Mo.の事件簿 A diary of Mo’s trips

事件簿などという大層なタイトルだが、実は単なる旅行記です。

16.人形劇を見に。

2009-11-09 | チェコ・9月3日
市民会館を出て、その後は2ヶ所。まずはミュシャ美術館へ。
ちなみにチェコ語だと「ミュシャ」ではなく「ムハ」というそうな。

――ここはダメですねえ。展示物に全然大したものがない。
ミュシャの故郷のチェコでムハ美術館を名乗るのなら、もう少しいいものを見せようよ。
展示物、色褪せてるやんか。ポスターが褪色しやすいのは確かだけど。

前にどこぞで見たミュシャ展の方がなんぼか見ごたえがあった印象。
ここはあえて行くまでではないよ。まあ、売店は品揃えがまあまあなので、
お土産を買いに行くのは悪くはないけど。(入場料を払わなくても売店には入れます)



次に、ドブラー・チャヨブナというお店へ。ここは何の店かというと、お茶の店。
茶好きなもんで、外国にある茶の専門店は妙に気になって、見つければほぼ行きます。

茶葉売りと喫茶、どちらもしているんだけど、微妙にアヤシイ雰囲気だった……
紅茶・中国茶・日本茶を扱っていて、店の雰囲気は、うーん、中国っぽい感じ。
雨が降っていたのと相俟って、アジア的アンニュイを感じた。
言うなら阿片窟か。いや、そこまで不健康ではない。むしろ茶好きは健康志向であろう。
地元民らしき姿多し。エキゾチズムを楽しんでいるんだろうな。

ちなみに買った茶葉は4種類。紅茶が3種類、中国茶が1種類。
保存の仕方が悲惨――茶葉は生鮮食品なので、密閉しないと話にならんのだが――なわりに、
帰ってから実際に飲んでみたら、味はそんなに悪くなかった。
でも買ったあとの小袋を、すぐ剥がれそうなシールで止めるだけなのは止めて欲しい。
シール剥がれたら、スーツケースの中、茶葉まみれになるやないですか。


雨が降って来ました。荷物も増えたので一旦ホテルに帰ります。





Wenceslas Square.

目抜き通りであるヴァーツラフ広場の昼の風景。


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今晩は20時からの人形劇を見に行く。
が、出かけるのが面倒でぐだぐだしてたらホテルを出るのが18時過ぎになってしまった。
その上、トラムの乗り換えを間違ったので、ますます時間がなくなる。
夜ごはんも食べなければならないのに。


この日は中華料理を食べようと思っていた。
明日は別な街へ行くし、都会であるプラハを離れると中華料理の店があるかどうかわからない。
外国の中華は、それはそれで何となく面白いので一回は食べたい。

店はペルリー・アジア。
ガイドブックに載っている店なんだけど、地図の位置が微妙に間違ってるぞ!
おかげで時間がないのに(以下略)




Shrimp fried noodle.

えび焼きそば。ちょっと写真が暗いね。

何がいいって、ポットで出てくるジャスミン茶。あー、癒されるー。
ちなみに焼きそばの味は……ま、こんなもんでしょ、な感じ(^_^;)。
チップとお茶も含めて160コルナ(≒850円)くらい。
サービスをしてくれたのは中国人(でしょう、多分)で、小柄な優しい感じの青年だったけど、
その子供か姪かという年格好の姉妹が店内でちょろちょろしていた。
家族経営なんだろうなあ。





食べ終わったら、あとは走る!
……どうも健康に悪い生活をしているような気がしないでもない。



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走って5分。19:45着。人形劇の会場は国立マリオネット劇場(人形劇の画像あり)
演目はモーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」
……有名な作品なので、聴けばわかる曲がいくつかあるだろうと思ったが実はなかった。


劇の人形は1メートルくらいだろうか。それに合わせて舞台も小さめで、当然客席も狭め。
ちょっとよくわからないけど、座席数は300席程度か。
イメージは昔の小学校の講堂かな。椅子も木の椅子で、座り心地はあまり良くない。
客の入りは半分程度だったか。けっこう日本人率高し。


このパフォーマンスで何が一番面白かったかというと、劇そのものの本筋とは関係ない、
モーツァルトの人形の小芝居。パントマイムというか。
舞台上で場面転換をする時に、舞台の下で、指揮者モーツァルトが
(このオペラを作曲者であるモーツァルトが指揮しているという設定)
なんのかんのやらかすんですよ。

