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『精神について』エマソン著(日本教文社)を読んで-No.1

2009-03-31 08:37:31 | 書評
この本は、読むと本当に落ち着く本というのが正直な感想だ。ラルフ ウォルド エマソン、19世紀アメリカの思想家。アメリカ自主自由の精神を築いたといわれる。『精神について』は、『エセー 第一集』12編のなかから、より大切と思われる9編を選んだものだ。もう一つの書『自然について』とともに、このすばらしいエマソンの思索の世界を、今回よりシリーズで書き記す。

歴史
・ とうの昔、はるかにその名をとどろかせた人のしたことは、今日自分のしていることより深い意義を持っているなどと考える人では、歴史を正しく読もうとは私に期待できない。
・ 人は自分一個に歴史全体を生きることができることを悟るべきである。
・ 世界中の地理、世界中の政治より自分が偉大であることを知るべきである。
・ 自分で見、自分で生活しないことはわからないものである。昔の人が取り扱いの便宜のために法式や規則に適用してくれているものは、その規則の持つ壁のために、人はそれを独力で確かめる楽しみをすべて失っている。
・ ふつうの人は仕事で買われ、高潔な人は人物で買われる。
・ 深い人物はその行動とことば、その表情と態度だけで、彫刻や絵画の陳列場が与えるのと同じ力と美を私どもの中に呼び起こす。
・ 立派な作法を身につけた人の人に接する態度は、貴族の肩書きのすべてをもってしても及ばないものがある。
・ 個人が自分の外に眺めるものは、すべて彼の心の状態に一致している。そしてすべてのものは次々と、彼が前進的な思索によってその事実またはその一連の事実の属している真理を把握するにつれて、理解できるようになる。
・ 尊敬が示されるのは人間的特質に対してであって、それは勇気、ものごし、沈着、正義、力、敏捷さ、大声、広い胸などである。贅沢や優雅さは問題にされていない。
・ もしもその人が自分のより高い本能または情操に忠実に、より高貴な生まれの人間として事実の支配を拒絶し、精神によってしっかりと踏みとどまって原理を見抜くならば、事実はたちまち降伏して、従順にそのあるべきところにおさまり、おのれの主君を覚え、最も卑近な事実さえも人間に栄光を帰するものである。

『精神について』エマソン著(日本教文社)

『コトラーの戦略的マーケティング』フィリップ・コトラー著(ダイヤモンド社)を読んで

2009-03-30 07:26:33 | 書評
いわずと知れた、世界的マーケティング理論の第一人者コトラーの自著である。別著『マーケティング・マネジメント』は世界的な教科書にもなっている。コトラーのマーケティング論は、いわば世界的に評価が確立された理論であり、一般的にはこれに対してどうかというより、素直に取り入れてあるいは学んで大いに実践に生かすというスタンスを取るべきだ。

