日本の2023年の国内総生産(GDP)がドイツに抜かれて4位に転落したことが話題になった。25年にはインドに抜かれて5位になると推計されており、「日本の衰退」を強調する報道も少なくない。だが、国際投資アナリストの大原浩氏は、「“日本悲観論者”には見えていないものがある」と指摘する。
日経平均株価は09年3月のバブル後最安値7054円(終値)から現在の4万円近辺まで、5~6倍にも上昇した。東京株式市場には、5大総合商社を「まとめ買い」した投資の神様、ウォーレン・バフェット氏が新たな投資を検討するほど魅力的(割安)な企業にあふれている。
日本の完全失業率は3月時点で2・6%で、雇用は十分に確保されている。米国の4月の失業率は3・9%、ドイツは4月時点で5・9%、フランスは1~3月期平均で7・5%だ。中国は4月の若年失業率(16~24歳、大学生を除く)が14・7%と「公式発表」されているが、実態はもっと悪いと考えるべきであろう。 ドイツやインドにGDPで抜かれるとして、日本では「悲観論」が蔓延(まんえん)しているが、世界的な視点からは違った景色が見える。
メディアにもてはやされているドイツだが、経済の実態は悲惨だ。これまでロシアの安い天然ガスに頼っていたが、ウクライナ戦争で敵対したことにより、「成功の方程式」がもろくも崩れ去った。イデオロギー優先で原発を停止してしまい、製造業や市民生活は大変なことになっている。
ドイツはメルケル前首相の時代から中国との蜜月が続いていたため、中国の長期不況の影響を大きく受ける。しかも、ベルリンの壁崩壊後に統合された旧東ドイツが足を引っ張る。いまだに旧西ドイツとの経済格差が存在している。
インドも「国家としての統一性」に難があり、永遠に「成長が期待される国」で終わる可能性が高い。大きな問題は、公式には否定されているが根強いカースト制度だ。IT産業では問題がないというが、今後の成長の牽引(けんいん)役になるべき製造業では大きな障害となっているようだ。また、インドの公用語は、英語とヒンディー語だが、州レベルの公用語として認められている言語が21もある。方言まで含めると数百とも数千とも言われる。個性は大事だが、「国家としての統一性」には難がある。
人口の約8割に達するヒンズー教徒と残りの多くを占めるイスラム教徒の対立も波乱要因だ。
これまで繁栄してきた米国も、日本のバブルのピーク時に近い状況だ。金融やITのように「手っ取り早く儲かる」ビジネスばかりに注力した結果、製造業が衰退している。
それに対して、「手っ取り早く儲からない」製造業に情熱を燃やすのが、日本の「匠の心」である。デフレ時代にはその「心意気」が経済的利益につながらなかったが、モノを次に買うときには価格が上がるインフレ時代には、「高機能で頑丈で長持ちする」=「日本品質」が圧倒的優位となる。
日本人は、他人をおとしめたり攻撃することよりも、自己反省して自らを高めることを好む。謙虚だともいえるが、行き過ぎると自らの欠点ばかりを探し出し、長所に目を向けないようになる。その結果、「自信喪失」しているのが、現在の日本ではないだろうか。今後日本経済が復活すれば恩恵を享受できそうです。
■大原浩(おおはら・ひろし)氏 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。