以前から存廃の岐路に立たされていることは知っていました。記事を読んだ時には「ついに決めたか」と思いました。毎日新聞社が、今日の2時30分付で「近鉄:内部線・八王子線の鉄路廃止、跡地にバス運行 三重」(http://mainichi.jp/select/news/20120822k0000m040141000c.html)として報じています。
三重県は、今から7年前に近鉄大阪線・名古屋線の特急で通過しただけであるため、詳しいことを知りません。ただ、桑名駅に近い西桑名(桑名市)からいなべ市の阿下喜まで三岐鉄道北勢線が営業していること、四日市市の中心駅である近鉄四日市から同じ市内の内部(うつべ)まで近鉄内部線が営業していること、内部線の途中駅である日永から西日野まで近鉄八王子線が営業していることは知っています。
この3つの路線の共通点は、近鉄が言うところの特殊狭軌線で、レールの幅が762ミリメートルしかないということです(ちなみに、北勢線もかつては近鉄が運営していました)。いわゆる軽便鉄道というもので、第二次世界大戦前には全国各地で見られたものの、バスなどとの競争に敗北して次々に廃止され、高度経済成長期にはほとんど見られなくなりました。現在、工事用軌道などの特殊な用途を除けば、上記3路線以外には富山県の黒部峡谷鉄道しかありません。ただ、黒部峡谷鉄道は観光と関西電力の物資輸送のための鉄道で、通勤通学路線とは言い難いのです。
北勢線も廃止の危機にさらされ、結局は三岐鉄道が引き受けて存続したのですが、次に内部線と八王子線が存廃問題の渦中に入ることは予想されていました。このところ、近鉄も合理化、ダウンサイジングに取り組んでいるようで、特急の本数を減らしたりしています。それに、1974年、水害のために八王子線の西日野~伊勢八王子が運休となり、2年後に廃止されていますが、この時にも近鉄は八王子線の廃止を打ち出していました。そのため、少なくとも八王子線に関しては二度またはそれ以上の危機に直面していることになります。
そもそも、内部線と八王子線が何故に軽便鉄道のまま残されてきたかという問題があります。線路の幅が狭いのでは速度も出ませんし、吊り掛け駆動のうるさいモーター音を出す電車しか走れません。鉄道ファンならこういう音を好むでしょうが、普通の乗客ならただの不快な騒音でしかありません。また、線路の幅が狭いことから車体も小さくせざるをえず、冷房化も難しいという問題も無視できません。
内部線、八王子線、そして三岐鉄道に移された北勢線のいずれも、最初から近鉄の路線であった訳ではありません。1965年に三重電気鉄道が近鉄に合併され、内部線、八王子線、北勢線も近鉄の路線となったのです。
近鉄は営業キロ数が500キロメートルを超えます。大手私鉄でもトップの営業キロ数です。そのため、よく日本一の私鉄と評されます。しかし、これは営業距離だけの話です。たとえば、会社の資本金で比較をするならば、大手私鉄で最大の会社は東京急行電鉄(東急)で、平成23年3月末日現在で1217億2400万円です。1000億円を超えるという鉄道会社は東急くらいで、営業距離でなら東急の5倍を超える大きさをもつ近鉄の資本金は、平成24年3月末日現在で927億4100万円となっています。1年間の違いはあるものの、資本金が1年間で大きく変動するということはあまりないので、資本金で行けば近鉄のほうが東急より少ないことが明らかです。敢えて単純化して記すならば、近鉄は資本力の割に過大とも言える路線網を抱えているとも評価できます。
また、近鉄の営業距離が大手私鉄最大であるから年間輸送人員も最大である、というのであれば、近鉄が日本一の私鉄という評価も理解できるのですが、そうなっていません。日本民営鉄道協会が発表している数字を参照すると、平成23年3月現在での近鉄の年間輸送人員は5億7352万2千人です。他の大手私鉄と比較してみましょう。以下は、多いほうから順番に示しています。
(1)東京地下鉄(東京メトロ):23億219万7千人
(2)東急:10億6259万人
(3)東武:8億6308万7千人
(4)小田急:7億1040万5千人
(5)阪急:6億323万3千人
(6)京王:6億2543万9千人
(7)西武:6億1777万1千人
(8)近鉄:5億7352万2千人
(9)京急:4億3735万1千人
(10)名鉄:3億4038万6千人
(11)京阪:2億8059万9千人
(12)京成:2億5880万8千人
(13)相鉄:2億2757万7千人
(14)南海:2億2606万5千人
(15)阪神:2億520万2千人
(16)西鉄:9909万7千人
