岸田文雄首相は8月28日、首相官邸に河野太郎デジタル相と高市早苗経済安全保障担当相を招き、ランチミーティングを行った。
この懇談は、9月中旬に予定されている内閣改造・党役員人事の最大の関心事が「ポスト岸田」に意欲を燃やす2人の処遇だけに、政界関係者の注目を集めた。 だが実は、岸田政権の安定性と方向性を見極める上で、最も注意すべきは「首相は木原誠二官房副長官を切るのか、重用し続けるのか」(政治部記者)という点である。
「首相の女房役」といえば松野博一官房長官で、木原氏は側近とはいえ3人いる副官房長官のうちの1人に過ぎない。 なぜ最も注目の人事なのか――。 「木原氏に対して『週刊文春』が夫人の前夫の死亡原因を巡って連続追及しており、木原氏は2カ月近くも逃げ回り、『外交内政に関して記者らに内閣の意向を示す』という本来の役割を果たしていない。岸田首相は支持率低下に悩んでいるだけに、『切るしかない』というのが大方の見方だった」(前出の記者) だが、意外なことに岸田氏は日米韓首脳会談に木原氏を同行させた。しかも米ワシントン郊外のキャンプデービットで8月18日(日本時間19日未明)に行われた全体会合で、岸田氏は左隣に林芳正外相、右隣に木原氏を座らせ信頼の厚さを見せつけた。なお、米側はバイデン大統領が中央のひな壇に座り、左隣がレモンド商務長官、右隣にブリンケン国務長官だった。
木原は沈黙、マスコミも封印
「岸田は側に木原がいると安心する。精神安定剤のようなもの(笑)」(自民党関係者)という木原氏の役割を見せつけたが、訪米の間、同行記者団へのブリーフィングを一切行わず「異様異例の官房副長官」というポジションに居続けている。
7月6日発売号から始った文春報道は、「自殺」と片付けられた17年前の前夫の死に、木原夫人のX子さんとその関係者が関与していたことを窺わせるものだ。 警視庁自身が5年前に再捜査を始めたことや文春の取材に前夫の父や死亡現場にいた知人が疑いを語り、なにより再捜査の際、X子さんを取り調べた佐藤誠元警部補が、「自殺ではない。事件はありえない形で終った」と実名告発。
「政権幹部夫人が関与した不審死」だとして前代未聞の展開を見せている。 本来、政権中枢にいてメディアを通じて情報発信する役割の官房副長官なら、たとえ「結婚前のプライバシーに関することで自殺か他殺かという踏み込みにくい領域」であったとしても、何が起きていて自分はどう考えているかについて説明責任を果たすべきだろう。 事件が起こったのは17年前でも、再捜査の際は党の政調副会長兼事務局長として岸田政調会長を支える立場にあった。当時は安倍晋三政権下で官邸が強く、検察・警察の捜査機関が政権に忖度していた。「有力政治家だから捜査を早期終結させたのではないか」という疑いが生まれるのは当然で、週刊文春がキャンペーンを張る理由でもあった。 だが、官邸は動かなかった。岸田氏が木原氏を「政権に欠かせない」と遇しているのはキャンプデービットの出来事が示している通りで、木原氏は沈黙を続けている。最大の理由は、報道が週刊文春と一部夕刊紙や月刊誌に限られ、新聞・テレビといったマスコミが追撃しないからだ。文春報道が政権攻撃にはつながっていない。 筆者はそれに関し、本サイトで<「木原誠二氏問題」をマスコミが報じない4つの理由>(8月3日配信)と題して説明した。
それから約1カ月が経過したが、マスコミは今も報じないし、報じない理由も変わらない。それどころか疑惑はますます封印の方向で動いている。
木原事務所に問い合わせてみると
立憲民主党は木原氏に公開質問状を提出したうえで、8月1日に国会に呼んでヒアリングを行おうとした。「報道が公務に支障をきたしている」という判断からだが、木原氏は出席せず「文春を刑事告訴した」と文書で答えた。また、その場に出席した警察庁の担当者は、「事件性はなく他殺の可能性はないと判断している」と述べた。 公党の問い掛けに「刑事告訴」と回答し警察庁が「自殺」と断定したのだから、報道へのハードルがまたひとつ上がった。 木原氏の代理人弁護士は筆者の「刑事告訴したのか」という質問書に7月28日付で、<刑事告訴については、名誉毀損行為が現在もなお継続していることもあり、証拠の収集等準備を進めているところです>という回答があった。 であれば、29日(土)、30日(日)と休日を挟むので、31日(月)か8月1日(火)のいずれかに提出されたのだろうか。