酒の飲みすぎでフラフラとか。
演奏が気に入らないという思い入れで暴れる、とか。楽譜をばらまいていた。
どういうシチュエーションだったか忘れたけど、水を客席に振りまいてたなあ。悲鳴があがる。

モーツァルトの人形は、デフォルメされた舞台上の人形とは作りが違って、
ビスクドールに近いプロポーション。
しかし、これがなかなかに迫力がある。人形って、じっと見ていると
「これ絶対生きてる!」と思うものが時々あるでしょ。
オーケストラを指揮していたモーツァルトが突然くるっと振り向いて、
客席をじーーーーーーーーーっと見るところなんか、おかしくて笑えるんだけど、
そのあまりのリアルさに心のどこかがぞくっとする……



「ドン・ジョバンニ」は喜劇なので、人形劇ならではの演出が楽しい。
飛び蹴り?とか。空を飛ぶ系。人間を飛ばそうとしたらオオゴトですが、
人形は軽やかなもんです。
最後は操り師が舞台上に出てきて、今まで演じていた人形たちを一つずつ壁にかけて片付けていく。
壁にかけられた人形がもぞもぞすると「静かにしろ」という身振りでもう一度置き直す。
最後の人形を片付けて、操り師のおじさんがしゃがんで
(舞台が小さいのでしゃがまないと腰から下しか見えない)客席に礼をしてお終い。


チェコのマリオネット劇には、特別な意味があるそうです。
18世紀末ハプスブルグ家の時代に、公けの場所ではチェコ語が禁じられ、
ドイツ語が強制されたとか。
そんな時代に唯一チェコ語が認められていたのが、子供たち向けの人形劇。

日本語を取り上げられたらどうしたらいいかわからないよ。
母国語が話せないなんて、そんな辛いことはあってはいけない。





帰ります。




Wenselas Square in the night.

ヴァーツラフ広場の夜の風景。昼間より見栄えがするかも。


22:30、ホテル帰着。
明日は早いので、とっとと寝なければ。




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15.プラハ市民会館。

2009-11-06 | チェコ・9月3日
これから中心部へ戻る。その前にキュビズム建築をもう一つ。




Cubism-apartment house.

その後トラムに乗ったのだが……間違って反対方向に行った(^_^;)。
相当乗ってから気づいて引き返す。
でもまあ、トラムは間違っても、基本的に反対方向のトラムに乗ればいいだけだから大丈夫。
これがバスだと、どこに連れていかれるかわからないのでコワイ。


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次に行くのはプラハ市民会館。




The municipal house.


市民会館というにはあまりに華やかな建物。
中には「プラハの春音楽祭」のオープニング会場として有名なスメタナホールがある。

チェコ・アールヌーボーの代表的な建造物だが、建った頃は反対の声も多かったそうだ。
当時は流行の最先端(というより、少し盛りを過ぎ加減のアール・ヌーボー)のスタイルだから、
古都の住民には拒否反応も強かったのだろう。
エッフェル塔しかり、京都タワーしかり。(京都タワーは未だに存在意義が疑問だ)



ここに来たのは建物内部見物のガイドツアーに参加しようと思ったからなのだが……
……今日の分、中止だって!
ガイドブックに「ガイドツアーは不定期に行われるので要確認」とは書いてあったけど、
それが1日に1回、多くて3回しかないとは思わなかった。
今日は1回しか行わない日。それが中止。明日のガイドツアーも14時からのが1回だけで、
朝早くプラハを離れるつもりであるわたしは、もうプラハにいない。
――つまり、内部は見られない。けっこう期待していたのでがっかり。


実はここに来る直前に、今夜見に行く人形劇のチケットを買っていた。
629コルナ≒3300円。(ツーリスト・インフォメーションで買ったので、手数料込かも。)
人形劇は、前々から見ようと思っていたんだけど、
これを買っていなければ、今夜20時からのスメタナ・ホールでのコンサートに
来ることが出来たんだよなー。そうすれば、ガイドツアーに参加出来なくとも、
少なくともスメタナホールの内装は見られたのに。

どうする?人形劇をうっちゃって、スメタナ・ホールのコンサートに変更するか?
たしかにチェコのオーケストラも聴いてみたい気がする。
しかし人形劇は人形劇で捨てがたい。そして3300円……。

