さらに南下するとヴィシェフラド――

Vysehrad.
ヴィシェフラドというのは「高い城」という意味で、昔お城があった場所。
車道から、岩の上の廃墟が見える。目指すはこの岩山の上なのだが……さて、どう行けばいいのか。
旅行をしていて、けっこう苦労をさせられるのが土地の高低差。
ガイドブックには地図は必ず載っているけど、地図だと高低差がわからないことが多い。
早い話、何の疑問もなくA地点からB地点へ行けるものだと思って歩いていくと、
その間には崖があり、大回りをしなければならないなんてことはザラ。
歩道が整備されていない立体交差なんて場合もある。
何とかなりませんかね。
ああそれから、ガイドブックの地図についてはもう一つ注文がある。
入口を書いておいて下さい。
美術館を例に挙げれば、まあ、基本的に美術館なんて敷地が広いわけじゃないですか。
で、地図を見ながら歩いていくとするでしょ?
左右どちらの道を選んでも、地図上では美術館に着ける、という状況で、
出来れば最短距離でルートを選びたい。が、どちらが門(あるいは入口)に近い道なのか、
わかるように書いてくれているガイドブックは少数派ですよ。
これがねー。結構迷惑。
左を選べばすぐなのに、右を選んで4分の3くらい敷地の外を回ってようやく辿り着く、
ということもあるから。
地図情報として非常に大事な部分だと思うんだけど、作り手はこの辺、大抵手を抜いてる。
関係者には反省を促したい。……が、こんなところで言っても仕方なかろうな。
閑話休題。
ちなみにヴィシェフラドへ登る入口は、トンネルを抜けてすぐくらいにある駐車場の向こう側です。
駐車場の係員の人に道を訊いたら、そのすぐ陰に登り口の表示が出ていて、ちょっと恥ずかしかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヴィシェフラドがどんなところかといえば、ずばり青葉城祉。

入口。護国神社の鳥居ごときものだと思っていただければ……

The Rotonda.
敷地内にある聖マルティン教会のロトンダ(円形礼拝堂)。
こういう礼拝堂は古いタイプのもので、1100年頃建てられた由。
このくらいの時代の雰囲気が好きだ。遺跡になりかけの建造物。

The statue of Libuse.
政宗像の代わりに、ここにあるのはリブシェ像。
リブシェはチェコ民族の伝説の女王。
リブシェ(隣の男性は彼女によって王になったプシェミスル)の彫像はこの場所に
複数並んでいたが、一番好きなものを撮影。
スメタナのオペラに「リブシェ」という作品があり、国民劇場のこけら落としの際に上演された。
周りの芝生の広場では、遠足っぽい子供たちが力いっぱい遊びまわっていた。
子供は元気だ。わたしはへとへと。ってか、やっぱり靴ズレがキビシイ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

The St.Peter and St.Paul church.
だが、わたしにはここで幸運な出会いがあった。
ヴィシェフラドにある聖ペテロ聖パウロ教会。
聖ヴィート大聖堂には規模も雰囲気も及びもつかないが、それなりに由緒ありげな雰囲気。
教会にしては珍しく入場料ありだが、30コルナ(≒160円)を今さら惜しんでも仕方ない。
そりゃもちろん入りますよ。まあ別に必見というほどの場所でもないだろうが……
外観は珍しくもない普通のゴシック。入って何の気なしに辺りを見回し、内装に驚く。
「……ミュシャ?」
思わず口に出して呟いてから、慌てて内部の薄暗い空間に目をこらす。
いや、ミュシャではない。ミュシャではないが……これはヌーボーじゃないか。
そう思って周囲を見直すと、教会の内装がびっしりミュシャ風ヌーボーでデザインされている。
ヌーボーの教会なんて!
それこそ100年前に建てられた今出来のものなら別に驚かない。
しかしこれは12世紀からの教会。
容れ物は古いのに内装はヌーボー。どういった経緯でこんなことが……
パンフレットには特に詳しいことは載っていなかった。
20世紀初頭、ミュシャスタイルに影響を受けた画家何某が内装した云々、という説明が
10行ほどで淡々と描かれていただけ。まあ、冷静に考えてみれば、
修復が行われた時代に流行っていたスタイルで修復されるのは普通のことで、
建築様式的に、ロマネスク、ゴシック、バロックがごちゃ混ぜという建物は決して珍しくない。
しかしわたしは、ヌーボーが教会と結びつくなんて、夢にも考えたことがなかったので
――そして外観のゴシックと内部のヌーボーのギャップが甚だしかったので――非常に驚いた。
これは、ガイドブックに載せるべきではないかと思う。
隣接する墓地のことは書いてあっても、この教会の内装に触れたものはあまりない。
ヌーボーに興味があるなら、有料だからといって入らないでしまうと勿体ない場所だ。


