蕎麦彷徨

ひとりの素人が蕎麦について考えてきたことを書きしるすブログ

栽培 (40)

2006-11-17 | 栽培
⑥  収穫量について

私がソバを栽培しているのは、香り高いソバがほしいからである。だから、増収のための方策はあまり考えて来なかった。全国平均の収穫量である10アール当たり100kg程度収穫出来ればよいと考えている。

しかし、収穫量についても少しの試みは行ってきた。増収上のポイントは幾つもあろうが、私は栽培方法の1つの側面から増収を考えた。

1995年に信州大学で、第6回「国際ソバシンポジュウム」が開催された。この時の出席者に『ソバの研究 最近の進歩』と題する論文集が用意された。この論文集の中に興味深いある論文が掲載されていた。それは、井上直人氏らによる「南箕輪村周辺における普通ソバの伝統的栽培」という論文である。これは、信州大学農学部周辺の18箇所の圃場(栽培農家)の栽培方法を仔細に調査したものである。
井上氏らは、収量の多い条件として、標高が低いこと、栽培経験が長いこと、自家採種の種子を利用していること、畝の播き床内の栽植密度が低いことをあげておられる。

私は、この調査における1㎡当たり300g以上も収量がある、上位2つの農家に共通するある栽培方法に着目した。

栽培 (39)

2006-11-16 | 栽培
3) 適切な播種日

すでに播種日については、「播種日の決定」の項で述べた。播種日は、各地域あるいはそれより狭い各場所により異なってくる。播種日が早ければ、ソバはいたずらに徒長してしまい倒伏のいリスクが高まので、ある程度は遅く収穫量が低下しない時期を探していく以外にない。

実際には、今まで個別に述べてきた肥料、播種量、播種日を相互関連のもとに検討し、ソバを栽培していくことになる。
なお、私の場合は、播種日は8月20日前後、播種量は約1kg/10aと決めているので、肥料分(窒素分)を少し減らそうと考えているところである。

以上考察してきたのは、「すじ播き」の場合であるが、「ばら播き」の時は、播種量をおよそ2倍にすると言われている。

4) 土寄せ

これは「すじ播き」の場合のみに行われる。「すじ播き」をする作物は、通常、中耕・培土を行うが、これと同時に土寄せを行う。この土寄せは、ソバの根元に土が盛られてくるので、倒伏防止に大いに有効である。

最後に私が試みている倒伏防止法を書き添えておく。
私は、現在家庭菜園的な広さ(狭さ)でソバを栽培している。この広さだからできるのだが、作に沿って紐を張っている。これは非常に有効で、台風のような悪天候がない限りほぼ倒伏することはない。

栽培 (38)

2006-11-15 | 栽培
前回、少ない播種量は、倒伏防止のみならず、増収をもたらし、しかも育種を行っていると述べた。

播種量が多く密植になるとなぜ倒伏するのだろうか。
すでに、ソバが倒伏し易い時期は2回あると書いた。初回の小さいときは、過肥であること、播種日が早いことによる。2回目のソバが成長してからはいま考察している播種量が多いことが主たる要因である。

ところで、私は以前に播種量が少なければ、ソバの茎は太く丈夫になり倒伏の恐れは減少すると書いた。この考えを延長すれば、ソバの播種量を多くすれば茎は細く貧弱となってしまい、倒伏耐性が低下しすぐに伏せってしまうということになる。これは私が考えていただけでなく、一搬的な考え方でもある。しかし、私にはそれだけでは説明できないように思われる。
圃場における肥料成分が一定であるならば、立毛粒数が多くなれば1個体が吸収する肥料成分は少なくなるだろう。すると、1本のソバの茎も細くなるばかりでなく、葉の数も少なくその大きさも小さくなるのではないか。とすると、多播種量による密植が、ソバの茎を細く弱いものにするという理由で、ソバを倒伏に至りしめるのだという理由にはならなくなる。とすると、倒伏の主たる原因を他に求めなければならない。

まるでソバがぺたりと地面についてしまうほど倒伏した状態を観察すると、茎が折れていないものまでもが、枯れてしまい、雨が多い時などには腐ってしまっている。これは、茎が繁茂した葉に覆い被され、空気がほぼ完全に遮断され、すっかり枯れてしまうのである。この空気の移動が止まるのが最大の問題なのだ。