旅客輸送人キロの面なども見なければ正確なことがわからないかもしれませんが、営業距離との関係を考えるならば年間輸送人員の数で十分でしょう。近鉄の次に営業距離が長い東武が年間輸送人員で3位に入っていることからしても、近鉄の数字は高くないと言わざるをえません。そして、この輸送人員数を大阪線、奈良線、名古屋線、京都線、南大阪線などの主要路線で稼いでいると考えると、支線区は乗客が少なく、経費ばかりかかる路線となっていることも、想像に難くありません。現に、2011年の秋から、吉野線の無人駅が増えています。資本力を考え合わせると、とてもローカル線に手を回せるような状況ではないのかもしれません。大阪線と名古屋線の特急も減便されているくらいなのです。
内部線と八王子線は、三重県で最も人口の多い四日市市内を走ります。しかし、存廃問題が浮上しているのですから、乗客が少なく、経費がかかっていることは簡単に推測できます。軽便鉄道では、他の都道府県に同じような私鉄が存在しない(黒部峡谷鉄道は特殊な例なので、ここでは除外します)ことからすれば、仮に伊賀線や養老線(奇しくも、この両線も三重県の路線です。養老線は岐阜県も通ります)のように分社するとしても、他の会社から中古の車両を購入して走らせるという訳にもいきません。
こうなると、現在のままでは内部線も八王子線も生き残ることはできません。或る意味で、近鉄の路線であったからこそ、現在まで維持されてきたとも言えます。しかし、今後は、近鉄のダウンサイジングの第一候補として廃止される可能性が高まっている訳です。四日市市に行ったことがないのでよくわからないのですが、自動車社会でもあるのでしょうか。
近鉄が打ち出しているBRT化は、現実的な方向と言えます。しかし、BRTも決して万能ではありません。単線の幅のまま、バスの専用道路にするということになると、バス同士の離合が問題となります。どこでもできる訳ではないからです。そうなると、本数が限定されるだけでなく、所要時間も延びるかもしれません。ダイヤの設定が鍵になるでしょう。
他に考えられるのは、たとえば改軌です。近鉄四日市駅から湯の山温泉に伸びる湯の山線も、元々は軽便鉄道でしたが、近鉄名古屋線と同じ標準軌に改められています。ただ、内部線と八王子線の改軌を近鉄が行うとは考えにくいので、可能性は低いでしょう。
そうなると、分社化、他の私鉄への譲渡、第三セクターといったところが考えられます。分社化は、伊賀線→伊賀鉄道、養老線→養老鉄道という例がありますし、他の私鉄への譲渡は北勢線の例があります。ただ、分社化は一時しのぎに終わる可能性がないと言い切れない点に問題があります。また、他の私鉄への譲渡の場合は、受け皿となる会社が必要ですが、また三岐鉄道に引き受けさせるという訳にもいかないでしょう。三重交通でしょうか。しかし、内部線、八王子線は三重交通の路線であったところ、三重交通から三重電鉄に分社され、そして近鉄に合併されたという経緯を持っています。三重交通によほどの余裕がない限り、再び内部線および八王子線の運営主体になるとも思えません。第三セクター化も、他の地域の例も合わせると黒字化するほうが難しいくらいですし、まして軽便鉄道なので、これまで以上に慎重な検討が必要でしょう。第三セクター鉄道の中には、かなり安直なものとしか思えないような例もあるくらいですので、正直に記せば、あまり賛同できないのです。
四日市という場所を考えると、観光鉄道にするというのも現実的でないような気もします。そうなると、存続の道を考えるのは難しいかもしれません。
四日市のような都市規模では既存の交通システムを改良するのがもっとも効率的です。ニブロクに一番適していたからこそ、今日まで存続したのです。新たなニブロクを、四日市から創造する時だと思います。
西日野駅は、たしか、部分廃線の後に移転して駅舎も建て直したのですよね。それから全く手を入れていないのでしょうか。昔の国鉄の駅のトイレのような有様なのでしょうか。それに、車両から雨漏りがするというのは、大手私鉄の近鉄の路線らしからぬ話です。実のところ、これまで聞いたことがありません。内部線で使用されている260系は1980年代に製造されているとのことなので(もっとも、完全な新造ではなく、改造車らしいですが)、30年ほど経ってそろそろ老朽化が進む頃とは思うのですが、全く手を打ってもいないのか、あるいは車両を整備していないのか、と首を傾げる人も少なくないでしょう。
えちぜん鉄道は、たしかに一つの見本でしょう。元は京福電鉄の福井の部分でしたが、京福時代の末期は二度も正面衝突事故を起こし、挙げ句の果てにあっさり放棄するなど、責任感の欠如を疑わせるような有様とも言えました(書き過ぎかもしれません)。分離独立して正解だったでしょう。
但し、成功例に学ぶことには注意が必要です。日本では成功例があると安易に真似る傾向が強いのですが、様々な条件が重なっているから成功したのですから、じっくり検討することが必要です。
