グローバル・スタンダードの最高峰資格CFAとCFPを持つ完全独立のFP・資産運用アドバイザー尾藤峰男の書評ブログ

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『アインシュタイン伝』矢野健太郎著(新潮文庫)を読んで

2010-08-31 09:54:13 | 書評
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『いまこそ始めよう外国株投資入門』(日本経済新聞出版社) 好評発売中!!

日経マネー11月号(9月21日発売)「中国株特集」巻頭で取り上げられる「はじめての中国個別株投資座談会」に登場!
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『アインシュタイン伝』矢野健太郎著(新潮文庫)を読んで


これまでアインシュタインについては、相対性理論を生み出した人物程度しか知らなかったので、何か適当な本で勉強してみたいと思って入手したのが、この本だ。数学者で晩年のアインシュタインから教示を受けた矢野健太郎が書いた伝記だ。書き方は率直明解で、読みやすい。何より相対性理論やニュートン、ガリレオ、ポアンカレなどの数学・物理学の理論をわかりやすく解説できる立場にいるのがいい。それでも小生にはほとんどわからなかったが・・・。この世界は、小生にとってはやや違う世界だが、たまにはこういう世界を味わってみるのもいいものだ。


アインシュタインのエピソードやトピックを記しておく。

・ アインシュタインは5つのときに、父から示された羅針盤に非常に大きな関心を示した。・・・アインシュタインの解釈は、目には見えないが、この羅針盤の針をいつも同じ方向に向ける何物かが、ふつうは空虚であると考えられているわれわれの空間の中にあるはずだということであった。これは、のちにアインシュタインが展開した相対性理論、特に一般相対性理論の考えにつながるものであるといっても言い過ぎではないように思われる。

・ アインシュタインが相対性理論を発表したのは、スイス・ベルンの特許局役人だった26歳のときだ。

・ アインシュタインは、人に説明しながら自分の考えをまとめていくというタイプの人であった。

・ E=mc² Eはエネルギー、mは質量、cは光の速度 cは3にゼロが十個ついた数センチメートル・秒という大きな値でありながらこれを二乗するのだから、9にゼロが二十個ついた大きな数字になり、この式は、非常に小さな質量が非常に大きなエネルギーに転換しうることを示している。これが、原子爆弾の元になった公式だ。

・ 広島・長崎に落とされた原子爆弾のそもそものきっかけは、ナチスが原子爆弾開発に成功しそれを投下する暴挙を怖れたアメリカの学者たちが、アメリカが原爆開発を先行させナチスへの抑止力にするようにアメリカ政府トップに進言するのに、それなりの人物でないと目を通してもらえないだろうとアインシュタインを担ぎ上げ、時の大統領ルーズベルトに、アインシュタイン名で書簡を送ったことにある。それからたった6年ほどで原子爆弾は完成し、投下されたのだ。アインシュタインは、これを痛く悲しんだという。

・ アインシュタインは、すばらしい同僚や友人にめぐまれていた。

・ 人たちが、うっかりした質問をして恥をかきたくないと思うものだが、アインシュタインは、活発に質問を発し、アインシュタインの素朴な質問が、しばしば立派な理論の糸口になったといわれている。

・ アインシュタインは学生と会うことを好んだひとつの原因は、彼が彼の考えを、人に説明しながらまとめていくという傾向をもっていたことにあるかもしれない。

・ アインシュタインの家の近くにすむ少女が、友だちに「あそこの人だったら数学のわからない問題を教えてくれるかもしれないよ」と教えられ、アインシュタインの家によく行っていたのをようやく知った母親が、恐縮してあやまりにアインシュタインの家に行ったら、アインシュタインが「いやいや、そんなにお詫びになる必要はありません。私はあなたのお嬢さんと話をすることによって、お嬢さんが私から学んだ以上のことをお嬢さんから学んだに違いないからです。」と答えたという。


『アインシュタイン伝』矢野健太郎著(新潮文庫)

『人間とは何か』マーク・トウェイン著(岩波文庫)を読んで

2010-08-30 09:57:51 | 書評
まずは、お知らせです。
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『いまこそ始めよう外国株投資入門』(日本経済新聞出版社) 好評発売中!!

日経マネー11月号(9月21日発売)「中国株特集」巻頭で取り上げられる「はじめての中国個別株投資座談会」に登場!
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『人間とは何か』マーク・トウェイン著(岩波文庫)を読んで

この書は、当初匿名で発表され、のちにマーク・トウェインが書いた著作と確認された。著者特有のシニカル(皮肉的)な見方で人間を見ている。たとえば、人間は機械であり、自己の満足のために行動する生き物であるという。晩年になるにつれてこの傾向が強くなったようである。なかなか入りにくい部分が多いが、その中で、ここはなるほどと思ったところを記しておこう。要は読書というものは、自分が吸収したいところを吸収すればいいのである。

