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幸せに生きる(笑顔のレシピ) & ロゴセラピー 

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「条件反射制御法──物質使用障害に治癒をもたらす必須の技法」平井慎二著 ”試してみる価値ありそう!”

2025-04-20 14:55:44 | 本の紹介
・この試みの当初の方法は、患者が覚醒剤ではない物質で水溶液を作り、その後に著者が患者に生理食塩水を静脈注射するものであった。偽であることを伝えて、患者に、覚醒剤に見立てた可用性の白い結晶を小さなチャック付きポリエチレン袋に入れたものを渡し、また、針のない1ccのの注射器、白い結晶をすくうスプーンとして斜めに切ったストロー等も渡した。患者は白い結晶を溶解し、その溶液を注射器内に吸い上げ、その注射器を目の前に置いた。続いて、筆者が別の注射器につめていた生理食塩水を患者の静脈に注射した。この初の疑似覚醒剤静脈注射を受けた患者は、一瞬にして顔面に玉の汗を拭き出し、口の周囲をなめ回し、快感が生じたことを嬉しそうに著者に告げたのである。
 このように激しい反応が生じたのはその患者だけでなく、その後の他の患者においても強烈な反応が生じた。また、この疑似覚醒剤静脈注射を反復することにより、患者に生じる反応の程度が急速に低減する傾向を把握した。
 このことから、パブロフ学説に忠実にしたがうことで、覚醒剤への欲求を効果的に低減させられることが分かった。

・非精神病性障害
①望まない神経活動が再現するという問題
②規則的な生活を送る能力における問題
③対人関係上の問題
④自尊感情の問題
⑤その他の問題

・精神病性障害
①離脱せん妄
②急性精神病
③慢性精神病

・信号系
①第一信号系
 ヒトを含む動物には、体内外からの特定の刺激が、反射の中枢での処理において、対応する特定の反応をつくる信号となり、その反射が連鎖して行動を薦める神経系がある。
②第二信号系
 ヒトは事象を表現する言葉をもち、言葉が刺激となって展開する思考という神経活動を持ちつ。

・神経活動の三分類
①先天的反射連鎖
②後天的反射連鎖
③第二信号系反射網(思考)

・既存の治療法と条件反射制御法の類似点を相違点
①類似点
  ミーティング療法や内観療法は、それまでの自分と周囲の者との関係等を改装し、よりよい生き方を見つける思考に働きかけ人間的に成長する療法であるとされている。
②相違点
  条件反射制御法と効果を上げている多くの精神科領域の技法は類似しているが、根本的な相違点はヒトの行動原理にたいする理解である。条件反射制御法では、ヒトの行動を司る中枢神経は第一信号系と第二信号系があり、第一信号系は自律神経、気分、動作を司り、第二信号系は動作を司り、第一信号系と第二信号系が摩擦しないところでは両方が作動しているが、動作においてその方向がことなればどちらかが優先になり、その一方が他方のの作動を抑制しながら、あるいは消滅させて作動するものである。他の精神科の技法はヒトの行動を司る中枢が2つあることを重要視せず、むしろヒトは思考に基づいて行動するという考えに基づいている。

・条件反射制御法の実際
①負の刺激ステージ
②疑似ステージ
③想像ステージ
④維持ステージ

・「条件反射制御法」下総精神医療センター平井慎二医師

・今日まで、私の関与により入院したストーカー加害者は15人以上いあmすが、退院後の「維持作業(条件反射制御法の第四ステージ)を怠った一人を除いて全員が治っています。欲求が提言すれば思考は適正化されるので、仕事もできるようになります。入院時は無色であった彼らが1人を除いて全員が就労、就学したということも治ったことの現れです。
 下総精神医療センターで治療を受けたのは、ポイゾンのストーカーたちでした。被害者に暴力を加えた人、事前に犯行を察知され脅迫罪で逮捕された人、警告を受けたら殺意が生まれたと駆けこんできた人、復習屋に放火殺人を依頼した人たちです。

