蕎麦彷徨

ひとりの素人が蕎麦について考えてきたことを書きしるすブログ

栽培 2006season 43

2007-01-31 | 06season栽培
2006年season蕎麦の総括

乾燥率
東区: 18.8% (栽培期間62日、64日間 ハサ掛け10日間)
西区: 15.0% (栽培期間68日間 ハサ掛け9、11日間)
東区は、計測後、おおむね曇りで時折薄日がさす日に30分間「天日乾燥」、途中15分経過したところでかき回し乾燥の均一化を図った。これにより乾燥率は若干下落したと思われる。
西区のソバは、ハサ掛け後の乾燥は行っていない。

試食は、2006年12月3日、16日、2007年1月21日の3回行った。
私は、香りが高く、しかもいい香りがすればよい蕎麦と考えているので評価の観点は、その点からの評価。

東区、西区共に過去7年間の平均値程度。落ち込んだ前年・2005年から回復。皮肉なことに隔離栽培を中止した今年のほうが昨年より上。なお選抜方法は昨年も今年も同じ。

次に、東区と西区の相違
落葉のみの東区のほうが香りが少し強く、澄んで軽い感じ。私の好みである。様々な肥料を投入してきた西区の蕎麦は、香りが少し弱い。これは1つの要因として、上記の乾燥率の違いから発生していると思われる。さらに、西区の蕎麦は、色々な香りが混在している感じで鮮明さがなくぼやけている感じがする。鋭敏な試食者の中には、1枚の蕎麦をより多く楽しめるので西区の蕎麦の方が好きであると評した方がいる。
いずれにしても、東区と西区の蕎麦には相当な違いがあると判断できる。

以下次回。

栽培 (74)

2007-01-30 | 栽培
ソバの殻すなわち果皮に一定の紋様があるものをどう拾い出したらいいのか。

前年の収穫された全てのソバから選び出すのはそう容易なことではない。そこで、すでに別のところで書いたが、NBさんに教わった石抜機を利用した。まずは、その機械で石の中に混入しているソバの種子を集める。こうすることにより、密度の大きい、いわば「重い」種子が選別できる。もうその時点で、丸々とした良質のソバの種子が集められているのである。これらの種子の中から、一つ一つ目で見て一定の紋様の種子を選んでいった。

まず最初の年に、140粒を選び、3m程の長さの畝を立て播種した。隔離栽培をするために、白い寒冷紗で覆いをかけた。しかし、これでは虫媒花であるソバは受粉をしない。ミツバチを入れるほどの広さでもないので、人工的に受粉させることにした。原始的な話だが、柔らかそうな筆を購入してきて、毎日花から花へと筆を「走らせた」のである。その際、ソバの花は長柱花と短柱花があるのでそれを特定しておいて、必ず交互に筆を「走らせた」のである。これで受粉が首尾良く行われるか心配したのだが、ソバは実をつけそこそこ収穫できた。

こうして収穫出来たソバの多くを、次の年度には50㎡足らずの「畑」に播種した。幅2mの寒冷紗を何枚も縫い合わせ、広いわけではないがソバの畑全体を覆い、ミツバチを放飼した。いよいよ次年度には、多くの種子の中からの選別が可能となった。
こうして、ソバの種子の選別と隔離栽培を2005年度まで継続した。

しかし、毎年収穫した「蕎麦」を食べると、始めに期待したような変化は認められず、心躍るような気持ちは次第にしぼんでいってしまった。結局最終年となった2005年のソバは香りに欠け大いに落胆した。そして、2006年は、従来の選別方法のみを継続し、隔離栽培は中止した。
自負して言えば、選別と隔離栽培をしたソバは、通常のどのソバと比べても劣りはしない。しかし、以前に書いた「山のソバ」には遥かに及ばない。

しかし、投げ出したくはない。物事には必ず突破口がある。
もう1度、今までの栽培を総括し、新たな発想を加味し、うまいソバ作りに挑戦したい。


栽培 (73)

2007-01-29 | 栽培
「常陸秋そば」の開発過程を明らかにした論文・「ソバ新奨励品種『常陸秋そば』について」に啓発されて、私はこの「品種改良」という分野には全く不案内であったが、とにかく手を染めてみることにした。2002年から2005年まで、選抜と隔離栽培を試みたのである。

私の目標はだだ1つ・「香りの高い蕎麦」がほしいだけだった。
香りについて何ら「科学的な目」を持たない私が唯一できることは、一般に「甘皮」と呼ばれる種皮の色のいいものを選ぶことだけだった。いい色とは「黄緑色の濃い」ものである。もちろんこれは種皮の部分に蕎麦特有の香りが多く含まれているということを聴いて知っていたし、種子がいい色をしているものが、香りが強いことを何度となく体験していたからである。

