Re:SALOON & VBA

グレープジュース

少女が好きであった

いうことを
突然 想い出して

グレープジュースを飲んだ

ひんやりと冷たい落日が
胸をつらぬいていった
夕暮れ

堆積されたもののなかの
かすかな痛みが
まだ──



塚原将『たったひとつの季節に』より

コメント一覧

はっちん
消せない時間
消しきれない鉛筆の跡のような

ひとときが

閉ざした心の片隅にある



錆ついてしまった窓のむこうで

誰かがひとつの歌を口ずさんでいる

何故誰カナドトイウノダロウ



みんな憶えているのに

忘れてしまったふりをして



明るい色に染めた心の壁に

たった一枚の枯れたつたの葉が

いつも……





塚原将「消せない時間」より
はっちん
片想い
ひとつ ひとつ

ていねいに言葉を噛みくだいていって



あなたの心が

むこうをむいていることに

気づいたのです





塚原将「消せない時間」より
はっちん
あなたの絵
うすい色ばかりを使って

あなたの絵を描いた



わたしの心の底にまで

哀しみが沈んでくるうちに

思い出になってしまうように





塚原将「消せない時間」より
はっちん
嘘つき
笑いながらさっぱりと

あなたにサヨナラを言う



わたしが

いちばん嘘つきになる時





塚原将「消せない時間」より
はっちん
ふれあい
何故あなたは

目をとじたのです



去っていってしまうのなら

わたしの頬を打てばよかったのに



あなたが目をとじたので



厚い雲の間から

おちてくる光をみるたびに



わたしは

あなたのことを思い出すのだ





塚原将「消せない時間」より
はっちん
愛の移行
若葉をはむように残っていた

あなたとの出会いの日に

だれがひとしずくの雨を

風鈴のようにつるしたのです



それ以来わたしは

あなたへの想いを

両掌にそっと包みこむだけで



風の強い海辺を

裸で駆けていくあなたを

まっすぐにみつめることが

出来なくなってしまった





塚原将「消せない時間」より
はっちん
愛の型
そんな愛をあなたは信じているのですか

柔らかな白い羽で傷ひとつない時間を

とびつづける愛を

あなたの愛は何処にとまるというのです

すぐに消えてしまう

やさしいばかりの言葉の上にですか

そんなことで何処までとべるというのです

所詮疲れ果てて死んでしまうだけなのに

わたしには信じられません



なにもなくただとびつづける愛なんて

なにひとつ啄むこともなくとびつづける愛なんて

余りに深く澄んでいて

みつめることさえ息苦しくなるだけだ



それなのにあなたはみつめていたのですね

疲れた愛の最後のはばたきが

幽かにあたりをにじませた後に

まっすぐ落ちてくるまでを



わたしには信じられません



いいえ

わたしは泣きたいのです

信じたいのです



これは哀しい告白ですが

わたしはあなたが羨ましいのです

妬ましいのです

静かな顔をして

愛の弔いをしようとしている

あなたが



だからなおさら

わたしはそんな愛を

信じたくないのかもしれません





塚原将「消せない時間」より
はっちん

振りかえることもなく

にぎやかに娘たちは通りすぎていった



真夜中の愛



乾いた気紛れで

あなたを

そして抱きしめたのは

真夜中の街にぴったりだ



ここには

鳥が赤い木の実を

ついばみにくることもなく



みつめ合う瞳の中に

花がうつることもない





塚原将「消せない時間」より
はっちん
吹雪の夜に
夜更けの吹雪を

美しいとだけ思っていられるのは

暖炉の火が燃えているからだ

いくら瞳をこらしてみても

寒さは決してみえない



所詮思い出なんてそんなものだ

ましてや遠くなるほどに

哀しみさえ花の色彩をおびている





塚原将「消せない時間」より
はっちん
わたしの想いは
わたしの想いは

あなたの心の明るいところに

浮かんでいるに違いない



もしあなたの心の

深い色彩をたたえたところまで

沈んでいったのならば



あなたは

そんなに無邪気な顔をして

わたしの腕にすがって

歩けるはずがない





塚原将「消せない時間」より
はっちん
何故
何故あなたは

この頃

出逢いの頃の話ばかりするのですか



わたし達の愛は

まだそれほど年老いているとは思えないのに





塚原将「消せない時間」より
はっちん
木枯しのなかで
木枯しのなかで

扉を閉めた花屋には

色とりどりの花が競ってた



木枯しのなかで

わたしの心の中は

雪がおちてきそうだったので



わたしは

花屋の扉を思い切り大きく開けてしまいたい

気持ちをこらえて

足早やに通りすぎたのだ





塚原将「消せない時間」より
はっちん
あくび
追いつめられない時にでも

ためいきをつくことに

慣れてしまったので



ひとりきりになっても

綺麗にあくびをすることを

覚えてしまった





塚原将「消せない時間」より
はっちん
初秋
はりめぐらされていた光が

透明度を増しながらほどけていって



ひと呼吸した空の

思いっきりひらいた掌から

コスモスの香りが

こぼれおちた





塚原将「消せない時間」より
はっちん
コスモス
花瓶のコスモスは



哀しすぎる



風にざわめきながら



群れていた明るさが



花弁のすぐ下でとぎれている





塚原将「消せない時間」より
はっちん
流れゆく花に
水の上に投げた花は

すぐに沈んでしまえばよかったのに



くるくるとまわりながら

鮮やかにすべっていったので



はるか遠くの

汚れ切った河のほうにまで

想いをのばしてしまい



わたしは

いちばん淋しい想い出を

あわてて水に落としたのだ





塚原将「消せない時間」より
はっちん
その日
その日をかくしつくすには

ふりつもる時間に雨が多すぎる



乾ききって



色砂糖をまぶしたクッキーのように

軽く記憶のなかに溶けるはずだったのに



ふりつもる時間のかすかな隙間に

同じ方向に伸びていった蔓に

しみじみと濡れそぼって



開くこともない蕾が

香りだけを強めている





塚原将「消せない時間」より
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「詩(塚原将)」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事