・平井医師から
 ヒトの脳には二つの中枢があり、一つは、「防御」「摂食」「「生殖」という生命を保ち次世代を創るための本能行動と適応行動を司る中枢で、これはパブロフは第一信号系と呼びました。動作、自律神経、気分などの生きることをつかさどる中枢です。もう一つは第二信号系と呼ばれる中枢で、「思考」の場となります。
 ヒトは本能を満たす行動をとった結果、生理的報酬(安らぎ、満腹感、快感とは異なるが、それらと同時に生じることが多い)を得、これを獲得すると、その前の神経活動を定着させるために、繰り返し行動(第一信号系の反射連鎖で成立する行動)が成立するとのことです。
第一信号系の反射連鎖が第二信号系の作動である思考を超えて角に働くとき、次のような社会的逸脱行動となる。
 過度な「防御」反応は、放火、PTSD、パニック、反応性抑うつ、自傷行為として現れます。過度な「摂食」反応は、病的窃盗、過食として現れます。過度な「生殖」反応は、露出、痴漢、強姦として現れます。
 適応行動が過度に作動するものは、わかりやすいところでは、酒、覚醒剤、ニコチンなどの「物質摂取」です。薬理作用によって、本能行動を満たしたときとおなじように生理的報酬が生じるのだそうです。
 一方、「思考」もまた、生理的報酬を着くrことができるとのことです。それが「目標設定と達成」です。人は目標を達成したとき達成感を獲得し、この作用が生理的報酬を創るのだそうです。例えば、何かを頑張ってやり遂げたときは最後に報酬が生じて、その行動が反復されやすく、つまり頑張り屋さんは次もがんばることになります。
 平井医師は、男女間のストキングは、生殖と言う本能行動を促進する反復連鎖が基盤にあると言います。

・条件反射制御法の治療では大きくいって、次の四つのことをします。
①抑えきれない行動を止める刺激(「制御刺激」)を意図的につくります。
②治療対象となる行動を促進する神経の反射連鎖を弱める作業をします。
③朝起きたときから治療対象の行動までのプロセスを閉眼して詳細に思い出させます。
④第一~第三ステージで行った作業を、回数を減らして、一生、あるいは少なくとも駿遠以上つづけます。

・条件反射制御法では原則13週間の入院を必要とします。カウンセリングを違って無意識に働きかける脳訓練です。

・入院生活は治療のために必要なものである以上に、人生を生きる上での意味深いものだおt、入院している人たちを見て私は思います。入院生活の長所についていくつか伝えたいと思います。
①ルールに従うことを学べる
②余分なものを捨てることができる
③時間の管理ができるようになる
④外の世界が病院になる

感想
 条件反射制御法は、頭の回路にドラッグやストーカーなど、本人だけでなく周りも苦労している習慣を止めさせるのに効果が出ているようです。

ChatGPTに質問
🔍 第二信号系とは?
**第二信号系(だいにしんごうけい)**とは、ロシアの生理学者イワン・パブロフによって提唱された概念で、「言語」を媒介とした信号系を指します。
  • 第一信号系:視覚、聴覚、嗅覚など、直接的な感覚刺激に基づいて生じる条件反射のしくみ(例:ベルの音を聞いて唾液が出る)
  • 第二信号系:言葉(記号・象徴)に反応するしくみ。人間特有の反応系(例:「レモン」と聞いただけで唾液が出る)
🧠 条件反射制御法と第二信号系の関係
条件反射制御法(Conditioned Reflex Control Method)は、旧ソ連の心理学者たちによって発展した行動療法で、特に神経症や不安障害の治療に使われました。この手法では、第二信号系を利用して、過剰な反応や不適応行動を制御することが目的とされます。

