夏を深々とかぶって
秋の黄昏に
口笛を吹いて歩く
夏がひえかける頃には
もう花が満開の季節になってしまう
そんな愛を
あなたにあげたかったのに
どんなに抱きしめても
ひとつの時間の扉の向こうは
雪を待つ空の広がりだ
決して降りつづいて
すべてを白く埋めつくすことはない
ただ雪を待つ空の拡がりだ
わたしたちは
こんなにも
想いあっているのに
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』 . . . Read more
わたしのさしのべた掌は
あなたひとりだけを
包みこんでゆくことは
できないことなど解かっているのに
あまりにも強い想いが
わたしの腕をまっすぐあなたの心にむかって
さしのべさせてしまった
あなたが背を向ける
哀しい期待を持ちながら
それなのに
あなたは微笑のままに
わたしの掌に答えてしまった
出口のない時間の扉を
思いっきり大きく開けて
誰にも気づかれてはならない
足音に気をくばりながら
. . . Read more
草にかくれて咲く小さな花に
目をとめたような偶然ではない
わたしの想いの瞳が
しっかりと捕らえたのだ
まわりの風景が
消え去った後に
ひとつの人影が残った
時を逆上る帆舟は
舟足を速めながら
透明度を増し続けて
魅かれてゆく哀しみは
急速に強まりなかせらも
わたしの両腕を
ひとつの人影に引き寄せた
わたしはすべてをなくすかもしれない
そうつぶやきながらも
わたしは少年の瞳をした自分に気づ . . . Read more
黄昏の
ひとけのない路を
ますます好きになったのは
あなたを
知ってからだ
そこならば
あなたへの想いが
明るい色彩に燃えて
小さな夕焼けのなかに
溜息を気軽に
ふりそそぐことができる
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
青春が遥か遠い風景になって、ふと気づくと、僕の心のなかに残しておきたかった部分が驚くほど小さくなっていて──
風に乗って、草の陰に咲く小さな花を両腕いっぱいに摘みとって、街の花屋の前に雪のようにふりそそぎたい思いも、
車窓からみた、見知らぬ街はずれの路に魅かれて、汽車を降りたりする旅も、
ましてや、青いままに崩れる波を探したいなどという思いは、
ひとには言ってはならないセンチメンタルな夢 . . . Read more
暑い日射しのなかに
わたしの想いは
すっぽりと厚いコートにつつまれて
寒さをこらえている
今日からあなたは
旅に出ている
慣れきった肩によりそって
あなたは今頃
どのあたりを列車に揺られているだろう
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
わたしのために流した
あなたの涙をはじめてみた時
わたしは知っている限りの
言葉を使って
涙のまわりを飾った
いま
わたしの心に大切にさげているのは
その時の涙で作った
ペンダントです
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
ナニヲプレゼントトヨウカシラ
と
あなたはとてもまじめな顔で言う
馬鹿ですね
わたしにとって
そんなあなたの想いが
遠い日の色彩をたたえた
いちばんのプレゼントなのに
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたの
遠い日の愛の話を聞いた時
わたしは
黄昏に舞いしきる雪を感じた
その頃わたしは
まだひとりだったというだけで
あなたは
出逢うはずのない
街に住んでいたのに
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
日曜の街で
あなたの
母親の表情と
妻の表情を一緒にみてしまった
わたしは心の窓を閉めきって
通りすぎようとしたのに
あなたはわたしに気づいて
心の窓を
いたずらっぽい瞳でひらいてしまった
その時だけ
ひとふきの風のように
恋人の顔をのぞかせて
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたと別れた直後
わたしは
孤りぼっちの少年だ
茫漠たる草原にたって
凍てついた風に
哀しみを投げつづける
孤りぼっちの少年だ
帰りの列車に乗れば
平穏な顔をして
時には隣のひとと
明るい笑いを浮かべて話しもする
哀しみを
おどけて燃やしてみせもする
孤りぼっちの少年だ
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more