・ 行為という行為は、すべて(本質的に)自己満足の衝動から生まれるものであって、それ以外のものはない。

・ もともと教育なんてもんは、すべて形こそ異なれ、外からの影響の結果に過ぎんのだな。そして、それには人間関係ってやつが、なんてったって大部分なんだよ。要するに人間って奴は、すべて外からの影響が作り出す産物に過ぎん。

・ 人間改造できる余地は、人それぞれの限度によって、完成のレベルがある。その要素は、教育ともう一つ、「気質」である。つまり、君が生まれながらに持っている性質のことだ。これだけは、いくら教育したところで抹殺することはできん。ただできることは、それに圧力を加えて、そっと押さえつけておくことだけだよ。君はどうもかっとなる性質らしいな?だから、それは絶対になくならん。ただ絶えず警戒の目を光らせて、ほとんど常に押さえつけておくことができる。その気質があるっていうこと、つまりそれが君の限界なんだよ。

・ 道徳家としてなすべきことは何か?せっせと君たちの理想を向上させるように努めることさ。そして自らがまず満足すると同時にだな。そうすれば、必ず君たちの隣人、そしてまた社会をも益するはずだから、そうした行為に確信を持って最大の喜びが感じられるところまで、今も言った理想をますます高く推し進めていくことだな。

・ 事が成就するのは、たった一回の外力じゃなくて、ずっと長期間にわたる崩壊過程の中にあって、いわば最後の力がそれをやるんだとおっしゃるんでしょう。ぼくを追いはぎにするのは、そうしたたった一回の衝動ではなくて、長く続いてきた準備運動の、その最後の物だって言うんでしょう。

・ 事実を考え合わせること、それこそまさに思考っていうもんじゃないのかな。いくらエジソンだってそれ以上のことをやれたとは思えんね。

・ (蟻の世界でも)まったく未経験の新事態にぶつかっているはずなのに、ちゃんとあれこれ関連付ける能力を見事に発揮してだ、それらの総合から見事に適切な結論を引き出しているんだな。-まさに人間のこころの作用じゃないかね。記憶力って助けがあるおかげで、人間はその観察と推理とは忘れないで残しておく。そしてそれらを勘案したり、またさらにふやしたりして、新しい組み合わせを考え出していく。つまり、そんな風にして、一歩一歩、はるかに遠い結果まで到達することになるわけさ。


『人間とは何か』マーク・トウェイン著(岩波文庫)

『商売心得帖』松下幸之助著(PHP文庫)を読んで

2010-08-27 08:44:56 | 書評
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日経マネー11月号(9月21日発売)「中国株特集」巻頭で取り上げられる「はじめての中国個別株投資座談会」に登場!
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『商売心得帖』松下幸之助著(PHP文庫)を読んで


経営の神髄を捉えた松下幸之助経営シリーズの第一弾だ。非常に平易に書かれているが、まさに苦労をして世界的企業に育て上げた経営者の心得がここにある。会社が大きくなるには、それなりの理由があることが、この本を読むとわかる。松下電器の綱領にはこう書かれている。「社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与せん」大言壮語ではないのだ。京セラの稲盛和夫氏によると、松下幸之助はある講演でこういったという。「なにごとも、思わなければあきまへんなー。」


・ 極端にいえば、一軒のお得意を守りぬくということは百軒のお得意をふやすことになるのだ。

・ もしも、お得意先と仕入先のことが、絶えず気になるということがないとすれば、商売はやらない方がよろしい。きついことをいうようですが、本当は寝ても覚めてもというところに、身を入れた商売というものがあると思うのです。

・ 私は、商売というものは、このように考え方ひとつ、やり方ひとつでどうにでもなるものだと思うのです。いうなればお互い何をなすべきかということを、寝ても覚めても考えねばならないときではないでしょうか。

・ 一段高い精神に立つということが、本当に魂の入った商売を可能にするひとつの要諦ではないでしょうか。

・ 仕入先を大切にすれば、仕入先の方でも、“自分をよく理解し大事にしてくれるところには、よい品を安くお届けしよう”ということになりましょう。それが人情というものです。

・ 夫婦の仲がよいこと。これは何も商売上の信用を得るためということだけではなく、多少の例外はありましょうが、何ごとにおいても、ことを進める上で大切なことと、そう思うのです。

・ 私はどんな場合にも絶対安心の境地というものはあり得ないのではないかという気がするのです。それぞれの立場、それぞれの時代の中で、いろいろ難しい状態に直面して、心配したり不安の念を持ったりしているのではないかと思うのです。そういう中で、それぞれにそうした心配や不安と戦い、努力して道を切りひらいているのだと思います。

・ 自己の立場のみを考えてはなりません。生産者にしても、消費者にしても、それぞれの立場だけを考え、主張してはならないと思うのです。そうではなく、お互いに、この社会が発展するためにはどうすればよいか、何が正しいのかということに立って、物事を考え、行っていくことが大事だと思います。

・ われわれは、いかような困難に直面しても、常に業界の公正な競争を助け、適正な商売を通じて、消費者ならびに国家社会の繁栄に寄与するという、大いなる責務を忘れてはならないと思うのです。

