この本は、気鋭のエコノミストが書いたものだが、なかなか面白い。
統計のマジックのようなものをかなり広範囲にわたって書いている。
たとえば、交通事故の死亡者数だが、警察庁の統計では、92年のピーク11800人から05年には6871人に減ってきている。多くの人は車の安全性が向上したから、飲酒運転などの交通取締りが行き届いてきたから、ガードレールなど道路インフラが整備されてきたからとその理由を想像するだろうが、どうもそれだけではないのだ。警察庁は、交通事故の死亡者のカウントを、24時間以内に死亡した場合だけにしている。すなわち1日以上たって死亡した人はその中に入らない。救急医療の技術が著しく進歩し、延命が可能になれば、統計上の数値はどんどん減っていく。事実、厚生労働省が『人口動態統計』で発表する一年で交通事故で死亡した人数は、05年で約10000人だから、大きな乖離だ。
その他、おもしろいところでは、犯罪検挙率の大幅な低下だ。87年には60%を超えていた検挙率が01年には20%まで落ちた。これをもって安全神話が崩壊した、由々しきことだと誰もが思うが、一方で違う見方をする必要があるという。というのは、警察庁が大きく捜査方針を転換したということがあるらしい。検挙率が高い時期は、その率を上げるため軽微な犯罪も重要犯罪も同じように扱っていたという。自転車泥棒も必死になって捜査していたわけだ。しかし、近年は捜査方針を変え、殺人、強盗など凶悪事件の捜査に重点を置き、その検挙率は05年には65%と非常に高い数値になっている。殺人犯は96.6%という。一方で数多い軽微犯罪は手薄になり、全体の検挙率は下がっているというわけだ。
ほかにもいろいろ興味深い統計マジックがあったが、経済アナリストのイベントの景気効果のいい加減さ、裏資金の表経済への現れ方など興味深い記述もある。
この著者は、『夜のオンナはいくら稼ぐか?』『マネーロンダリング-汚れたお金がきれいになるからくり』などの面白いテーマの本も出している。肩書きは、またこれらの分野とは違って、『BRICS経済研究所代表』だから、守備範囲の広さを感じる。
『統計数値を疑う なぜ実感とズレるのか?』 門倉貴史著(光文社新書)
統計のマジックのようなものをかなり広範囲にわたって書いている。
たとえば、交通事故の死亡者数だが、警察庁の統計では、92年のピーク11800人から05年には6871人に減ってきている。多くの人は車の安全性が向上したから、飲酒運転などの交通取締りが行き届いてきたから、ガードレールなど道路インフラが整備されてきたからとその理由を想像するだろうが、どうもそれだけではないのだ。警察庁は、交通事故の死亡者のカウントを、24時間以内に死亡した場合だけにしている。すなわち1日以上たって死亡した人はその中に入らない。救急医療の技術が著しく進歩し、延命が可能になれば、統計上の数値はどんどん減っていく。事実、厚生労働省が『人口動態統計』で発表する一年で交通事故で死亡した人数は、05年で約10000人だから、大きな乖離だ。
その他、おもしろいところでは、犯罪検挙率の大幅な低下だ。87年には60%を超えていた検挙率が01年には20%まで落ちた。これをもって安全神話が崩壊した、由々しきことだと誰もが思うが、一方で違う見方をする必要があるという。というのは、警察庁が大きく捜査方針を転換したということがあるらしい。検挙率が高い時期は、その率を上げるため軽微な犯罪も重要犯罪も同じように扱っていたという。自転車泥棒も必死になって捜査していたわけだ。しかし、近年は捜査方針を変え、殺人、強盗など凶悪事件の捜査に重点を置き、その検挙率は05年には65%と非常に高い数値になっている。殺人犯は96.6%という。一方で数多い軽微犯罪は手薄になり、全体の検挙率は下がっているというわけだ。
ほかにもいろいろ興味深い統計マジックがあったが、経済アナリストのイベントの景気効果のいい加減さ、裏資金の表経済への現れ方など興味深い記述もある。
この著者は、『夜のオンナはいくら稼ぐか?』『マネーロンダリング-汚れたお金がきれいになるからくり』などの面白いテーマの本も出している。肩書きは、またこれらの分野とは違って、『BRICS経済研究所代表』だから、守備範囲の広さを感じる。
『統計数値を疑う なぜ実感とズレるのか?』 門倉貴史著(光文社新書)