実践的な関わり
  • 言語による暗示・指示で条件反射の反応を調整
  • 例えば、「リラックス」と言われると安心する、という反応を形成する
  • 不安反応が出る刺激に対して、言語的な再条件づけを行い、不安を減弱させる
✅ 例で理解する
状況:
ある人が人前で話すときに、過剰に緊張してしまう(第一信号系による条件反射)
介入:
「あなたは落ち着いて話せる」「この場は安心できる」などの言語的介入(第二信号系)を繰り返すことで、新たな条件反射(落ち着く)を形成する。
🧩 まとめ
項目第一信号系第二信号系
刺激感覚刺激(音・光など)言語・記号
主な対象人間と動物人間のみ
反応直接的な条件反射抽象的・言語的な反応
条件反射制御法での役割不安などの反応が生じる元不安などをコントロールする手段

定価2,600円(+税)、168頁、A5判) より

この本を読まずして21世紀の精神医療は始まらない
物質使用障害の新しい治療法
覚醒剤,アルコール,ギャンブル,万引き,ストーカー行為,自傷etc.……がやめられない。やめられないのは意志が弱いせいだ――そう言われてきたが, やめられないのは意志の問題ではない。身の回りの刺激とそれらの行為が強力に結びついて条件反射を形成しているから,やめたいと思っていてもやってしまう のだ。
本書はパヴロフの学説を基に,その条件反射を弱め,平静な状態を保つ新たな反射を形成することで欲望そのものをコントロールする技法,条件反射制御法の理論と実際を詳説する。
その驚きの効果を実際にぜひ味わってほしい。医療・福祉の領域における治療・訓練に新たな地平を拓き、刑事司法体系に対して変わるべき根拠とその方向を示す画期的治療法の登場である。

◆ 本書の詳しい内容
 
おもな目次
第1章
望まない神経活動が再現する者の抱える問題
第2章
パヴロフによる動物の行動と反射に関する理論
第3章
望まない神経活動が再現するメカニズム
第4章
進化と条件反射
第5章
条件反射制御法の理論
第6章
条件反射制御法の実際
第7章
事例でみる望まない神経活動再現のメカニズム
第8章
規制薬物摂取を反復するヒトの有責性ととるべき処遇
ほか

はじめに
条件反射制御法の発見
条件反射および無条件反射という言葉が使われた初めての報告は,1903年にマドリッドで開催された国際生理学会においてパヴロフPavlov, I.P.によりなされた。その報告から100年以上経た2006年6月1日,下総精神医療センターにおいて,著者はパヴロフ学説にしたがった方法を用いて 覚醒剤に対する欲求を抑制する試みを始めた。
この試みの当初の方法は,患者が覚醒剤ではない物質で水溶液を作り,その後に著者が患者に生理的食塩水を静脈注射するものであった。偽であることを伝え て,患者に,覚醒剤に見立てた可溶性の白い結晶を小さなチャック付きポリエチレン袋に入れたものを渡し,また,針のない1ccの注射器,白い結晶をすくう スプーンとして斜めに切ったストロー等も渡した。患者は白い結晶を溶解し,その溶液を注射器内に吸い上げ,その注射器を目の前に置いた。続いて,著者が別 の注射器につめていた生理的食塩水を患者の静脈に注射した。この初の疑似覚醒剤静脈注射を受けた患者は,一瞬にして顔面に玉の汗を吹き出し,口の周囲をな め回し,快感が生じたことをうれしそうに著者に告げたのであった。
このように激しい反応が生じたのはその患者だけではなく,その後,他の患者においても強烈な反応が生じた。また,この疑似覚醒剤静脈注射を反復することにより,患者に生じる反応の程度が急速に低減する傾向を把握した。
このことから,パヴロフ学説に忠実にしたがうことで,覚醒剤への欲求を効果的に低減させられることがわかった。種々の方法を試みながら手順を整え,他の技 法と比較して飛躍的に高い効果を安全に得られるようになった。覚醒剤に対する欲求を消去することに成功したのである。その技法を「条件反射制御法」と呼 び,現在では下総精神医療センターの薬物関連精神疾患専門病棟におけるプログラムの中心となっている。
これまでは,物質使用障害(アルコールや覚醒剤などの物質乱用)は治らない疾病であるとされていた。その理由は,それらの物質を長期に摂取しなくても欲求 は残り,一度でも摂取した場合は再度,連続的な摂取に陥るケースが多かったからである。しかし,条件反射制御法は欲求を制御するものであり,必要に応じて 他の技法と併用することにより,物質使用障害を治癒に至らせることができるものである。現時点でも物質使用障害には回復はあっても治癒はないと理解する研 究者や臨床家が多いようであるが,条件反射制御法の導入によってこの状況に終止符が打たれるであろう。
仮に先人達がパヴロフ学説にしたがって物質使用障害を理解し,対応法を考えたならば,すでに物質使用障害における欲求等の望まない神経活動を抑制する方法 は見つけられていたはずであり,物質使用障害は完治がある疾病であることになっていたはずである。しかし,現実はそのようにはならなかった。パヴロフの後 の研究者や臨床家の多くは,パヴロフ学説を理解せず,誤って把握し,パヴロフが刺激と唾液腺の反応を焦点に研究したと過小評価した。その結果,ヒトの行動 のメカニズムに関して誤った理論が信じられている。したがって,物質使用障害等に対して焦点を外した対応がされてきたのであり,覚醒剤やアルコールの摂取 などの望まない神経活動が繰り返して再現される状態を治せなかったのである。
本書は,パヴロフ学説と少しの新たな発見を示すことで,ヒトの行動の原理を示し,パヴロフ後の多くの研究者や臨床家による誤りを示すことになるだろう。

