どんなに思っても
あなたとの出逢いが
遅すぎたことはとり戻せないし
あなたの左の薬指にひかる
歳月の想い出を消し去ることはできない
大切にしすぎて
しまいこんでなくしたものを
ある日みつけ出した時の心のふるえが
いつかあなたにあるのではないのかと
もの哀しい想いが
言ってはいけない言葉を
わたしに吐き出させて
あなたの頬につたう涙に
激しく揺らぐ想いが
思いきりあなたをつき放したいなどとい . . . Read more
わたしの心の
ひどく小さくなってしまった
残しておきたい処に
眩しさをはおって
あなたは立った
花の裏側にある淋しさを
忘れかけてた感傷が
ひとしずくの涙を浮かべて
遠い日に視線を投げた
過ぎ去った歳月を
しみじみと濡らしながら
生まれてきた想いは
ひとつ溜息をもらすと
もう足を止めることはできなかつた
わたしを包んでいる
現在(いま)から
そっと目をそらして──
塚原将『愛する人よ-あ . . . Read more
わたしの腕のなかで
あなたはふるえた
別れたあとも
わたしの胸に
ふるえは残った
その日から
もういくつ季節をくぐりぬけたことか
わたしの腕に
それはさざ波のように
まだ残っている
いまのあなたは
わたしの腕のなかに
しっとりと暖かいのに
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
心やさしい人々に囲まれて、ごく平凡で暖かな生活の中に、異なった愛が生まれた時、それは深まるにつれて、重さをまし、エゴイスティックな姿を鮮明に映しだす。
もしあなたが不幸せな生活を送っているのなら、愛を明るい色彩に染めて、みんなに告げることもできるだろうし、もし僕がそんな生活を送っているのなら、その愛をひとつの逃げ道として正当化してしまうこともできるだろう。
僕もあなたもごく平凡で暖かな生活 . . . Read more
わたしにからだをあずけて
あなたが遊んでいる
わたしの唇を指で撫でたり
胸に顔をあてて笑ったりしている
軽い足音をたてて
あなたのあけっぴろげな想いが
わたしの心のなかを駆けまわっていて
その時あなたは
遠い日わたしが夢みた
少女の顔をしている
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたの想いが
ふりそそいでいる
眩しい瞳から
やわらかな唇から
いたずらな指先から
たえまなくふりそそいでいる
わたしは仰向けになって
目をとじている
真夏の海が
わたしのとじた目のなかに拡がっている
あなたの言葉が
その上に次々と
赤いヨットを浮かばせてゆく
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたのひざに
わたしは顔をのせている
ひどく静かな時間が
わたしの髪に触れている
あなたの指先にあたって
わたしは黄昏の路の
淡い色の花をつかもうかと迷っている
もの淋しい
ひとときだけの少年になる
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたに出逢うのが
遅すぎて
はじめての愛は
あげられなかった
だからわたしは
最後の愛を
過ぎてきた歳月を拭き消して
あなたにあげよう
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたに出逢って
わたしは
ふたつの重さをいっぺんに
背負ってしまった
明るい重さと
暗い重さが
決してまじりあうこともなく
微笑みあいながら
自分の時間のなかに
雨がふきこんでくるのを
ふせいでいる
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
寒い雨が降っているのに
明るいのは
今日あなたに逢えるからだ
わたしは
わざと傘を忘れて
あなたに逢いにゆこう
わたしの濡れた心を
あなたは
どんなふうに暖めてくれるだろう
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
風邪がうつるわね
あなたはつぶやく
そのくせ目を閉じたまま
顔をそっとあげて
明日わたしは
軽く咳をしながら
あなたに電話しよう
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたと別れた瞬間に
わたしに襲いかかるものがある
黒い翼を大きく拡げて
わたしの心深くくちばしをつっこんで
かくれて燃えている想いを
丹念についばんでは
現実の時間のなかに
映し出してみせるものがいる
だからわたしは
何時いつもその瞬間に
凍てついた海をみてしまうのだ
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more