・ いかに小さな望みであっても、勇気と決断をもって実行を積み重ねないかぎりは、その望みの実現はむずかしいと思います。

・ 例えばお客さんに商品の説明をする場合でも、その説明の仕方なり内容を、はたして自分が得心するまで考え、工夫した上で話しているかどうかということが大切です。また、その商品は買ってそれだけの値打ちのあるものだという確信を自分自身がもっているかどうか。そういう確信に立つならば、説得にもおのずから工夫が生まれ、お客さんに対する力強い説明と販売もできるというものです。ではどうしたらそうした確信が生まれ、工夫が可能になるか。それは何といっても、まず商品説明にみずから興味を持ち、それを好きになることです。好きになれば努力することが苦にならない。むしろ楽になる。その結果、説得力も向上する。「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、まさにそのとおりだと思います。これは、何も商品説明ばかりに限りません。一事が万事、何ごとにも当てはまると思います。だから、商売を繁栄させたいと思えば、まず商売を好きになること。そして、ただお義理や飯のタネにするために事を運ぶというのではなく、誠心誠意それに打ち込むこと。そこにこそ繁栄へのひとつの道があると思います。


松下電器の綱領

産業人たるの本分に徹し社会生活の改善と向上を図り 世界文化の進展に寄与せんことを期す。


松下電器の信条

向上発展は各員の和親協力を得るにあらざれば得がたし。各員至誠を旨とし一致団結社務に服すること。


松下電器の遵奉すべき精神
一. 産業報国の精神
一. 公明正大の精神
一. 和親一致の精神
一. 力闘向上の精神
一. 礼節謙譲の精神
一. 順応同化の精神
一. 感謝報恩の精神


松下電器基本内規のうちのひとつ
松下電器が将来いかに大をなすとも常に一商人たるの観念を忘れず従業員またその店員たることを自覚して質実謙譲を旨として業務に処すること。


『商売心得帖』松下幸之助著(PHP文庫)

『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)を読んで-No.6

2010-08-26 09:57:02 | 書評
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日経マネー11月号(9月21日発売)「中国株特集」巻頭で取り上げられる「はじめての中国個別株投資座談会」に登場!
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『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)を読んで-No.6


マズロー「完全なる経営」最終部分である。ここを読むと、社会改革が如何に進められるべきか、個々の人間はどのように役割を果たすべきかが非常にわかりやすく描かれている。そこにあるのは、人間の一人ひとりの能力を最大限に活用できるようにする環境を作り、一人ひとりが自覚できる能力をいかんなく発揮すべきであるという主張だ。いわば人間尊重をベースにおく改革の実現である。


低次の不平、高次の不平、メタ不平について

・ 不平がやむことなど決してない。

・ どんなにめぐまれた条件下にあっても不満が根絶されることなどありえない。

・ いい条件下にいるからといって、必ずしもすべての人間が成長し自己実現に向かうわけではない。

・ 人間の相互関係が認められるあらゆる組織体の健康度及び発達度は、理論上、そこで聞かれる不平や不満の階層におけるレベルによって判定することができる。


社会改善理論―ゆっくりと革命を実現する理論

・ 今日の社会を改革しようとするものは、従来と違った意味での革命家でなければならない。急激な改革を求めるのではなく、漸進的な改革の必要性を十分に認識し、緩やかな改革を是とする姿勢で臨まなければならない。

・ 全体論的、漸進的改革は、意識的かつうまくコントロールされた知識を用いながら、もっとも補強を必要とする部分、あるいはもっとも変革を受け入れる下地の整った最前線の全領域を同時に改めていくことで可能になる。

・ 一人ひとりの人間こそが変革にとって最も重要な存在だ。個人は、個人にできる限りのことをなすことができる。

・ 自分の参加した活動がささやかな改革や向上をもたらしたことを大いに誇り、スリルと興奮を味わい、自尊心の感情を強くして大いなる達成感を味わうべきだ。

・ 宇宙レベルの壮大な課題にとりかかるのではなく、身近な具体的課題に専心し努力すべきである。

・ このレベルでのあらゆる職務をこなすことは、より高度な改革を実現するための必要条件なのである。

・ ある向上が低次の権威主義的動機づけのレベルから、高次のレベル、すなわち民主的で進歩的な経営管理のレベルに移行するためには、委員会での議論や日常的な対話といった地道な活動を積み重ねていく必要がある。

