ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

公立化か閉校か

2024年04月17日 14時00分00秒 | 国際・政治

 千葉科学大学の公立化の話が浮上したのは2023年10月1日です。これは、千葉科学大学の側から銚子市に出された要望でした。このブログでも2024年2月2日0時0分付で「千葉科学大学の公立化は難航することに」として取り上げましたが、その続きというべき内容になります。読売新聞社が、2024年4月16日の16時54分付で「千葉で大学運営する加計学園『公立化無理なら撤退』…検討委の委員『我々の議論に圧力』『聞き違いかと思った』」として報じています(https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20240416-OYT1T50064/)。

 4月14日に、銚子市で公立大学法人化検討委員会の第1回会合が開かれました。当初は1月に開催されるはずでしたが、詳しい事情がわからないものの、上記読売新聞社記事によれば「市と加計学園の事前協議が整わず、1月予定の開催がずれ込んでいた」とのことです。

 検討委員会のメンバーは10人で、学識経験者や経済界代表などから構成されています。銚子市のサイトに千葉科学大学法人化検討委員会のページがあり、14日の会合は公開で行われていました。また、千葉科学大学法人化検討委員会のページには資料3として「千葉科学大学公立大学法人化検討委員会スケジュール(案)」が掲載されており、次のような予定が書かれていました。

 第1回(4月14日):千葉科学大学の公立大学法人化に関する要望について/千葉科学大学の現状とこれまでの取組について/今後の検討委員会の進め方について

 第2回(5月12日):千葉科学大学を取り巻く環境について/千葉科学大学誘致の検証について

 第3回(6月30日):他の公立大学の運営状況について/公立大学法人による運営の可能性について

 第4回(7月中に予定):これまでの議論の総括/最終とりまとめ案の審議

 第5回(8月中に予定):最終とりまとめ

 検討委員会の委員には千葉科学大学関係者、つまり加計学園関係者が入っていませんが、当事者ということで第1回の会合に参加していました。そこで、加計学園側は次のように説明したとのことです。

 (1)2022年度までに公立化した11の大学の全てで、2022年度の入学者数が定員が上回った。公立化することによって「授業料が引き下げられ、大学のブランド力が上がり、学生が集まる」。千葉科学大学についても「公立化すれば、30年度には8億円超の黒字を確保できる」。

 (2)千葉科学大学では定員割れが続いており、収支は2022年度まで7年連続の赤字となっており、公立化がなされなかったら学生募集を停止し、在学生の全員が卒業したら閉校する(記事では「撤退」と書かれています)

 まず、(1)についてですが、検討委員会の資料6-2「千葉科学大学の現状とこれまでの取り組み(2) - 銚子市と共に歩む大学、千葉科学大学-」(千葉科学大学が提出)には次のように書かれています。

 「5.公立化の意義

 ▷公立大学になることで、ブランド力が高まり、地域からだけでなく全国から入学志願者の応募が期待できる。 また、銚子市のブランド力の向上に貢献できる。

 ▷銚子市の政策や地域の要請に応えた教育プログラムの見直しやコースの設定、大学院研究科の充実、地域を志向した 「地育地就」の推進などにより、地域の発展に貢献できる人材育成や産官学金連携を強化することができる。

 ▷地域の特色を生かした魅力ある教育・研究プログラムを提供することで、地域の優秀な人材の流出を抑制するとともに、 市域外から銚子市への若者の流入や定着が期待でき、地域経済規模の拡大や活気ある街づくりに貢献できる。

 ▷銚子市と千葉科学大学が一体となることで、市のシンクタンクとしての機能をさらに果たすことができるようになると ともに、学生による地域における社会貢献活動の強化など、学生による主体的な街づくりへの参画が期待できる。

 6.公立化した場合の運営の考え方

 ・公立大学法人となった場合は、総務省から設置者である銚子市に地方交付税が交付され、銚子市から大学に運営費交付金(定員充足した場合約28億円)の交付が見込める。

 ・公立化後は、授業料等の学生納付金と運営費交付金を主要な財源として運営するが、教員の教育研究力の強化により、 外部資金の獲得に努める。

 ・私立大学より低額の授業料設定により、従前の奨学制度は概ね廃止とするが、地域限定の奨学制度については内容を見直し継続する。

 ・学生確保により収容定員を充足させることによって収入増が見込まれ、安定経営(黒字経営)により財政基盤の確立を図ることができる。」

 しかし、公立化のメリットの根拠がほとんど示されておらず(別の資料も参照しましたが、公立化によって入学検定料、入学金、授業料がどうなるのかということが書かれているものの、どのような理由によってそうなるのかということは示されていません)、検討委員会の委員から疑問が出されました。公立化をしたからといって直ちに学生数を確保できるとは考えられず、加計学園側の努力(定員減、学部再編など)を求める意見が出てもおかしくはありません〔但し、これまでいくつかの学科や専攻(大学院)の募集停止が行われていました〕。また、千葉科学大学の場合、2023年度における薬学部の定員充足率が36%、危機管理学部が51%、看護学部が44%となっており、委員からは原因についての分析を求める声が出ました(「ここまで(入学定員充足率が)下がるのは見たことがない」という指摘がなされたそうです)。

 さらに、上記読売新聞社記事には「校舎などの老朽化に伴う将来の修繕、建て替え費用の確保についても、懸念の声が出た。『大学の資産はどれくらいあるのか。その情報がないと議論にならない』として、加計学園に貸借対照表などの財務資料や、修繕費の将来試算を提出するよう求めた」と書かれています。千葉科学大学が提出した資料には「大学・学部設置に伴う銚子市及び加計学園の支出額」というページがあり、「千葉科学大学 資金収支計算書」には2004年度から2022年度までの収支が図示されているのですが、「貸借対照表などの財務資料」や「修繕費の将来試算」は示されていません。

 次に(2)についてです。これまで私立大学から公立化された大学としては、このブログでも取り上げた福知山公立大学(公立化前は成美大学)、高知工科大学などがあります。それぞれの事情について私は存じませんし、論文ではなくブログ記事に過ぎませんからここで調べた後に書くつもりもありませんが、私立大学側が「公立化が無理なら撤退」という趣旨の発言をした例はあったのでしょうか。

 4月14日の会合では、千葉科学大学、つまり加計学園は明確に「公立化が無理なら撤退」を述べたそうです。やはりというべきか、委員からは不快感が示されたそうですし、委員長も「我々の議論を制約する」と述べたそうです。ただ、加計学園の態度はかなり明確にされたとも評価できます。公立化であれ閉校であれ、加計学園が千葉科学大学から手を引く意向であることは明らかです。ここは銚子市の態度如何によると言えます。

 ただ、銚子市としても、公立化にそう簡単に手を出すこともできないでしょう。さりとて、千葉科学大学の閉校後の跡地利用も頭を悩ませる問題です。他の大学との合併という選択肢もあるとは思うのですが、現実的、非現実的のどちらでしょうか。

 4月16日には高岡法科大学の募集停止も報じられました。同大学については公立化の動きなどがなかったようです。

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