もう一つ、近鉄や名鉄ではICカードを導入しているのに使用できない路線があるという話があります。内部線と八王子線もそうで、PiTaPaを使うことができないそうですね。これは考えもので、ワンマン運転の路線こそ、ICカードの利便性が発揮されるのではないでしょうか。
雨、風で運休とお書きになられていますが、どの程度の雨や風で運休となるのでしょうか。軽便なので、近鉄名古屋線やJR関西本線よりも雨や風には弱いとも思えます。ただ、この点については北勢線の事例が参考になるかもしれません。高速化は三岐鉄道になってから始められています。
お話をうかがっている限りでは、内部線、八王子線の両方が近鉄から分離され、えちぜん鉄道や万葉線、和歌山鐵道のような道をたどるほうがよいのかもしれません。
今年中に内部線と八王子線に乗ってみようと思っています。
内部八王子線をバス専用道化すれば、当然に既存の三交バスが打撃を受けるでしょう。鉄道とバスがそれぞれの領域を受け持ち、名古屋と四日市市内の行先で住み分けしていた公共交通機関は再編、というよりも破綻を招きかねません。
昨日、たまたま或る本かサイトを見ていて、BRTが別に目新しいものでも何でもないことに気づきました。かつての国鉄バスが例として存在したのです。詳しいことは別記事を作成した上での述べたいと思うのですが、とりあえず記しておくと、福島県の白棚(はくほう)線、奈良県の阪本線は、バス専用道を利用した代表的な例です。このうち、白棚線は現在もJRバス関東の路線として残っていますが、阪本線は既に西日本JRバスの手を離れ、奈良交通の路線となっています。しかし、本数は減少する一方だそうで、廃止は時間の問題でしょう。
阪本線の場合、バス専用道路と言っても、元々が鉄道線のため、しかもローカル線のために建設された所であるため、道路としても一車線分しかなく、途中に交換場所などを設けていたようです(これも駅予定地の転用です)。そのため、離合をしなければならないなどの、不便な点も多いようです。近くの国道が整備されると、そちらのほうを通るバスに客が流れたとも言われています。
内部線と八王子線も、バス専用道路にするとなれば、こうした問題点が生じるでしょう。また、専用道の場合は一般の自動車の乗り入れを防がなければなりませんが、どこまで徹底できるかが難しいところです。
京急大師線と言えば、川崎市内で初の、いや、関東地方で初の電車路線にして京浜急行のルーツです。
利用者側の立場ではJR駅への利便性を増してほしいのです。内部線を三セク化し、中央通りの分離帯を使ってJR駅まで新線敷設するのが望ましいのですが。四日市市が私企業の損失にまで面倒見きれないと言う現状では困難でしょうね。
四日市と言えば、かつて、近鉄名古屋線もJR四日市駅に乗り入れていましたよね? 善光寺カーブなどがあって線形が悪く、スピードが出ないなどの問題があって、近鉄四日市駅を新設してそちらに線路を移したと記憶しています。その際、内部線と八王子線がどのようになったのかまではわかりませんが。
内部線と八王子線をJR四日市駅に延長する、あるいは線路を付け替えるというのは、一つの将来像として考えておくべきことかもしれません。土地の取得という問題さえクリアすれば、両線の活用につながります。あるいは、線路の幅からすると苦しいのですが(だから場合によっては改軌が必要ですが)、近鉄四日市~JR四日市をLRT化するということも考えられるでしょう。
結論的に記すと、内部線・八王子線を残すのであれば、 第三セクター化、あるいは岡山電気軌道のような会社が出ることを期待して和歌山鉄道のような形態にする、という方法しかないと思っています。ただ、第三セクターというと、これで成功した例があまりないだけに、四日市市も三重県も手を出さないような気がします。以前、何かの調査を読んだのですが、第三セクター鉄道で成績が良いのは、JRの特急が走るために線路使用料の収入を期待できるようなところばかりでした。北越急行、智頭急行、伊勢鉄道といったところです。内部線、八王子線の両線は、とてもJR特急の走行など期待できないのが痛いところでしょうか。バスより鉄道のほうが利便性が高いというところを見せ付けなければなりません。
以下、余談を記します。
非難されることもお叱りを受けることも炎上することも覚悟をしています。
関東に生まれ育ち、国鉄→JRや東急をよく利用してきた私は、小学生時代から、関西の私鉄は、良く言えば競争意識が強いけれども、悪く言えば国鉄→JRと同じような所を走り、重複していて無駄な路線網であると思っていました。阪急の京都本線、神戸本線、宝塚本線、阪神の本線、山陽電鉄の本線、京阪の京津線が代表的な例です。国鉄時代は私鉄が勝っていましたが(山陽電鉄本線の場合は国鉄線より劣位にありましたが)、JRになってから劇的なほどの乗客減です。これは当然のことであると思っています。
