蕎麦彷徨

ひとりの素人が蕎麦について考えてきたことを書きしるすブログ

栽培 (59)

2006-12-14 | 栽培
前回までの考察から、大小様々な団粒間の空間やそこに存在する水が、極めて重要な役割を果たしていることが確認できた。では、これらがどのような割合で存在すればよいのか。

空気にはほとんど重さがない。だから重さで表すのは不適切だ。そこで、土壌学では、容積で表すことにしている。その際、空気と水だけではなく、粘土・腐植を加え、3つの割合で考える。そして、それらを順に、気相、液相、固相と名付け土の三相分布と呼んでいる。これは、土を物理的側面から考える重要な指標となっている。

それではこの三相はどのような割合がよいか。
一般に畑作の土の場合、気相:30%、液相:30%、固相:40%が適切であると言われている。
私が栽培しているソバはどのような割合がよいか。湿害を受け易いという作物の性質上、液相を減少させ、気相を逆に増加させる。ソバの根は貧弱なので、固相は少し減少させた方がよい、というのが私の現在の考えである。

ところで、三相分布は次のように求める。土を採取し、その体積と重量(現物重量)を計量する。次に、その土から(フライパンなどで)水分を蒸発させ計量する(乾物重量)。この現物重量から乾物重量の差と体積から、液相の割合を求める。次に、乾物重量を土の(真)比重の2.65で除して、固相の割合を求める。気相の割合は、100から液相の割合と固相の割合を引けばよい。

今日、今年ソバを栽培した東区の土の三相分布を求めた。その結果、気相:37.1% 液相:32.7% 固相:30.2%であった。
これをどのように改善していくか。それが、2007年のソバ栽培までの課題である。


都合により、このブログを休みます。明年1月10日に再び開始します。再開後は、次のテーマで書き進める予定です。
③ 現在考えている土づくりについて の後半
④ 育種について 
補論 刈り取り後のソバの扱いについて  
2006年ソバ栽培の総括

栽培 (58)

2006-12-13 | 栽培
前回は、保水・排水の両面から団粒構造が果たしている役割をみてきた。さらに、団粒構造の他の役割についても考えていこう。

作物は、土中の奥深くまで根を伸ばして、水などを吸収し成長していく。この時、根は土中の空間を探し求めて伸びていくのである。この空間とは、大きな団粒間の隙間である。それゆえ、この空間がしっかりと確保されていなければ、根はスクスクと成長できないことになる。
しかし、これだけでは不十分である。根は、土中の水分を吸収しなければならない。水分を吸収するのは、根の先端の細い根、すなわち根毛である。この根毛は、1000分の10から3ミリの隙間にまで入り込むことができる。この小さな団粒間の隙間には、毛管現象によって水が確保されている。ここで根毛は、水を吸収することになる。

ところで、根が水を吸収するということは、根がその作物を大きく育てる養分を吸収することでもある。養分は、全て水に溶け出して始めて根から吸収されるからである。小さな団粒間の隙間に水が確保されているということは、作物が必要な時に必要なだけ養分を取り込めるということをも意味している。

さらに、大きな団粒間には空間がある。ここは当然のことながら、通常空気で満たされている。土の中といえども、空気が必要である。クロストリジウムのような絶対的嫌気性菌を除外すれば、分解者たる土壌生物は酸素呼吸をしている。大きな団粒が確保されていない土壌では、土壌生物の大きな働きを期待することはままならないのである。

以上のことから、土を大きさの異なる団粒構造化することがいかに重要であるかが理解できる。では、この団粒構造形成の状態を土壌学ではどのように判断するのか。

栽培 (57)

2006-12-12 | 栽培
前回、粘土腐植複合体の形成についてみてきた。これは、肥料の養分をイオンの形で保持する本体であるので極めて重要なのだが、長くなるのでそのことについては後に触れたい。

ところで、この「複合体」自体も小さな団粒といえるものであるが、それは単独で存在する粘土やカルシウムや鉄などと結合して微小な団粒となる。この微小団粒同士が、根の腐敗物、微生物の粘質物、糸状菌の菌糸などにより結びつき、それより大きい微小団粒となる。これらがさらに結びつき、団粒となっていく。これら大小様々な団粒が集まって「団粒構造」といわれるものを形成する。
これは、蕎麦を水回しをしている時に、小さな塊が次第に大きくなっていき、異なる大きさの塊が無数に存在する場面が出てくるが、このような状態と考えればよい。
この団粒構造を作り出していくことが、土づくりの大きな目的の1つなのである。

では、団粒構造を作り出すことがなぜ必要なのか。
土は、水を保持しなければならない。これに反し排水もしなければならないという矛盾を抱えている。ここを解決するのが、この団粒構造なのである。大きな団粒同士の間には大きな空間がある。雨が降ればここが排水路となり水はすぐに流れてしまう。他方、幾つもの小さな団粒の間には曲がりくねった小さな隙間ができる。この小さな隙間は毛管現象により、水を保持することができる。土壌学では、前者を非毛管孔げき、後者を毛管孔げきと呼んでいる。

