今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

米国医学生による家庭医不要論

2011-02-06 23:07:57 | 家庭医療

大層な、タイトルを書きましたが

 

実はミシガン大の1人の医学生が、ふと口にした何気ない一言を、私が頭の中で増幅させただけです

 

 

ある日、クリニックで実習中の医学生と隣同士の席に座りました

 

診療の合間のわずかな時間で

 

「はじめまして◯◯です」

 

「やあ、元気?レジデントの◯◯です」

 

「僕は日本から来たんだけど、日本ではまだ家庭医がメジャーじゃなくて。ニーズはあるからこちらでトレーニングして、日本での普及に一役買いたいんだ」

 

などと話すと、医学生の彼が曰く

 

「へえ~、それはアメリカと逆ですね。アメリカでは家庭医のニーズはどんどん減っているというのに。家庭医の仕事は、どんどんナースプラクティショナー(NP)とかにとってかわられているから。」

 

「はあ?」と思ったのですが

 

彼を指導する立場でもなく、診療の合間のわずか1、2分だったので

 

ムキになって反論することもせず、それ以上に話を深める事も無く終わったのですが、ずっと頭に引っかかっていました

 

件の医学生は、バリバリの専門医志向で

 

彼の分析に私は全く同意するつもりはありませんが

 

表面的なレベルでは、彼の言っている背景も確かに理解できます

 

 

アメリカの医療現場では、何でもかんでも、分業がすすんでいます

 

それもこれも、「高額な医療費を押さえるため」です

 

すなわち、一番人件費の高い医者の仕事を「純粋に医者しかできない事」に集約させることが徹底されています

 

心臓外科の手術が良い例です

 

バイパス手術では、開胸、グラフト採取、術後管理などは人件費の安いPA(Physician Assistant)に任せて、術者である外科医は肝の部分だけに集中します

 

そうする事によって、外科医は一日に何件も手術をこなします

 

こうして考えると、家庭医の仕事には「絶対に医者じゃなければダメ?」という質問に対して

 

「う~ん、そうでもないけど」・・・という内容が結構含まれています

 

事実、アメリカの地域では半径数十キロにわたって医師が1人もおらず

 

PAが遠隔地の医師の指導のもと(という建前で)、実質上地域の健康を守っている事もあります

 

 

確かに、高度な専門手術での分業はメリットが大きいでしょうし

 

家庭医の場でも、必要に迫られての分業はあります

 

ただ、分業がすすんで「家庭医はいらなくなる」とか「ニーズが減る」という考えには全く同意できません

 

分業がすすむからこそ、

 

1人の患者さんのケアをコーディネートする医者、地域のケアをコーディネートする医者が必要で

 

それが家庭医という仕事なのです

 

今やっている仕事、業務の内容が、10年、20年後も全く同じであるとは思いませんし

 

必要に応じて、変化をしていかなければいけませんが

 

分業化の世の中だからこそ、その弊害をカバーするジェネラルなマインドの医者が、ますます必要なのです


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3 コメント

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Unknown (Simon)
2011-02-15 16:56:09
こんにちは、日本の医学生です。卒後米国での臨床留学を目指しています。初めてコメント差し上げます。

日米の医療は大きな違いがあるので、ある科の需要が今後変わっていくこともあると思います。

そして、とくに日本ですが、両国とも今後10-20年の医療の在り方は大きく変わるでしょう。日本では医療費の膨大で国民皆保険はいずれ崩壊して、日本の医療もだんだん今の米国の医療に似てくるのではないかと思います。この点においてどう思われますか。
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re: Unknown (Simon) (familymed758)
2011-02-16 12:33:17
Simon様コメントありがとうございます。

国民皆保険の維持は確かに厳しいですね。さすがにアメリカの保険制度を真似するようなバカな事を政府はしないと思いますが・・・。

これまでは保健、公衆衛生である程度日本人の健康は守られてきましたが、そういった仕組みが崩れてきていますので、地域の健康を守るという意味で、プライマリケア医師のレベルアップが重要になってくると思っています。
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スペシャリストvsジェネラリストではなく (杉原 桂@多摩ガーデンクリニック小児科)
2011-02-16 13:01:28
なぜ、ジェネラリストがなくなることが先生や私にとって問題なのでしょうか?

このことを考えてみると、別の角度から浮かび上がってくることがあります.

書籍「出現する未来」からですが
医師と患者の関係を4つのレベルに分けるとすると・・・

レベル1は取引の関係.
 医療者は機械工のように、患者の故障している部分だけを治す.

レベル2では、医療者は患者の悪い部分だけでなくそれを引き起こした行動に注目する.医療者は患者に対して行動を改めるよう指導するなど、レベル1とは違った内容の話をする.たとえば、食事内容を指導したり、「やるべきこと」あるいは「やってはいけないこと」のリストを渡したりする.

レベル3では、なぜ患者がそのような行動をとるのか、医療者は患者と一緒になって考える.
 このレベルでは医療者はコーチであり、患者が行動の背後にある考え方を検証できる環境をつくる.

レベル4.患者が「私は何ものなのか.本当の私とは何なのか」を考え始める.
本当の成長は古いアイデンティティを手放し、新しいアイデンティティを確立しなければならない.医療者と患者は互いに影響を与えあう関係になり、どちらも自分自身を発見する.
***************************

本来は独立変数であったはずの
スペシャリストvsジェネラリスト

患者との関係性lebel1~4を混同したとき、

スペシャリストになると医療全体がレベル1の方に近づいていくのではないか、という歪曲がおきた場合に違和感を感じるのではないか、と愚考しました.

日本のように、多くの医師がスペシャリストの階段をあがってから、開業してジェネラリストの世界にとびこんでいく、
という構造では、そのジェネラリストたちの質をあげる形も問題解決に近づく一法かとも思います.



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