以上のことは、まず、1995年1月17日の阪神淡路大震災で実感されたのではないでしょうか。一番早く回復したのがJR線で、たしか阪神本線は最も遅れました。また、阪急伊丹線の衰退も明確になりました。
もう一つ、 あの痛ましいJR福知山線(JR宝塚線の部分)の大事故をあげておきましょう。あの事件で、阪急宝塚線の凋落が改めて浮き彫りにされました。これで阪急宝塚線の優位性が回復されるかと思いきや、そうならなかったというところに、関西の私鉄の路線網自体が抱える問題点があると思われます。関東の私鉄は、一部を除けば国鉄→JRの路線網を補うようにつくられていますが、関西の私鉄の場合はそうなっていないというところが多いのですから。
まず、第一に近鉄及びグル-プの三重交通での存続は
不可能でしょう。まず市電化(四日市CATV方式)による
第3セクタ-がまず最善の策でしょう。その後移行後に
八王子線を中央通を使いまずJR四日市まで延伸します。
(路線は軽便軌道のまま=理由は観光路線化)
内部線は一部路線変更と改軌を行う
(路線変更=南日永-芝田交差点間=市道上)
(路線延伸=内部-JR河曲駅間=采女ヶ丘中央通上)
(改軌=JR規格)
これが第一段階
第二段階:車社会の一部規制施策(高齢化対策及び温暖化対策)
第三段階:内部線のJR関西線に乗り入れ(出きれば上野あたりまで)
八王子線の復活(四郷高校まで)
近鉄四日市-(中央通)-市立病院まで)
JR四日市-(現四日市港線)-四日市港まで 各々延伸
最後に 近鉄湯ノ山線の市電化(四日市-桜間だけでも)
四日市市のやる気がすべて発展か衰退の分かれ目に今あるのでは
ないでしょうか?この案を参考にしてください。
少子高齢化の今日欧州型の車から鉄道への方向転換が必要でしょう。
鉄道関係ではまだ例がないのですが、第三セクターについては住民訴訟がいくつか起こりました。交通関係で一つ例をあげると、下関市の日韓高速船を運航していた第三セクターが破綻したことについて、その処理のために補助金を支出したことが地方自治法に違反するとして争われたのです。山口地方裁判所は下関市が支出した補助金のすべてを違法と判断し、広島高等裁判所は、補助金の一部を違法と判断しました。最高裁判所はすべてを違法でないと判断しましたが、このような訴訟が起こされること自体に、第三セクターの問題点があるように感じられます。
〔なお、この訴訟については、http://kraft.cside3.jp/hanrei-kaisetsu4.htmに掲載した私の解説を参照していただければ幸いです。)
また、第三セクター化するとして、出資者の構成も考えなければならないでしょう。ポイントは四日市市の出資割合と三重県の出資割合です。とくに三重県の意向に左右される可能性が高いと思われます。
次に、八王子線のことですが、これを軽便鉄道のままに観光路線化するのは距離の関係でしょうか。沿線にも観光的な要素があるのでしょうか。これは単なる質問です。
JR四日市駅まで延長するというのは、妥当ではないかと思います。
内部線については改軌と路線変更(経路変更)を行うという御提案ですが、お金の算段さえつけば、このほうが市内の交通体系にもプラスになるという趣旨ではないかと考えます。地元の住民でもなく、まして四日市市を訪れたことがない(一度通過したことしかない)者としては、コメントを控えるべきでしょう。
次にJR関西本線への乗り入れですが、これは名古屋方面でなくてよいのでしょうか。
また、近鉄湯の山線を市電化するという話ですが、これは湯の山線の収支も悪化している、あるいは利便性がそれほど高くない、ということでしょうか。
最後に、これは根本的な疑問なのですが、何故、少子高齢化の現在、車から鉄道へのシフトが求められるのでしょうか。「環境にやさしい」というのは、少子高齢化とは観点が異なりますし(そもそも、本当に鉄道が「環境にやさしい」かどうか、という問題があります)、少子高齢化→人口の減少ということですから、鉄道では逆に輸送力が過大になり、他方で高齢化に相応しいと思われる、きめの細かい人員輸送には全く向かないと言えないのでしょうか。これも、私の単なる疑問です。
鉄道からバスへのシフトで地元が潤うものはありません。ロードサイド店の顧客はバス利用者ではなく、マイカー利用者なのです。広大な駐車場が物語っています。
以上の理由により、環境問題についてなんですが、バスと鉄道の単純な比較では測れないと思われるのです。鉄道の持つ力は、顧客の集中による小資本での付加価値性にあると思います。大資本が儲けるためなら、無用の長物です。
バスがマイカーにとって邪魔者なのは当然だからこそ、鉄道を存続させ、地元を守る必要があると思うのです。ただし、これは四日市ほどの都市規模があるからこそで、小都市ではもはや不可能といえるのが現状でしょう。