他の疾患や問題に対する適用
著者は物質使用障害をもつヒトを対象にして精神科医療を提供する臨床の現場で長く働いてきた。一旦はもうやらないと決意した覚醒剤摂取や飲酒などの行動を してしまう現象,つまり決意と実際の行動の差異が極めて顕著にみられる現象が著者による働きかけの対象であった。このことが著者に,ヒトの行動原理を考え させる機会を与え,パヴロフ学説を通して,望まない行動を進める反射連鎖に直接的に作用する条件反射制御法を開発させることとなった。
条件反射制御法を臨床で用い始めた頃は,物質に対する欲求を抑制するものとして把握していたが,研究が進むにつれ,条件反射制御法がヒトの行動原理に基づ いたものであり,種々の現象に広く適用できることがわかってきた。疾病の色彩の強いものでは,物質使用障害だけでなく放火癖,自傷行為,PTSD,反応性 抑うつ,病的賭博,過食症,盗癖,性嗜好障害,強迫行為などに対して,著者やこの技法を臨床に用いている者により,条件反射制御法で効果が生じることが確 認されつつある。また,パターン化された業務における確認の不徹底や手順の逸脱などのヒューマンエラーも,条件反射制御法により改善されることが確認され つつある。条件反射制御法は,この先,産業の現場でも利用されるものになると考えている。
このようなところまで条件反射制御法が対応できるので,もともとは覚醒剤に対する欲求を制御する技法として開発したが,すでに欲求を制御するものであると 規定できなくなった。例えば,PTSDにおける危険を体験したときの映像や恐怖の再現,あるいはパターン化された業務におけるヒューマンエラーは,欲求を 伴って生じるようなものではないからである。それらを生じさせるヒトは,そのような神経活動が生じることを望んでいない。そこで,欲求を抑制するというよ りも,生じてほしくないのに生じる現象と広く捉えて,本書では条件反射制御法を「望まない神経活動」に対処するための技法として解説してゆく。

