蕎麦彷徨

ひとりの素人が蕎麦について考えてきたことを書きしるすブログ

08蕎麦試食会

2008-12-31 | '08 SOBA

先日、今年の蕎麦の試食会を開いた。
情けないことに、私の栽培したソバは、試食するに値するような代物ではなかったので、譲っていただいた2つの蕎麦を食べた。1つは、地元のソバ(A)、もう1つは30分くらい離れた場所のソバ(B)である。食べていただいたのは、蕎麦にはめっぽう鋭敏な舌を持つ5名の方々である。これらの方々の意見を伺い、私なりに総括しておくと以下の通りである。
ちなみに、両方に共通な点は、蕎麦粉は脱皮し丸抜きの石臼挽き、24メツシュの篩使用 蕎麦粉と水のみ。

蕎麦(ソバ)(A)  蕎麦打ちは首尾よく行き、太さもコシも良かった。久しぶりの蕎麦打ちにしては満足のいくものであった。色はそれほど良くなく淡緑色がうすい。これに伴い蕎麦の香りも強くない、と言うよりも希薄であった。 

蕎麦(ソバ)(B)  翻って、こちらはソバ打ちがうまくいかなかった。加水量が不足し、そのため練りを多めにしてしまった上、無意識のうちに切りが太くなった。ここでいつも悪い蕎麦の代表と述べている、太すぎて硬質な感じの蕎麦になってしまった。最悪である。一方、こちらは淡緑色の素晴らしい色が出ており、香りも申し分なかった。昨年の「東区」の蕎麦に肉薄するソバであった。
この(B)のソバは毎年極上のソバを提供していただいているKさんのソバである。今年は、畑で譲っていただき、私が刈り取り、Kさんの屋根下をお借りしハサ掛け乾燥し、脱穀していただいた。

私の評価で(A)は3.0、(B)は4.8である。ちなみに、今までで最高のソバが10.0、次が7.0、昨年の「東区」が5.0と自分できめている。この地域の良い蕎麦が3.0というところである。

試食会の話題の中心は、蕎麦の香りについてであった。私は、蕎麦は何よりも香りが大切といいながら、何もわかっていない。香りとは何なのか、蕎麦の香りとはどのような香り成分に分類されるのか、どうすれば香りの高いソバが栽培できるのか。これからこうした問題についてもう少し長い時間をかけてじっくりと考えてみたい。

これまでお読みいただいた方に深謝します。しばらくの間、このブログを休止します。


08「秋ソバ」収穫(2)

2008-11-22 | '08 SOBA

何が悪かったか。
ウドンコ病が蔓延したのである。このカビは、今までにも、ほとんど毎年軽微であるが発生していた。ところが、昨年は意外な広がりが認められた。今年は、昨年発生した場所から発生し、最終的には圃場の全体にまで拡大した。ソバにとってヨトウムシの被害は甚大なものになるのは知っていたが、ウドンコ病も恐ろしいものだ。

今年は、刈り取り時期を誤った。
結実の初期段階のウドンコ病もそれほど蔓延していない時に刈り取りを済ませばよかった。今年は結実、成熟を期待して、逆に栽培期間を自分で基準にしている期間よりも長くしてしまった。それゆえ、葉で作られた澱粉が実へ流転することよりも、ウドンコ病の蔓延に伴いカビによる「消費」の方が生育の後期では多くなってしまった。

さらに、今年は異変があった。
刈り取り以前から、割れているソバが多かった。今年は栽培期間が5,6日間は長かったので、例年よりも割れが多くてもやむを得ないのだが、それにしても異常であった。理由は判らない。割れが多いため、試食する以前からうまい蕎麦にはならないと推測がつく。

今年は、台風が一度も上陸しない珍しい年であり、ソバも見事に生長しているように思われたのだが、意外な結末になった。


08「秋ソバ」収穫(1)

2008-11-16 | '08 SOBA

播種1ヶ月後に「ほぼ生育は順調である」と書いたが、今年のソバは、初期の順調さに反して悪いものであった。ここ十数年の中で「ヨトウムシ」によってほぼ全滅したのに続く悪さであった。

ひとまず、概略を記すと次の通りである。
刈り取り: 11月1日
作期: 旧東区 73日間  旧西区 72日間
ハサ掛け天日干し期間: 11日間
収穫量: 2.8kg (58.3kg/10a)
収穫個体数: 558個体(総播種数の74.8%)
1㎡あたり立毛個体数: 11.6個体
草丈: 約120cm

今年のソバが良くなかったのはその質と量の両方であった。次回はその点について考えてみたい。




うまいソバ(蕎麦)を求めると(2)

2008-10-26 | '08 SOBA

どうすればうまい蕎麦が食べられるようになるのか。

すでにここで書いたことなのだが、十数年も前、ある蕎麦店の店主の話が、思い出される。彼の店の周辺一帯はいい在来種が栽培されていたそうだが、私が話を伺った頃には、「信濃一号」が多くなり、在来種とほぼ半々くらいになってしまい、さらに「信濃一号」の栽培面積が増加しているとのことであった。そして、その事態に彼は頭を抱えていた。

