絵物語９ ： 五十六

工事現場でバイトをしたときのこと。


いつもニコニコしていて、印象深い人がいた。
少し頭の回転が鈍いというもっぱらの噂だったが…



「おいネコ持ってこい！」



現場では一輪車のことを “ネコ” と呼んでいた。



「遅いなあ、あいつどこ行ったんだ」


　２時間後－。



「えへへ」
「バカヤロウ！誰がホントの猫つれてこいって言った！」



「あいつの名前 “五十六（いそろく）” っていうんだって」
「 “五十六” って、あの “山本五十六” かあ」
「はっははは…」


　３時の休憩－。



「オイ、飲み物を五人分買ってこい」
「佐藤さん、太っ腹ですね、へへ」
「ははは、なんだそれ。ほめてるつもりかよ。早く行ってこい」



「買ってきました」
「おう、ごくろさん」



「どれにしますか。へへ」
「どれどれ “おしるこ” に “コーンポタージュ” …」



「ばかやろう。こういうときは普通、缶コーヒー買ってくんだろ！」
「へへへ」
「買いなおしてこい！」



（ でも、憎めない人だったなあ ）