まあしょうがない。これも運命さ。
市民会館には縁がなかったと思ってあきらめよう。
肩をすくめてわたしは歩き去る。




――と、いうことにしようかと思ったが、未練はたっぷり。
実は、市民会館にはいくつか飲食店が入っていて、それぞれがやはりアール・ヌーボー様式で
装飾されているはずなんです。せめてそこだけでも見て行こうではないか。



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入ったのは、地下にある「プルゼニュスカー・レスタウラツェ」という店。
ちなみにサイトに飛んで、左側の「JIDELNI LISTEK」という所をクリックすると、
写真つきのメニューが出ます。写真をめくるには、写真右上のあたりに現れるNEXTを探す。
美味そうだ。






the plzenska restaurace.

ちゃんとしたレストランなので、少し値段は高め。
メニューには日本語で説明もある。日本人が数多く来るのだろう。
その証拠に、中央のテーブルにいるのは日本人のグループ。



高いっていってもメイン料理が1000円程度からあるんだから、
金額的には特に恐れることはないのだが、あまりオナカは空いていない。(この時点で13時半)
すごく考えた末に、グラーシュ風スープ、チーズケーキ、飲み物にトニックウォーターという、
奇天烈な組み合わせに落ち着きました。
カフェ・スラーヴィアの経験から、スープが大量なのじゃないかと予想したことと、
何か甘いものが食べたかったし、喉も乾いていたので。
そうしたら、ここのスープの量は単なるカップスープ程度でした……。
なかなか上手くはいかないね。




Delicious!


美味い♪


食べ終わった後に、ウェイターのおじさんが、ワケのわからん液体を持って来てくれました。
見た感じはリキュールっぽい。あるいはジンっぽい。とても小さなグラス。
ジェスチャーと「ストマック」という単語から察するに、胃を落ち着かせる飲み物らしい。
……えー。酒だと困るぞ。それに、頼んでもいないアヤシイものを飲むのはキケンじゃないか?

と、思いつつ飲んでみる。
……うーむ。微妙な味だなあ。まあ、アルコール分がないシャルトリューズ?
顔をしかめるわたしを見て、向いのテーブルに座っていたおじさんが笑っている。




そうそう、忘れるところでしたが主目的である内装写真。地下なので少々暗い。

Inside of the restaurant.











こういうところが地元にあればのう……。


さてと。食べ終わったし、移動しますか。




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14.ヴィシェフラド。

2009-11-03 | チェコ・9月3日
さらに南下するとヴィシェフラド――






Vysehrad.

ヴィシェフラドというのは「高い城」という意味で、昔お城があった場所。
車道から、岩の上の廃墟が見える。目指すはこの岩山の上なのだが……さて、どう行けばいいのか。



旅行をしていて、けっこう苦労をさせられるのが土地の高低差。
ガイドブックには地図は必ず載っているけど、地図だと高低差がわからないことが多い。
早い話、何の疑問もなくA地点からB地点へ行けるものだと思って歩いていくと、
その間には崖があり、大回りをしなければならないなんてことはザラ。
歩道が整備されていない立体交差なんて場合もある。
何とかなりませんかね。

ああそれから、ガイドブックの地図についてはもう一つ注文がある。
入口を書いておいて下さい。
美術館を例に挙げれば、まあ、基本的に美術館なんて敷地が広いわけじゃないですか。
で、地図を見ながら歩いていくとするでしょ?
左右どちらの道を選んでも、地図上では美術館に着ける、という状況で、
出来れば最短距離でルートを選びたい。が、どちらが門(あるいは入口)に近い道なのか、
わかるように書いてくれているガイドブックは少数派ですよ。

これがねー。結構迷惑。
左を選べばすぐなのに、右を選んで4分の3くらい敷地の外を回ってようやく辿り着く、
ということもあるから。
地図情報として非常に大事な部分だと思うんだけど、作り手はこの辺、大抵手を抜いてる。
関係者には反省を促したい。……が、こんなところで言っても仕方なかろうな。



閑話休題。
ちなみにヴィシェフラドへ登る入口は、トンネルを抜けてすぐくらいにある駐車場の向こう側です。
駐車場の係員の人に道を訊いたら、そのすぐ陰に登り口の表示が出ていて、ちょっと恥ずかしかった。



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ヴィシェフラドがどんなところかといえば、ずばり青葉城祉。






入口。護国神社の鳥居ごときものだと思っていただければ……










The Rotonda.