密植になれば、立っているソバの茎の下部においてもこれと同じメカニズムが作用しているのではないか。茎の下部の間を空気が自由に移動しなければ、茎は「細い」以上に弱くなるのではないか。私は試みたことはないが、ソバがある程度大きくなってから、同じ密植程度の2箇所を選定し、一方のソバ群の下部に扇風機で弱い風をあて続けたら、両者の倒伏耐性には大きな差が生じるのではないか。言うまでもなく、風を当てた方は、倒れにくくなると考えられる。ソバの下部の空気の停滞が、茎の脆弱性をもたらす主たる原因なのである。

密植にしないことによる空気の自由な移動は、倒伏も回避し易い上に、増収にも通じる栽培上のポイントでもある。これについては、次の項「収穫量について」で述べる予定である。

ところで、10a当たりの播種量が、2.5kgから3,5kgの間ぐらいが、収穫量は最大になるのではないかと述べておいたが、私のこれまでの試みでは、播種量2,7kg弱で210kgの収穫量となり最大であった。180kg前後の収穫量は、いずれも播種量が3kgに満たない時であった。こうしたことを根拠に、播種量は2.5~3.5kgが適度な数値ではないかと私は考えている。






栽培 (37)

2006-11-14 | 栽培
前回、10a当たり3kgの播種量を1つの目標にしたらどうだろうと書いた。もちろん、それは一度にその量まで減少させれば、リスクが伴うから、1つの「目標」とし、5kgから4,5kg、4kg、3,5kgと次第に少なくしてみたらという提案である。

しかし、本来的には次の意味を含めている。例えば、4kgの播種量にするには、誰でも、種子を精選するという意識が働くであろう。精選された種子ならば、5kgに満たなくても、それと同等の収穫量が望める。いい種子を使えば、発芽率も苗立歩合も高まろう。さらには、1個体がつける子実の数も多くなるであろう。これを毎年毎年続けていけば、播種量は減少できる。

すなわち、この種子の精選の継続は、単に播種量の減少のみでない大きな意味ももつ。それは、ソバの品質の絶えざる向上をもたらすのである。換言するならば、これは間違いなく育種(品種改良)である。長い年月をかけながらの、広い意味での紛れもない「育種」である。

すでに書いたが、「信濃一号」や「常陸秋ソバ」を遙に凌ぐ、本当にいいソバは、もう日本の幾つかの地域にしか残っていないという。おそらく、これらの極上の在来種は、その地域の気候とか様々な好条件が関与していようが、その地域を形成する農家の人達が、いい種子を選んで、何十年も、いや何百年も作り続けた結果なのではあるまいか。

隔離栽培でいくら上質の形質を持つ「ソバ」を固定しても、虫媒花のソバは開放区で栽培してしまえば、たちまち交雑してしまう。
選りすぐった種子を、地域全体で、営々と栽培し続けるよりも重要なことが他にあるだろうか。

栽培 (36)

2006-11-13 | 栽培
2) 適切な播種量
  
一搬に、10a当たりの播種量は約5kgと言われている。
『畑作全書』の「そば」の項では、次のように述べられている。「適当な栽植密度の基準を1㎡当たり立毛数100個体ていどとみている。」
これを「苗立歩合(播種粒数に対する立毛数の割合)」を「圃場試験」における「76%」を利用すれば、10a当たり約4.7kgとなる。『畑作全書』においても5kgに近い数字である。

私は、この約5kgという数値も、立毛数100個体/1㎡という数値も、基本的に多すぎるのではないかと考えている。倒伏回避という観点からだけみるならば、播種量は少なければ少ないほどよい。少ないほどソバの茎は太く、丈夫で、頑強になる。

もちろん播種量が少ない方が倒伏の恐れが減少するからといって、播種量をどこまでも減らせるものではない。なぜならば、播種量は収穫量と密接に関連しており、収穫量を全く無視することはできないからである。
それにしても、私は、最も多くの収穫量をもたらすのは、播種量5kgなどより遙かに少ない量が適切なのではないかと考えている。播種量を5kgから減少させていけば、収穫量は増加していく。しかし、収穫量の増加はどこかでピークをうち、減少に向かう。私は、このピークが3.5kgから2.5kgの間にあるのではないかと推測している。例えば、3kgの播種量とすれば、1㎡当たりの播種粒数約107粒〔{3000×(1000/28)}/1000〕となり、苗立歩合76%を用いれば1㎡当たり立毛数約81個体となる。

