海辺の町に住む
友が訪ねてきた
わたしはコーヒーに
小さなヨットを浮かべて
友の話を聞いた
塚原将『たったひとつの季節に』より . . . Read more
少女が好きであった
と
いうことを
突然 想い出して
グレープジュースを飲んだ
ひんやりと冷たい落日が
胸をつらぬいていった
夕暮れ
堆積されたもののなかの
かすかな痛みが
まだ──
塚原将『たったひとつの季節に』より . . . Read more
恋愛詩だけの作品集を作りたいという願いが実現したことはとてもうれしいことですが、どんなふうに書こうかと、だいぶ迷いました。
遠い日の愛では、今までと同じになりそうですし、僕の年齢で美しいだけのものとして、夢のように描くことは、どこか空々しく思えたのです。
色々迷った揚句、ごく平凡に流れている現実の生活のなかに、突然心を魅かれるひとに出逢ったらと考えたのです。
それが独身である場合なら、美し . . . Read more
わたしの想いが
放たれた矢のように
遠ざかってゆくあなたの背に
鋭くつきささる
あなたは気づいただろうか
あなたの背にささった
わたしの想いが
少しずつ淋しさを
濃くしてゆくことに
そして
想いを投げたわたしの掌が
もっと淋しい顔をして
過ごした時間の頁を閉じることに
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
なんなのだろう
わたしの心のなかに
透明にざわめき始めたものは
心の疲れやすい少年が
なおさらに疲れをましながら
海辺に立つ少女を眺めないではいられないように
一群の笑いさざめくひとのなかに
笑いながらも秋の香りのするあなたを
遠く眺めた時に
わたしの心のなかに
ひとしずくの哀しみを落としてから
透明にざわめき始めたものは
はるか彼方に忘れたはずの憧れが
わたしの肩に掌をおいている
塚 . . . Read more
いつの間に影を深める十月の空を
明るくさざめかしているのは
群れ咲くコスモス
秋から冬への色あせてゆく哀しさを
花びらのうしろにかくしきって
尚更に時間を淡く染めて
わたしにはできない
あなたとの愛が
色あせてゆくことを知りながら
明るく微笑むなんて
わたしの心は
ひとより早く冬のなかに
枯れ果ててしまうだろう
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
いろいろな声が
わたしを包んだ
ひとつひとつの声が
わたしの想いの素顔を
覗きこもうとした
同情のうしろに
花の季節があった
なに気ない言葉に
見世物小屋の幟(のぼり)がみえた
心のまわりに
柵をつくる時間はなかった
わたしは
かたくなに心の瞳をとじていた
そこに
あなたの涙ぐんだ顔が
浮かんでいるのだけが
ただ哀しかった
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
ろうそくの炎に掌をかざすと
かすかな暖かさが
指先にあった
あなたの心のなかに
わたしは
せめてこれぐらいの暖かさを
残しているだろうか
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたが
わたしにあきた時は
一輪の白いコスモスをください
はじめて触れた時に
十月の風の香りがした
あなたの唇から
別れの言葉を聞いたなら
わたしは孤り
想い出を燃やしながら
一枚のカミソリを研がなくてはならない
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
どんなにひき伸ばしたところで
別れの時間は
はっきりとみえていて
その時
うすい硝子の器を落した時のような
音をたてて
ひとつの時間に包んだ愛が
割れてしまうのに
わたしたちは懲りもせず
また逢える日の話をしている
愛の割れる音に
その日まで
苦しむことは解かっているのに
閉じこめられた愛のために
心の耳をふさぎきって──
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
無意識な言葉が
あなたの心をかげらせて
溶けあえないままに
別れの時間はやってきてしまった
それでも微笑を残して
あなたは背を向けた
ふっきれない想いのなかに
固い靴音が
いつまでもひびいていて
わたしは
鋭くとぎすました槍を
心のまんなかに
力いっぱいつき刺した
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
一瞬の風に
木の葉が舞い騒いだ後に
静けさの輪が
ゆっくりと拡がっていって
ことさらにわたしを孤独にした
つい先刻まで弾んでいた
あなたとの時間が
顔を伏せて黙りこみ
哀しみを深めた想いが
もうみえるはずのない
あなたの後姿に
遠く目をそそいだ
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたと旅ができるならば
十月の晴れ渡った日がいい
ひとけない山あいの
コスモスの群れ咲くところがいい
あなたは気ままに
ずっと先を歩いていって欲しい
わたしは
あなたのこぼしていった想いを
ていねいにひろい集め
白い花がいちばん多い
コスモスの群れにそっとのせ
遠い日を深くまとって
あなたが振りむいた時
倒れこみ
揺れ騒ぐ花から
あなたの想いがふりそそぐ下で
死にたいのだ
塚原将『 . . . Read more
わたしの心の
最も暗い部分を
ふたつに裂いて
あなたが
わたしに
はじめて想いをこめて送ってくれた微笑を
挿んだ
枯れ果てた草原にたって
ふと小さな花の香りを
思い出したような
限りなく淋しいいとしさが
あなたの微笑を挿みこんだ
心をとじてゆく時間のなかに
満ちあふれて
わたしはかくすべき想いを
あなたを抱きしめるだろう
予感に
鎖でしっかりと結びつけてしまった
塚原将『愛する人よ-あな . . . Read more