この書からそのエッセンスをここに記す。

・ 唯一の競争優位は、企業としてどこよりも早く学習し、すばやく変化を遂げる能力にある。
・ 成功するマーケティングに唯一の成功はない。
・ マーケティング・マネージメント・プロセス
-R(調査)
-STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)
-MM マーケティング・ミックス(製品、価格、流通チャンネル、プロモーション)
-I(インプリメンテーション、実施)
-C(コントロール)
・ ブランドの構築
・ プロモーション手段-印刷・電波媒体、カタログ・冊子、ロゴマーク、接待、タイアップ、スピーチ、セミナー、プレスキット、名刺、レターヘッド、セールス・プレゼンテーション、ファックス、メール
・ 製品のバリュープロポジションは、他と差別化する創造性・独自性が必要。
・ 影響力をもつすべての媒体をリストアップする。
・ 明確なバリュープロポジションを構築し、そこを基点にすべてのマーケティング要素を一つに統合する。
・ マーケティングとは、利益に結びつく顧客を見出し、維持し、育てる科学、技能。
・ 既存顧客を維持することが重要である。
・ ターゲット市場を見定める。
・ 見込み客の注意(Attention)を引き、興味(Interest)を駆り立て、欲求(Desire)を喚起し、そして行動(Action)を起こさせる。
・ 顧客を生涯にわたって所有する。
・ 年1回は満足度調査をする。
・ 長期にわたる得意客は大きな利益を生む顧客であり、そのような顧客は満足度が高いため、口コミで推薦する。
・ 会社のファンを創造する。
・ 利益に貢献しない顧客は維持する価値がなくなる。せめて値上げする。
・ 顧客により多くのベネフィット(恩恵)を提供する。
・ ヴィジョンは戦略を必要とし、戦略は計画を必要とする。
・ 必要なのはビジネスプランではない。戦闘のプランだ。
・ プランは作成されるべき。できあがったプランにもまして、その過程が重要。
・ 経営者は多くの時間をプランの作成に割かなければならない。
・ マーケティングプランの構成項目
1. 状況分析
現在の状況
SWOT分析
事業上の主要課題
主な前提
2. 目的と目標の設定
目的は達成可能な全体的な目的を設定
目標は目的実現のための量的指標と達成予定日が必要
3. 戦略の選択
ターゲット市場
コアポジショニング 顧客に与えることができるコアベネフィット(たとえば安全、最高のサービス)
価格ポジショニング
トータルバリュープロポジション 顧客に与える恩恵のすべて
流通戦略
コミュニケーション戦略
4. アクションプラン
  目的と目標は、日程を決めた具体的なアクションプランに落とす。
5. コントロール
目標達成の進捗状況を管理
・ マーケティングは、科学的手法を兼ね備えた学習によって習得することができる技能。
・ 顧客が質問・提案・不満を述べやすいように最大限の努力を払っているか。


『コトラーの戦略的マーケティング』フィリップ・コトラー著(ダイヤモンド社)

『クラウゼヴィッツの戦略思考』(ダイヤモンド社)を読んで

2009-03-27 11:47:40 | 書評
この本は、クラウゼヴィッツの有名な「戦争論」から、ビジネスや経営で役に立つ部分を選り抜いてきたものだ。したがってその中身は、ビジネスに立ち向かう人たちの心がけておくべき言葉の数々で埋め尽くされている。そのなかから、いくつかをここに記す。

・ 戦略は必ず不確実性を伴う
・ 熟慮することが重要である。
・ 戦略とは個々の戦闘を知的に活用し、持続可能な作戦行動に仕立て上げること
・ 戦略は限りなく柔軟であるべきであり、その構築には精神力と自由な想像力を最大限に発揮しなければならない
・ 正しい答えを即座に見つけ出すには、真の天才のひらめきが必要である
・ 勇気と知力が伴うと、決断する力が生まれる。人生はそれにしたがう。
・ 人間を動かす最も大きな力は知性と感情から生まれる
・ 理論的に導かれた結果はあくまで「判断を助ける道具」である
・ 計画を精緻化すればするほど役に立たなくなる
・ 最高の戦略とは非常に強い戦力を常に維持すること
・ 部隊を常に一ヶ所に集結させておくことが最も高度で単純な戦略
・ 勝つためには動員できる兵士は全員「同時に」投入しなければならない
・ 複雑な計画より単純さの方がすなわちすぐ手に入る成功のほうがのぞましい
・ 自然は複雑さを嫌う。単純な理論の方が真実を語っている可能性が高い
・ 真に必要なのは、勝利を導く単純さ、天才に備わっている単純さであり、これは精神のきびしい訓練の成果に他ならない。
・ 攻撃は集中的に行なうこと
・ 攻撃は迅速に行なうこと
・ 戦略を考えるときには、敵の重心を一つに集約し、そこを一気に攻める
・ 高揚したり、緊張状態のときの決断は効果が大きい
・ 精神力は戦争を論じるに当たって最も重要な要素である
・ 軍の武徳の源は第一に数多くの戦いを経験し、勝利を重ねること、第二に活発に行動して何度も疲労困憊することである。要は「戦争に慣れる」こと
・ 勇敢さは指揮官となるための第一条件であり、真に創造的な力である。
・ 戦争の真っ最中に最も求めるものは名誉と栄光である
・ 最初の決意をかたくなに守る「忍耐力」だけが目標に到達させてくれる
・ 強い性格とは最大級の興奮状態に置かれてもその均衡を失わない性格
・ 戦争を始める前には、まずその究極の目的を決定し、その次に中間的な目標を決めておく

