Mo.の事件簿 A diary of Mo’s trips

事件簿などという大層なタイトルだが、実は単なる旅行記です。

6.白い椿。

2013-04-24 | 東京/Tokyo:2013
こないだやった白洲次郎のドラマでは、周囲に平らな畑がずっと続いた奥にある、里山裾の農家という
イメージだったが、敷地は当時よりおそらくだいぶ狭くなったんだろう。
ドラマよりも小さい建物。いくら“ただの農家”を買い取ったと言っても、
元伯爵令嬢の正子と、金が唸るほどあった(多分この頃はもうオカネモチじゃないとはいえ)
次郎の家なんだからもっと大きいと思っていたのだが。








今は周囲に当時の面影はない。
何しろ50メートルくらい離れてユニクロ鶴川店があるほどですから。
しかしわずか50メートルで、武相荘は静かな雰囲気を現在も保ち続けていて、
これは関係者のお手柄であろう。

ところで、武相荘。ぶあいそう、ですね。
一応表向きの名前の由来は、武蔵と相模の間にあるので武相荘。――そういう説明も出来るそうだが、
裏の本当の意味は、無愛想。らしいです。







思い入れたっぷりの人だからこそ、あまりオオゲサに訪れたくはなかったが、
結果としては多少芝居がかった訪問になりました。
まあ芝居がかったと見るのはわたしの自意識が過剰だからであって、
単にぼーっと見てぼーっとケーキを食べて帰って来ただけですけど。


入口には桜の花。







中に入った途端、その温かさに心が反応する。
温かさの種類が――蓄熱式床暖なのか、囲炉裏の火なのかわからないけれど――違う気がする。
暖色系の照明の色のせいかもしれない。灰色の冬の夕方の色彩とは全く違う色鮮やかな世界。
引き戸を開けて入って、広がるのは昔は農家の土間だった、そこにソファを置いた洋風の居間。
ソファが置かれ絨毯が敷かれ、テーブルの上には、若干あざといような、イギリスで発行された
昔の絵入り新聞が置かれている。ああ、次郎は青春時代をイギリスで過ごした人だから。

居間には展示物がところ狭しと置かれており、典型的な居間にも見えず。多少骨董屋がかってもいる。
多分、何も知らずにここに連れてこられたら、どういった建物なのか全くわからないだろう。
そのわずかな奇妙さが、彼ららしいというべきなのかもしれない。
――まあ、正子が住んでいた時はこんなに物を並べていなかっただろうから、
この状態を見て「奇妙」と言われれば、正子は心外でしょうけれどね。

「物」は、たとえば、
正子が気に入って買い求めたランプとか、愛用のグラスとか、イギリスの骨董食器棚とか、
次郎が日曜大工で作った床置き型の竹製電気スタンドとか。
そこに彼らがいたことを感じさせるもの。

なんといっても、その電気スタンドが良かったね!
次郎お手製の家具はいくつもあって、どれもこれもが――全くの素人。
斜めに傾いている、バランスがおかしい、とか、素人感ありあり。
しかしそういうものを、おそらく次郎は適当に目分量で作り(設計図とかきっちり作らなそう)
「出来たぞ」と言って、得意になって正子に見せ、
正子はにやりと(にっこりではない)笑って、「あら、いいじゃない」などと言ったのではないかと。
美意識で物を書いているような人が、夫の素人仕事に。
そういうことを想像させるのが愉しい。



家の南西側は和室が二間。ここは事前に想像出来るような正子の展示スペース。
時期が時期だったので、時代物のお雛様が飾ってあった。それから部屋の畳部分をほぼすべて使って、
正子の収集品がみっしり並べてあった。椀。盆。水差し。皿。蕎麦猪口。籠。普段使いの着物。
わたしは正直、骨董の良さはほぼわからないが、こうやって、ある好みによって統一されたものは、
全体で調和を作り上げていて気持ちがいい。
割合に丁寧に見たと思う。良さがわからないわりには丁寧に。

それよりも丁寧に見たのは正子の書斎だった。
北西部、日の当たらない和室に本棚と机が並んでいる。本棚の本の題名を丹念に見た。
昔の本がほとんどだった。だいたいは、彼女の著作に関連する資料で、
仏教とか古典とか、ここにこれがあるのはよくわかる、というラインナップ。
新しい本はと見れば、これは車谷長吉や赤瀬川原平さん。彼女と交友があった、これもよくわかる類。
それから彼女自身の著作も端っこの方に、適当に。
意外だったのは南方熊楠関連が少し目についたこと。南方熊楠を書いたというイメージはないのだが。

机は、意外に小さかった。
筆記用具が並ぶ、ごく普通の座机。勿体ぶったところのない佇まい。
わずかに主張を感じさせるのは、机の上に置かれた愛玩したのであろう小さな骨董だけ。
机の前に座れば目の前が窓で、名もないような草だけが目に入る。
しかしその緑は正子の目を休めただろう。
背中を丸めて、この机で書いていた人の姿を想像する。
わたしが想像する白洲正子はオッカナイおばあさんだけど、その背中は意外に小さかったに違いない。


母屋を見終わって、庭に出て、一回り。
西側には山というべきか盛り土というべきか、超ミニチュア登山な感じの盛り上がりがあり。
標高差2、3メートルくらいか。それでも雑木林に囲まれているし、地面はたしか熊笹を
一面に生やしているので、意外に歩き甲斐を感じる盛り上がり。
そのさらに西側には、無愛想とはまた別の、何か趣ありげな住宅も見えたけれども、
武相荘と何か関係はあるのかな。


建物の方へ戻って、喫茶スペースでコーヒーとケーキ。
普段コーヒーは飲まないけれど、他になかったので。
いつもなら何かを読みながら飲食するけれど、なんだかぼんやりしていたかったので。
青みがかってくる夕暮れの庭を眺めながらぼんやりしていた。








庭には、白椿。

花びらのわずかな斑点が残念だけど、久々にきれいに撮れた花。
正子は椿が好きだったそうだ。












次郎は日本でまだ車が珍しかった時代にこんな車を乗り回していた人。
とにかくやんちゃだったようですよ。




17:00に武相荘を出た。






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1 コメント

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はじめまして、初コメントです! (めぐみ)
2013-04-28 15:01:37
はじめまして!めぐみっていいます、他人のブログにいきなりコメントするの始めてで緊張していまっす(▼∀▼)ニヤリッ。ちょくちょく見にきてるのでまたコメントしにきますね(*´ェ`*)ポッ

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