しかしながら、どのような種子が内側にいい色を持っているかを決めるのはそう簡単なことではない。当然のことながら、殻を外していい色であることを確認してから、蒔いても芽が出ない。ソバの種子の外観から、内側の種皮の色のいいものを特定できなければならない。
そこで、友人の陶芸家に作ってもらった掌に入る小さな「殻外し器」を利用して、ソバの外観の色、大小、形、紋様などを基準に考えられるだけ分類して殻を外して調べてみた。
そして、ある一定の紋様を持つソバが、他のどんな分類のソバよりも、種皮の黄緑色が濃いことに気づいた。

そこで、2002年から隔離栽培を開始した。

栽培 (72)

2007-01-26 | 栽培
では、「選抜目標」に従い選抜系統栽培し生産力試験を経て、具体的にどのような「ソバ」になったか。以下引用。

「常陸秋そば」は原種となった「金砂郷在来」と幾つかの点で同等であるとし、良くなった諸点を、「千粒重は『金砂郷在来』より重い。異形粒は『金砂郷在来』より少なく、粒揃いも良い。品質も良で『金砂郷在来』より良い。」と記述し、さらに「『常陸秋そば』は『金砂郷在来』に比べ生育収量性はほぼ同程度とみられるが、穀粒の外観品質の良いことが認められた。」と結論づけている。
ここから読み取れることを一言で言えば、「外観品質が良」くなったことである。

さらに、この論文には、めんとそばがきにした時の食味試験の結果が記載されている。その試験では、香り、風味、甘みの3項目について調査された。風味においては大差なく、甘みにおいては『常陸秋そば』が優れ、香りについては『金砂郷在来』が優れている。
蕎麦を食べる時、甘みにどんな価値があるのだろう。私は、全くないとは言わないが、香りの重要性と比べれば、遙に重要性は低い。「香りはないが甘みのある蕎麦だ。」などというのはどれだけピントはずれな言葉か。いい品質のソバのみが香りの高い蕎麦になる。つまり、香りがあれば甘みはついてくる。
香り、しかもいい香りを求めて蕎麦を食い歩くのは私だけではあるまい。味が判る蕎麦食いで、香りを軽視する者はいまい。

私のような価値観を持つ者からみれば、「常陸秋そば」は原種の「金砂郷在来」より後退している。これは品種改良ではない。
人は、「農家に見栄えがよく、良く売れる品種が提供できたのだからいいのではないか」と言うかも知れない。しかし、「外観品質」だけでなく、味の観点からも多くの蕎麦食いが求めるソバを開発しなければならないのではないか。

「香り」を品種改良の中心に据えなければ、うまい蕎麦が食べられることはなくなってしまうだろう。いい在来種の良い形質を「拡大」するような育種を、今、早急に進めなければならないだろう。
私は、「蕎麦界の展望」で、新しい地平を切り開くのは、食べる側、すなわちそばのいい味を求めることから蕎麦の世界に入り、ソバの栽培に途方もないエネルギー注ぐことができる若者しかないであろうと書いたが、「常陸秋そば」の開発過程をみるとその思いはより強くなる。


栽培 (71)

2007-01-25 | 栽培
④ 育種について

現在日本で最高の品種と評され、有名な蕎麦店が買い付けに走る「常陸秋そば」は、本当に美味しいだろうか。私にはそうは思えない。

確かに、「常陸秋そば」は他のソバに比べて、「豊潤でコク」がある。しかし、最高のほめ言葉で用いるそれではない。「豊潤でコク」があるといっても、差異があってもよいと私は考えているのだが、諸手を挙げて賛美したいその言葉ではない。
「常陸秋そば」が最も評価できる点は、粘りけがあることである。そばきりにする際には、この点は実によい。上手く打たなければ、固いコシがでてしまうほどである。かつて、上手く打てなかった私の「常陸秋そば」の蕎麦を「ゴムのようだ」と形容した人がいる。

「常陸秋そば」の最大の弱点は、香りが乏しいことである。

それでは、一体常陸秋そばは、どのようにして「生まれた」のだろうか。
私は、「常陸秋そば」の開発過程を記した「ソバ新奨励品種『常陸秋そば』について」という論文を読んだ。それによれば、「常陸秋そば」は、「金砂郷在来」を選抜系統栽培した結果、その名が附され1985年に茨城県の奨励品種に指定されたものである。

私の最大の関心事は、どのような形質を持つ品種として固定されていったかという点であるが、この論文には「選抜目標」が次のように記載されている。以下引用。
「選抜目標は①赤花の混入を無くする。②矢羽根のついた粒や稜の部分が角張った鋭角の粒を無くする。③果皮色が黒褐~黒の粒に揃える。④粒を大きくする。⑤その結果、粒揃いを良くし、見た目の品質と製粉歩合を高める、ことをねらいとした。」