『株で勝つ』ピーターリンチ著(ダイヤモンド社)を読んで

2009-03-26 08:07:53 | 書評
ピーターリンチは、全米NO.1ファンドマネジャーとまでいわれた株式投資界の伝説の人物である。リンチはアメリカの株式市場が不況に吹き荒れていた1977年から1990年の13年間で、2000万ドルだったフィデリティのマゼラン・ファンドを140億ドルという驚異的なファンドに育て上げた。

この書は『個人投資家は機関投資家より有利に立てる』というメッセージを発している。改めてこの書を振り返ってみると、現在の市場は、このメッセージがまさに当てはまるような環境にあると感じる。ぜひ、ピーターリンチの『株で勝つ』(One Up On The Wall Street)を一読することをお奨めする。

・ その会社はわかりやすいか。知っているものに投資すべき。
・ 選んだすべての株で儲ける必要はない。
・ 安い株は常に下げる。
・ 時間が味方。
・ 大化けする株はどんな産業からも出てくる。
・ 身近なところに情報はある。身近にある会社に目を付けろ。
・ 素人の話を大切にしろ。
・ 投資の成功は投資家の精神・心理にある。
・ しがらみ・制約のない投資家は有利。プロは不利。
・ 機関投資家は同業が買わないと買わない。投資制限もある。
・ 投資哲学は変えない。確固とした自信を持て。
・ 「私はよい会社を信頼し、とくにその株価が割安で、業績などファンダメンタルズを十分反映し低ないものを探している。」
・ 株式市場は全くもって不合理な動きをする。
・ 気に入った会社を見つけることがすべて。良いと思ったらその株を買う。早すぎる遅すぎるは関係ない。
・ テクノロジーの利用者こそハイテクの最大の受益者
・ 市況関連株はタイミングこそすべて
・ 企業やトレンドを分析するのに個人的体験がどれだけ役に立つことか。
・ 独占的な商売を持っている会社を探せ。
・ 他社が参入しやすく価格低下する会社は避けよ。
・ 疑わしきは待て。成果が出てからでも遅くない。
・ 会社に競争相手のことを尋ねる。
・ 他の場所でもその会社のオリジナルコピーが成功するか(店舗拡張)
・ 会社の本社を訪ねる。
・ PERが成長率の半分だときわめて魅力的、PERが成長率の2倍だと非常に危ない。
・ (成長率+配当利回り)÷PERが1以下は見込み薄。1.5はまずまず、2以上は大変良い。
・ キャッシュポジションをチェック
・ ブランド価値を見る。
・ 在庫レベルをチェック。
・ 長期保有は高い利益率の会社、業績回復株(短期~2年)は低い利益率の会社を狙う。忍耐強いこと。
・ 迷うときは納得いくまで検討してみる。
・ 何が起こっているかを常に注意深く見守る。最初のストーリーはまだ納得がいくか、もっと良い状況になっているかをチェックする。
・ 暴落や反落のとき、理性と勇気を持ってよい株を買え。
・ 売り急ぎそうになったら、なぜこの株を買ったのかという初めの理由を思い起こせ。
・ なぜこの株を買い始めたかを知っていれば、いつ手放したらよいかは自動的にわかる。
・ 株価は上昇基調になる前に必ず揺れ動く。
・ 株価がどこまで上がるかという限界はない。ストーリーが生きている限りはその株を保有し続ける。
・ その株は買い増しするほどよいと思うかと自問自答し、答えがノーだったら売る。
・ 会社の業績が順調で、初めに魅力を感じた点に変化がないなら、もち続ける。
・ この株を取り返そうと思うと、深淵にはまり、損の上塗りとなる。
・ ストップロスという考え方は取らない。
・ 相場の下げはポートフォリオのなかで将来有望だがまだパフォーマンスの悪いものを買い増しする絶好のチャンスに思える。
・ いつ無意が売りといっても勇気を出して、理性を保って買いと思い直すことができれば、考えたこともなかったような絶好の機会になる。
・ 市場の動きも個別の株と同様に、短期ではファンダメンタルズと反対に反応しうる。
・ 最も成功した株は、3年から4年保有している。
・ 機関投資家や年金などによってクレージーなまでに売られ、人気のなくなった株を待って買う。
・ 株式投資をする場合、少なくとも、人間性、資本主義、国家、将来の一般的繁栄に対して、基本的信念を持たなければならない。


