つまり老後の3つの不安のうち、“老後にどれぐらい生活費がかかるかわからない” 不安、そして“老後にどれぐらいお金が入ってくるのかわからない”不安についておおよその考え方を述べてきたわけです。
今回は三つめの不安、すなわち“どれぐらいお金を準備すれば大丈夫なのかがわからない”不安についてお話ししましょう。
具体的な方法は、「マトリックスを作ること」です。それはどんなものかと言うと、“入”と“出”のマトリックスです。それぞれのケースを想定して作ってみるのです。では、やってみましょう。
まず“出”の方ですが、老後に1億円かかる根拠は生活費を月額35万円と置いて、平均寿命まで生きる前提で計算されていることはお話ししたとおりです。ところがこの月々の生活費を25万円にすれば生涯生活費は7500万円になります。20万円になれば6000万円ですが、逆に50万円になれば1億5000万円かかります。
次に“入”を考えてみましょう。公的年金だけでどれぐらい受け取れるのか?計算にあたってはサラリーマンで厚生年金に加入しており、給料が月38万円で配偶者が全く仕事をしていないという前提を置きました。「ねんきんネット」で試算してみますと、平均寿命まで生きた場合の生涯年金収入は6750万円と出ました。
さらにサラリーマンであればこれに加えて退職金や企業年金の出る場合もあります。仮に退職金が1000万円なら合計で7750万円、2000万円なら8750万円になります。また、このケースでは配偶者が無職の場合ですが、もし仕事を持っていれば公的年金の金額はさらに増えることになります。
こうやって“入”と“出”について様々なケースを想定したらこのようなマトリックスを作ってみるのです。
仮に公的年金しかないという場合で月35万円の生活をしたければ、4000万円ぐらいの資金を自分で別途用意しておかなければなりませんが、25万円なら1000万円足らず、もし20万円で生活できるのであれば、公的年金の範囲内でも生活できるということになります。
このマトリックスを使って、自分の場合の“入”と“出”をイメージすればいいのです。そうすれば、一体どれぐらい老後に向けて自分でお金を準備しておかなければならないかがおおよそわかってきます。
ただ、このマトリックスだけではまだわからないことがあります。それはこの計算の前提が「平均寿命まで生きた場合」となっているからです。平均はあくまでも平均です。自分が何歳まで生きるかは誰にもわかりません。
この“何歳まで生きるかわからない”というのも不安の大きな原因です。別な言い方をすれば長生きリスクです。つまりいつまでにお金を使い切ってしまえばいいのか?予想に反して長生きしてしまい、生活費がなくなってしまう恐怖があるのでなかなかお金が使えないというのが現状です。このため、現在日本人が亡くなる時点で保有している金融資産の平均額は3000万円強だという話もあります。
実は、公的年金というのはこういった長生きリスクに対応するために設けられているのです。公的年金の本質は「貯蓄」ではなく「保険」です。早く死ねば払った保険料は無駄になりますが、長生きすればするほど保険の機能が生きてきます。なぜなら公的年金は終身だからです。つまり“死ぬまで”支給されるということです。
私は常々、自分の持っているお金は90歳までに全部使い切ってしまおうと考えています。2015年7月の時点での男性の平均寿命は80.5歳ですが、それよりも少し長めを想定しています。でも90歳までに使い切ってしまってそれ以上長生きすればどうなる?と思われるでしょうが、前述したように公的年金は終身ですから90歳以降も月10~15万円ぐらいは支給されます。
さすがに90歳以上にもなると海外旅行に行ったり、アクティブに活動したりすることはないでしょうから、生活費もそれほどはかからないと考えていいでしょう。
将来のことは誰にもわかりませんから不安があるのは当然です。ただ、何もせずに「不安だ」と言うばかりではなく、実際にこのようなマトリックスを作ったり、お金を使い切る時期を考えたりすることがとても大切です。これによって将来のイメージがある程度明確になり、自分で計画を立てられるようになってくるのではないでしょうか。
(経済コラムニスト・大江英樹)