明日へのヒント by シキシマ博士

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山本一力「あかね空」 家族力は逆境を越えて

2006年09月21日 00時59分43秒 | 明日のための漫画・小説
お久しぶりです。
仕事が重なってしまい、すっかり更新が滞ってしまいました。
ようやく少し余裕が戻ってきたので更新します。
その間に気分転換で少しずつ読んでいた、山本一力さんの時代小説「あかね空」。
今日読み終えました。
読み応え十分。とても充実した読後感です。

京からひとり江戸へやってきた豆腐職人・永吉は、〝京や〟を開業。
江戸の豆腐とは質の違う京豆腐を売るために苦心する永吉と、彼を取り巻く様々な人々。
やがて永吉は妻・おふみを娶り、三人の子に恵まれ、幸せな家族を築いていく。
商売は軌道に乗っていくが、それに反比例するように、子供への愛情の注ぎ方の違いが家族間の溝を深めていく。
というのが第一部。
第二部では、永吉とおふみ亡きあとの三人の子供たちが、確執の中から家族の絆を取り戻していく姿を描く。

永吉一家の確執と再生の物語。
ですが、脇を固める人物たちが皆魅力的です。
商売仇ゆえに一定の距離を保ち、けっして馴れ合うことはしないが、永吉に気づかれないように密かに幾度も手を差し伸べる先達、年長者たち。
口は荒いが、永吉亡き後の子らを和解に導く鳶職人。
義に厚く、永吉の子らを危機から救うことになる賭場の親分。
こういうのを〝粋〟というのでしょうね。
人は自分の力で苦難を乗り越えたつもりでも、じつは気づかないところで多くの人たちの人情に助けられ、支えられているのでしょう。
誠実に生きてればきっと、自分個人の思惑が及ぶよりももっと外側にそういう繋がりは常に沢山あって。

だから、語り合わなければいけない。
語り合えば、自分の考えもしなかった真実や、別の意味合いを見つけ出すことが出来るから。
そうして誤解はとかれ、溝は埋まり、絆は太くなっていく。
家族ならその大切さは尚更でしょう。
作者の山本一力さんは、それを〝家族力〟と言います。
家族だからこそ、互いを思い過ぎ傷つけてしまう。確執も生まれる。
(それは我が家にもあるし、おそらくどこにでもあることなのでしょう)
けれど、〝家族力〟を分散させず結集すれば、なによりも強い、どんな逆境も乗り越えられる力になるんだと。
何度も家族を築くことに失敗してきたという山本さんご自身が(今はそれを乗り越え夫婦の絆を築かれています)、その経験から手にした確かな真実。
この物語からは、そんな山本さんの想いが力強く伝わってきます。
第126回直木賞受賞作品。
切実なテーマを扱いながらも、常に明るい明日を予感させる傑作です。

じつは読み終わってから知ったのですが、この作品の映画制作がクランクインしているそうです。
来春公開との事。
楽しみです。


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