Inside of the church.Art-Nouveau style.
実は……撮影禁止だったのだが。
わたしは基本的にそういうのは守るのだけれども、執着が断ち切れなくてこっそり撮影。
だってだって、他の観光客はバシバシ撮ってるし、それに対して係の人は何にも言わないし、
探しても絵葉書もカラーのパンフレットもなかったし。ごにょごにょ。
でも落ち着いてピントが合わせられなかった(^_^;)。
ちょっとピンぼけ。アングルも甘い。小心者。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヴィシェフラドで有名なのは、その教会自体よりも隣接する墓地。
この墓地にはチェコの有名人が数多く眠っているらしい。
上はスメタナの墓で、下はカレル・チャペックという作家の墓。

The tomb of Smetana.

The tomb of Karel Capek.
お墓参りをしたいと思うほど思い入れのあるチェコ人は、わたしにはいないのだけれども、
カレル・チャペックはちょっと探した。「ダーシェンカ」という可愛い本を書いた人。
墓地自体がきれいなところなんです。



Vysehrad Graveyard.
もう少しお掃除がしてあればもっと良かったが。
しかしこのアーケードには、しみじみとした美しさを感じる。
なんというか、悲しみでもなく哀悼でもなく、死者に対する温かさを。
ヴィシェフラドを下りる。……今気づいたが、古城の遺跡を見るのを忘れたな。
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Vysehrad.
ヴィシェフラドというのは「高い城」という意味で、昔お城があった場所。
車道から、岩の上の廃墟が見える。目指すはこの岩山の上なのだが……さて、どう行けばいいのか。
旅行をしていて、けっこう苦労をさせられるのが土地の高低差。
ガイドブックには地図は必ず載っているけど、地図だと高低差がわからないことが多い。
早い話、何の疑問もなくA地点からB地点へ行けるものだと思って歩いていくと、
その間には崖があり、大回りをしなければならないなんてことはザラ。
歩道が整備されていない立体交差なんて場合もある。
何とかなりませんかね。
ああそれから、ガイドブックの地図についてはもう一つ注文がある。
入口を書いておいて下さい。
美術館を例に挙げれば、まあ、基本的に美術館なんて敷地が広いわけじゃないですか。
で、地図を見ながら歩いていくとするでしょ?
左右どちらの道を選んでも、地図上では美術館に着ける、という状況で、
出来れば最短距離でルートを選びたい。が、どちらが門(あるいは入口)に近い道なのか、
わかるように書いてくれているガイドブックは少数派ですよ。
これがねー。結構迷惑。
左を選べばすぐなのに、右を選んで4分の3くらい敷地の外を回ってようやく辿り着く、
ということもあるから。
地図情報として非常に大事な部分だと思うんだけど、作り手はこの辺、大抵手を抜いてる。
関係者には反省を促したい。……が、こんなところで言っても仕方なかろうな。
閑話休題。
ちなみにヴィシェフラドへ登る入口は、トンネルを抜けてすぐくらいにある駐車場の向こう側です。
駐車場の係員の人に道を訊いたら、そのすぐ陰に登り口の表示が出ていて、ちょっと恥ずかしかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヴィシェフラドがどんなところかといえば、ずばり青葉城祉。

入口。護国神社の鳥居ごときものだと思っていただければ……

The Rotonda.
敷地内にある聖マルティン教会のロトンダ(円形礼拝堂)。
こういう礼拝堂は古いタイプのもので、1100年頃建てられた由。
このくらいの時代の雰囲気が好きだ。遺跡になりかけの建造物。