私は、「信濃一号」は「常陸秋そば」よりもその品質において一枚も二枚も上であり、現在のところ最上の品種と考えているのだが、いい在来種にはとても及ばない。そのいい在来種は、日本全国に点在しているのだろうが、もう数か所しか残っていないかもしれない。

『ソバを知り、ソバを生かす』の中で氏原氏は「そばの食味に関しては、山間地などの在来種が見直されつつあり、これに伴ってソバの在来種の保存や育種が強く要望されるところである。」と述べられている。まさに、うまい蕎麦にはいい在来種の復権が必須なのである。

私は、次の2つの道が考えられると思う。1つは、いい在来種の「うまい」という要素を確定し、その形質を「増幅」し固定することである。もう1つは、交雑しない一定の範囲の地域においていい在来種の種子を精選し、何年も何年もさらには何十年も誠実に栽培し続けることである。

私は後者の方が有効かもしれないと考えている。この栽培地域の真ん中に、その在来種の蕎麦粉と水だけで打った蕎麦を提供する蕎麦屋ができたら変わると思う。かつて、本むら庵が自家製粉に先鞭をつけ、多くの蕎麦店が自家製粉に向かって行ったように。


うまいソバ(蕎麦)を求めると(1)

2008-10-25 | '08 SOBA

「信州大そば」は、1944年に世に出された「信濃一号」と、「味」の点では同等であるという。さらに、以前ここで触れたように「常陸秋そば」は、「香り」の点で原種となった金砂郷在来種を下回っている。すなわち、この国では60年以上もの長きにわたり、新品種による「味」の向上はなかったことになる。

アカデミックな世界においては、研究の一つの潮流は自家受粉の野生種を普通そばに導入することだという。もうすでに、カナダのキャンベルという研究者が新品種に成功し実用化段階に入ったという。(氏原氏前掲書) また、『蕎麦春秋』VOL5において、信州大の南峰夫氏は「自家和合性種」の開発に取り組んでおり、「実用化の手前」であると発言されている。私はこの研究方向では、益々「うまい」ソバの品種ということから遠ざかってしまうのではないかと考える。

確かに、人間は、どんな作物であれ、野生種を長い年月をかけて少しずつ改良し食用としてふさわしく、かつ作りやすい新しい品種に変えていった。だから、四倍体にした「信州大そば」にしても普通そばの「自家受粉」化の研究も大切な一つの方向であることには間違いない。だが、私は少なくとも新品種開発の目標の1つに、「うまい」という要素を加味してほしいと考えるのだ。

今、蕎麦は本当にうまいだろうか。
10人の子供に、「蕎麦とうどんとラーメンで、どれが一番うまいと思うか。」と訊けば、ラーメンが1番多い。1番少ない蕎麦は良くて1人か2人である。年齢を重ねると、蕎麦派は増えるのだが、もっと若いうちから蕎麦好きを増やさなければならない、と私は思う。しかし、現実は必ずしもそうなっていない。この方向を大きく転回させるには、何としても「うまい蕎麦」が、日常食べられなければならない。それには、蕎麦打ちも製粉も大切なのだが、何と言ってももっとうまい玄ソバがなくてはならない。突き詰めていけば、最後は「うまいソバ」を目指した「育種」が最も肝要だと思う。



氏原暉男著『ソバを知り、ソバを生かす』(2)

2008-10-13 | '08 SOBA

前回引用を長くしたのは「信州大そば」の開発目標をもれなく示すためであった。端的に示すならば、そこには増収という思想しかない。事実本書には「目標は収量アップだった。」とある。新品種の開発に際し、味の問題とどのように取り組んだのかという記述がない。(念のため、私が引用した「・・・」の部分には味については触れられていない。)

では、「信濃一号」の味から「信州大そば」の味へはどのように変化したのか。
同書には、次のような記述がある。
「心配は味だ。『信濃一号』と変わらないと私は思っていたが、・・・そば打ち名人高橋邦弘氏が『大丈夫、変わりません』と保証してくれた。」とある。

遥か1944年に新品種として登場した「信濃一号」を改良したはずの「信州大そば」が同等の味で良いのかと、私などは考えてしまう。私達も作付したことがあるが、「大そば」は確かに強い。さらに、4倍体にしたために2倍体とは交雑しない。利点は多いが、新たに登場した品種としてはまさに味における変革があってしかるべきではないか。



氏原暉男著『ソバを知り、ソバを生かす』

2008-10-11 | '08 SOBA

昨秋出版された氏原暉男氏の『ソバを知り、ソバを生かす』を読んだ。

氏原氏は、日本のソバ研究の「メッカ」である信州大学農学部の教授として、長い間ソバ研究の中心的存在として活躍してこられた。その氏が、遺伝・育種学の専門家としてどのような仕事をされてきたのかを、さらには、これまでの氏の蕎麦に関する多岐にわたる活動を、「一般向け」に書かれたのがこの著書である。

