グローバル・スタンダードの最高峰資格CFAとCFPを持つ完全独立のFP・資産運用アドバイザー尾藤峰男の書評ブログ

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『統計数値を疑う』門倉貴史著(光文社新書)を読んで

2010-01-29 08:53:24 | 投資
この本は、気鋭のエコノミストが書いたものだが、なかなか面白い。

統計のマジックのようなものをかなり広範囲にわたって書いている。

たとえば、交通事故の死亡者数だが、警察庁の統計では、92年のピーク11800人から05年には6871人に減ってきている。多くの人は車の安全性が向上したから、飲酒運転などの交通取締りが行き届いてきたから、ガードレールなど道路インフラが整備されてきたからとその理由を想像するだろうが、どうもそれだけではないのだ。警察庁は、交通事故の死亡者のカウントを、24時間以内に死亡した場合だけにしている。すなわち1日以上たって死亡した人はその中に入らない。救急医療の技術が著しく進歩し、延命が可能になれば、統計上の数値はどんどん減っていく。事実、厚生労働省が『人口動態統計』で発表する一年で交通事故で死亡した人数は、05年で約10000人だから、大きな乖離だ。

その他、おもしろいところでは、犯罪検挙率の大幅な低下だ。87年には60%を超えていた検挙率が01年には20%まで落ちた。これをもって安全神話が崩壊した、由々しきことだと誰もが思うが、一方で違う見方をする必要があるという。というのは、警察庁が大きく捜査方針を転換したということがあるらしい。検挙率が高い時期は、その率を上げるため軽微な犯罪も重要犯罪も同じように扱っていたという。自転車泥棒も必死になって捜査していたわけだ。しかし、近年は捜査方針を変え、殺人、強盗など凶悪事件の捜査に重点を置き、その検挙率は05年には65%と非常に高い数値になっている。殺人犯は96.6%という。一方で数多い軽微犯罪は手薄になり、全体の検挙率は下がっているというわけだ。

ほかにもいろいろ興味深い統計マジックがあったが、経済アナリストのイベントの景気効果のいい加減さ、裏資金の表経済への現れ方など興味深い記述もある。

この著者は、『夜のオンナはいくら稼ぐか?』『マネーロンダリング-汚れたお金がきれいになるからくり』などの面白いテーマの本も出している。肩書きは、またこれらの分野とは違って、『BRICS経済研究所代表』だから、守備範囲の広さを感じる。


『統計数値を疑う なぜ実感とズレるのか?』 門倉貴史著(光文社新書)

『誘惑される意志』ジョン・エインズリー著(NTT出版)を読んで

2010-01-28 10:49:21 | 書評
人間は、ついつい後先考えずに、目先の誘惑に負ける。お酒、タバコ、ギャンブル、甘いもの食い、高価なブランド物買い…。なぜか。これを「双曲割引」という曲線で解明しようとしているのが、この本だ。

甘いものを食べれば、後で体重が増えるのはわかっているが、トローリーで出てくるデザートの数々を見れば、つい誘惑に負けて手が出てしまう。禁煙を誓ったが、2,3日すると禁断症状が出てきて、あのほっとする気分を1回だけ味わいたくて、あとやめられなくなるかもしれないのを横において、つい一本に手が出てしまう。

人間は、目先得る利益は大きく見えて、将来よりたくさん得られるであろう利益を飛ばして、つい目先の利益を得る行動を取ってしまうというのだ。よくわかる行動だ。なぜそういう行動を取るかというと、人間は将来の利益を本来の価値より大きく割り引いて見てしまい勝ちだからだという。

この本来の価値の曲線を、合理的効用理論に立った価値曲線として、指数曲線と呼んで双曲曲線と対比させている。双曲曲線は将来の価値を本来の価値より大きく割り引くから、指数曲線のほうが常に双曲曲線のラインの上に来ている。

そこで、この「つい」という誘惑に負けないために使われるのが、著者がいう「意志」だ。人は、この意志力で、自分を追い込み誘惑に負けないようにする。これをさらに強固なものにするために、著者は、たくさんの長期的見返りをグループ化する方法を提示している。目先の利益がぐっと魅力的に出てきても、このグループ化してまとめた長期的利益のストーリーやルールで対抗しようというわけだ。