私は、これを読んで唖然とした。美味いそばを開発しようという思想など微塵もないではないか。




栽培 (70)

2007-01-24 | 栽培
CECの値を下げるために採用できる方法は、②の施肥しない、と③作物に養分を吸収させる、である。

ところで、東区は冬から夏まで、大量の落葉を畑に積み上げておいた。これが、蕎麦の味を向上させた主な要因なのではないかと考えているのだが、この方法を転換しようと思う。今年から落ち葉を土中深く埋め込むことにする。

この落葉を深く埋め込む方式を採るには幾つかの理由がある。
1) 過去7年間、この東区は肥料を入れず落葉のみ投入してきたのだが、落葉のみといえども、量が多いために養分が畑に加えられてきたはずである。落葉を土中深く埋めれば、その養分が直接吸収される割合は減少するだろう。これは②の条件をある程度満たすことになる。
2) 今までは、落葉が畑の上におかれていたために作物が栽培できなかったが、落葉を埋め込めばそれが可能となる。今年は作物を栽培し養分を吸収させようと思う。これにより③が可能となる。
3) 塩基飽和度を高めているのは、異常に多いカルシウムである。落葉を積み上げる以前に、ミネラルの重要性を考えるあまり、大量にカキ殻を投入してきた。それが落葉に覆われていたために流失すことなく滞留したことによる。落葉の埋め込み方式は、カルシウムの流失を促すことになろう。
4) 深さ15~20cmの作土の部分は、落葉の投入により団粒構造化が進んでいる。壌土と言える状態である。しかし、その下の層は、一見して気相がほとんどない粘土である。これでは、排水が上手く行われない。だから、土の深い所に落葉を入れようと思うのだ。落葉が腐葉土化し排水がよくなれば、水を嫌うソバには最適であると思われる。
以上のような理由により、今年は落葉を土中深くに埋め込もうと思う。

東区が抱える大きな問題は、塩基バランスの問題もある。このアンバランスを是正する方が困難であると思うのだが、この点についてはもうしばらく考えることにする。

西区は東区と同様の問題も抱えているので、ここではその検討は割愛する。

尚、落葉を「完熟」腐葉土化してから畑に投入する方法も試みてみたい。何年もかけて作った「完熟」腐葉土こそ蕎麦の味を変える決定的要因になりうるのではないかと期待している。

栽培 (69)

2007-01-23 | 栽培
前回に総括した理論的枠組みに基づいて、次年度(2007season)のソバの土づくりはどうあるべきか? 今回は、この問題について考えてみる。

まず、東区について。
ソバ収穫後の土壌分析結果が出てきた。まずは、主な指標について栽培前との対比から。
CEC:35.7→34.1(me/100g)   塩基飽和度:120→115(%)
塩基バランス: Ca:Mg:K=34:4:1→34:4:1
EC:0.15→0.11(mS/cm)    水溶性リン酸:19.6→15.0(mg/100g)

栽培前と収穫後では大きな変化はない。最大の問題の1つは、塩基飽和度の値が高いことである。ここをどうするかである。一般的に考えて、方法は3つある。① CECの値を高める。② 施肥しない。③ 作物(緑肥)に養分を吸収させる。

①の方法は採用できない。CECを高めるには通常ゼオライトか完熟堆肥を用いる。この2つの方法とも私の畑では問題がある。ゼオライトを使えば、私の畑の仮比重の値はすでに高いので、さらに高まってしまう。完熟堆肥を使えば、それに必然的に含まれる肥料成分により塩基の割合が高まり、塩基飽和度がさらに高まってしまう。
さらに、ソバという作物には、CECの値が低い方が適しているのではないかと、私は推測している。ただし、CECの値を低下させてしまえば、急激に塩基飽和度は高まってしまうので、この数値は、現状維持とせざるえない。
すなわち、CECの値を高めることによる塩基飽和度の引き下げ策は採用できない。

もう少し書きたいので、以下次回に。



栽培 (68)

2007-01-22 | 栽培
これまで土づくりの指標を5つ決めてきた。これに、この項目の最初に論じた土の三相分布を加え6つとしたい。三相分布に関しては、ソバは根が貧弱なため固相は少なく、水分を嫌うため液相も少なく、逆に気相を多くと書いただけであるが、しばらくの期間思案した結果、具体的数値目標を下記の指標6の通りとしたい。

私は、土づくりを次の2つの観点から進めようと思う。

第1の「柱」
今まで述べてきた6つの指標に基づく土づくりである。便宜上、ここでもう一度整理しておけば以下の通りである。
指標1  CEC(塩基飽和度):現在数値維持
指標2  塩基飽和度:60% (pH5.5)
指標3  塩基バランス: カルシウム:マグネシウム:カリウム=7:2:1
指標4  EC(電気伝導率):0.1mS/cm
指標5  リン酸:可給態リン酸50mg/100g 水溶性リン酸10mg/100g
指標6  三相分布:固相30% 液層27% 気相43%

