エッツ&ラバスティダ/作 エッツ/絵
たなべいすず訳 冨山房
この絵本、地味な色合いですが、大好きな一冊です。
だいたいこのマリー・ホール・エッツの絵本は地味な
色合いなのに、とても印象に残る絵本が多いのです。
上の人が小さいとき、赤ちゃん向けの絵本を知らなかった
我が家では、いきなりエッツの「もりのなか」
「またもりへ」を読んだという思い出もあり。
「ジルベルトとかぜ」も渋い絵本ながら、
親子ともども大好きな絵本です。
このお話は、メキシコのクリスマスを描いています。
あまりなじみのないメキシコのクリスマス。
メキシコでは、クリスマスの前9日間にわたって、
毎晩ポサダ(特別なお祭り)をするのです。
それも、毎晩毎晩違うおうちで。
今年はお母さんが、セシにむかって
「一ばんはじめのを、うちでしましょう」と言います。
自分のためのポサダをしてもらえると聞いたセシの喜びは、
1ページめの挿絵のにっこりした顔を見ればよくわかります。
ポサダでは、「ピニャタと」いうつるしものを飾ります。
粘土のツボを中に入れ、まわりを紙ではって形作る飾り物で、
いろんな形があるので、セシにはまるで、生きているものの
ように見えるのです。
セシは、自分のポサダにピニャタを買ってもらえるのかどうか
気がかりでなりません。
でもお母さんは、「いまにわかるわよ」と言って、
はっきり買うとも買わないとも言ってくれないのです。
前半はセシの日常が細かく書かれています。
大人とのやり取り、大好きなお人形・ガビナとのやり取り、
家の外を通るいろいろな人たちの観察、
公園での一日とその後の事件など、何気なく語られる中で、
セシがどれだけ大切にされているかが、伝わってくるのです。
そして後半は、いよいよピニャタを買いにマーケットへ。
セシは、あれこれアピールしてくるピニャタたちの言葉に
ずいぶん迷いますが、ことさら目をひいた★の形の
ピニャタを自分のものにしようと決めます。
お母さんも「なんてきれいなんでしょう」とほめてくれて、
セシもさぞうれしかったことでしょう。
翌日、セシは誰にも何も聞かなくても、何をするかちゃんと
わかっています。
今日はセシのポサダの日。
大事な★の形のピニャタに、大きなオレンジ、
小さなレモン、ピーナッツやきれいな紙に包んだキャンディー、
赤と白にそめたあめのスティックなどを、
ぜーんぶ一人でつめました。
兄のサルバドールとお父さんが、二本の木の間に
ピニャタをつるしてくれ、暗くなるのを待って、
ポサダがはじまります。
ポサダの儀式のクライマックスは、なんといっても
ピニャタ割り。
スイカ割りの要領で、目隠しをした子どもが次々と
棒をふって、ピニャタを割ろうとするのです。
中の果物やお菓子をたくさんもらうために・・・。
大事なピニャタを割ってほしくないセシは、
見ていられず、木のうしろにかくれます。
このあたりからのドキドキ感と切なさは、
とても胸にせまります。
でも、ガラガラという音と子ども達の歓声を聞いたセシは
ピニャタがこわされてしまったことを悟るのです。
そのあとセシに起こったこと!
本物を見せるために、セシはガビナを取りに走り、
2人でじっくり見つめるというラストは、本当に感動的。
私はいつもウルルルとなってしまいます。
このセシのような子ども、好きだなぁ。
思い入れが強い分、人とは違う感性で、もしかしたら
他の人の目から見れば、この子はポサダを十分
楽しんだのかしら?と思うかもしれないけれど・・・
セシにとって、とても思い出深いポサダに
なったことでしょう。
何かを楽しみに待つ喜び。こういう経験、
なかなかできないので、ホントにうらやましいです。