たとえば、麻薬であれば「この1回薬やるか、それを我慢してあとで出てくる禁断症状を避けますか」という選択をもっと大きくして「クスリやめますか。人間やめますか」の選択肢にしたり、「お金がないのにルイ・ヴィトンのバックを買うか、食費や交通費に当てるか」という比較から、「お金がないのにブランド買いをするか、家族が長い間みんなで幸せな生活を送れるようにするか」という比較に拡げたほうが、誘惑に負けなくなるというわけだ。

著者は、この意志の展開をもっと発展させ、この間意志には常に葛藤があり、また意志の選択は自由だから、その結果は予測不能だという。また意志には副作用があり、あまりに強い意志力を持つと環境変化に柔軟に対応できなくなるという。たとえば、餓死寸前までダイエットを続けるなどということだ。

この「双曲割引」とそれにつながる「意志」の概念は斬新な理論である。これまで人間が目先の誘惑に負ける理由を明確に説明できなった心理学や経済学を超える理論として、注目を集めているそうだ。


『誘惑される意志』ジョージ・エインズリー著(NTT出版)


『格差はつくられた』ポール・クルーグマン著(早川書房)を読んで

2010-01-27 10:28:54 | 書評
この本は、2008年度ノーベル経済学賞受賞者による現代アメリカ社会論といってもいいだろう。クルーグマンがノーベル賞を受賞するのは、当然と思われていた。またノーベル賞を受賞するような学者だから、さぞ固いのかといえば、そうではない。ニューヨークタイムズにコラムを掲載、人気を博しているし、ほかにも『うそつき大統領の危ない最終目標』『うそつき大統領のデタラメ経済』というようなノーベル賞を受賞する学者が書いたタイトルかと疑うようなものまで出しているから、なおいっそう興味を引かれる。さらに、まだ54歳と学者としては壮年期だ。これからの活躍も大いに楽しみだ。

本の内容は、ロバート・ライシュの書いた『暴走する資本主義』にかなり近い印象だ。ライシュは民主党候補オバマ氏の参謀的役割を果たしているし、クルーグマンはこの本のサブタイトルで「新しい(民主党)大統領は何をすべきか?」としているように、ブッシュの共和党は大嫌い。執筆時点では、民主党の大統領がブッシュのあとになるとは、まったくわからなかった中で、決め付けているところが面白い。

ニューディール政策以前のアメリカと今の格差が広がった状態を類似していると見ているのは興味深い。このように書いている。

「ニューディール政策以前のアメリカは、21世紀初頭のアメリカ同様、富と権力の分配において非常に大きな格差社会だった。形式だけの民主主義的な政治システムは、人口の過半数の経済的要求にこたえることができなかった。また、裕福なエリートが政治を牛耳っていたという状況は、今日の政治状況に類似する点があるだろう。」

クルーグマンは、アメリカの格差が拡大した理由を次のように見ている。
「技術やグローバリゼーションよりも制度や規範がアメリカにおける格差拡大の大きな原因であるという強い状況証拠がある。格差が「金ぴか時代」に逆戻りしたのだ。」

この本を読んでみて思うのは、アメリカで何百億円ももらう経営者はどう見ても異常であり、それが今回のような金融危機を招いた大きな原因であるということだ。いつも被害をこうむるのは、いわゆる一般人である。

クルーグマンのメッセージや主張は、今後も注目されるところだ。


『格差はつくられた』ポール・クルーグマン著(早川書房)

『まぐれ』ナシーム・ニコラス・タレブ著(ダイヤモンド社)を読んで

2010-01-26 09:25:22 | 書評
この本は、ある意味で痛快だ。人々にとって非常に痛いところを突かれるからだ。たとえば、証券トレーダー。彼らは、華々しい成績をある時期上げるが、これを単なるまぐれと片付ける。彼ら自身、自分の才能で上げたと思っているが、そのあと奈落の底の大損をし、即刻首という憂き目を見ることが多い。

著者は、サルでもまぐれで名作を書き上げることができるという。なぜかというと、無限大のサルをタイプライターの前に座らせて好きに叩かせると、確実に一匹はまぐれで名作を仕上げることがありうるからだ。確かに何兆匹のサルがいれば、偶然でタイプを叩いて名作を仕上げうる。要は、サルの数の問題という。このようなトーンで全編を貫いている。確かに、身を入れて読むに値する。