私は、この播種量3kg/10a辺りが1つの目標値ではないかと考えている。実は、この「目標」とするというところに重大な意味を含めている。

栽培 (35)

2006-11-11 | 栽培
ソバの倒伏は、茎そのものの脆弱さが解決されない限り、根本的に解決されることはない。しかし、手を拱いているわけにはいかない。栽培方法を工夫することから、何が可能なのかを探っていきたい。

倒伏を防ぐには、次の4つが必要である。 1)適切な施肥量 2)適切な播種量 3)播種日が適切であること。さらに、4)土寄せすることである。以下順次これらを検討していきたい。

1) 適切な施肥量  

倒伏の最大の誘因は、過剰な施肥と過剰な播種量である。ところで、「ソバはやせ地がよい」などの言葉をよく耳にする。私は、ソバも他の作物同様に植物体であるからには、適切な量の「栄養分」が必要であると考える。「栄養分」が供給されて始めて、充実した子実をつけられるのではあるまいか。では、なぜ人は「やせ地がよい」と言うのか。

ソバには他の作物とは異なる特別な「能力」がある。岩手大で長年ソバの研究に従事された菅原金治郎氏の『ソバのつくり方』には、「ソバの根は、ギ酸、酢酸、レモン酸やシュウ酸を分泌するので、水に溶けにくい肥料成分などを溶かして、土のなかの養分をよく吸収することができる。」という記述がある。
この吸肥力の強さゆえ、ソバは他の作物が生育できないところでも栽培されたために、いつしか「やせ地がよい」などと言われるようになったのではないか。
結局、正確に言えば、「ソバはやせ地でも育つ」ということになるのだが、それゆえにこそ、肥料を投入すれば、多肥になり易い。ソバの場合、この多肥が容易に過肥になりがちなのである。

問題は、肥料をどの程度施したらよいかを知ることである。しかし、この適量を判断するのは難しい。おそらく、正確に知るには、土壌分析するしかない。その土壌分析で注目すべき項目は、EC(電気伝導率)である。実際のソバの生育具合とこのECの数値とを比較しながら、適切な施肥量を探って行くことである。

今年のソバ栽培で東区のECは、0.15mS/cmであった。この東区のソバの草丈が1m10cm弱であり徒長しすぎであったことを考えれば、この少ない値さえも下げる施肥設計をすることが必要だと考えている。


栽培 (34)

2006-11-10 | 栽培
ソバには倒伏し易い時期がある。
激しい雨や強い風があれば、ましてや台風が来れば、いつでもひとたまりもなく倒れてしまうのだが、容易に倒伏してしまう時期がある。それは2回やってくる。

最初は、徒長が最も著しい、播種20日頃から35日頃である。その中でも、その初期の頃の倒伏が一番心配される。しかも、悪いことに、この地域ではこのソバの成長段階が、雨の多い9月となる。不利な自然条件と急激な徒長期が重なってしまうのである。
この時期、徒長をいたずらに促すのは肥料が過多であること、播種時期が早すぎることである。

倒伏し易い2つ目の時期は、ソバの成長がほぼ頂点に達する頃である。この時期に葉の数も大きさも、すなわち葉の全表面積が最大となる。最大となった時に雨が降れば、葉に付着する水滴も最大となる。その重さにソバの幹は耐えきれず倒れてしまうのである。この時期には、ソバがそこまで順調に生育し、たくさんの小さい花を咲かせ、葉が青々としているので、収穫が保障されたものと考えてしまう。だから、ここで倒れると本当に悲しい。
この時の倒伏の最大の原因は、密植である。

次回は4つ目の論点として、倒伏を防ぐにはどのような方策があるのか、栽培方法の観点から探っていきたい。

栽培 (33)

