ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

宗谷本線と石北本線は維持される方向、しかし札沼線は……

2018年02月05日 23時27分54秒 | 社会・経済

 朝日新聞北海道版の不定期連載に「岐路の鉄路」があります。インターネットで読めるので、私は印刷してスクラップブック(といってもA4版の大学ノート)に貼り付けています。

 今日(2月5日)の11時24分付で「岐路の鉄路:宗谷線と石北線『維持』」という記事が掲載されました(https://www.asahi.com/articles/CMTW1802050100008.html)。この記事には「札沼線はバス転換視野 フォローアップ会議、最終報告素案」という小見出し(?)も付されていますし、JR北海道単独では維持困難とされる路線・区間の図も掲載されています。そこで、あくまでも現段階における方向性ということで、見ておきましょう。

 北海道には「鉄道ネットワーク・ワーキングチームフォローアップ会議」(以下「会議」)が置かれており、「会議」が最終報告をまとめるのですが、その素案が記事の見出しにも示されている訳です。

 かつての夕張線でもある石勝線夕張支線は、既に廃止ということで夕張市とJR北海道が合意しています。そのため、残る12路線・区間が問題となりますが、宗谷本線と石北本線はJR北海道が「独力で維持するよう求める」ということのようです。それが難しいから縮小(つまり部分廃止)または廃線の議論が起こっているのですが、「会議」はJR北海道に対して「沿線自治体の負担」を充てにしないように求める、ということなのでしょう。理由としては、この2路線が北海道の「骨格を構成する幹線ネットワーク」であり、宗谷本線については「ロシア極東地域との交流拡大の役割」(このように表現されていますが、国防の観点も含まれているのでしょう)、石北本線については「農産物の物流などに必要」ということがあげられているようです。たしかに、宗谷本線は旭川から稚内までの路線ですから役割の意味はよくわかります。但し、同じことは根室本線の釧路から根室までの部分(花咲線という通称があります)についても言えます。また、石北本線(新旭川から網走まで)は玉葱コンテナ貨物列車でも有名ですから、貨物輸送の意義はあるでしょう。ただ、両路線とも旅客輸送は弱く、21世紀に入ってからいくつかの駅が廃止されていますし、本数も少なくなっています。JR北海道に維持するだけの体力があるかどうかは疑問です。

 宗谷本線と石北本線は維持の方向性ということですが、これが重要度に関する最高の評価ということです。これを含めて評価は5段階になっています。

 次の評価は「維持に最大限努めていく」というもので、該当するのは根室本線のうちの花咲線と、釧網本線(東釧路から網走まで)、富良野線(旭川から富良野まで)です。これらの路線については「地域の負担も含めて検討・協議」としていますが「観光路線としての可能性などを認める」ということでもあるようです。ただ、先に記したように、花咲線もロシア極東地域との交流(+国防の観点)という点では重要でしょう。地方自治法施行令附則第6条は「地方自治法附則第10条第1項の事務のうち陸軍の軍人軍属であつた者に関するもので樺太に関するものは北海道、朝鮮及び台湾に関するものは福岡県においてこれを処理しなければならない」と定めており、北方領土問題等の解決の促進のための特別措置に関する法律第11条第1項は「当分の間、北方地域(歯舞群島を除く。以下この条において同じ。)に本籍を有する者についての戸籍事務は、他の法令の規定にかかわらず、法務大臣が北方領土隣接地域の市又は町の長のうちから指名した者が管掌する」と定めています。指定されているのは根室市長なのです。つまり、根室市長が、歯舞群島(根室市)、色丹島(色丹郡色丹村)、国後島(国後郡泊村および留夜別村)、択捉島(択捉郡留別村、紗那郡紗那村および蘂取郡蘂取村)の戸籍事務を管掌するのです。

 続いて「維持に努めていく」という評価です。該当するのは、根室本線のうちの滝川から富良野までの区間、室蘭本線のうちの沼ノ端から岩見沢までの区間、および日高本線のうちの苫小牧から鵡川までの区間です。これらについては「『代替手段の確保状況』も検討するよう」に求めていくようです。何とも微妙な表現です。

 続いて、記事の表現を借りるならば「他の交通機関の代替を含め、最適な交通ネットワークの確保を目指して検討・協議するのが望ましい」という評価です。該当するのは、根室本線のうちの富良野から新得までの区間、留萌本線(深川から留萌まで)、日高本線のうちの鵡川から様似までの区間です。これもわかったようなわからないような表現ですが、廃止という方向性でしょう。日高本線の鵡川から様似までの区間は、2015年1月以降の高波や豪雨などによる被害によって長期運休が続いており、JR北海道が復旧を断念しています。留萌本線も、2016年12月に留萌から様似までの区間が廃止されてから、本線を名乗る路線としては最短であり、輸送人員の面でも本線とは名ばかりの存在です。

 そして最後の「バス転換も視野に地域協議を進めるのが適当」という評価です。該当するのは、札沼線のうちの北海道医療大学から新十津川までの区間です。やはりと言うべきでしょう。浦臼から新十津川までは午前中に一往復のみという、公共交通機関の役割が放棄されているとしか言いようがない本数です。北海道医療大学から浦臼までの区間でも通しで6往復しかありません。

 また、この札沼線くらい、区間によって極端な差異がある路線は珍しいでしょう。札幌から北海道医療大学まで(正確には桑園から北海道医療大学まで)は学園都市線という愛称の下、1980年代から飛躍的に利用者数を増やし、非電化時代に一部複線化が行われ、さらに電化も行われました。この区間だけなら地方交通線ではなく幹線と位置づけられてもよいくらいでしょう。ところが、残りの区間は超閑散路線なのです。そもそも、札沼線という名称は、札幌から石狩沼田までを結ぶ路線であるということで付けられたのですが、新十津川から石狩沼田までの区間は1972年に廃止されており、既に名称と実態が合わなくなっていました。そのために学園都市線という愛称が用いられている訳ですが、この愛称を正式名称にするなどして、路線名を変えるべきでしょう。

 以上のようにまとめられよう、ということでありますが、この通りになるかどうかはまだわかりません。当初は3日に公表される予定であったとのことですから、まだ紆余曲折はあるでしょうか。

 それにしても、全国新幹線整備計画とは一体何なのでしょうか。上記は、北海道新幹線に絡んでくるのです。現在は新函館北斗駅までですが、2030年には札幌駅まで延伸することが予定されています。しかし、その札幌駅での北海道新幹線のホーム設置場所についてもまだ決まっていません。それどころか、現在でも4時間の壁を崩すことはできず、北海道新幹線の状況もよくありませんから、札幌まで北海道新幹線が延伸しても、よほどのことがなければ東京から札幌まで4時間を切ることはできません。これは、青函トンネルで貨物輸送も行わなければならないという事情によるところが大きいのですが、既に航空便によってかなり多くの需要を充たしていると考えられる区間について新幹線を通す意味が薄れているということも意味するのでしょう。新千歳空港を中心として交通網を再編するほうがよほど有意義ではないかと思われるほどです(もとより、これも大変な費用がかかりますが)。また、新幹線によって在来線のネットワークがズタズタにされているのは、北陸新幹線の例をみればわかる通りです。それでも新幹線の建設を望む地方があるというのですから、どうしようもありません。建主改従か改主建従かという、明治時代から大正時代にかけての論争を想起させます。

 大きく脇道に逸れてしまいましたが、JR北海道の問題は、単に北海道だけの問題と言うに留まらず、日本全体に関わる問題として考えるべきでしょう。実際に、九州でも似たような問題が生じています。


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