『株で勝つ』ピーターリンチ著(ダイヤモンド社)


ラマンチャの男-わが使命

2009-03-25 15:38:48 | Weblog
ミュージカル、『ラマンチャの男』で、ドンキホーテが独唱する『わが使命』。小泉元首相が、郵政民営化のときこのアリアを聴いて、1人自分を鼓舞したという。わが記録のため、皆様の参考のため、ここに記す。


ドン・キホーテ:
それは真実の騎士に与えられたわが使命・・・・・
義務・・・・・いや特権である!

見果てぬ夢を夢見
卓絶した敵と戦うこと
耐え難き悲哀に耐え
勇者もしり込みするような地を走ること
悪を正すために

遠くから清純で貞節なる女人に崇拝の念を贈ること
いかに腕が疲れていても
手の届かぬ星を何とかつかもうと努めることだ!

その星を追うのが、予の冒険だ
いかに望みがなくとも いかに遠くとも
正義のために戦うこと
疑問もためらいもなく
地獄にも喜んで身を投じよう
正義のためであれば!

この身を心の底から
この輝かしい冒険に捧げるならば
わが心は安らぎと平穏を得られるだろう
死を迎えたときに

そして世の中は少しは改まるだろう
一人の男が 中傷を浴び傷だらけになりながら
それでも勇気の最後の一滴まで振り絞って
届かぬ星を掴もうと努めるならば

『俺は、中小企業のおやじ』鈴木修著(日本経済出版社)を読んで

2009-03-24 08:56:18 | 書評
軽乗用車メーカーのスズキを3兆円企業に育て上げた人物が、これまで断り続けてきてはじめて世に出した本という。内容はきわめて読みやすい。

著者は、3兆円企業の会長兼社長で創業家の娘婿だが、それをひけらかすようなことはなく、とにかく世相を読み、人を読み、どういう車が売れるかと愚直に探求し続け、これまでの成長を遂げてきたという。

また、トップ自らの工場監査に代表されるように、徹底したコスト削減努力を全社に行き渡らせ、数万点の部品の一つ一つにいたるまで目を光らせる。

この人物を見ていると感じるのは、日々の積み重ねの大切さだ。そして、この本のタイトルのとおり、ご本人は本当に、「俺は、中小企業のおやじ」と思っているのだと思う。

この本を読んで、参考になった箇所を以下に記す。

・部品の共通化

・ハンガリー事業で、EU参加を目指すハンガリー政府に、スズキはEUが求める国内部品調達率60%を満たしていないといわれ、現地工場からクルマ一台分の部品のうち、大型のプレス部品や板金部品一式を油のついたままトラックで運ばせた。

それを、ハンガリーの大蔵省に勝手に運び込み、マフラーから、鉄板を打ち抜いたボディー部品までをずらりと赤じゅうたんに並べた。並んだ部品のうち、日本から持ち込んだ部品には赤い丸をつけ、残りは「すべてハンガリー製ですよ」とアピールした。これにはハンガリー人もびっくりしたようだ。そこで私は現物を前に懸命にアピールした。私は通訳もなしに「これが日本製、これがハンガリー製です。これでも60%を満たしていないのか」と訴えた。

これによって、ハンガリー政府の見解は覆った。

・少しばかりの債権を確保しようとしてじたばたするより、思い切りよくあきらめて、新しい仕事に前向きのエネルギーを投入する方がはるかに生産的だ。

・会社というのは、いろいろ手間がかかっても一から自分でつくりあげたほうが、いい結果が出る。

・いいか。セールスは断られたときからが勝負だ。あきらめずに掛け合って来い。

・ストの一つや二つで腰砕けになるようでは経営者失格だ。


『俺は中小企業のおやじ』鈴木修著(日本経済出版社)

