ショウペンハウエルのきわめてわかりやすい文体は、まだまだ続く。きわめてわかりやすい文体で、文章とはどう書くべきかを書き記しているので、その迫力は並大抵のものではない。まずは読んで味わってほしいものである。
著作と文体
・ 文体は精神のもつ顔つきである。それは肉体に備わる以上に、間違いようのない確かなものである。他人の文体を真似するのは、仮面をつけるに等しい。仮面はいかに美しくても、たちまちそのつまらなさにやりきれなくなる。
・ 著者の思索にかかわる独自性を精密に表しているのが、その人の文体である。つまり文体を見れば、ある人の思想をことごとく決定している形式的な特徴、固有の型がわかるわけで、その人が何について、何を考えようとそれは常に変わってはならぬものである。私は、まず著者の書いたものを数行読む。するとそれだけで、どこまでこの著者が私を推し進めうるかということについて、およその見当がつく。
・ こういう事情をひそかに知っているため、凡庸な著者に限ってだれでも、自分に特有な自然の文体に偽装を施そうとする。そのためまず第一に、素朴さ、素直さをすべて放棄しなければならないことになる。その結果、文章作成上のこの美徳は、常に、卓越した精神の持ち主、平生自分の値打ちを自覚して、自信に満ちている人間だけに許される。つまり凡庸な頭脳の持ち主たちには考えるとおりに書くという決心が、まったくつかないのである。
・ すぐれた文体たるための第一規則は、主張すべきものを所有することである。第二第三をほとんど必要としないほどの、充分な規則といってよい。
・ 精神をそなえた人々の作品を開くと、著者たちは真実の言葉で我々に語りかけてくる。だからこそ彼らは我々を鼓舞し、我々を養うことができるのである。
・ 天才の作品には、どの部分にも精神がくまなく行き渡っていて、それが常に作品の特徴をなしている。
・ 人間の力で考えられることは、いついかなる時でも、明瞭平明な言葉、曖昧さをおよそ断ち切った言葉で表現される。難解不明、もつれて曖昧な文体で文章を組み立てる連中は、自分が何を主張しようとしているかをまったく知らない。
・ 謎めいた表現は控えるべきで、あることを主張しようとしているのか、していないのかを自ら悟るべきである。
・ 著者たるものは、読者の時間と努力と忍耐力を浪費させてはならない。こういう注意を守ってものを書けば、この著者のものは細心の注意をはらって読むだけの価値はあり、苦労して読んでもそのかいがあるという信用を読者から得ることになるだろう。
・ 「半ばは全体にまさる」-ヘシオドスの格言 およそ、一切を言い尽くすことあるべからず。「倦怠を覚えさせる秘訣、そはすべてをあますことなく語ることなり。」したがってできるだけ声高に問題の核心、主要な事柄だけにふれて、読者が独力でも考えつきそうなことは避けるべきである。頭脳の卓抜さを示す印は、多量の思想を少量の言葉に収めることである。
・ 真理はそのままで最も美しく、簡潔に表現されていればいるほど、その与える感銘はいよいよ深い。
・ 言葉の芸術でも、不要な一切の美句麗句、無用な敷衍、表現過剰を警戒し、純潔無垢な文体や話法に努めなければならない。
『読書について 他二編』ショウペンハウエル著(岩波文庫)
著作と文体
・ 文体は精神のもつ顔つきである。それは肉体に備わる以上に、間違いようのない確かなものである。他人の文体を真似するのは、仮面をつけるに等しい。仮面はいかに美しくても、たちまちそのつまらなさにやりきれなくなる。
・ 著者の思索にかかわる独自性を精密に表しているのが、その人の文体である。つまり文体を見れば、ある人の思想をことごとく決定している形式的な特徴、固有の型がわかるわけで、その人が何について、何を考えようとそれは常に変わってはならぬものである。私は、まず著者の書いたものを数行読む。するとそれだけで、どこまでこの著者が私を推し進めうるかということについて、およその見当がつく。
・ こういう事情をひそかに知っているため、凡庸な著者に限ってだれでも、自分に特有な自然の文体に偽装を施そうとする。そのためまず第一に、素朴さ、素直さをすべて放棄しなければならないことになる。その結果、文章作成上のこの美徳は、常に、卓越した精神の持ち主、平生自分の値打ちを自覚して、自信に満ちている人間だけに許される。つまり凡庸な頭脳の持ち主たちには考えるとおりに書くという決心が、まったくつかないのである。
・ すぐれた文体たるための第一規則は、主張すべきものを所有することである。第二第三をほとんど必要としないほどの、充分な規則といってよい。
・ 精神をそなえた人々の作品を開くと、著者たちは真実の言葉で我々に語りかけてくる。だからこそ彼らは我々を鼓舞し、我々を養うことができるのである。
・ 天才の作品には、どの部分にも精神がくまなく行き渡っていて、それが常に作品の特徴をなしている。
・ 人間の力で考えられることは、いついかなる時でも、明瞭平明な言葉、曖昧さをおよそ断ち切った言葉で表現される。難解不明、もつれて曖昧な文体で文章を組み立てる連中は、自分が何を主張しようとしているかをまったく知らない。
・ 謎めいた表現は控えるべきで、あることを主張しようとしているのか、していないのかを自ら悟るべきである。
・ 著者たるものは、読者の時間と努力と忍耐力を浪費させてはならない。こういう注意を守ってものを書けば、この著者のものは細心の注意をはらって読むだけの価値はあり、苦労して読んでもそのかいがあるという信用を読者から得ることになるだろう。
・ 「半ばは全体にまさる」-ヘシオドスの格言 およそ、一切を言い尽くすことあるべからず。「倦怠を覚えさせる秘訣、そはすべてをあますことなく語ることなり。」したがってできるだけ声高に問題の核心、主要な事柄だけにふれて、読者が独力でも考えつきそうなことは避けるべきである。頭脳の卓抜さを示す印は、多量の思想を少量の言葉に収めることである。
・ 真理はそのままで最も美しく、簡潔に表現されていればいるほど、その与える感銘はいよいよ深い。
・ 言葉の芸術でも、不要な一切の美句麗句、無用な敷衍、表現過剰を警戒し、純潔無垢な文体や話法に努めなければならない。
『読書について 他二編』ショウペンハウエル著(岩波文庫)