現時点までの展開
著者は条件反射制御法を2006年6月に開始し,改訂を重ねて,現在のものにしている。すでに8年を経過した。勤務する病棟は物質使用障害に対する専門病棟であることから,この技法の対象となりえる入院患者全員に条件反射制御法を提供できなければならないと考えた。
条件反射制御法は望まない神経活動を標的とするが,そのアプローチは既存の治療法とはかなり異なる面がある。例えば,この条件反射制御法において患者に求 められる重要な作業の1つに,おまじないとも呼ぶ作業の反復があるが,最初に説明を受けた患者の多くはまずは不信を抱き,治るために効果が期待できそうな ものとは捉えないようである。そのために,繰り返し説明し,指導し,観察を続けなければならない。したがって,著者の勤務する40床ある病棟で条件反射制 御法の対象になる患者全員が適正な作業を行うよう著者が単独では働きかけられないことは明白であった。そこで,病棟職員全員が条件反射制御法の理論を理解 し,技法の詳細を知り,患者に働きかけるシステムを構築することに十分な時間をとった。現在,著者が勤務する病棟では,看護職員が患者に説明書を渡し,テ ストを行い,患者による誤った理解を訂正し,不十分なところを補い,毎日,患者に接触して作業回数を確認し,反復してこの技法に関する働きかけがなされて いる。この毎日の看護職員による働きかけが,患者が条件反射制御法の作業をすることを保ち,その結果として,患者による毎日の作業がそれまでに生じていた 望まない神経活動の作動性を抑制するのである。
この数年で,当病棟におけるこの技法の効果は飛躍的に向上したと感じている。また,データも順調に蓄積されており,主に条件反射制御法研究会の会報誌で報告している。
条件反射制御法の効果を示す統計的な証拠がまだ少ない現状で本書を書き,条件反射制御法を紹介しようとするのは,まずは,パヴロフ学説が進化およびヒトを 含む動物の行動を理路整然と説明するものであり,それにしたがった条件反射制御法が強力な効果を示すことを臨床で著者が経験したからである。
パヴロフは動物実験と幼い子どもの言葉の発達を対象にした実験および思索で彼の学説を打ち立てた。著者は彼が主張したヒトを含む動物がもつ第一信号系とヒトのみがもつ第二信号系の分類と機能にしたがって,ヒトの成人を対象に臨床研究を進め,パヴロフの理論にそのまましたがう働きかけがヒトの行動に急速に変化を起こすことを確認した。条件反射制御法を用いた臨床研究がこの先進むことにより,上記した疾患に留まらず,より多くの疾患に対してこの技法が適用され る可能性が広がると考えるのである。
初めて著者の主張に触れた方の一部は,著者がパヴロフ学説と条件反射制御法を過大に捉えていると感じたであろう。
しかし,本書の内容を読み,望まない神経活動に悩んでいるヒトに条件反射制御法を試みてほしい。この技法は,臨床家がやり始めれば,対象者による強烈な反 応や良好な変化を観察し,病みつきになるであろう。それらを早く体験していただきたいとも考え,理論と方法を本書で伝えたいのである。
条件反射制御法はすでに示したように適用範囲の広いものであり,すでに著者と考えを同じくする者により種々の問題行動あるいは状態への対応に用いられてい る。いずれ,多様な現象に対する条件反射制御法のテキストも作成するつもりである。しかし,現在の常識からこの技法の理論が大きく外れていることから,最 もわかりやすいものを紹介することが良いと考え,条件反射制御法を初めて解説する本書では,主に物質使用障害を取り上げることとした。
なぜならば,この疾患においては理性的判断と望まない神経活動が正反対を向いていることから,ヒトの行動のメカニズムを明確に示すことができるからであ る。また,著者が多くの覚醒剤乱用者に対応してきたことから,その障害をもつヒトの問題あるいは障害を整理し,条件反射制御法の詳細を示し,一方でそれの みでは不足する部分には既存の働きかけを簡単に紹介して,物質使用障害を完治させる方法を示すことができるからである。
また,最終章では,現在の刑事司法体系の問題について触れるつもりである。現在の刑事司法体系では,反復後の覚醒剤摂取は有責であり刑罰で対応することに なっている。その有責性と処遇のあり方を,パブロフ学説の見地から検討し,再犯の防止や回復のための援助につなげる態勢の再構築を提案したい。
 