・ 肝心なのは、まず手段としての活動が目的に適うものであることを確認したうえで、それらの活動が最終的に何を目指しているかを明確に心に描き続けることだ。

・ 仔細な活動の積み重ねが大きな成果につながる。

・ 1人ですべてのことを成し遂げられる人間はいない。

・ 社会全体を改革できるほどの知識を備えた人間はいない。

・ 最善のリーダーならできることは、改革に必要なさまざまな種類の専門家や理論家を集め、調整の労をとり、いい組織にまとめ上げることなのだ。

・ 社会の全成員が目標を明確にし、全力を尽くして各人になしうる最大の貢献を果たすのが理想的な社会改革の姿だ。

・ どのようなタイプの人間であっても改革に貢献することができる。

・ 自己をみつめ、おのれの才能や能力を十分に把握し、各人に固有の特性―その点にかけては誰にも引けを取らないという特性―を発揮するよう心がけなければならない。

・ 仕事は自分で決めなければならない。人間は社会における位置づけを自ら決定しなければならない。

・ 自己実現者は皆大変な努力家であり、自分の職業や果たすべき義務と一体化し、全身全霊で仕事に打ち込む人々である。

・ 社会改善とは、永続的で固定的で最終的な効果を発揮する変革を一気に起こすものではなく、科学的な方法によるオープンで実験的な試みを積み重ねながら、ゆっくりと着実に進められるべきものなのだ。

・ 数学や古臭い宗教のように絶対的に確実なものを求めようとする姿勢は、きっぱりと捨て去らねばならない。

・ より多くの事実を収拾し、そこから理論を導き出す。社会変革はゆっくりとした歩みを取るものであり、またそうでなければならない。辛抱強い態度が必要なのである。

・ 国の評価は、その国の生産する自動車やカメラの品質によって、ある程度決まってしまう。西ドイツ人の自尊心は低下し、逆に、高品質の製品が高く評価されるようになった日本では、国民の自尊心が高まる。


『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)

『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)を読んで-No.5

2010-08-25 09:24:45 | 書評
心理学者マズローがいうことは、きわめて平易だ。そしてそこには、人間の自由、自己・人間個性の尊重など人々に勇気と意欲を起こさせる言葉の数々がある。


創造性に関する覚書

・ 構造や将来性、先の見通し、予測可能性、未来に対する支配力などが欠如した状態に耐え、曖昧さや無計画性を受け入れることのできる能力が、創造性と深い関係にある。ここで発揮される創造性の基盤にあるのは、先のことを考えない、現在の状況に即した行動であり、現在に集中しきる姿勢、すなわち、十分に耳を傾けるという態度である。

・ 全神経を集中して聞き、完全に没頭するためには、先のことを気にせず、いま―ここにあるものを楽しむことができなければならない。遊ぶことが肝心なのだ。

・ 創造性が健康、自己実現、人間としての完全性等と近い関係にあることが次第に明らかになりつつある。やがては、これらが同じ一つのものであると判明するときがくるのではないか。

・ 創造的であるためには、厳密になりすぎないことが重要である。創造的な人間は柔軟性があり、状況の変化に応じて行動を変えることができる。創造的な人間は変化する未来を正面から受け止めることができる。創造的な人間にとって、計画とは先に進む道を探すための足場以上のものではなく、それゆえ、後悔や不安を伴うことなく、やすやすと放棄することができる。

・ 創造的な人間は、いま―ここに全面的に没頭し、完全にその場で見聞きするためには、強靭なパーソナリティをすべて備えていなければならない。完全にいま―ここに没頭するのだ。

・ 創造的な人間は、新たな問題を解決できるという静かな自信を秘めている。これは、健康な自尊心、健康な自己信頼の表れであり、不安や恐れから解放されていることの証拠でもある。


起業家に関する覚書

・ 発明は、すでに知られてはいたものの適切な形式を与えられていなかった断片的な知識が、突如として統合されたものとみるべきだ。

・ 卓越した社会と退行的で堕落した社会と分けるものは、起業家精神を発揮する機会にめぐまれているかどうか、そして、その社会に起業家が大勢いるかどうかという点である。


利益に関する覚書

・ 創造的な人物は、不意に未知の問題や未知の状況に遭遇しても、それに正面から取り組み、即座に適切な行動をとることができるという十分な自信を持っている。

・ 長期的課題と短期的課題とを峻別するような経営管理哲学が、きわめて重要になってくる。


進歩的ないいセールスマンと顧客

・ 他社製品を勧められるような人間は、自分のやっていることには正義も徳もあると確信しており、それによって一時的に痛手を被ることになっても、長期的には自分を含めた全関係者のためになることだと考えている。

・ 公正無私、正直、真実、能率などをモットーとすべきである。こうした善行が実際に企業に利益をもたらす。

・ 新しいマーケティング活動は、他の企業活動と同様、事実の情報開示や公正さ、正直さ、真実さというものを基盤とすべきなのだ。

・ 長期にわたって存続し、その間健全性を維持しながら成長を目指す企業は、顧客との間に駆け引きなしの信頼関係を築きたいと願う。

・ 長期指向が進歩的な経営管理にもたらす最大の恩恵は、企業が一世紀を超える長期間存続し、しかもその業績を維持・向上させていくことができるという確実な保証を与えてくれる。

・ 優秀なマーケッターとは全力で自社製品の長所を強調する人物であり、必ずしも製品に対して中立的な態度を保つ必要はない。

・Y理論的(仕事を休息や遊びと同じく自然なものであり、自発的に仕事に取り組み、達成感や自己実現といった目に見えない報酬によって導かれる)セールスパーソンの正直さによって、長く愛顧し、ひいきにしてくれる良質な顧客が惹きつけられる。


