明日へのヒント by シキシマ博士

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「八日目の蝉」 儚い日々を

2012年03月06日 15時25分47秒 | 明日のための映画
日本アカデミー賞10部門制覇おめでとうございます。
脚本も演出も主演の井上真央さんも良かったですが、なんと言っても永作博美さんのあの演技があったからこそ、これだけ高く評価されてるのでしょう。
あの別れのシーンの悲痛さは、観ていて堪らない気持ちにさせられました。
(あと、私的には小池栄子さんも高く評価したい)
劇場で鑑賞した時には書くタイミングを逸してしまったレビューですが、受賞で話題になっている今こそ書こうと思います。

1985年。野々宮希和子(永作博美)は不倫相手との子を身ごもるが裏切られる。
中絶したことが原因で子供を産めない体になった希和子は、不倫相手の本妻が産んだ子・恵理菜を誘拐。
薫という名を付け、逮捕されるまでの4年間、逃亡生活をしながら我が子として育てる。
それから17年。実の両親との折り合いが悪く、心を閉ざしたまま成長した恵理菜=薫(井上真央)。
ある日、ルポラーターだという女性・千草(小池栄子)が、あの誘拐事件について聴きたいと近づいてくる…
(監督:成島出 2011年制作 147分)


事の発端は希和子自身の身勝手さだし、その行為は犯罪だ。そんな奴に肩入れする話には共感できない。
と言う人がたまにいますが、そういう人はよぽど幸福で安定した毎日を送られているのでしょう。
大抵の人間は、犯罪とまではいかなくても、矛盾や不条理を抱えながら生きているものだし、それは希和子や恵理菜(薫)や千草の抱えるそれと、丸っきり別次元のものではない筈。
許されない犯罪行為に走ってしまうか思い留まるかは、ちょっとしたことで決まってしまうのだと思います。
育った環境だとか友人だとか。希和子はそういったものに私たちより恵まれていなかっただけかも知れません。
だから、この映画を犯罪の部分にこだわって観ると、大事なことを見落とします。

私ごとですが、昨年の秋に母が亡くなったあと、最初に劇場で観たのがこの映画でした。(原発事故による計画停電などのせいで、私が観た劇場では一般より遅く公開された)
希和子の気持ちに自分の気持ちが重なり、堪らない気持ちになりました。
70歳の時に脳梗塞を患った母は、その後15年間を右半身が不自由な体で過ごしました。
とりわけ、膵臓癌が見つかってから死亡するまでの数か月間、私たち家族は世間一般とは少し違う環境にいた気がします。
その頃のことが、希和子と薫との関係やそれが終わってしまうことの切なさとダブり、我がことのように感じられたのです。
そう遠くない時期に終わりを迎えるこの儚い毎日が、母にとって少しでも有意義であるように、そんな願いを抱きながら過ごした日々でした。

そして、終わりの日は訪れます。
たぶん、希和子にはホッとした気持ちもあったのではないでしょうか。
この特殊な状況を長く続けることが薫にとって良くないのは分かっていたでしょうから。
私も母の介護をしながら思ったものです。このままが続くのは母にとっても私たちにとっても良くないと。
矛盾しているんですが、「一日でも長く」と「このままで良いのか?」が同居してる感じでした。希和子もたぶん、漠然とそう感じてたと思います。

映画は、21歳になった恵理菜(薫)が、それまで封印していた過去を解き明かしていく姿も、平行して描かれます。
自分の人生を、そして家庭を壊した憎むべき女とかつて暮らした小豆島。
そこで本当は自分はどう育てられていたのか。
希和子はどんな気持ちであの日々を過ごしていたのか。
恵理菜(薫)は思い出す。
二人が引き離されたあの日のこと。
そう、確かに自分は愛されていたのだ。
母親としての限りない愛情を、希和子は自分一人だけに注いでくれていたのだ。

NHKのドラマ版では描かれた希和子のその後を、この映画では見せないまま終わります。
この判断は正しいと思います。
恵理菜(薫)には〝愛された〟という記憶が今も消えずに残っているのだから、それがこれからを生きる糧になる。
そしてたぶん希和子も、〝愛した〟という記憶を忘れなければ、きっとどこかで生きていける筈。
それで充分でしょう。

人は取り返しのつかない間違いを犯す。
でも、その中に真実があるなら、その真実がいつかどこかで新たな希望を生み出すことがあって良い。
希和子が薫に与えた愛のように。

たぶん、私自身も母との思い出を少しずつ失っていくことでしょう。
でも、私の精神や生き方に、母の影響はずっと消えずに残る。それで充分でしょう。
母親の存在っていうのは居なくなったくらいで簡単には消えない。凄いものですよ。

それにしても、永作博美さん、素晴らしい演技でした。


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2 コメント

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Unknown (けん)
2012-03-07 13:39:36
TBさせていただきました。
またよろしくです♪
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>けんさん (シキシマ博士)
2012-03-09 00:07:39
ありがとうございます。
この映画の感動を共有できて光栄です。
こちらからもTBさせていただきました。
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