The statue of Libuse.
政宗像の代わりに、ここにあるのはリブシェ像。
リブシェはチェコ民族の伝説の女王。
リブシェ(隣の男性は彼女によって王になったプシェミスル)の彫像はこの場所に
複数並んでいたが、一番好きなものを撮影。
スメタナのオペラに「リブシェ」という作品があり、国民劇場のこけら落としの際に上演された。
周りの芝生の広場では、遠足っぽい子供たちが力いっぱい遊びまわっていた。
子供は元気だ。わたしはへとへと。ってか、やっぱり靴ズレがキビシイ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

The St.Peter and St.Paul church.
だが、わたしにはここで幸運な出会いがあった。
ヴィシェフラドにある聖ペテロ聖パウロ教会。
聖ヴィート大聖堂には規模も雰囲気も及びもつかないが、それなりに由緒ありげな雰囲気。
教会にしては珍しく入場料ありだが、30コルナ(≒160円)を今さら惜しんでも仕方ない。
そりゃもちろん入りますよ。まあ別に必見というほどの場所でもないだろうが……
外観は珍しくもない普通のゴシック。入って何の気なしに辺りを見回し、内装に驚く。
「……ミュシャ?」
思わず口に出して呟いてから、慌てて内部の薄暗い空間に目をこらす。
いや、ミュシャではない。ミュシャではないが……これはヌーボーじゃないか。
そう思って周囲を見直すと、教会の内装がびっしりミュシャ風ヌーボーでデザインされている。
ヌーボーの教会なんて!
それこそ100年前に建てられた今出来のものなら別に驚かない。
しかしこれは12世紀からの教会。
容れ物は古いのに内装はヌーボー。どういった経緯でこんなことが……
パンフレットには特に詳しいことは載っていなかった。
20世紀初頭、ミュシャスタイルに影響を受けた画家何某が内装した云々、という説明が
10行ほどで淡々と描かれていただけ。まあ、冷静に考えてみれば、
修復が行われた時代に流行っていたスタイルで修復されるのは普通のことで、
建築様式的に、ロマネスク、ゴシック、バロックがごちゃ混ぜという建物は決して珍しくない。
しかしわたしは、ヌーボーが教会と結びつくなんて、夢にも考えたことがなかったので
――そして外観のゴシックと内部のヌーボーのギャップが甚だしかったので――非常に驚いた。
これは、ガイドブックに載せるべきではないかと思う。
隣接する墓地のことは書いてあっても、この教会の内装に触れたものはあまりない。
ヌーボーに興味があるなら、有料だからといって入らないでしまうと勿体ない場所だ。


Inside of the church.Art-Nouveau style.
実は……撮影禁止だったのだが。
わたしは基本的にそういうのは守るのだけれども、執着が断ち切れなくてこっそり撮影。
だってだって、他の観光客はバシバシ撮ってるし、それに対して係の人は何にも言わないし、
探しても絵葉書もカラーのパンフレットもなかったし。ごにょごにょ。
でも落ち着いてピントが合わせられなかった(^_^;)。
ちょっとピンぼけ。アングルも甘い。小心者。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヴィシェフラドで有名なのは、その教会自体よりも隣接する墓地。
この墓地にはチェコの有名人が数多く眠っているらしい。
上はスメタナの墓で、下はカレル・チャペックという作家の墓。

The tomb of Smetana.

The tomb of Karel Capek.
お墓参りをしたいと思うほど思い入れのあるチェコ人は、わたしにはいないのだけれども、
カレル・チャペックはちょっと探した。「ダーシェンカ」という可愛い本を書いた人。
墓地自体がきれいなところなんです。



Vysehrad Graveyard.
もう少しお掃除がしてあればもっと良かったが。
しかしこのアーケードには、しみじみとした美しさを感じる。
なんというか、悲しみでもなく哀悼でもなく、死者に対する温かさを。
ヴィシェフラドを下りる。……今気づいたが、古城の遺跡を見るのを忘れたな。
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