北米の人々は、2つの違いを見分けるのに、とても長い時間がかかります。なかなか違いがわからない。」


これはアーシュラ・ル・グィン「ゲド戦記」(アニメは知らないのでそちらを想像しないでください。あくまでも小説のほうです)の1巻が「ヒーローの物語」2巻が「ヴァージンの物語」とそのまま当てはまると思います。ル・グィンはすでに考えていたのでしょうね。

「正義の心」は「ヒーローの物語」にも「ヴァージンの物語」にも通じるとは思うのですが、どうでしょうか。

ヒーローの旅が遠くへではなく一歩外へ出ることの場合もあるし、おじさんがヴァージンの如く自分を見つめ変化していく話もあるというのも考えられます。
というより今は男性こそ自分を見つめ変化することの必要性があるのではないかと思うのです。そういった物語は求められないのでしょうか。


主人公造形で一番大切なのは「正義の心」

2018-11-29 06:27:38 | 思うこと
「電脳コイル」が話は面白いのに登場人物に物凄い拒否反応があってそれは極端に悪いキャラではないはずなのに何故だろう、と思いめぐらせていました。
今日からアマゾンプライムで「少女革命ウテナ」を見始めてこれが実に面白いのですね。一見「電脳コイル」は本格的サイバーSF仕立てで「ウテナ」は(ウテナと打ったら台と出て来たよ。なるほど~)軽い少女マンガラブコメみたいに見えるのかもしれないけど、その内容の重さは「ウテナ」のほうが何倍もあると思います。まあそういう「何倍」とかいう比較をするべきではないのだけど物語の本質っていうのがどこにあるのかですね。

そして思っているのは創作作品に絶対的に重要なのはキャラクター造形、なんですね。アニメ・マンガだとその表面上の造形に目が行きがちでそれももちろん大切ですがその表面的造形と内面造形が組み合わせれてキャラクターになる、という当たり前のことなんですけどね。

私にとって主人公キャラクター造形の一番重要な部分は「正義の心」だと思ってます。「正義」というのは結構厄介な言葉ですね。人によって様々に解釈されてしまい場合によっては悪の方向へとも行ってしまうじゃないか、という批判をされてしまうものでもありますが、それも含めて「正義の心」は面白い、と思っています。そういう信念を持った主人公に惹かれますし、萌えます。
そういった一途さは最高にエモいのです。

これもあって正義の心の描写が薄い「コイル」の登場人物にはエモさを感じないし、「ウテナ」はコレ全開アニメなのでエモさも究極ということになるのですね。

実はそんなに好きじゃないけど「デスノート」の夜神 月も「正義の心」キャラなのでとても面白いです。作品としては好きじゃないんですがやっぱり面白いですね、正義の心は。
勿論正統派「正義の心」は大好きです。一途な正義の心は時に暴走し、時に自分や他人を苦しめてしまいますが、そういった葛藤もまた面白いのです。

「進撃の巨人」の面白さも主人公エレンの「駆逐してやる~」という「正義の心」の頑なさが必要でした。「どーでもいい~」みたいなのはつまらないのです。

人によっては「正義の心」とか気持ち悪い、軽いのが良い、という好みもあるでしょう。それを否定はしません。でも私自身は「正義の心」を愚直なまでに貫き通す主人公の末路を見たいと思うのですね。
それがどんな「正義」でどんな変革をもたらすか、自分自身をどう変えていくかが見たいのです。
「正義の心」を持っているけど体力はなくて苦しみ周囲の力に助けられて戦う、というのもいいじゃないですか。「血界戦線」の魅力はそこにあると思います。
「ヨルムンガンド」はヨナの「正義の心」で守られています。

アメリカ映画の一番のヒーローは誰か?という問いかけでアメリカン・フィルム・インスティチュート1位が「アラバマ物語」グレゴリー・ペックが演じた弁護士だったのが納得でした。2位インディ・ジョーンズ、3位ジェームズ・ボンドを抑えての弁護士さんです。さすが正義の国の1位ですなと感心しました。

「正義の心」イコールハッピーエンドではないし、イコール正しいでもないです。むしろ間違っていたり、狂ってしまいさえする。人々から石を投げられ嫌われ孤立しもする。そういう苛烈さを持ってしまうことを含めて主人公には「正義の心」をもっていて欲しいのです。