第2の「柱」
落葉の利用である。
私が、土壌学について学び、理解し得た限りで設定した6つの指標に基づく土づくりは、作物栽培のまさに「基本」である思う。「基本」という意味は、これを無視してまともな作物すなわち大切な成分を体内に含み込んだ作物(ここではソバの実)はできないという意味である。それゆえ、ここをソバ栽培の出発点にしようと思う。
しかしながら、この6つの指標(不完全であれば他の理想とする指標)が完璧に満たされたとしても、香りの高いしかもいい香りがするソバができるとは、私には、思われない。理想とするソバに至れる可能性が最も高いのは、やはり落葉を上手く使うことだと思う。今までも期待を込めて落葉を使ってきたが、完熟化するには長い時間がかかり、利用法を様々には試していない。従って、まだまだその利用法を試みる余地はある。今後、さらにこの落葉の利用法を探っていきたい。

この2つの「柱」で、美味いソバができるか判らない。しかし、これが最良の道であると、今は、考えている。

ここまで、主に次の著作を参照させて頂きました。
『農家のための土壌学』 東京農業大学土壌学研究室
武田 健 『新しい土壌診断と施肥設計』 農文協
山根一郎 『土と微生物と肥料のはたらき』 農文協







栽培 (67)

2007-01-19 | 栽培
周知の如く、肥料の三要素は窒素、リン酸、カリである。そのうちリン酸は、植物体内で、遺伝、呼吸、根の成長、開花、結実など極めて大切なところで、重要な働きをしているという。

それゆえ、私は肥料の中ではこのリン酸に最も注目し、主に有機のリン酸肥料を探し求め、様々な試みを行ってきた。しかし、「リン酸は土中のアルミニウムに固定され、作物に吸収されない。」などという話を聞くと、一体それはどういうことなのだろうと考えてしまい、肥料あるいは土についてもう少し知らなければならないと考えたのである。

リン酸は、水に溶けるとマイナスのイオンとなるので、これまでみてきた塩基などとは異なる行動をする。すなわち、土の中に多く存在する陰イオンのアルミニウムや鉄と結合してしまい、リン酸アルミニウムやリン酸鉄となってしまう。これらは、水に全く溶けない化合物なので、植物の根が吸収することができなくなってしまう。これが、いわゆる「リンの固定」である。

日本の土壌は、元来、ほとんどリン酸分を含んでいないが、野菜圃場なのではリン酸が過剰であるという。これは、リン酸肥料を必要以上に投入してきたからである。私の畑も事情は同じである。2006年の東区では、可給態リン酸は105mg/100gであり、水溶性リン酸は15.0mg/100gである。まさに過剰なのである。
だだし、リン酸は過剰障害の出にくい肥料であり、問題も生じていないと思われるので、リン酸肥料は施肥しないでこのまま作り続け、減少していくのを待とうと思う。

私は、リン酸の土壌診断結果を土づくりの第5の指標にすることにする。そして、可給態リン酸を50mg/100g、水溶性リン酸を10mg/100gを、一つの目標にしようと思う。

栽培 (66)

2007-01-18 | 栽培
ソバは、残念なことに、倒伏し易い様々な要因を具備している。肥料の少しの過多もその要因の1つである。窒素肥料が多すぎれば、倒伏は免れない。

窒素質肥料や有機質肥料は、土の中で水に溶けアンモニウムイオンになるが、これが土壌微生物である硝酸化成菌により、硝酸イオンに変化する。この硝酸イオンは作物が最も好んで吸収する養分である。これが、ソバ栽培畑で多量に存在すれば、ソバが過剰に吸収し、自らの「身」をいたずらに大きくしてしまい倒伏に至る。

この硝酸イオンも塩類に分類されるが、この塩類濃度が高まりすぎれば、塩類濃度障害が発生してしまう。そのため、塩類濃度を知るために、電気伝導率または英語の頭文字を用いてEC(単位はmS/cmを用いる)なる土壌診断項目がある。例えば、野菜圃場のECは通常0.1から2mS/cmである。

私はこのECの値を参考に、ソバの窒素肥料の最適量を判断しようと考えている。
2006年の東区のECは0.15であった。それでもソバの樹勢はよすぎた。ソバの丈を1m程に抑えたいが、それを越えてしまったのである。最後の節間が異常に伸びてしまった。このEC0.15という値は一般には低い値であるが、それでもソバにとっては高い値と解釈せざる得ない。私は、ソバの場合、ひとまずECの値を0.1mS/cm程にしたらどうかと考えている。

私は、このECを土づくりの第4の目標にしようと思う。