そこで代理人弁護士に確認を含めて改めて問い合わせると、次のような回答があった。 <刑事告訴は、週刊文春による最初の本件事案にかかる記事が掲載された後、遅滞なく告訴状を提出しました。 なお、週刊文春による本件事案に関する記事掲載等はその後も継続し、いまなお続いていることから、一連のものとして、順次証拠も追加してゆくべく、とりすすめております。受理については、こうした追加に一区切りついた段階で、捜査機関において対応されるものと考えております>
警視庁上層部の忖度
告訴の有無にこだわったのは名誉毀損での告訴が受理されれば、捜査が始り週刊文春はもちろん、「後追い」を考えているメディアや記者にとってもプレッシャーになるからだ。 木原氏はいっさい口を開かない。マスコミ対応は、代理人弁護士が最初の報道と2回目の報道に対し、司法記者クラブに宛てて「著しい人権侵害行為です」という木原氏の心情を書き添えたうえで、「速やかに刑事告訴を行う」という文書を送り付けただけだった。 いうまでもなく木原氏は公人であり権力者である。再捜査のあった18年10月は「官邸が強かった」と書いたが、もっと言えば当時、3人いた官房副長官のうちのひとりは内閣人事局長を兼ねて「霞ヶ関」の官僚群を握っていた元警察官僚の杉田和博氏であり、内閣情報室を束ねる内閣情報官が北村滋氏、警察庁長官が栗生俊一氏、警察庁次長が中村格氏で、「官邸ポリス」といわれた彼らが菅義偉官房長官のもと、安倍長期政権を支えた。 木原氏は当時、まだ岸田側近に過ぎず「捜査に圧力を加える」ほどの力はなかったかも知れないが、警視庁上層部が忖度する存在ではあっただろう。まして今は政権中枢である。
杉田氏に替わって事務方の官房副長官に就いたのは栗生氏だった。文春報道(8月24日発売号)によれば、「(事件性のない自殺だったという形で)火消しをしろ」と刑事部長に命じたのは露木康浩警察庁長官で、露木氏にそう発破をかけたのは栗生氏だったという。
マスコミは権力に屈するか
「忖度」と「火消し」が本当にあったかどうかはともかく、権力中枢にいるということは疑われても仕方がない立場である。だが木原氏は有無をいわさず刑事告訴に踏み切った。 ただ、検察がその圧力に簡単に屈することはない。特捜部経験のある検察OB弁護士がいう。 「憲法問題が絡むだけにマスコミ報道への名誉毀損告訴に対し、検察が簡単に結論を出すことはない。名誉権は憲法にないが、憲法第13条によって個人の権利は守られ保障されている。 一方でマスコミは憲法第21条の表現の自由で守られている。そのうえ名誉毀損の要件を満たしていても、公共性があり、公益を図る目的の報道で、真実相当性があれば名誉毀損罪は成立しない。文春もそれはわかって報じており、捜査が始っても嫌疑不十分で不起訴だろう」
スポークスマンが役割を果たさず、報道には刑事告訴で応え、それを容認する岸田政権ーー。支持率低下の要因のひとつであることを岸田首相は気付いているだろうか。
※文中一部敬称略 伊藤 博敏(ジャーナリスト)
感想;
警察、検察が再調査しないこと自体が”忖度”しているのでしょう。
木原副長官も「問題ない」なら徹底的に再調査して問題ないことを明らかにすればよいのです。それができないことを十分に理解しているので、マスコミを抑えているのでしょう。そしてマスコミも忖度しているのです。それは木原副長官の思い通りになっています。
権力者の家族は問題起こしても闇に葬られるか握りつぶすのです。
日本は法治国家でなくなったのでしょうか?
明治に起きた黒田清隆北海道開拓長官(元総理大臣)が妻を殺害したことと同じことが令和の今も起きているのです。