『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)

『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)を読んで-No.4

2010-08-24 09:51:57 | 書評
マズローの説く言葉の数々は、経営に向けて話されているが、実はこれらは人間の精神の根元に根ざすもので、ほぼ間違いなく経営にも生かせるという観点で見ればいいだろう。


束縛性の少ない、非構造的なグループにおける考察:

・ 人間の内面の奥深くに潜む精神力や自己実現に向かう心的傾向性を引き出すには、非構造的で寛容な環境が最適である。

・ グループ内の全員からフィードバック―自分がメンバーにどのように影響を及ぼしているか、どのような影響を彼らに与えているか、彼らが自分をどう見ているか等―を受ければ、自己のアイデンティティを見出す可能性すらある。

・ 感覚の鋭さと自由に意見を述べる能力を持ち、批判したり欠点を指摘したりする場合にも、相手が防衛的にならないよう敵対する姿勢を見せない自制力を備えた人間―こうした人間からのフィードバックを受けることで可能となる自己認識については、その重要性を大いに認め、考察を加えるべきであろう。

・ 忠告は相手を傷つけるかも知れないが、相手を正しい方向に導くためのものである。それを行わないのは、愛と勇気に欠けているからだ。

・ 耳に痛いフィードバックが行えるようになると、フィードバックの与え手と受け手双方の愛情が増す。

・ 相手が私のことを、きびしいフィードバックに耐えられるだけの強さと、能力と、客観性を備えた人間だとみてくれているとすれば、それは私が尊重されているという何よりの証となる。

・ 大きな視野で捉えることが必要だ。これまでの経営書や組織論は、この点が全く不十分だといわざるを得ない。視野は限られており、雄雄しさに欠ける。研究者たちは、世界の二十億人、あるいは20世代にわたる人々といった観点からものを考える術を学ぶべきである。より範囲を広げ、より哲学的に、永遠の相の下でものごとを見なければならない。つまり、人間を人種、人類として、あるいは、ほとんど無視できる程度の違いしかない兄弟の集まりとして、捉える必要がある。

・ 人間の内奥に潜む精神を経験すること、および、他者の経験から注意深く学習して、かつそれを十分に理解することである。

・ 正直でのびのびした自己実現ができるようにする。自分の感じたことや知覚したことを、何の抑圧や障害を感じることなく、正直に表現することが必要だ。

・ 一般的に、我々に必要なのは、あまり構造化されていないコミュニケーションを容認することだといってよい。より詩的で神話的に、より隠喩的に、ユングのいう意味において、より原始的になる必要がある。

・ 外延的な言葉「・・・のような」とか「・・・に近い」というような表現やたとえを用いること、口ごもったり、途中でやめたりしながら断片をつなぐような形で話を進めることである。

・ ありのままの現実の他者を受け入れられるようになったとき、そして、相手に苛立ちを覚えたり、否定したりするのではなく、相手に好意を寄せ、そのことを楽しめるようになったとき、人間を愛することができるようになる。

・ リーダーシップの発揮が求められている状況では―自分の気持ちを包み隠さず打ち明けて不安を取り除こうなどと考えずに、あらゆる悩みを自分自身の内部で処理すべきである。

・ 優れた農夫は種をまき、成長に適した環境を作り終えると、後は植物が成長するのにまかせ、本当に必要なときだけ手を加える。

・ 人間はいかなる状況においても、自己の衝動をそのまま表に出してはならないし、出すべきでもないし、さらにいえば、出したいとも思わない。衝動は制御できるし、制御しなければならない。

・ 何かを選択するということは、そのことだけにコミットし、ほかの事はすべて排除するという結果になる場合が多い。


『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)

『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)を読んで-No.3

2010-08-23 08:59:43 | 書評
マズローの鋭い洞察は、続く。彼の主張は実にのびのびしており、何ものにも動じない力強さがある。彼こそ自己実現している人間であることは間違いない。繰り返し書くが、マズローはこの著書を書くにあたり、こう述べている。
「専門家が見過ごしているものを駆け出しの人間が見出す。過ちを犯すことや、経験不足と見られることを怖れない気構え、必要なのはそれだけだ。」
彼自身これを実践しこのすばらしい本を書くのであるから、自ら「やればできること」を示しているのだ。こうした人間が多くいれば、人類・社会は必然的に進歩していく。

・ 私にとっての利益は全世界にとっての利益となり、逆に全世界の利益は私個人にとっても利益となる。

・ 今罪を犯せば、いつかはわれわれ自身、もしくは我々の子どもたちが償わなければならない。

・ 心理はより同質で、よりまとまっており、より統合され、より全般的なもの、より単一的なものになる。

・ 人間は共有できる目的を求め、自分より大きな存在に属することを望み、仕事に意義を見出そうとする。

リーダーシップを論じて:
・ リーダーとして最もふさわしい人間とは、問題解決や職務遂行に最適な人間、すなわち、その状況における客観的要件を誰よりも鋭く見抜き、それゆえに全く利他的であるような人間である。当然のことながら、彼はより健康な精神の持ち主であり、他人に命令を下したり牛耳ったりすることには全く関心がない。そうした行為を少しも面白いと思わないし、そこから満足感を得ることもない。