『スパイのためのハンドブック』ウォルフガング・ロッソ著(ハヤカワ文庫)を読んで-No.2

2009-03-23 07:45:14 | 書評
イスラエルの諜報機関モサドの元スパイだった著者の、「スパイが人をどう籠絡するか」の2回目は「高い地位の人物を籠絡する方法」だ。前回3月19日の「雑魚を籠絡する方法」に続き、非常に参考になる。なにやら恐ろしいことが冷静に書かれていて、スパイのすごさを如実に物語るものだ。


高い地位の人物を籠絡する方法

われわれは比較的単純な練習からスタートした。政府高官や高級軍人に賄賂をつかませる場合は、ボーイ長や受付かかりを籠絡するようにはいかない。たぶん、方法は異なるであろうが、テクニックの方はさしたる違いはない。地位のある人間に対してはどのようにするか、以下にその手の内を紹介させてもらおう。

いったん社交場の面識を得てしまえば(誰かに賄賂をつかませて紹介してもらうことになろう)、いつもの原則に沿って、あなたが気前のいい金満家であることを見せつける。

高価な車に乗り、最高級の衣類を身につけ、普段着でさえ金の臭いをぷんぷんさせなければならない。
その人物と婦人を最高級レストランに招き、劇場の特等席に招待し、給仕や案内係にたっぷりチップをはずむところを見せつける(ただし、やりすぎるな。常に教養人であり、上品な趣味の人であり続けなければならぬ)。
彼の家に招かれたなら、彼に高価ではあるものの、あまり大げさではない贈り物をする。それについては慎み深く、他の客たちに見せびらかすようなことはしない。
以上の手順を必要な限り何度も繰り返し、友好的かつ親密な関係を樹立する。

さて、ここから第2段階に移る。ちょっとした個人的な依頼をするのである。テニス用ラケット、ポロ競技用の鞍あるいは映写機を貸してもらうといった目立たぬ、公然たる頼みごとである。そうした物品をすぐさま返却し、感謝感激しているところを盛大に示す。プレゼントをさらに高価に、さらに個人的なものにする。家族全員を週末に海辺や山間の高級保養地に招待するのもよかろう。やがて、第3段階に移るべき時が来るのを感じ取れるだろう。
ムードが熟し(酒が手伝ってくれる)親愛感が最高潮に達するのを待ち受ける。時至らば、彼を直撃する。ただし、そーっと。きつすぎてはいけない。まだ初回なのである。 彼が職業柄、入手しうるもの、あるいは、それに対し彼が職権を持っているものを欲しいという。この段階では、明らかに違法のものはまずい。ほんの少し“本道から外れた”くらいのところがよろしい。かならずしも万人には認められないような特別許可をもらうとか、某委員会に影響力を行使してもらうとか、その辺のところである。望みのものを入手しうる確率は約9対1でこちらに有利である(こういう話はまかせてもらいたい。私は場数を踏んでいる)。数日後、頼みごとはかなえられ、あなたがきちんと全額要求どおり払いをすます。小切手は不可。現金かあるいは差出人の住所を書かないふつうの封筒で郵便為替を郵送する。あなたの正体を相手に知らせるようなもの、あるいは相手を当惑させるようなものは一切なしにする。彼は差出人が誰かはわかる。かくして彼は針にかかった。

もう一度この種の頼みごとを持って彼のところに行く前に、あわてずに間を取る。彼はそれを予期しているものだ。今度は前より少し難しいものにし、謝礼も増額 する。やがて、それは型にはまった手順となる。過度の慎み深さはなしですませ、現金入りの封筒を机の上に置くだけになる。
あなたは、自分が一人の官僚を腐敗させ、彼がその発覚をおそれていることを悟るであろう。これをばらすぞなどといってあからさまな脅しをかけてはいけない。とはいっても、彼が無礼にも協力を拒否してくるようなことがあったら、いかにも用心深そうに、それをほのめかしてやるとよい。脅迫? もちろん脅迫だ。いいか、君はスパイなのだ。慈善事業家ではない。

『スパイのためのハンドブック』ウォルフガング・ロッソ著(ハヤカワ文庫)

