松尾芭蕉 『笈の小文』 口語訳
金澤ひろあき
四 名古屋の仲間たちと
鳴海に泊まって
星崎の闇を見よやと鳴く千鳥
飛鳥井雅章公がこの宿にお泊まりになって、「都も遠くなるみがたはるけき海を中にへだてて」とお詠みになったのをご自身でお書きになられて、お与えになったことを語る時に、
京まではまだ半空や雪の雲
三河の国、保美という所に、弟子の杜国がしのんで暮らしているのを訪れようと、まず名古屋の越人に便りを送り、鳴海より後ろへ二十五里ほど訪ねるために帰って、その夜は吉田に泊まる。
寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき
あまつ縄手は、田の中に細道があって、海より吹き上げる風がとても寒い所である。
冬の日や馬上に氷る影法師
保美村より伊良古崎へ一里ばかりもあるだろう。三河の国の地続きで、伊勢とは海でへだてている所であるけれども、どういう理由だろうか。
『万葉集』には伊勢の名所の内に選び入れられている。この洲崎で碁石を拾う。世に「いらご白」というそうな。
骨山という所は鷹をとる所である。南の海の果てで、鷹がはじめて渡る所と言っている。いらご鷹など歌にも詠んでいたなあと思うと、なおしみじみとした趣を感じたちょうどその時、
鷹一つ見付けてうれしいらご崎
熱田神宮御修復
磨ぎなをす鏡も清し雪の花
名古屋の人々に迎え入れられてしばらく休息するうちに、
箱根越す人も有るらし今朝の雪
ある人の会
ためつけて雪見にまかる紙子かな
いざ行かむ雪見にころぶ所まで
ある人の興行
香を探る梅に蔵見る軒端かな
この間、美濃、大垣、岐阜の風流人が訪れ来て、歌仙あるいは半歌仙など、たびたびに及ぶ。
金澤ひろあき
四 名古屋の仲間たちと
鳴海に泊まって
星崎の闇を見よやと鳴く千鳥
飛鳥井雅章公がこの宿にお泊まりになって、「都も遠くなるみがたはるけき海を中にへだてて」とお詠みになったのをご自身でお書きになられて、お与えになったことを語る時に、
京まではまだ半空や雪の雲
三河の国、保美という所に、弟子の杜国がしのんで暮らしているのを訪れようと、まず名古屋の越人に便りを送り、鳴海より後ろへ二十五里ほど訪ねるために帰って、その夜は吉田に泊まる。
寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき
あまつ縄手は、田の中に細道があって、海より吹き上げる風がとても寒い所である。
冬の日や馬上に氷る影法師
保美村より伊良古崎へ一里ばかりもあるだろう。三河の国の地続きで、伊勢とは海でへだてている所であるけれども、どういう理由だろうか。
『万葉集』には伊勢の名所の内に選び入れられている。この洲崎で碁石を拾う。世に「いらご白」というそうな。
骨山という所は鷹をとる所である。南の海の果てで、鷹がはじめて渡る所と言っている。いらご鷹など歌にも詠んでいたなあと思うと、なおしみじみとした趣を感じたちょうどその時、
鷹一つ見付けてうれしいらご崎
熱田神宮御修復
磨ぎなをす鏡も清し雪の花
名古屋の人々に迎え入れられてしばらく休息するうちに、
箱根越す人も有るらし今朝の雪
ある人の会
ためつけて雪見にまかる紙子かな
いざ行かむ雪見にころぶ所まで
ある人の興行
香を探る梅に蔵見る軒端かな
この間、美濃、大垣、岐阜の風流人が訪れ来て、歌仙あるいは半歌仙など、たびたびに及ぶ。
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