・ B力とは、やるべきことをやる能力であり、取り組むべき仕事に取り組む能力、現実に存在する問題を解決する能力、完遂すべき仕事を完遂する能力のことである。真、善、美、正義、完全性、秩序といったあらゆるB価値を育み、守り、高める能力といえる。

・ B力とは、物事をより完璧に、より真実に、より美しく、より正確に、より的確に、より適正にしようとする力のことである。B力はすばらしい力であり、誰もが積極的に保持すべき力のことだ。

・ リーダーや上司たる者は、フォロワーや従業員、命令を受けねばならない人々のデリケートな感受性を顧慮しすぎることなく、その時々の客観的要件に注意を払わなければならない。リーダーには、敵対に会っても持ちこたえる力、言い換えれば、人に嫌われても取り乱さない力が必要だ。万人に愛されなければ気がすまないような人間が、優秀なリーダーになることはほとんどない。

・ リーダーは「ノー」と言えなければならず、断固としていなければならないし、戦いに挑むだけの強さが求められ、断固とした態度を貫き、解雇を通告し、人を傷つけ、苦痛を与えることもそれらが客観的にみて必要とされるならば、やらなければならない。上司は弱い人間であってはならない。リーダーは怖れに支配されてはならない。状況に耐えうる勇気が必要なのだ。

・ 本当に必要なことを見きわめられる父親は、しばらくの間子どもたちから嫌われることすら厭わない。

・ 愛されず、嫌われ、中傷や攻撃の的になろうとも、なお客観的要件を見きわめ、差しあたって個人的な満足を得ることよりも、要件に応えることを優先する能力が必要なのだ。

・ 管理者や上司は、軍隊における将軍と同じように、部下たちから一定の距離をとり、孤立状態の中で客観的な立場を保った方がよい。自己を表現したり自己の内面を表出したりすることは、一般の人々には認められており、奨励もされている。だが、多くの場合、リーダーはそのような行動を取るべきではない。

・ リーダーとして成功するには洞察力が必要である。優れた洞察力は心理的な健康と相関関係にある。

きわめて優秀な上司を論じて:
・ 「強い自我をもつ」とは、不安や気分の落ち込み、怒りなどに対して、平均以上の耐性を持つことである。

・ 強力なリーダーはできるだけ集団で討議する場に顔を出さない方がよい。ずば抜けて優秀なリーダーは必然的に集団を押さえ込んでしまう。部下を個人的に発達させ、きたえて潜在能力の開花を望むならば、自分が顔を出さずに部下たちだけで率直に話し合わせ、彼らの自己実現を促すのが最善の方法であると認識すべきだ。この方法を実践することで、自分が部下を大切に思い、敬意を払っていること、そして部下の自己実現に喜びを感じていることを示すことができる。

・ 自己実現者が、残念なことにわが子に否定的な影響を及ばした例は多い。親が優れているというのは、子どもにとって必ずしもありがたいことではない。

・ 進歩的経営管理や進歩的リーダーシップのやり方を方針として実践するためには、他者にたいする権力を放棄して自由を認めるとともに、他者の自由や自己実現を心から喜べるような上司の存在が不可欠である。

・ 健康な人間は他者に対する権力を求めない。彼らは、そのような権力を享受できないし、欲しいとも思わない。明らかにそうした力が必要とされる状況におかれた場合のみ、彼らは自己の権力を行使するのである。

・ いいリーダーは、事実と人々の意見が食い違うとき、周囲の反対に動じることなく、事実に固執できなければならない。

・ 人々が優秀者を賞賛する能力を身につけなければ、いい社会を実現することは不可能である。


『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)

『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)を読んで-No.2

2010-08-20 09:18:51 | 書評

マズローが、経営や企業組織に人間が本来もっているすばらしい精神を注ぎ込もうとしていることがこの本のなかに脈々として流れている。そして、マズローはこういっていることを忘れてはならない。

・専門家が見過ごしているものを駆け出しの人間が見出す。過ちを犯すことや、経験不足と見られることを怖れない気構え、必要なのはそれだけだ。
(経営に)駆け出しの人間は、他ならないマズローなのだ。

・ ユートピア的、健康心理学的、道徳的、倫理的な目標を追求することによって、企業はあらゆる面を―したがって利益をも―向上させることができる。

・ 人間は、与えられる賞賛や名声、勲章、声望にふさわしい存在である必要がある。

・ (心理的健康と優れた管理者・監督者・職長等との関係についての考察で必然的に求められるのは)あらゆる要素を他のすべての要素との関係において理解する思考法である。各要素が残りすべてと結びついた構造である。

