京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
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面白い本 乾佐伎句集 『シーラカンスの砂時計』 (砂子屋書房)

2024-02-09 07:58:37 | 俳句
面白い本 乾佐伎句集 『シーラカンスの砂時計』 (砂子屋書房)
           金澤ひろあき
 若い人が句集を出す。それはどんな意味を持っているのだろうか。
 表現へのチャレンジ。自己の成長の記録。これから関わってゆくテーマの発見。各人色々な意味を持っているが、それぞれが「喜び」に満ちている。
 乾佐伎さんの『シーラカンスの砂時計』は、題の通り、シーラカンスに出会った衝撃と喜びに満ちている。
   シーラカンスDNAに近未来
   永遠をシーラカンスは友とする
 デボン紀以来、姿形をほとんど変えていない頑固な存在。人目を気にせず、6500万年以上、マイペースを貫いたわけだ。これはナマハンカではない。
 ナマハンカでないと言えば、「シーラカンス」を詠んだ句が46句もあること。ところで、作者にとって、シーラカンスとはどんな存在なのだろうか。
   シーラカンスゆっくり友になればいい
   シーラカンス秘密を言うから目を閉じて
   流星群シーラカンスに会いにゆく
   シーラカンスあなたの海に守られて
   図書館にシーラカンスと風ひそむ
 これらの句を見ると、非常に親しい友人のようである。
   シーラカンス海には海の出会いあり
   シーラカンスわたしの中のDNA
   春星はシーラカンスのため息か 
 「シーラカンス」を「私」に置き換えても、これらの句は成立する。シーラカンスは自分自身の自画像でもあるようだ。
   シーラカンス象形文字に紛れ込む
   シーラカンス大海原に星を撒く
   シーラカンス星座をひとつ傾ける
   シーラカンス泳げば星が目を覚ます
   シーラカンス海より深い夢の中
これらの句を読むと、シーラカンスは謎めいた存在、美や真理に近いものの象徴なのかもしれないとも感じられる。とりわけ、作者に創造の刺激を与える存在であるようだ。
それから、
  シーラカンス東京をうまく泳げない
  シーラカンス幸せ呼べば雨になる
  すれ違うシーラカンスは憂鬱と
  砂のないシーラカンスの砂時計
夢が全てかなうとは限らないこの世の悲しみ。それを共有する仲間のようでもある。
  シーラカンス楽園をまだ隠してる
シーラカンスを用いない句も、作者の「願望」や「現在」を示している。
  わたしはパレット海にも空にもなれる
  満天の星をくださいカンバスに
  それぞれの幸せ風とカーテンに
世界の調和への信頼、親和性、また一種のナルシズム、明るさが満ちている。句集の中には、対立者・理解不能な他者が存在しない。
  風船は昨日を振り返らずに飛ぶ
行き先を信じて飛んでいく風船。その先で出会う出来事が、今後どんな展開を見せるのかが楽しみである。

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