2006-11-09 | 栽培
ソバの倒伏に内的要因があるとすれば、外的要因もあるだろう。おそらく、自然条件が好適であるならば、ソバは倒伏することはないかもしれない。もっとも、栽培方法が適切であればという条件がつくが・・・。
では、ソバ倒伏の外的要因とは何か。それは、雨と風である。

すでに、ソバが湿害を受けやすいことは述べたが、雨には実に弱い。ソバが小さい時に雨が多ければ、根が「とけて」なくなってしまうくらいだ。
ソバは成長し長雨にさらされれば、幹が弱り水分が葉に付着し重さに耐えきれず、上部から湾曲しついには地面についてしまう。その途中で、あるものは耐えきれず折れてしまう。折れてしまえば、そこで水分や栄養分の移動が遮断され、それよりも上部は枯れてしまう。折れないまでも、地面につくほど倒れたものは、植物の持つ屈光性の性質により頭を持ち上げるが、まともに子実をつけることはない。

倒伏を誘発するのは、雨だけではない。風もある。強い風が吹けば、それにもてあそばれ、ソバはやがては倒れてしまう。近くに木や家屋などの障害物があれば、風は舞ってしまい、倒伏方向は「むちゃくちゃ」になってしまう。こうしたソバの収穫の困難さは容易に想像されるところである。

雨と風、それらは単独でも、ソバ栽培には大きな影響を及ぼすのだが、その両方が同時やってきた時には、被害は何倍にもなる。台風は、雨と風が伴うのだから、ソバ栽培の最大の「敵」である。だから、台風の到来が予想される時には、ただ静かに通り過ぎるのを待つかあるいは進路が変わるのを祈るだけである。

今回は、倒伏の外的要因について考えてきた。次には3つ目の論点として倒伏し易い時期はいつなのか考えてみたい。

栽培 2006season 42

2006-11-08 | 06season栽培
11月4日、作期68日間、ハサ掛け9日間の西区約半分のソバ落としを行った。
11月7日、作期68日間、ハサ掛け11日間の西区残り約半分のソバ落としを行った。
これで今年の収穫作業は全て終了した。

西区についての基本データ  (西区27㎡ 1000粒重30gを使用)
播種量:1kg弱/10a   当初の播種数800粒、補植、移植を加算し総使用数を850粒として25.5g  944g/10a
収穫個体数(本数):489本
立毛個体数(本数):18.1本/1㎡
収穫量:2.7kg   99kg/10a
結実率:約30%  (1000/30×2700)/(489×600)×100=30.6  1個体当たりの平均総小花数600個を使用

播種量は、通常の約5分の1。収穫量は、ほぼ全国平均と同等。結実率は、通常指摘される数値の上限。東区と西区の比較においては、ここ数年落葉のみしか投入していない東区の方が、収穫量においても結実率においても優れている。最大の問題はこれから行う試食である。しかし、その前に来たるべき年度に使用する種子を選定しておかなければならない。使用する種子の数倍まで精選しておく。


栽培 (32)

2006-11-07 | 栽培
⑤  ソバの倒伏について

ソバは本当に倒れ易い。全作物の中で最も倒れ易いかどうかは判らないが、間違いなく倒伏耐性が低い作物に分類されよう。
稲作は、作況指数が95にもなろうものなら大変なことである。それがソバならば、指数が50など驚くに値しない。20、30さえあり得る。(もちろん、稲作の場合指数が95でも問題にされるのは、米がメジャーな作物であるからだが・・・)このソバの収穫量の不安定さの大きな原因となるのが、倒伏である。

倒伏は、収量の減少をもたらすだけでなく、収穫作業を困難にさせるなど実に大きな問題である。
今年もNBさんの話によれば、生育は順調であったにもかかわらず、倒伏が広範囲に発生し、収穫量は意外に少ないとのことである。

では、なぜソバは容易に倒伏してしまうのか。
それはソバそのものが抱えている内在的要因がある。ソバは、自らの木につける葉などの重さに対して、茎を支える役割も果たす維管束が脆弱なのである。茎が脆弱であるならば、葉の数はもっと少なければならないし、葉の数が多ければ、茎はもっと丈夫でなければならない。この両者がアンバランスなのである。
このアンバランスを解決する1つの方法は、「信州大ソバ」のような丈夫な茎をもつソバを開発していくことである。