ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

自治事務と法定受託事務との区別について、気になる記述

2022年08月18日 00時00分00秒 | 法律学

 公表された時期が時期なので今更という感じは拭えませんが、自治実務セミナー2021年1月号に掲載されている「私と地方自治—松本英昭氏に聞く」という記事に、自治事務と法定受託事務との区別に関して気になる記述がありました。

 聞き手の鎌田司氏が「自治事務と法定受託事務という仕分けは地方自治法(昭和22年法律67号)の別表に書かれていますが、今後見直しが必要になっていくでしょうか。(中略)地方の側から見れば、自由度の拡大という面について考えてみても、思い描いたとおりになっていないところがあるのではないでしょうか。あれから20年たちますが、この法定受託事務を自治事務に変えるとか、自由度を拡大するという議論は、あまりない様子ですが」と問います。

 これに対し、松本英昭氏は、おそらくは自治事務次官を務められた経験に由来するものと思われますが、次のように答えています。

 「それはあっていいと思います。(中略)役割分担原則というものをつくっていかないと、逆に吸い上げられてしまうのですよ。地方の自由度を拡大しようと思っても、それだけでは、なかなか進まないのです。」

 「私は自治事務も法定受託事務も、どちらも合わせて自治事務でよい、という考えなのです。自治事務の中で、性格の違ったものがあるから、全体的な視点からの役割分担原則が必要という考えです。」

 「やはり全体を自治事務にして、その中に性格の違うものがあるという形で整理した方がよいのではないか、と思いますね。自治事務というのは、”自治体事務”ですからね。」

 ここで、自治事務および法定受託事務について記しておきましょう。

 まず、自治事務とは、地方自治法第2条第8項によって法定受託事務でない事務と定義されるものです。

 これに対し、法定受託事務とは、同第9項により、第1号法定受託事務(法律またはこれに基づく政令によって地方公共団体が処理すべきものとされているが、本来は国が果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理をとくに確保する必要があるとして、とくに法律またはこれに基づく政令に定められるもの。別表第一に列挙される)と、第2号法定受託事務(法律またはこれに基づく政令によって市町村または特別区が処理すべきものとされているが、本来は都道府県が果たすべき役割に係るものであって、都道府県においてその適正な処理をとくに確保する必要があるとして、とくに法律またはこれに基づく政令に定められるもの。別表第二に列挙される)とに分けられています。

 両者の区別は、国または都道府県による都道府県または市町村への関与の仕方などによるものと考えていただければよいでしょう。しかし、基準の曖昧さもあってか、両者の相違は今ひとつわかりにくく、それが法定受託事務の拡大につながっているというような指摘を生むことにもなるのでしょう。

 国と地方との役割分担については、地方自治法第1条の2に明示されています。これについて、松本氏は、この規定に示されるところが「確かに大原則としてありますが、それだと、広すぎますよね。その中身を、性質や目的に鑑みて整理する必要があるということです」と述べます。これを受けて鎌田氏が「これは本来は、第二次地方分権改革で検討されるべきことだったのかな、と思いますけれども」と発言すると、松本氏は「そうですね、私も期待していたのですが、第二次地方分権改革では残念ながら、その議論が深まらなかったようですね」と受けます。

 なるほど、と思いました。地方分権改革推進委員会の勧告を読み返しても、役割分担原則の十分な深化が見られる訳でもなく、むしろ或る段階から地方公共団体間の格差(とくに財源なり財政力なりについての)が強調されるようになり、地方分権改革は中途半端な形で実質的に終了させられたと考えられるのです。

 まだ十分な検証をした訳でもないのですが、地方自治総合研究所の地方自治立法動向研究会において地方税財政法を見続けている私は、地方分権と地方創生との間に一種の断絶を目にせざるをえないという実感を得ています。役割分担原則の深化がなかったために、例えば地方法人税法や森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律に見られるように、国から地方への税源移譲ではなく、地方から国への税源移譲(これを逆移譲ということがあります)が行われたとも考えられるのです。


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