作物は何であれ、水の管理が「要」である。団粒構造をつくり出すことなく水の管理はできない。そして、水を嫌うソバの栽培では、特に、この団粒構造を作り出すことが大切なのである。

土を団粒構造化することが水の管理という面から重大なのであるが、さらに大切なことがある。

栽培 (56)

2006-12-11 | 栽培
腐植の過程をもう少し詳しくみていきたい。

土に、落葉であれ何であれ有機物を施せば、まずはシロダニやミミズのような土壌動物が有機物を分解していく。
この細かく砕かれた有機物中の炭水化物やタンパク質などは土壌微生物によって分解・無機化され、作物に吸収される。また、空気中に放出されもする。有機のまま残っものはさらに他の微生物のエサになる。そして今述べた過程が繰り返される。微生物は、有機物をエサとして抱え込んだまま死滅する場合もある。そうすれば、さらに他の微生物がその微生物をエサにする。
とりわけ分解されにくいリグニンやタンニンなどは長い時間の中で少しずつ分解されていくことになる。こうして、「腐植」が進行、完成することとなる。

これは、単純に1つの側面から考えれば、「落葉」のような大きなものが、多くの土壌生物により幾度となく分解を繰り返され極小の粒子となる過程と考えられる。とすると、粘土の小さな粒子と有機物が分解された小さな粒子が別々に存在するのが土というこになる。
実際には、土はそのようになっていない。有機物は分解される過程で粘土と少しずつ結合していっている。土壌生物は、エサとなる有機物と共に、小さな粒子である粘土を区別できず、体内に取り込んでしまう。そして、体内を通過中に「粘液」で両者をくっつけてしまう。これはミミズを考えれば判りやすい。さらに、微生物の中には、粘性のある排出物を出すものもいる。こうして分解されていく有機物はその過程の中で粘土と結合されていくのである。
これが、作物に与えるの養分をたっぷり保持できる「粘土腐植複合体」と呼ばれるものである。

「地魚」の店へ

2006-12-08 | 閑話休題
今日は所用で東京に出たので、かねてから行きたかった「地魚 静」に寄ってきた。瀬戸内海の近海魚の産地直送の店である。

注文したのは「岬サバ」の刺身(佐田岬で捕れたサバ)、カサゴの煮付け、アンコウ鍋、マダイの鍋、シラスおろし、タイの釜めしであった。「岬サバ」は、「関サバ」と同じであるが四国側で捕れたのでその名がつかない。従って格安で味わうことができる。この「岬サバ」の刺身が、他もよかったのだが、最もよかった。まさにあの捕りたてのプリプリとした食感があった。もう少し旨さがあれば申し分なかった。たくさんいい日本酒があったので、菊姫の「むろか 純米」を注文したのだが、新酒の時期にはいつも飲んでいるあの「K7」であった。これは文句なくうまかった。

栽培 (55)

2006-12-07 | 栽培
私は、「現代農業理論」に基づいても、うまいソバはできまいと考えていた。それは誰でも採用している方法と考え、その理論でうまいソバができれば日本中にうまいソバが満ち溢れていると考えたからである。だから、作物栽培法の「王道」とは少し距離がある栽培法、すなわち「微生物農法」や微量要素を重視する農法に共感を覚えてきた。

しかし、武田健氏や東京農大の後藤逸男氏(『農家のための土壌学』)の土壌学の考え方を学ぶと、まずはここを出発点にしなければならないと考えるようになった。なぜならば、土壌学が明らかにしている作物栽培の基礎をまるで知らなかったからである。ただ、これだけで、うまいソバがそう簡単にできるとは考えてはいないが・・・。

「土」とは何か。まず、この根本の問題から考察を進めたい。

それは、小さな粒子の集まりである。その粒子は岩石が風化された無機成分と植物体が分解された腐植と呼ばれる有機成分から構成される。
岩石は、その成分の壊れ易さの違いから、粒子の大きさが異なってくる。このうち小さい粒子は粘土となり、それほど小さくないものは砂となる。砂といっても小さい粒子である。この粘土と砂が様々な割合で混ざったものが土の一方を構成する。そして、死滅した動植物が微生物などにより分解されたものが腐植と呼ばれ、これが土のもう一方を構成する。
これら両者が混然と一体化しているものが「土」である。

栽培 (54)

2006-12-06 | 栽培
③  現在考える土づくりについて

ここであえて「現在」としたのは、私は、確信めいた土づくりの方法をつかんでいないからである。従って、考えているのは、次のシースンあるいは長くてもその次のシーズンをどのようにするか程度のスパンである。うまい蕎麦ができなければ、何か新しい試みにトライしなければならない。そして、その希求するうまい蕎麦の方向性に間違いが生じてはならないと考えている。幸い、蕎麦の味には的確な判断を下せる友人のNBさんが身近にいるし、収穫がままならない年を除き、ほぼ毎年食べていただいている全幅の信頼がおける数名の方々がいるから懸念はしてはいない。
彼らの意見を参考に、ソバの栽培を続ければ、必ず納得いく蕎麦に至れると確信している。