『スパイのためのハンドブック』ウオルフガング・ロッソ著(ハヤカワ文庫)を読んで

2009-03-19 07:16:25 | 書評
この本は、元イスラエルの諜報機関モサドのメンバーだったウォルフガング・ロッソが書いた本だ。スパイになるためにスカウトされる方法から、どのように訓練されるか、女性スパイがどう男性を籠絡するか、果てはスパイの老後の生活設計まで書かれている。ところで、私が最も面白いと思ったところをここに皆さんにご案内しよう。それは、人をスパイがどう籠絡するかというくだりだ。これは、われわれの社会生活でも、ずいぶんと参考になるのではないか。その部分を引用する。


取引相手が雑魚であろうと高い地位にある人物であろうと、早いうちに“寄せ餌をばら撒く”(すなわち、陰徳を施す)ことは良いことである。餌さを濡らしてしまうぐらいが関の山ということもあるが、この方法はふつう引き合う。つまり、社交の場や仕事中にあなたが賄賂の受取人に会うことがあったら、あなたはその者に、自分が資産家であるばかりか、気前のよい資産家であるところを見せつけるべきなのである。

雑魚を籠絡する方法
1. ホテルに5,6日の予定で宿泊する。ボーイはあなたの荷物を部屋に運び、あなたは彼にチップをたっぷりはずむ。やりすぎてはいけないが、彼が上客から期待する額の倍くらいをあたえ、親しくなりやすい様子はみせるが、なれなれしくはさせない。彼が退出してから、部屋係りのメイドに電話し、ベッドを整えさせたり、そのほかのこまごました用事をさせる。ここで、また多めのチップを渡す。
2. しばらくして、バーに行き、1,2杯飲む。バーテンは喜んであなたと会話するものだ。話は雑談程度にとどめおき、自身についてはあまり語らず、かなり金めぐりのいい実業家といった印象を与える。長居をせず、深酒もしない。帰り際にバーテンにたっぷりチップをはずむ。
3. ホテル中に、あなたはチップを出し惜しみしない人であるという評判を確立した。あなたは一級のサービスを受け、従業員は互いに競い合って、あなたにちょっとした便宜をはかってくれる。あなたの部屋は他のどこよりも早く念入りに整頓され、受付の伝言は一番早く伝達され、バーでの飲み物はなみなみと注がれ、誰よりも愛想良くされる。これらはより多く、大きい報酬を期待して、いずれも自発的になされるものである。今までのところ、あなたは特別なことは何ひとつ頼まず、チップの返礼は求めなかった。しかし、たっぷりチップははずみ続けるものの、ときおり従業員にそのホテルのこと、彼らの家庭、政治およびその類の話をさせる。あなたは今や彼らの人気客であり、従業員の全員あるいはほぼ全員について自分の考えをまとめた。第1段階終了。
4. かなり他愛もない性質の特別の頼みごとをし始める。
a. 他の宿泊人についての情報
b. 就業時間外にしてもらう特別の使い走り
c. 他の宿泊人に来た電話および(あるいは)伝言の内容詳細
d. 会いたい人への紹介(バーテンを通じてしてもらうのが最上)
  頼みごとに応じてくれたら、かならず適当な高額チップを報いてやる。従業員は今や自分たちが賄賂をもらって、職務範囲を超えていることを知っており、魚が水に慣れ親しんでいるように、それに慣れてしまう。従業員はそれに適合している。第2段階終了

5. あなたは今や、どの従業員が賄賂にいちばん敏感で、誰が渡すのに最適の立場にあるかを知っている。第2段階で、すでに目標は達成され、求める情報は得られたかもしれない。それは結構であるが、ここにまた来る機会が少しでもあるなら、そのままで放棄しない。あなたに対する特別のサービスを半永久的に続けてくれる拠りどころになりうるのである。鼻薬をたっぷり嗅がされたバーテンや受付係りは、やがて小切手が郵送されてくることを知っていれば、あなたが関心を抱くような情報を長距離電話で伝えてくることさえするものである。同じく、ボーイあるいは給仕も、あなたのいるいないにかかわらずいつでも、“微妙な”使い走りをしてくれよう(誰かのお茶に砒素を盛るというような用事はダメだが、他のホテル客の部屋に盗聴器をつけるといったようなちょっとした頼みごとならよい)

