みどりの船

絵本と絵本まわりのこと、日々の雑感を少し。

ナゲキバト

2007-11-28 | 読書雑記
『ナゲキバト』
ラリー・バークダル・作 片岡しのぶ・訳  あすなろ書房

主人公は、両親を交通事故で亡くした9歳の男の子ハニバル。
祖父と暮らすことになった生活を、大人になったハニバルが
回想する形で語られます。

祖父(ポップ)は、多くを語らない。
けれど、ここぞという時に物事の核心を静かに語って聞かせるのです。
それは押し付けではなく、ポップの考え、信念として。
最後の決断はハニバルに任され、その責任がいかに重くても
口をはさまず、ポップはじっと見守ります。

ハニバルが銃に興味を持って、「ナゲキバト」という鳥の
母鳥を撃ってしまった時も。
その後の処理も。
9歳の少年が、自分のついた嘘に縛られ、
友人のチャーリーとしでかすいたずらに、良心の呵責を覚えながらも、
強く自分の意思を主張できないでいる時も。

ポップはハニバルをひどく責めることもなく、
ハニバルがしなければならないことだけを諭すのです。

どうしてこんな接し方ができるのだろう。

人は過ちを繰り返しながら生きる。
それを深く反省するかしないかで、その後どう転がっていくのか・・・。
知ったことは言えないけれど、自分を見守りつつ、深い愛情をもって
接してくれている人の存在が、どれだけその後の自分を自律・自立
させるかを、あらためて考えさせられます。

ポップの話は、最後に向けて伏線がはられていて、結末は大きな
衝撃を受けます。
ポップの背負っている十字架の重さが、きっとそこはかとなく深い
ものだからこそ、ハニバルへの対応が愛情に満ちたものなのだと
確信します。
そして、いつも、ここで胸いっぱいになってしまうのです。

以前読んだ時に、印象に残ったポップの言葉をメモした
しおりがはさまっていて、思いがけなかったので
びっくりしました・・・。
読みなおしてみると、やっぱり心ゆさぶられる言葉たち。

 「たいがいの人間は、なにを願うのが自分にとって
  いちばんいいか、わかっちゃいないという気もするね。
  なにかをして、たとえ苦しくともその結果を引き受ける・・・
  それが人生だ。
  そういう経験をするために、人間は生まれてきたんだ。

  わしら人間は、祈るなら、苦しいことの意味を理解するのを
  助けてほしい、と祈るべきだ。
  苦しいことを取りのぞいてほしい、と祈るのではなくてね。」

 「人間はあることをするか、しないか、自分でえらべるんだよ
  -どんなときでもね。
  だれかに、むりやりやらされるわけじゃない。」

この言葉の奥にある事実を思い返せば、とても深い言葉です。
ほぅっと深呼吸して、流した涙と一緒に、浄化される感じ。

旅行に持参して、一気に再読してしまいました。
この本は、同じ訳者で新装版として出ているそうで、今は、
こちらの装丁なのだそうです。

 『ナゲキバト


(本当は、「とびきり好きな・・・」のカテゴリーに
 入れたいところですが。
 絵本ではないので、こちらに入れておきます。)

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17 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ぱせり)
2007-11-28 20:09:08
フラニーさん、旧版(?)の装丁、きれいですねー。アマゾンではよくわかりませんでした。
自分を見守りつつ、深い愛情をもって接する。難しいけれど、この本は、読者であり親でもあるわたしたちをも励ましてくれているのかもしれませんね。それこそ口を挟まずじっと見守りながら。
>ほぅっと深呼吸して、流した涙と一緒に、浄化される感じ。
そうそう、まさにそう、浄化なんだ。この涙は心地よいです。
私もまた何度も読み返すことになる本に出会えてうれしいです。

ところで、フラニーさん、フォレスト・カーターの「リトル・トリー」はお読みですか?
いつかいつか機会があったらちょっと手にとってみてくださいね。「ナゲキバト」とはまた趣きが違いますが、きっとフラニーさんもお好きじゃないかな、とそんな気がしています♪
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Unknown (ペンギンブルー)
2007-11-28 23:04:47
フラニーさん、こんばんわ。
愛する者を、じっと見守ること。
これほど、大きな愛情はないような気がします。
そして、これほど難しいこともね....。

いつも自分の大切な子供のことを、信じていたいと
ほとんど忍耐に近い思いで見守ってようと、必死な自分。
いつか、自然体で見守れる日が来るんでしょうか....?