・ 準備を怠らないからチャンスも生まれる! -前書きで、単なるまぐれでないことがある根拠として

・ まれにしか見られない「チャンスが訪れたとき」を捉えてこそ成功できる。運を味方につけろ!-同じ根拠で

・ リスクを避けようとするとき、合理的な考えは少ししか関係しないし、ほとんど関係ない。リスクを判断する活動は脳の考える部分ではなく、感じる部分で行なっている。

・ 知識を集めるとき、集め方に偶然の要素があることを認め、紛れ込んだ偶然の要素を議論から取り除かなければ、集めた知識を判断することはできない。単なる偶然の寄せ集めということがありうるのだ。

・ 能力が高いのに運の悪い人生を送ってきた人も、いつかは立ち直る。運がいいだけのバカは過去にいい目にあったかもしれないが、長い目で見ればそんなに運がよくないバカな人生に落ち着く。

・ 期間を短く取ると、ポートフォリオのリターンではなくリスクを観察することになる。見えるのはほとんどばらつきばかりで、何の意味もないことをしている。-問題は、われわれの感情が、そういうことをしているということを理解するようにできていないことだ。

・ 苦しみを喜びで相殺できない。(苦しみは喜びの2.5倍の衝撃力を持つという説に立って)

・ 私の強みは、私が非合理で、偶然に振り回され、情緒に苦しみやすいという弱みを知っていることだ。

・ リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』を読んでいて何に感動するかというと、文中に一本の方程式も出てこないのに、数学のことばで書かれたものを文章に翻訳したのではないかとさえ思えることだ。

・ 損をすると、長期投資家になる人がとても多い。自己否定をするのがいやで、(都合のいいように取り)ポジションを手放すのを先延ばしにしてしまう。

・ 一番金持ちな人は一番金持ちに見えない。

・ 金持ちデータの中には、相当運がよかっただけの人が含まれている。そしてそういう人たちはその後没落の道をたどるということがどこにも出ていない。

・ 人は自分が成功すると運の要素を認めないが、失敗した場合全部運のせいにする。

・ 現実は厳しく、線形で正の進歩なんてめったにない。1年勉強しても何にも身につかないけれど、結果が出ないことにうんざりして止めたりしなければ、ある日突然何かが訪れる。ただそれだけの精神的なスタミナを持っている人はめったにいない。

・ ゴールデン・タイムのテレビに登場する金融の専門家は、みてくれやカリスマ性、プレゼンテーションのうまさで選ばれるのだろう。絶対に頭がいいから選ばれるのではない。

・ 著者の告白-私は自分が知っている誰よりも偶然にだまされやすいと思う。でも、私は自分がそういう点でとてもとても弱いことを知っている。

・ 私たちは、目に見えるものや組み込まれたもの、個人的なもの、説明できるもの、そして手にとって触れるものが好きだ。私たちのいいところ(美意識や倫理)も悪いところ(たまたまなのにその気になる)も、みんなそこから湧いて出ているように思う。


『まぐれ』ナシーム・ニコラス・タレブ著(ダイヤモンド社)

『物語で読み解くファイナンス入門』森平爽一郎著(日本経済新聞出版社)を読んで

2010-01-25 09:26:01 | 書評

この本は、タイトルの通り、ストーリー的に話をするように、ファイナンスの奥深いところを紹介していくものだ。投資業界に長い小生にとっても、読んでいてなかなか面白い。
たとえば、アメリカでの事故が起きた後でも入れる保険は、いかにも税制をうまく利用するアメリカ的な商品だ。いわば、「覆水盆に返る」が通用するわけだ。

生命保険買い取りビジネスも、「命買います」ではあるが、売るほうにしてみれば切実な事情がある。たとえば、がんの宣告を受けたが、治療費が高くて賄えないので、生命保険を死亡前に売って治療費に充てたいというようなケースだ。こういうニーズに応えられる商品がある。

また、明治新政府になったときの武士への秩禄処分や奉還公債の話は、いまの金融商品の商品設計にも参考になる。さらには、世界の先物市場の先駆けとなる堂島の米取引の発展なども詳細に説明されていて、歴史的な金融知識の習得に大変参考になる。


『物語で読み解くファイナンス入門』森平爽一郎著(日本経済新聞出版社)

『余韻のある生き方』工藤美代子著(PHP新書)を読んで

2010-01-22 10:15:59 | 書評
この本を読んであとになんともいえない余韻が残った。要するに、読んでよかったということである。これが人との付き合いであれば、この人と会ってよかったということだろう。人生の中で、人との出会いはとても大事なことだ。それをつくり広げるのは自分自身だ。