敷地内にある聖マルティン教会のロトンダ(円形礼拝堂)。
こういう礼拝堂は古いタイプのもので、1100年頃建てられた由。
このくらいの時代の雰囲気が好きだ。遺跡になりかけの建造物。







The statue of Libuse.


政宗像の代わりに、ここにあるのはリブシェ像。

リブシェはチェコ民族の伝説の女王。
リブシェ(隣の男性は彼女によって王になったプシェミスル)の彫像はこの場所に
複数並んでいたが、一番好きなものを撮影。
スメタナのオペラに「リブシェ」という作品があり、国民劇場のこけら落としの際に上演された。

周りの芝生の広場では、遠足っぽい子供たちが力いっぱい遊びまわっていた。
子供は元気だ。わたしはへとへと。ってか、やっぱり靴ズレがキビシイ。



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The St.Peter and St.Paul church.



だが、わたしにはここで幸運な出会いがあった。


ヴィシェフラドにある聖ペテロ聖パウロ教会。
聖ヴィート大聖堂には規模も雰囲気も及びもつかないが、それなりに由緒ありげな雰囲気。
教会にしては珍しく入場料ありだが、30コルナ(≒160円)を今さら惜しんでも仕方ない。
そりゃもちろん入りますよ。まあ別に必見というほどの場所でもないだろうが……


外観は珍しくもない普通のゴシック。入って何の気なしに辺りを見回し、内装に驚く。
「……ミュシャ?」
思わず口に出して呟いてから、慌てて内部の薄暗い空間に目をこらす。
いや、ミュシャではない。ミュシャではないが……これはヌーボーじゃないか。
そう思って周囲を見直すと、教会の内装がびっしりミュシャ風ヌーボーでデザインされている。

ヌーボーの教会なんて!
それこそ100年前に建てられた今出来のものなら別に驚かない。
しかしこれは12世紀からの教会。
容れ物は古いのに内装はヌーボー。どういった経緯でこんなことが……

パンフレットには特に詳しいことは載っていなかった。
20世紀初頭、ミュシャスタイルに影響を受けた画家何某が内装した云々、という説明が
10行ほどで淡々と描かれていただけ。まあ、冷静に考えてみれば、
修復が行われた時代に流行っていたスタイルで修復されるのは普通のことで、
建築様式的に、ロマネスク、ゴシック、バロックがごちゃ混ぜという建物は決して珍しくない。
しかしわたしは、ヌーボーが教会と結びつくなんて、夢にも考えたことがなかったので
――そして外観のゴシックと内部のヌーボーのギャップが甚だしかったので――非常に驚いた。


これは、ガイドブックに載せるべきではないかと思う。
隣接する墓地のことは書いてあっても、この教会の内装に触れたものはあまりない。
ヌーボーに興味があるなら、有料だからといって入らないでしまうと勿体ない場所だ。










Inside of the church.Art-Nouveau style.




実は……撮影禁止だったのだが。
わたしは基本的にそういうのは守るのだけれども、執着が断ち切れなくてこっそり撮影。
だってだって、他の観光客はバシバシ撮ってるし、それに対して係の人は何にも言わないし、
探しても絵葉書もカラーのパンフレットもなかったし。ごにょごにょ。
でも落ち着いてピントが合わせられなかった(^_^;)。
ちょっとピンぼけ。アングルも甘い。小心者。



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ヴィシェフラドで有名なのは、その教会自体よりも隣接する墓地。
この墓地にはチェコの有名人が数多く眠っているらしい。
上はスメタナの墓で、下はカレル・チャペックという作家の墓。





The tomb of Smetana.




The tomb of Karel Capek.

お墓参りをしたいと思うほど思い入れのあるチェコ人は、わたしにはいないのだけれども、
カレル・チャペックはちょっと探した。「ダーシェンカ」という可愛い本を書いた人。


墓地自体がきれいなところなんです。











Vysehrad Graveyard.