-あー恐ろしい、スパイの世界は。しかしながら、ここまでやるとちょっとどうかと思うが、実社会でも、このステップをある意味で踏んでいることは多いだろう。学ぶべきことは多い。次回は高い地位の人物を籠絡する方法をご紹介する。



『スパイのためのハンドブック』ウオルフガング・ロッソ著(ハヤカワ文庫)

『論語』を読んで

2009-03-18 11:35:53 | 書評
論語を読んで、書き記した箇所である。ご参考まで、論語のエッセンスをどうぞ。

・義を見てせざるは勇なきなり
・欺くことなかれ、而してこれを犯せ
・これを先んじ、これを労う。倦むことなかれ
・下問を恥じず
・老いのまさに至らんとするを知らず
・君子の過ちや、日月の食の如し
・賢なるかな回や。一箪の食、一瓢の飲、陋巷にあり
・願わくは善に伐ることなく、労を施すことなからん
・いずくんぞ佞を用いん
・成事は説かず、追事は諌めず、既往は咎めず
・力足らざるものは、中道にして廃す
・寡きを憂えずして均しからざるを患う。貧しきを憂えずして安からざるを患う
・鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いん
・行くに径によらず
・朋友にしばしばすれば、ここに疎んぜらる
・君子、賢を尊びて衆を容れ、善を嘉して不能を矜む
・多くを聞きて疑わしきを闕き、慎みてその余を言えば、尤め寡なし。多く見て殆きを闕き、慎みてその余を行なえば、悔寡なし。言、尤め寡なく、行ない、悔寡なければ、禄そのなかにあり
・戦戦兢兢として、深遠に臨むごとく、薄氷を履むがごとし
・能をもって不能に問う
・おのれに克ちて礼に復るを仁となす。仁をなすはおのれによる。
・己の欲せざるところは、人に施すなかれ
・わが道は一もってこれを貫く。天子の道は忠恕のみ
・それ仁者はおのれ立たんと欲して人を立て、おのれ達せんと欲して人を達す
・よく近く取りて譬うるを仁の方というのみ
・工そのことよくせんと欲せば、必ず先ずその器を利す
・民の義を務め、鬼神を敬してこれを遠ざく。知と謂うべし
・仁者は難きを先にして獲ることをあとにす。仁と謂うべし
・居処は恭、ことを執りて敬、人と与わりて忠なれ。夷狄に之くといえども棄つべからず
・よく五つのものを天下に行なうを仁となす。恭。寛、信、敏、恵なり。恭ならば侮られず、寛ならば衆を得、信ならば人任じ、敏ならば功あり、恵ならば持って人を使うに足る
・われ仁欲すればここに仁至る
・忠信を主として義に徒るは徳を崇くするなり
・それ達とは、質直にして義を好み、言を察して色を観、慮りてもって人に下る。速やかなるを欲するなかれ。小利を見るなかれ。
・政を問う。子曰く「有子を先にし、小禍を赦し、賢才を挙げよ」いずくんぞ賢才を挙げん。子曰く「なんじの知るところを挙げよ。なんじの知らざるところは、人それ之を舎てんや」
・民は信なくば立たず
・君子は事かえやすくして説ばしめ難し。之を説ばしむるに道をもってせざれば説ばず
・君子は言をもって人を挙げず。人をもって言を廃せず
・上、礼を好めば、民あえて敬せざるなし。上、義を好めば、民あえて服せざるなし。上、信を好めば、民あえて情けを用いざるなし
・子曰く「われ十有五にして学に志す」
・君子は争うところなし
・君、君たり。臣、臣たり。父、父たり、子、子たり
・久しくしてしかも之を敬せり
・三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。
・恥を問う。子曰く「邦道あれば穀す。邦満ちなくして穀するは、恥なり」
・天、徳われに生ぜり
・仁を求めて仁を得たり。また何をか
・君子もとより窮す。小人窮すればここに濫す
・七十にして心欲するところに従がえども、矩を踰えず
・一に問いて三を得たり。詩を聞き、礼を聞き、また君子のその子を遠ざくるを聞く
・子曰く、学びて思わざれば罔し。思いて学ばざれば殆し
・多くを聞きてその善き者を択びてこれに従がい、多くを見てこれを識す
・子曰く、故きを温めて新しきを知れば、もって師たるべし
・天何をか言うや。四時行なわれ、百物生ず。天を何か言うや
・後生畏るべし。いずくんぞ来者の今にしかざるを知らんや
・子曰く、学びて時にこれを習う。また説ばしからずや。朋あり遠方より来る、また楽しからずや、人知らずして慍みず、また君子ならずや。
・和して同ぜず