この著者の作品を読むのは、初めてだが、かなり個性のある人物と見受ける。ある面では歯に衣着せずというところもあるが、それはそれで著者の特徴が出てよい。


・ 美しい余韻を残す女性の二つの顕著な特徴
―言葉遣いが、とても丁寧できれい
―ちょっとした仕種に、その人の優しさや聡明さ英知などが表れている

・ 時間とエネルギーが変化したものがお金

・ 余韻を残す別れ方
―まず一番大切なことは「今日はお会いできて、とても嬉しかったです」という気持ちを、はっきりと口に出して伝えること。ほんとうに重要なのは、帰り際のあいさつ。これはいつまでも相手の心に残る。
―次にできれば付け加えたいのは、相手の美点を一つか二つ述べて、褒めること。
―最後の三つ目は、とにかく、また相手にお会いできるように、何か未来型の話題をつくっておくこと。余韻のある人は、相手との時間を、まるで糸を紡ぐように上手につなげていく。

・ 忘れてはいけない点―どんな状況にあっても、静謐な余韻が残されている家庭であること。どんなに仲のよい夫婦だって、相手に対して猛烈に腹が立つ瞬間は必ずあります。しかし、それをそのままストレートに相手にぶつけてはいけません。

・こころを込めてお客様に接しなさい。
―お客さんにお茶を出したときに、その茶碗のお茶が半分になったら、必ず注ぎ足す。
―たとえ、自分の家庭の食費を削っても、訪問客にはできる限りの歓待をする。

・ 余韻のあるお店のリストが、いくつか自分の手帳にあると、いざというときに便利でしょう。こうしたお店を見つけるためには、雑誌の広告や記事、あるいはテレビのグルメ番組からの情報にまどわされずに、実際に自分で行って見るべきです。味、値段、サービスそして店主の人柄とすべてそろったお店は、なかなか探すのが難しいのですが、こればかりは自分お手で開拓するしかありません。

・ 相手には、どんな過去があるかわからないのだから、これからは絶対に他人の悪口を公の場で言ってはいけない。

・ その人の品位が一番よくわかるのは、話し方。

・ 人間同士の心の触れ合いの中でも、特にいやされるのは温かい笑顔です。


『余韻のある生き方』工藤美代子著(PHP新書)

『統計学でリスクと向き合う』 宮川公男著(東洋経済新報社)を読んで

2010-01-21 09:59:19 | 書評
この本は、ただ単に統計学を読み解くためだけの本ではない。いわば数字を見る見方を通して、物事の決断をする際に落とし穴に入らないようにするための指南書の趣もある。また実例を通して、統計学の基本を学べるようやさしく解説し、いわば一般の人を統計学に導く名著といってもよい。

日本では、欧米のように統計学が社会に根付いているとはいえない。これは非常に全体の経済にとって損失である。統計学的考え方をせずに、いろいろな場面でかなり重大な判断の誤りをしていることも否めない。

統計学の基本理論である、どの程度の確率であることが起きるかという確率論に基づく判断は、大変有効な判断の方法だ。著者は、自分の癌の肺への転移に伴う医師の手術の説得に対し、統計的考え方による確率論から、手術を拒否する決断をした。その結果は、現在まで20年以上生き延びることが出来たという。

人間の誤りは、すべて次の二種類に帰属するそうだ。第1の誤りは「やるべきでないことをやる」、第2の誤りは「やるべきことをやらない」。この「誤り」の考え方は統計学の基本中の基本であり、この2種類の誤りをどの程度の確率でしないで済むかという判断に使われる。これは日常いろいろな局面で使えるもので、判断をより客観的にするために大変有効な手段だという。人間が、何かをやろうとするとき、主観的な判断で決めてしまうことが多い。そこにこのような統計的確率論から、何%の確率である事ができるだろうから、やるべきだという判断が下せれば、よほど成功の可能性は高くなる。

統計学というと、とっつきにくい、やたら数字ばかり出てきて計算式もあるし、自分にはとてもとてもという人がほとんどなのは、残念だ。日本では前述のとおり、統計学が実社会で根付いていない。統計的考え方は、極論に聞こえるかもしれないが、人生の道筋をよく作るうえで、大変有用な考え方として使えるものであるというほどの位置づけをもつべきかも知れない。


『統計学でリスクと向き合う』 宮川公男著(東洋経済新報社)



