明日へのヒント by シキシマ博士

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楳図かずお「おろち (戦闘)」 生きるトラウマ

2006年07月03日 12時42分39秒 | 明日のための漫画・小説
皮肉なことに、映画祭の実行委員をしていると、映画を観る時間がないです。
あるいは観たのにレビュー書いてる時間がなかったり(「THE 有頂天ホテル」などもそう)。
だから、ちょっと時間が空くと漫画を読んだりします。

たしか、私が小3の時だったと思います。
ガムかなんかの包み紙を集めて応募すると、週刊少年サンデーが1ヶ月間(4冊)送られてくるというキャンペーン企画がありました(…と記憶しているのですが、古い事なので違っていてもご容赦ください)。
それが、私と漫画週刊誌との初めての出会いでした。
今となっては、どんな作品が載っていたかもほとんど忘れているのに、ちょうど楳図かずお先生の「おろち」が連載を開始した時期に重なった事だけは鮮明に覚えています。怖かったですからね。
けれども、1ヶ月過ぎるとサンデーは送られなくなり、「おろち」の続きも読めなくなってしまいました。
その後、気になっていたものの、読む機会を逸したまま長い歳月が流れました。
大人になった今、ようやくその機会を持つことができました。

物語の設定は、永遠の時を生きる謎の少女〝おろち〟を狂言回しとして、様々な人の、おどろおどろしい様々なエピソードが語られていくというもの。
基本的におろちは傍観者で、我々読者も彼女の眼を通して、事の顛末を息を殺して観察するだけです。常に緊張感を伴います。
どのエピソードも読み応えあり、36~37年前の作品という古さは感じさせません。
今回、ここで取り上げるのは、〝戦闘〟というサブタイトルのついたエピソード。
これは重いです。

中学生・岡部正は父を尊敬していた。
誰に対しても親切で、困っている人には惜しみなく物やお金を与え、見返りを求めず最善を尽くして世話をする父。
その態度は、家の中でも、誰も見ていない場所でも変わらない。
正はそんな父を尊敬していた。
…がある日、正は、片腕片足の怪しい男から「おとうさんに渡して欲しい」と風呂敷包みを渡される。
不審に感じた正が包みを解くと、中から出てきたのは人の頭蓋骨。
さらに、再び現れた男は、父の過去のおぞましい姿を語り出す。
(この時点で、その内容は読者には明かされない)
尊敬していた父の、恐ろしいもう一つの顔。正は激しく混乱し、父を軽蔑するようになる。
が、父はそれまでと変わらず親切で、誰からも信頼されている。
いったい、片腕片足の男が言ったことは何か。それは真実なのか。
その一部始終を観察してきたおろちは、ここで初めて父の心を覗き込む。
(以下、ネタバレです)

正の父は、日本軍の1人として、ガダルカナル島の激戦を経験した。
連合軍の激しい攻撃に合い、日本軍はジャングルの奥地へと敗走。
輸送も途絶え、もはや戦闘の対象は連合軍ではなく、マラリアや赤痢、そして〝飢え〟となった。
野生の豚や鳥を食い尽くした彼らは、1人また1人と死んでいく。
そして…
生き残った者が選んだ最後の手段。
しかしそれは人間性を捨てた、悪魔の選択。
それでも〝誰か〟が生き残り、この現実を日本にいる者や後世に伝えなくてはいけない。
(ここに至る描写がリアルで、兵士たちの台詞の応酬は鬼気迫ります)
最初は激しく拒んだ正の父も、けっきょく悪魔に魂を売る。
正の父は、死んだ仲間の肉を食らい、そうして生き延びることができたのだった。

この漫画が描かれた当時(昭和40年代前半)、巷にはまだ僅かに戦争の余韻が残っていたと記憶しています。
街角には、お金や物乞いをする傷痍軍人の姿が(僅かだけれど)ありました。
子供の私に全てを理解することはできなかったけれども、この国は、過去のひどい心の傷を、今も捨てられずに引き摺っているのだと感じたものです。
よく解らないけれど、世界は自分の範疇を超えた所にも繋がっていて、だから世界は自分にとってだけ都合良くは展開しない、ということを自然に受け止めることができたのだと思います。そうして〝我慢〟というのを覚えたりもしたのでしょう。
現在、平和なはずの日本で、凶悪犯罪があとを絶ちません。
現在も、多くの人がそれぞれに、心に蟠りを抱えながら生きているのでしょう。
〝おろち〟の頃のほうが、その要因の多くは時代によってもたらされた物だった為(あるいは、そう信じていた為)、他者がそれを理解し、沿う事ができたのだと思います。
皮肉だけれども、共通の〝負〟を媒介に、人は互いを理解しやすかったのだと思います。
現在のほうが引きこもってますから、自己中心になりがちですよね。

さて、父の過去をも知らされた我々読者の思考は激しく動き始めます。
こういう状況下ではやむを得ない。いや、そうまでして生きたいとは思わない。所詮は他人を踏み台にしたのだ。いや、父も苦しいのだ。正の気持ちは理解できる。父の気持ちも理解すべきだ…。

物語はこのあと、正自身が究極の場に身を置き、決断を迫られたりします。
そこで、正はどんな選択をするのか。
最終的に、正と父の確執はどうなるのか…。
興味ある方はぜひ読んでみてください。

生きていくというのは、選択の連続です。
時として、自分の正義や信念よりも優先するものの為に選択しなくてはならない事もあるでしょう。
本当は何がもっとも大事なのか、見失いたくないものですね。

あ~、昔はこんな作品が少年誌に載ってたんだね~。
なんか、凄いですね。
恐るべし、少年サンデー。
恐るべし、楳図かずお。

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