私が最も興味深かったのは、氏が「信州大そば」をどのような理念のもとに開発されたかという点である。
氏は、従来のソバの「弱点」を次のように指摘している。
「ソバは気象条件に左右される。・・・葉がストロー状で弱い。だから水はけが悪くて土壌水分が多いところに作付けしたり、または降雨が続くと、茎に亀裂が入って簡単に倒れてしまう。主として虫媒による他家受粉のため開花の盛りに雨が二、三日も続くと受粉ができず、思わぬ打撃をこうむることもある。さらに結実期に一日の気温格差が大きくないと、葉茎から種子への養分流転が十分に進まない。・・・」

こうした「弱点」を克服するために、「信濃一号」を用い「染色体を通常の二倍体から四倍体」にした「信州大そば」を開発したと言う。その結果、種子が1.5倍の重量があり、「葉、茎も大きく霜にも強」く、脱粒しにくい新品種となったとのことである。

次回はここを考えてみたい。


『蕎麦彷徨』を出版(4)

2008-10-05 | '08 SOBA

前回述べた蕎麦打ち、石臼、栽培が私の著作の「1本の線」となっているのだが、さらにもう「1本の線」がある。それは私が考える「現代蕎麦発展史」と言えるものである。

このブログの中で何度も書いたが、私は蕎麦打ちの技術を極めた片倉康雄さんを現代蕎麦発展の第1期と考えている。その後、良質の蕎麦粉を求めて自家製粉に向かって行った高橋邦弘さんらの動向を発展の第2期と考えている。この先には、ソバの栽培しかありえない。これが第3期となるはずで、栽培上の決定的変革がない限り、発展は第2期で終焉してしまう。そうなってしまえば、今私たちが食べているよりもうまい蕎麦は永久に食べられなくなってしまう。

うまい蕎麦を求めれば、蕎麦打ち、石臼ばかりでなく、結局はソバの栽培と取り組まなければならない。さらに現代の蕎麦発展史という観点からも、栽培へ向かわざるをえない。
しからば、ソバ栽培の現状はどうか。増収についての研究は行われてはいるものの、うまい蕎麦を求める観点からの研究は視野に入っていないかのようでさえある。

上述の通り、私は栽培こそがキーとなると考えているのでそばに取り組む多くの時間を栽培について費やしてきた。230ページ余りのこの著作の中でも、半分以上が栽培に関することである。栽培において私が得た成果と言えるようなものはまだほとんどなく、まだまだこれからである。


『蕎麦彷徨』を出版(3)

2008-10-04 | '08 SOBA

本の構成(目次)を主要な項目で、蕎麦打ち→石臼→栽培の順にしたのには理由がある。

私はただ単にうまい蕎麦を求めて蕎麦に取り組んできたにすぎない。何度も書いたように、うまい蕎麦の条件は、「香りが高いこと」と「ソフトでいいコシが感じられること」の2点に尽きると、私は考えている。

まず、うまい蕎麦は、すぐれた打ち手による手打ち蕎麦によって可能となるはずである。それが叶わなかったら自分で蕎麦を打つ他はないだろう。当然のことながら、うまい蕎麦は、蕎麦打ちから始まる。

しかし、いくら熟練した上手な蕎麦打ちの手にかかっても、蕎麦粉がよくなければうまい蕎麦など「絵にかいた餅」になってしまう。それゆえ、いい蕎麦粉を求めることが先決である。蕎麦粉は、私の経験では、どこで買い求めても、質という観点から考えて限界がある。機械製粉にも問題があるとすれば、いい石臼によって製粉されたものを選ばざるを得ない。

さらに、「しかし」なのだが、いくら優れた思考に基づき設計された、完璧な目立てが施された石臼によって挽かれた蕎麦粉であれ、玄ソバに問題があれば、すべてが徒労に終わってしまう。うまい蕎麦を食べるには、何よりも、何よりも大切なのは、ソバを栽培しいい玄ソバを手に入れるということなのである。最後は、そして「最初」は栽培である。

こうした観点から、私は本の構成を蕎麦打ち、石臼から栽培へとしたのである。



『蕎麦彷徨』を出版(2)

2008-09-28 | '08 SOBA

もともとこのブログは、石臼や栽培など大きめなカテゴリーだけを決めて書いてきたので、私の見解が一つの明確な体系性をもつようにはなっていない。それゆえ、本にするときにはこのブログを大幅に編集し直して書物にした。次のように本を構成した。

はじめに
第一章  蕎麦の世界に
   一  蕎麦事始め
   二  脱皮機
第二章  蕎麦打ち
   一  加水・水回しについて
   二  コシについて
第三章  窯前仕事
第四章  つゆ 薬味 他
第五章  石臼
      一  石臼との関わり
      二  石臼の理論                                                     
第六章  栽培
      一  山のソバ
      二  若干の試み
      三  三つの時期
      四  刈り取り後のソバの扱いについて
第七章  蕎麦界の展望
付録    2006年  蕎麦栽培
あとがき