『キャピタル-驚異の資産運用会社』チャールズ・エリス(日本経済新聞出版社)を読んで

2010-01-20 08:57:33 | 書評
世界最大規模の資産運用会社でありながら、あまりその実像は知られていない「キャピタル・グループ」。宣伝・広告を一切行わず、メディアをも避ける。商品である投資信託にも、「キャピタル」という社名を使わないので、世間でのこの会社の存在感は薄い。

ところが、そのプロフィルを見ると驚く。

・ 全米トップ10ファンドのうち4ファンドを運用。6つのファンドは、直近30年間で、S&Pを大きく上回っている。
・ 機関投資家向け運用でも最大手
・ エマージングマーケットでは、ダントツ最大の投資家
・ 超一流のアナリストを擁する世界最大の独立系リサーチ会社

著者チャールズ・エリスにいわせれば、キャピタル・グループほど長期にわたって、多くの顧客に対しすばらしい成果を上げてきた運用機関はいないという。

1931年創業の歴史ある会社ということだが、その特色は、まさに他社が容易にまねできないものだ。いくつか上げてみると:

・ スタープレーヤーを作らない
・ チームプレーを重視
・ 社員を重視
・ 個性を尊重
・ 柔軟な組織運営

これらは、幾多の苦難や経験を乗り越え、作り上げてきたものだ。いまでは世界に6000人を有する巨大運用機関になっているが、組織の官僚体制化・動脈硬化を防ぎ、その創造性と競争力を維持するという課題を達成してナンバーワンであり続ける、大変まれな組織なのだ。

あくまでロー・プロファイルで、顧客の利益、すなわち長期にわたり最大のパーフォーマンスを上げるために何をなすべきかを愚直に考え続ける組織という印象だ。そのためには、人材に最大限投資し、組織の硬直化を防ぎ、創造性・個性を重視することを常に意識する。ことばで言ってしまえばそれまでだが、これを長年にわたって一貫して続けているからこそ、今のこの会社の姿があるのだろう。

ユニークな会社とはこういうものだ。ことばでは言えても、容易にはまねできない。



『キャピタル 驚異の資産運用会社』チャールズ・エリス(日本経済新聞出版社)
 

『人はなぜお金で失敗するのか』G・ベルスキー&T・ギロビッチ著(日経ビジネス文庫)を読んで

2010-01-19 08:51:20 | 書評

この本は、カーネマンによりノーベル経済学賞対象となった行動心理学を、わかりやすく解説した入門書です。特にこの書が参考になるのは、人間が投資行動をするときにどう考えるか、そしてどういう行動に出るかということをあらゆる角度から見ている点です。そしてその結果出てくる行動は、その多くが損失を助長するようになっているといっています。

さまざまな角度から見ているので、ここには書き切れませんが、その中で現在の市場でもっとも役に立ちそうな箇所を、皆さんのご参考までご紹介しましょう。


●損失に過敏になると悪い結果を招くことがある。「損失の嫌悪」のために判断を誤りやすいことがもっとも明らかで、かつ重要なのは投資の分野である。短期的には、損失に特に過敏になることによってパニック売りが誘発され、株価は暴落する。ダウ・ジョーンズ工業平均株価は急落し、こうした損失の痛みに多くの投資家が過剰反応する。怪我をした人々が出血を止めようとするのだ。もちろん、問題はそうした無計画なやり方で株式市場からお金を引き上げれば、別の痛み-傷をなめているあいだに株価が上がったときの激痛-に襲われやすくなる。

正気になってから急いで市場に戻れば、損した分は取り返せるなどと思ったら大間違えだ。株は時間とともに一定の速度で上昇するように思えるが、実際の動きは発作的である。1年のうちに何度か、数日間で大きく値を上げるからだ。短期的な下落に反応してお金を引き上げれば、利益の出るその数日間を逃してしまう危険をおかすことになる。その危機は深刻である。


●アメリカの証券取引所の最近の研究によれば、中産階級の若い投資家の40%近くが投資収益を週に一回チェックするというのだから!それはなんとも多すぎる。投資を頻繁にチェックすればするほど、株や債券市場では避けられない相場の変動が目につくようになる。そしてそれに反応したい衝動に駆られるようになる。たいていの投資家にとって-実のところ、プロではないすべての投資家にとって-1年に1回ポートフォリオを点検すれば、資産配分に必要な調整をするのに十分である。それによって、自分の経済的な問題のために心の安らぎを奪われないですむ。