もう少しお掃除がしてあればもっと良かったが。
しかしこのアーケードには、しみじみとした美しさを感じる。
なんというか、悲しみでもなく哀悼でもなく、死者に対する温かさを。



ヴィシェフラドを下りる。……今気づいたが、古城の遺跡を見るのを忘れたな。



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13.マサリク河岸通り。

2009-10-31 | チェコ・9月3日
この日一日は少々蘊蓄野郎です。鬱陶しいでしょうが、語らせてやって下さい。



プラハには、様々な時代の建築が残っている。とりわけアール・ヌーボー建築に関しては、
パリ、ナンシー、ブリュッセルに並ぶ有名な街だと思う。
街区としてまとまって残っている分、稀少性で言えばどこよりも上かもしれない。






Art-Nouveau buildings area.


国民劇場から南へ向かう、ヴルタヴァ川沿いの一般住宅。
おそらくここがマサリク河岸通りと言われる地区だと思う。この辺りがなかなか良いのだ。
プラハの市街地が膨張したのが、多分およそ百年前だったのだろう。
5、6階建の一般住宅が、その頃流行りの建築様式で北から順に建てられていった。
修復状態にずいぶん差はあるが、1軒1軒にそれぞれ趣向があるので見ていて楽しい。


散策は、ゲーテ協会の建物入口の装飾から始まった。
麦の穂をデザイン化した、まさにヌーボー。
「ゲーテ協会」と書かれたレタリングもそこはかとなくヌーボー。






南へ歩いて行くと、最初の方はデザイン的に控え目で上品な建物。
ヌーボーと言っても、チェコのデザインの基本は一般的な植物ウネウネではないようだ。
むしろウィーンあたりのゼセッションやデコのイメージの方に近い。
漆喰で作られたデザインは、花綱デザインも程度を越さないくらいに整然としている。
適度さが美しい。色合いは淡い緑や黄色、明るいグレイ、アイヴォリー。
漆喰の家は、石造りとは違い、描き割り的でもあるが、
言葉を変えて言えば軽やかで可愛らしい。加工性が高いことがこの街並みを生んでいる。










そういう建物の向い側には、モダニズム的な、真白い壁と真四角の窓が続く建物があり。
その背後には、14世紀頃の建物のように感じられる石積みの小さな塔があり。
塔とモダニズムにそれほどの違和感がないところが面白い。









河岸通りの中間ほどでは、建物の装飾が派手になる。
モザイク――というべきかタイル絵というべきか、建物外壁上部にハープを奏でる女性の絵。
(しかし見る人の視線を考えれば、この位置にこういう絵は効果的か?
対岸からは遠すぎる気がするし。大きいから見えるか?川縁を散歩する人なら丁度いいか?)
この建物はもう少し修理した方がいい。数少ないモザイクなのにもったいない。










ゴシック風が2軒並ぶ。面白いが、少々派手に傾きすぎていて、品の良さは感じない。
地区全部の建物がこの派手さで作られていたら相当にしつこくて、もしかしたら
早々にデザインを変えられていたかもしれないと感じる。
次はバロック風?やはり派手で、でもたまにはこういう建物もアクセントになるかな。









Neo-Gothic?






Neo-baroque?






そしてふと眼を先にやると……思わずにやりと笑ってしまう建物。






The Dancing house.(or Ginger and Astaire building.)


これは見たいと思っていた。
「ダンシング・ハウス」とか「ジンジャー&アステア」などと呼ばれる現代建築。
わたしは現代建築はだいたい警戒しているが、さすがにここまでやられるとね。笑うしかないでしょ。
ヌーボーやゴシックを見てきた目が不意を突かれる。
なんと愛嬌のある建物だろうね。

写真家の浅井慎平がこれを見て「これはイカだ!!」と主張していた。
理由:足が10本ありそうだから。……うーん。まあイカでもいいけど。
中に入ってみたいな。基本的にはオフィスビルらしい。




ここを過ぎるとチェコ特有のキュビズム建築が数軒。







Czech-cubism.


キュビズム建築などというと非常にとんがった建物を想像するが、
わりあいに落ち着いた、普通に住めそうな建物。
多分集合住宅として使われているのだと思う。
インテリアなどがどうなっているのか、気になる。

ベランダのプランターに水やりをしていた人がいた。
「中を見せてくれませんか?」……と叫ぶ自分を想像しつつ、
さすがにそこまでの勇気(というか蛮勇)は持てなかった。研究者でもないわけだし。


雨が降り始める。昨日すごく暑かったので、今日は薄着で来てしまった。寒い。
かろうじて傘は持って来たけど。風が冷たい。大丈夫かな。


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