おわりに
条件反射と無条件反射の言葉が初めて使われたパヴロフによる講演は「事実が一番雄弁であると考える私は……」から始まったとされている。その講演のとおり,彼は事実を見つめ,進化を考え,ヒトの行動を司る中枢が2つあること,および各中枢の働き方を把握した。
私は,売人の顔をみると便意をもよおすという不思議な話を患者から聞いたことに触発されて調査を行い,その結果からパヴロフ学説を基盤にして覚醒剤乱用者 に働きかけ,条件反射制御法を開発し,行動を司る2つの中枢の基本的な関係を把握した。また,他の反復する神経活動にもこの技法を適用し,対応した患者の データを蓄積し,広く強い効果を確認している。
しかし,条件反射制御法は新規性が強いためか,既成の技法を臨床で用いている専門家の多くは未だにこの技法に関して懐疑的であり,その普及は遅々としている。
そのような状況の中でこの技法を実践し,手順を整え,効果を高めてきた経過において,妻は私を勇気づけ,強力に支えてくれている。妻よ,ありがとう。
また,職場の仲間はこの技法に驚きながらも実務への導入を受け入れ,また,研究する仲間はこの技法に対する反論が多いことを知りながら,この技法の構成と作用を正確に理解し,困難な症例に果敢に対応を続けている。とてもありがたく,心強く感じる。
このように周囲に支えられて条件反射制御法の手順を整えてきた過程は大脳の働き方の妙にときに驚き,ときに昂ぶるほどに楽しいものであったが,時間と労力 を要した。不思議な話を聞く偶然と周囲の支えに恵まれていなければ,条件反射制御法開発以前の混沌とした知識と技法で私は今も患者に対応していたのだと思 うと,恐ろしくなる。また,日本の刑事司法体系がヒトの行動原理に関する誤解に基づいて構成されており,疾病状態に原因して生じた違法行為への対応は,刑の一部執行猶予制度の導入が決定するなど変化の兆しがあるものの,まだ主に刑罰でなされていることに関して焦燥さえ覚える。条件反射制御法を整える過程を 体験し,現在に至ったことを幸運だと感じる一方で,パヴロフ学説の知られていないところとこの技法の実践により新たに把握できたところを通常の知識として 普及させなければならないという使命も感じる。
私が会長を務める条件反射制御法学会とこの技法を開発する場となった下総精神医療センターは,いくつかの種類の研修会を開催し,ヒトの行動原理,並びに, 条件反射制御法の用い方,反復する事犯への対応体系のあり方を伝えているので参加していただきたい。あるいは,私と同じ職場で働いてくださるならば早く, 深く,この技法を修得できるので,身軽な方はいらしていただきたい。
多くの方と一緒に事実を見つめ,ヒトの行動を調整する技法の整理,並びに逸脱した行動に効果的に対応する体系への変革を進めていきたい。
 
著者略歴
平井愼二(ひらい・しんじ)
独立行政法人国立病院機構下総精神医療センター薬物依存治療部長兼臨床研究部長,条件反射制御法学会会長。
1985年徳島大学医学部卒業。昭和大学病院での研修を経て,1989年から現在の職場に入り,薬物乱用者に専門的に対応した。1995年からは2年間, ロンドン大学セントジョージ病院嗜癖行動学科へ出張。1999年に薬物乱用対策における取締処分側と援助側の∞連携を構想。2006年に条件反射制御法を 開発。2012年に条件反射制御法研究会(学会の前身)を発足させた。
ヒトの行動原理に基づいて,現在の精神科領域の技法を整理し,司法体系のあり方を適正なものにすることを活動の焦点にしている。

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