●お金がかかわる大きな決定をするとき、他の専門家の意見を聞いたり、他の人々に相談したりする重要性は、いくら強調してもしすぎることはない。


●新聞やテレビの株式に関するニュースは気にしないほうがいい。会社の業績に注意しすぎる投資家は、ニュースを気にしない人々より成績が悪い。ニュースをまったく知らされなかった投資家は、絶え間なく-いいものも悪いものも-情報を受け取っていた人々よりいい成績を上げた。実際のところ、変動の激しい株を売買していた二つのグループでは、何も知らなかった投資家グループは、マスコミの影響を受けた投資家グループの二倍の利益を上げた。


●少なくとも短期間で-1日単位、あるいは1年単位でも-会社の評価をするとき、投資家が的をはずすのは周知の事実だ。「情報のカスケード」-人々は周囲に流される傾向がある-のために、投資家はよいニュースにも悪いニュースにも過剰反応することが多い。人気のある会社の株価を高く評価しすぎ、評判の悪い会社の株価を低く評価しすぎるのだ。投資家が極端に反応すると-ニューヨーク証券取引所の典型的な株価の動きを超えて上下動した株によれば-その反応は時間とともに逆になる。


●逆張り投資家になる機会を探す。


『人はなぜお金で失敗するのか』G・ベルスキー&T・ギロビッチ著(日経ビジネス文庫)

『「超」成長株投資』フィリップ・A・フィッシャー著(フォレスト出版)を読んで

2010-01-18 08:29:13 | 書評
ウォーレン・バフェットはあるとき「わたしの85%はグレアムで、15%はフィッシャーだ」といったそうです。この書の著者が、そのフィッシャーです。バフェットの輝かしい成果は、フィッシャーの成長株投資と集中投資の方法を、この書で学んだことによるところが大きいのです。グレアムから学んだ割安株投資だけでは、実現できなかったといわれています。

フィッシャーの有名な投資は、1958年に買った当時ラジオ製作会社だったモトローラ株です。この株を2004年96歳で死ぬまで持っていたそうです。この書の解説によれば、その他にもテキサス・インストルメントやコーニングも当時買い、ずっと持ち続けたとのことです。いったい何倍になっていることでしょう。

フィッシャーは「1929年秋のお祭り騒ぎと大恐慌を特等席で見た」といっています。1931年には運用会社を設立しています。第2次世界大戦に従軍し、任務の合間に、過去の自分と投資家の成功例と失敗例を徹底的に分析し続けたそうです。そしてこれまで投資業界で受け入れられていた投資原則と異なる基本原則をつかんだといっています。

会社を大きくするよりも自分が見出した投資原則を厳密に適用することを優先し、顧客を12人に絞りました。その結果は、この原則を厳密に適用していなかった戦前と厳密に適用するようになった戦後を比べると、戦後のほうが市場をはるかに上回る運用成績を上げられたといっています。

この書でフィッシャーが説く印象に残る言葉をいくつかあげて見ましょう。
・ 投資で大きな利益を得るためには、忍耐力が必要だ。
・ 経営者が優秀で、技術革新や研究開発が活発に行われている企業を投資対象にする。
・ 投資家は決して10%や20%の小さな利益ではなく、何年もかけて10倍近くになるような株価の上昇にこそ興味を持つべきである。
・ もっとも危険に見える安全な道は、投資を続けることだ。
・ 正しく選び抜いて買った株には、売り時などほぼ存在しない。企業が並外れた成功を収めるための条件を満たしている間は、その株を絶対に売ってはならない。
・ 配当についてもっとも大切なことは、規則性ないし信頼性だ。
・ 分散しないで少数の銘柄に集中投資するよりも、分散投資にこだわるあまり、よくも知らない会社に投資するほうがはるかに危険だ。
・ 多数派の意見を透かして、その向こう側にある真の事実を見つけ出す能力こそ株式投資の分野で成功を収めるための条件だ。
・ 徹底的に絞り込んだ数少ない企業をどこまでも正確に調査する。

この書は50年の時を経た書とは思えません。最近出版されたもののように、とても新鮮に読める書です。「最高の株を選び出すための15のポイント」「賢い投資家になるために5つのやってはならないこと」など、あらためてうなずいてしまう教えもたくさんあります。


『「超」成長株投資』フィリップ・A・フィッシャー著(フォレスト出版)