ところで、私は、有機の様々な肥料を試してきたが、蕎麦の味を決定的に決めるのが、リン酸肥料それも有機のリン酸肥料ではないかと考え、これまでに考えられる試みは行ってきた。
しかし、このリン酸肥料は、畑の中に適量以上存在したとしても、作物にうまく吸収されないという。農業関係者の間では、今や広く知られているこの事実を、私は武田健氏の『新しい土壌診断と施肥設計』で知った。

うまいソバの栽培に必須と考えてきたリン酸が効かないとなれば、一大事である。
私は、ここから、「現代農業理論」へ足を踏み入れることとなった。

栽培 (53)

2006-12-05 | 栽培
前回、大量の落葉を圃場の上に置いたと書いた。
土中であれ畑の上であれ落葉をそのまま畑に持ち込むことなど、通常誰もしない。一度、畑の隅などに積み上げ、硫安、尿素などを加え腐葉土としてから利用する。

では、なぜ私は圃場の上に落葉を直接置く方式を採ったのか。
もちろん、すでに書いたように大量の落葉を埋設する作業が大変であったからだ。しかし、次のような考えもあった。
素人の私には本当のところは判らないが、落葉が腐葉土化する過程の中で、微生物は大量の生理活生物質などを排出するはずである。これは作物とって優れた「肥料成分」になるに違いないし、うまい作物を作り出すのに大きく貢献するに違いない。これを利用しない「手」はない。落葉を畑の上に置けば、この優れた成分を流出させることなく、畑が全てを受け止め、余すことなく享受することができる。これが私の考えたことである。
おそらく、それが蕎麦の香りを向上させた主たる要因ではないかと私は推測している。

ところで、99年に落葉を置いた50㎡は、現在、分割し東区および西区としている。東区は、それ以来落葉のみで、99年とほぼ同様の方法を続けている。少し狭い東区は20㎡強であるが、ここに1m×1.2mの落葉用の袋で毎年約20袋の落葉を投入している。西区は、その時々で考えつく肥料などを試している。もちろん落葉は東区と較べれば遥かに少ないが、埋設する方法で使用し続けている。

この東区と西区では、少しの香りの違いが生じており、ここ数年東区の蕎麦のほ方が「一枚上」といった印象である。

栽培 (52)

2006-12-04 | 栽培
ソバの香りが一変したのが、落葉を大量に投入した第3のケースである。

私達はソバに取り組むとすぐに、20~30名程の「蕎麦通」の方にお願いして新蕎麦の試食会を始めた。この地域の在来種は、毎年、参加者の「目かくし」アンケート調査で、「信濃一号」や「常陸秋ソバ」よりも、評価が高かった。そして、この在来種の美味さを明確に越えたのが1999年のソバであった。しかし、それ以来7シーズンを経過しているが、99年のそばの香りを明確に超えているソバは出来ていない。ここをどう乗り越えるのかが現在の課題である。

では、99年に、どのような方策を試みたのか。
端的に言えば、大量の広葉樹の落葉を投入したのである。客観的にみて、多いかどうか判らないが、私がそれまで考えていた落葉の量とは較べものにならない量を投入した。50㎡にも満たない広さに、それほど大きいとは言えない袋であるが、約140袋用意した。これだけの量は、土の中には容易に埋められない。だから、畑の上に置き、飛散しないように、友達のところから貰ってきた「カヤ」や背の高い草を置いた。始めにあった1mを越える高さは、8月には、その半分以下の高さになった。秋ソバを播種する前に、落葉の上部を移動させ、下部の腐植が進んだところを土に混入した。ここに秋ソバを播種したのである。(ところで、移動した落葉は、翌年、同じ畑の最下部に戻した。)

この年の秋ソバが、一段異なる香りを醸し出したのである。


栽培 (51)

2006-12-01 | 栽培
前回は、落葉の種類や集め方などについて述べた。今回は、それをどのような方法で利用したかおよびその結果について触れたい。

これまで落葉はほとんど毎年投入し、その投入も様々な方法で試みてきた。その中で特に顕著な効果が認めれてきた次の3つのケースについて取り上げたい。

第1は、すでにこの「栽培」の12、13回で取り上げたケースである。
この時は、溝を少し大きく掘り、その中にNBさんと私で集めてきた落葉(相当腐葉土化したもの)を投入し、土をかけ、その上に播種したのである。ソバの生育は申し分なかった。香りについても最上の「骨粉」区には及ばなかったが、それに近いものがあった。
この「溝投入方式」はその後幾度となく試みてきた。

第2は、ソバではなくトマトで得られた結果である。
約1.5m×1.5mのほぼ正方形の枠を作り、そこに落葉を積み上げていった。この高く積み上げた落葉が、数年で高さ15cmほどの真黒な土になった。ここにトマトを3本だけ植えた。1本のトマトに120個ほどの実をつけたが、驚いたのは大きさがほとんど均一であったことだ。このトマトの味は申し分なく、以来このときのトマトの味を超えるものには出会ってない。
このトマトの体験が、落葉の有効性を私に確信させた大きな出来事となった。