そんな誰かを”見守る”事に必死な自分を、ふと振り返って、
実は、自分も誰かに影で見守られているんじゃないか?と、
そのことを忘れてるんじゃないか?と、最近思いました。

ご紹介の本、素敵ですね。
フラニーさんのメモしたポップの言葉、本当に素敵。
自分で選ぶこと、選んですることについてくる責任、それをきっちり受け止める、とても大事なことだと思います。
チヒロちゃんに読んでほしいと思ったフラニーさんの気持ち、わかるな。
私も、そういった事を子供に伝えられたらって思います。
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Unknown (各務 史)
2007-11-29 11:56:57
>なにかをして、たとえ苦しくともその結果を引き受ける・・・
>それが人生だ。

そう思います。
そして、一生懸命それを子どもたちに伝えようとしている最中です。
伝わっているかもと思うときと、
そうでもないんだと思うときと、
両方の時を行ったり来たりしています。
本来、親がやらなくちゃいけないのは、
子どもが一人で立って、歩いていけるようにすること。
それだけなんですよね。
でも、余計に口が出ちゃうんだよな~。

またまた、示唆に富んだ書籍の紹介
ありがとうございました!
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Unknown (jsdumin)
2007-11-29 11:57:07
あ~、そうありたいなぁと・・・思いました。
大人だからとか、子どもがいるからとかではなくて

「苦しいことを取りのぞいてほしい、と祈るのではなく
 苦しいことの意味を理解するのを助けてほしい、と祈る。」

いつも楽なことばかりじゃないけれど、どんなに苦しいこと
だとしても、それから逃れる方法も必ずあったはずなのだから。
それを甘んじて受けようと思ったのは、確かに自分自身なのだから。
いつか読んでみますね。

フラニーさん、(ぜんぜん無関係な話なのですが)
旧版の本は、フラニーさんのお手持ちの本ですか?
以前、本を買ったらカバーは捨てちゃうって言う人の話を
聞いて驚いたのですが、私は帯もとっておく人です。
フラニーさんの写真の本にも帯がついていたので・・・
そんなことが嬉しくなりました。



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あら・・・ (jasumin)
2007-11-29 11:58:11
これは誰かしら?(笑)
上の「jsdumin」は、私です。スミマセン
返信する
●ぱせりさんへ (フラニー)
2007-11-29 16:37:46
ぱせりさん、再読のチャンスをありがとうございます!
もうどうにも読みなおしたくなって、旅行のお供になってもらいました♪
旧版の装丁も、なかなかですよね。
わたしも気に入っているのですよ・・・。

>自分を見守りつつ、深い愛情をもって接する。難し いけれど、この本は、読者であり親でもあるわたし たちをも励ましてくれているのかもしれませんね。 それこそ口を挟まずじっと見守りながら。

ほんとうですね。わたしも何度も読み直して自覚したいところです。
ほんとに、すぐ忘れてしまうので・・・。

「リトル・トリー」表紙の人が印象的だと思いながら、手にとったことがないのですよ。
ぱせりさんのところのコメントでも「リトル・トリー」のことが出てきていたので、読んでみたいと思っていたところです。
ふふ、読んでみますね♪ありがとうございます



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●ペンギンブルーさんへ (フラニー)
2007-11-29 16:47:51
ペンギンブルーさん、同じ気持ちだなぁと思いながら、コメントを読みました。
よぶんなことを言わず、信じて、見守るって、
簡単なようで、本当に難しい。
わたしも、まさに忍耐の毎日ですよ(涙)
自然体で見守れる日・・・わたしもなかなか道は遠そうです。

でも、逆にそうやって見守ってもらっていたということも、やっぱり実感するんですよね。
最近母と話すときも、そんな話によくなります。
(そして、また反省するのだけれど・・・)
親だけじゃなくて、見守ってくれている人はたくさんいるかもしれませんしね。
そんなことにも、いずれ、子どもたちにも気付いてほしいな。
この本、宗教色が強いと敬遠する声もあるようですが、わたしにはとても響いてきて、大好きなのですよ。
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心で読む本 (S. Yard)
2007-11-29 16:49:53
子供と一緒に読める本は、できるだけ声に出して読みたいなと思っています。声にすることで、イメージが膨らんだり、作者のメッセージが伝わってくるようで、作品と近い距離に自分や子供達がいることが実感出来る気がします。でも、このお話は、静かに、各が心で読む方が、登場人物との距離が上手く保てそうでかつ、深い愛を噛みしめることができそうです。
また、手元に置きたい本が一冊増えました。
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●各務 史さんへ (フラニー)
2007-11-29 16:56:13
史さん、きっと少しずつだけど、伝わっていると思いたいですよね!
はねられたって負けないわ・・・という気分です(笑)
どんどん自分を確立して、主張もしているけれど、その結果まで自分で引き受けてねということを、
口やかましく言わないで伝えるには、どうしたらいいんでしょう・・・。
難しいですね。
出すぎず、不足すぎず・・・そんな親にわたしはなりたい・・・

このお話のポップのエピソードは、聖書に出てくるあるお話に似ている気もするのです。
でもそれをのぞいても、思うことはたくさんで、わたしはぐっと胸がつまってしまいます。
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●jasuminさんへ (フラニー)
2007-11-29 17:07:00
ふふふ、jasuminさん、ありがとうございます。
訂正も・・・(笑)わたしもよく、フニラーととぼけた響きで打ち込むことがあるので、お察ししますよー。

この本、機会があったら手にしてみてください。
ほんの薄い本の中に、考えさせられることがいっぱいつまっている気がします。
生きることはつまり、選んでいくことかもしれないですね。いろんな選択肢を・・・。

この本、そうそう手持ちです。
たまに帯がよれたり破れたりすると、捨てることもあるけれど、たいては、カバーも帯もこんなふうにつきっぱなしかもしれません(笑)
カバーがすてきなものもあるから、捨てられませんよ~ ね? 
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