・ 最善の思考や最善の問題解決ができるかどうかは、問題を含んだ状況を、期待や予想、憶測などを交えず、この上なく客観的な態度―先入観や恐怖、願望、個人的な利害などを交えない、神のような態度―で見ることができるかどうかにかかっている。

・ 耐える力を持った人間は、ストレスを切り抜けることでいっそう強化され、鍛えられる。

・ 優秀な管理者は、民主的で思いやりがあり、親しみやすく、よく人を助け、誠実な人柄だったのである。

・ ある種の民主的な管理者は、メンバーをより幸福にし、より健康的にするだけでなく、企業により多くの利益をもたらす。

・ 進歩的な経営管理から真に影響を受けた男性(女性)は、以前よりもいい夫(妻)、いい父親(母親)となり、いい市民となるはずだ。

・ 愛とは二人の人間の異なる欲求が融合し、共通の欲求を持った新たなまとまりが誕生することだ。

・ シナジーとは、複数の人間を事実上同一人物として扱えることだといってよい。

・ 与えれば与えるほど、より多くを共有する。

・ シナジーとは、利己主義と利他主義を融合せしめる社会的・組織的な仕組みのことだ。自分の利己的な満足を追求することがおのずと他者を助けることにつながり、逆に愛他的な行動をとることが自分自身の利益と満足につながる。

・ いい社会とは、利己主義が利益につながる社会である。また社会の成員が、結果的には自分にとっても利益になることを理解しているため、他者の利己主義を認める社会である。

・ いい条件のもとでは、徳があって愛他的な(すなわち健全な意味でわがままな)実業家はより大きな経済的成功を収める。

・ いい状況下では、優れた人物は完全に自由な、もしくはきわめて自由な境遇にあり、思う存分人生を享受しながら、思うままに自己を表現し、利己的な目標を追い求めることができる。その際、他人を気にかけることも、誰かに対しても罪悪感や義務感を感じることもない。自分が自分らしくあることによって、また、自分が自己を表現し、利己的な目標を追い求めることによって、他のすべてのひとが利益を得るはずだと心から信じているからだ。他のすべての人々は、彼のこうした行動の副産物として利益を得るのである。

・ 自分が優秀で抜きん出ているからといって、恨みや妬み、嫉妬、敵愾心をおそれる必要はない。


『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)

『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)を読んで-No.1

2010-08-19 09:56:49 | 書評
マズローの「人間性の心理学」に続く第2弾である。マズローの言葉は、人間そのものを愛し人々を勇気付けるものがある。ただしそれは、鍛錬と継続的な努力を伴うものであり、人間を強くたくましく鍛え上げる。だからこそ、人々はこのマズロー心理学を、現代社会の中で重要視するのであろう。

この本の原題は、「マズロー、経営を語る」だ。理想的な経営に人間はどうかかわり、どういう心持ち、気構えで臨むべきかが力強く書かれている。

そのポイントを、何回かに分け記しておこう。

・ 専門家が見過ごしているものを駆け出しの人間が見出す。過ちを犯すことや、経験不足と見られることを怖れない気構え、必要なのはそれだけだ。

・ 骨身を惜しまず働くことと神経の図太さ

・ 人間はおのれの宿命、運命を受け入れるべきなのだ。運命に従い、運命が自己に命じることを甘んじて受け入れるべきなのだ。人間は、選んだとおりの自己を生きなければならない。

・ 健全で安定した自尊心をもてるかどうかは、立派な価値ある仕事を自己の内部に取り込み、自己の一部にできるかどうかにかかっている。

・ 自己の本性を自由闊達に表現できる人間は、内面的な自己のみではなしえなかったような方法で仕事や課題に取り組み、奮闘努力して改善や修正を加えることができる。


以下は進歩的経営管理の方針の基礎をなすものとしての抜粋だ。

・ 人間は信頼できる。

・ 利他的、博愛的行為であっても、必ず自己に利益をもたらす。

・ もっとも尊敬を集める人物、それはもっとも与えた人なのだ。

・ ひとりの利益が全体の利益になる。

・ 物事をあるがままにみる、客観的にみる。

・ 恐怖心を克服する勇気をもち、状況が不確実であっても前進する。

・ 憤りや苛立ちを感じて当然という場面でも敵意をあからさまにできないとしたら、ストレス状態にさらされる。

・ 折を見て全力で仕事に取り組む機会をつくるようにすれば、人生はあらゆる面において一層興味深いものになる。多くの人間は耐えること、無理して困難な仕事に取り組むことを欲している。

・ 人間はほんのわずかずつ向上していく。

・ 新奇なもの、新たな挑戦、新たな活動、変化、多少努力を要する活動―こうしたもののもたらす歓喜が、進歩的経営管理に必須の条件だ。

・ 進歩的な経営管理理論を究極まで押し進めたもっとも高次な理論的段階では、世界とより一層一体化しようとする志向、神秘主義への接近、世界との融合、至高体験、宇宙意識などを仮定しなければならない。