『顔氏家訓』(平凡社東洋文庫-絶版)を読んで

2009-03-17 08:21:30 | 書評
遠い1400年も前の時代の家訓が、今も人々に連綿と読み伝えられている。この書は家訓であるから、子々孫々にいたるまでその家が繁栄し続けることを祈って書いたもので、心底から出てくる戒め、処世、研鑽、生き方など、ありとあらゆる人間にとって大事なことを書き残したものである。

顔氏家訓(がんしかくん)は、中国北斉の顔之推が著した家訓、つまり子々孫々に対する訓戒の書である。成立は、隋の仁寿中(601年 - 604年)。顔之推は、この書の中で、中国伝統の家族道徳を重視し、教養・学問・思想・信仰から、生活態度・言語諸芸から、処世法や交際術にまで及ぶ、自らの具体的な体験談や事例を挙げ、事細かく教えている。彼の理想は、質実剛健な家庭に見られる、調和と保守を重視した時勢の影響を受けない生活態度である。後世まで長く重視され、「家訓」といえば、本書を指すようになった。(Wikipedia)

このなかから、私が書き残した箇所をご紹介する。

・5,6歳になったら、そろそろ体罰を与える
・しつけに鞭はつきもの
・父子の関係は尊厳なものであるから、馴れ馴れし過ぎたり、そっけなさ過ぎてもいけない
・お客は心から接待するように
・友を択ぶ-己に如かざる者を友とするなかれ(孔子)
・他人の美を盗むな
・学は身を助く、読書の効徳、学を学ぶ
・読書と学問の目的は、いうまでもなく、思想を啓発し事物を見る目を定かにし、人間行為をより効果的ならしめるのが本旨である
・学問は、人間として不足している点を充足させるために修めるもの
・学問は己のためにするもの
・学問は育種に似ている。春にはその花を賞で、秋にはその実を収める。講義したり、討論したり、文章を作ったりすることは、学問における春の花である。人格をつくり行いの助けにするのは、学問における秋の実りである
・晩学のすすめ-50にして学ぶも、また大過なかるべし(孔子)
・問うことを好めば裕し(書経)、独り学んで友なくば孤陋にして寡聞なり
・耳学問を頼りにするな。必ず原典を確かめよ
・文章を発表するには、先ず親友に一覧を乞い、その批評添削をもらって世間に出してよかろうと判ってから発表すべきである
・文章を作るということは、名馬を乗りこなすのと同じである。操り、制御すること。
・文章を作るときの大切な点を身体になぞらえると、
-文章の理致(論旨・理路・プロット)は、(身体の要としての)心臓や腎臓に当てるべき
-文章の気調(調子・リズム)は、(身体を形成させる)筋肉や骨格に当てられよう
-文章の事義(主題・テーマ)は、(身体の表面に現れた)皮膚といえる
-文章の華麗性(修辞、レトリック)は(身体を飾る)冠といえる
・文章を作るときは、構想が雄大で調子が高く、美しく調和が取れた修辞法を使う
・名と実、形と影、人格と技量さえ充実していれば、必ずそれに相応しい名声が従う
・「ここに誠なるものは、彼に形わる」「巧詐は拙誠に如かず」
・およそある人物が本物かにせものかは、心の内面にかくれた問題だが、必ず人の目にうつる形であらわれてくる。
・君子たる者は、道徳を崇高なものと考えて、よくこれを守り自己の価値を高めつつ、適当の機会が来るのを待つべきである。
・時運がめぐり来れば求めずとも獲られるものは獲られる