京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
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舞姫現代語訳13

2017-02-07 08:10:37 | 日記
 『舞姫』現代語訳 第十三段落     金澤 ひろあき
【要旨】
 エリスとの生活
【現代語訳】
 公使に約束した日も近づき、私の運命もせまっていた。このまま日本に帰国すれば、学問は中途半端で、しかも汚名を負ったわが身が救われる手だてもない。そうだからといって、ベルリンに留まるには、学資を得る手だてもない。
 この時、私を助けたのは、私の同級生の1人であった、相沢謙吉である。彼は東京にいて、すでに天方伯爵(長州の実力者、山県有朋がモデル。日露戦争後、元帥)の秘書官であったが、私の官僚免職が官報(各省がだす広報)に出たのを見て、ある新聞社の編集長に説いて、私を新聞社の通信員とし、ベルリンにとどまって政治・学芸のことなどを報道させることにした。
 新聞社の報酬はいうにたりないぐらい低いけれども、住居を移し、昼飯に行く食べ物店を変えたならば、かすかな暮らしはやっていけるだろう。あれこれ考えていくうちに、誠実な心をあらわして、援助の手をさしのべたのはエリスであった。エリスはどうやって母親を説得したのであろうか、私はエリスら親子の家に住むことになり、エリスと私は、いつとはなしに、あるかないかのわずかな収入をあわせて、苦しいが中にも楽しい月日を送ったのだった。
 朝のコーヒーがおわると、エリスは練習に行き、そうでない日は家にとどまって、私はキヨオニヒ街の間口狭く奥行きばかりがとても長い喫茶店に行き、あらゆる新聞を読み、鉛筆を取り出してあれこれと(新聞記事の)材料を集めた。この切り開いたような引き窓から光をとった部屋で、決まった職がない若者、多くもない金を人に貸して自分は遊び暮らす老人、(株式)取引所の仕事のあいまを盗んでは、休息している商人などと隣あわせになり、冷たい石のテーブルの上で、忙しそうに筆を走らせ、店のウエートレスが持ってくる一杯のコーヒーが冷めるのも顧みず、開いている新聞で細長い板にはさんでいるのを、何種類もかけている一方の壁に、何度も行き来する日本人を、知らない人はどう思って見ていただろうか。また、1時近くなるぐらいに、練習に行った日には必ず帰り道に立ち寄って、私とともに店を出ていく、この並外れてスリムな、きっと手のひらの上でも舞うことができそうな少女を、変に思って見送る人もきっとあったであろう。

【ポイント】
太田 日本を捨てて、エリスとの生活を選ぶ。
援助者援助者 二人
1 友人相沢謙吉 職業を紹介。新聞社の特派員 この時代、ジャーナリズムはできたて。社会的な地位は高くない。
相沢謙吉は、天方伯爵の秘書官。
  天方伯爵 モデルは山県有朋 長州出身 陸軍の大御所
 相沢謙吉と天方伯爵は、後に太田とエリスの運命を握る存在として登場する。
2 エリス 住む所を与える。同棲。

 19世紀以後、ヨーロッパの各都市に喫茶店が成立。たくさんの職業人が集まり、情報収集の場ともなる。
(例)ロンドンの一喫茶店が、船の情報が集まる。そこから、荷物を保障するための保険業が起こる。これが世界最初の保険業者ロイドであった。
 追記
 新聞の地位が上がったのは、朝日新聞社の池辺三山が、夏目漱石などを招き、一般家庭でも安心して読める紙面作りを目指したあたりぐらいから
 だそうだ。

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