『完全なる経営』A.H.マズロー著(日本経済新聞社)

『韓非子(上・下)』安能務著(文春文庫)を読んで

2010-08-18 17:45:34 | 書評
『韓非子(上・下)』安能務著(文春文庫)を読んで


韓非子がよく「性悪説」を唱える筆頭のように捉えられているが、どうもそれは大いなる誤解のようだ。韓非子が唱えるものは、国をどう統治するかという点についてであり、その中での王としての立場、臣の管理、法治、臣の掌握術、人民へのスタンスなどを説いたものである。従って、国を統一して如何に国家体制を堅固なものにするかの要諦のようなものなのだ。韓非子を「性悪説」と捉え、読まないで遠ざけるのは危険なのだ。

著者もこの本の中で、「スリは悪いが、韓非子を遠ざけるのは、スリを捕まえる刑事を指してこいつは悪いといっているようなものだ」といっている。これは的確な表現だと思う。秦の始皇帝の中央集権体制は、この韓非子の言をいれ、実現したといえる。

覚えておくべき韓非子の言葉としてチェックした箇所を記しておこう。


第2章 君子の心得33か条控えの中から

・ 衆端参観
―多方面から情報を集めそれを照らし合わせながら、事実を知り真実を推し測ることこそ、君主が儲えるべき心得である。

・ 必罰明威
―刑罰は権力の象徴である。権威は権力の表徴である。君主は刑罰を厳格にして、権威を明らかにしなければならない。

・ 信賞尽能
―臣下は賞を目当てに能を尽くす。ゆえに能を尽くさせるには賞を信(確かに)にしなければならない。

・ 疑詔詭使
―カリスマ性を演出するには、相手が誤認や錯覚を起こすように、本意の不明な指令や使者を出す「疑詔詭使」は、君主の儲えるべき心得である。

・ 利害有反
―同一の事態を前にしながら、それぞれ利害は相反するものだ。それを承知でいなければ、目の前に起きた出来事の真相や真実を測り知ることはできない。

・ 試度其功
―君主は見せかけの華やかさや、見せ掛けの高邁さに惑わされてはならない。具体的な尺度によって、その高揚や実績を測るべきである。

・ 功要為的
―治国の方途を定める価値基準は功用である。したがって君主が進言を受け入れるには、効用の儀的を定めなければならない。

・ 曾子殺彘
―曾子が子どもとの約束を守って、豚を殺し大散財したことは決して無駄ではない。

・ 能禄功官
―能力に応じて禄を授け、功績によって官を立てれば、人事で悩むことはない。

・ 群臣公挙
―群臣はすべからく公正無私に推挙されるべきである。

・ 蚤絶姦萌
―蚤く(はやく)姦萌(かんもう)を絶つ。臣下に姦邪の兆しがあったら、すばやく断ち切れ。

・ 無為規之
―君主の行動や真意を察知しようとする臣下の動きを、逆手にとって無為を装えば、その魂胆をうかがい知ることができる。

・ 犬猛酒酸
―酒屋が猛犬を飼っていたばかりに、酒が売れず、甕の酒が酸っぱくなって売り物にならなくなった。寵臣を排除することは辛い。だが、猛犬を殺し、社鼠を退治しなければ、政治は廃る。起死回生の術は、まず猛犬を殺すことだ。

・ 勢之以用
―君臣の間には、自ら秩序を成り立たせる仕組み(勢)がある。君主は之を活用するべきである。

・ 揺木矯直
―木を揺り動かすのに、ひとつひとつ葉を引っ張っていたのでは、苦労するだけで葉を一編に動かすことはできない。だが木の幹を左右から軽くたたくだけで、木は揺れてすべての葉が動く。君子は細民小事にはかかわらず、官吏を治めるには法と術を用いて、その不正を矯めるべきだ。


第5章 「勢」-勢位・権勢・治勢

・ 一日千里
―馬20頭、車20両、御者20人を動員し、20の拠点を設け、仕事を手分けして力を合わせる分工合作(分業)を行えば、日に千里を行く天才的な技量を持つ能臣に迫りうる。


第7章 「法術」-二柄・定法・飭令

・ 一官一職
―一つの職務に官をひとり置いて、勝手なことをさせずに、一官一職にして、互いに職務に関する話し合いを禁ずべきである。

・ 下必坐上
―部下を上司の罪に連座させる。

・ 必問取舎
―発言や提言に責任を負わなければならない。また黙して語らないものにも、必ず「賛成」か「反対」かを問わなければならない。


第8章 「治道」-顕学・解老・喩老

・ 必然之道
―必然の道とは、自ら然る、厭でも従わなければならない、必ずそうなる、厭でもそうするほかなく、逃げ出すことのできない「道」すなわち「治道」である。

・ 民不知悦
―人民は、真に喜ぶべきことを知らない。民智を用いるに足らざる。赤子のいうことをいちいち取り入れていたら切がない。


『韓非子(上・下)』安能務著(文春文庫)