ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

函館本線の山線/大糸線(南小谷駅〜糸魚川駅) 存廃論議

2022年02月04日 00時15分00秒 | 社会・経済

 今回は二題噺のようなものです。こう記しましたが、地域の交通事情という点においてはかなり深刻な問題です。

 ※※※※※※※※※※

 まずは、このブログでも取り上げたことのあるJR北海道の函館本線です。2021年12月30日8時付の「函館本線山線区間の命運は?」において記しましたように、この北海道随一の大幹線のうち、長万部駅から小樽駅までの区間は山線ともいわれ、運行本数も乗客も少ない区間です。しかも、北海道新幹線が開業すれば並行在来線となり、JR北海道から切り離される可能性が高くなります。これまで協議が続けられてきましたが、2022年に入ってから動きがありました。朝日新聞社のサイトに昨日(2022年2月3日)の17時付で掲載された「JR函館線の長万部−余市間廃止固まる 並行在来線問題」という記事(https://www.asahi.com/articles/ASQ235JFGQ23IIPE018.html)によると、昨日、北海道と沿線9市町の会議において、長万部駅から余市駅までの区間についてはバス転換を容認するということで方針が固まりました。

 ここでお察しの方もおられるでしょう。並行在来線というならば、函館本線の函館駅から小樽駅か札幌駅までの区間が並行在来線ではないのか、と。そうです。並行在来線は山線区間に限られません。函館駅から小樽駅までの区間が該当します。小樽駅から札幌駅までの区間も北海道新幹線と並行するのですが、大都市圏内であり、かつ利用客数も多い区間であるため、JR北海道は小樽駅から札幌駅までの区間を手放しません。並行在来線の定義もいい加減なもので、例えば関東地方であれば東海道本線、東北本線、高崎線および上越線も並行在来線のはずですが、そのようには言われません。しかし、信越本線は並行在来線とされ、碓氷峠越えで有名であった横川駅から軽井沢駅までの区間は並行在来線として廃止されてしまいました(最初の例です)。むしろ、並行在来線というなら東海道本線、東北本線、高崎線および上越線こそJRから切り離すべきでしょう(かなり過激かつ的外れな意見であることは承知しています。上越線はともあれ、東海道本線、東北本線および高崎線であれば、引き受ける大手私鉄もあるはずです。例えば、東海道本線なら東急、小田急、京浜急行、東北本線および高崎線なら東武、というように)。

 詳しいデータが手元にないのですが、長万部駅から余市駅までの区間は特に利用客数が少なく、輸送密度または平均輸送人員もかなり小さい数字です。1980年代によく用いられた第三セクター方式によっても採算が合わないと判断されたのでしょう。思い起こせば、1980年代の廃線の嵐の中で、北海道の特定地方交通線はほとんどが廃止されてしまい、第三セクター方式で残されたのは池北線だけでした。この点は、特定地方交通線の中で日中線のみが完全に廃止となった東北地方と著しい対照をなしています(その後、弘南鉄道に引き継がれた黒石線と下北交通に引き継がれた大畑線は廃止されています)。池北線も、北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線として残ったものの、結局は2006年4月に廃止されました。人口、気象などを考慮すると、北海道は鉄道経営に厳しい環境であるとも言えます。

 ともあれ、長万部駅から余市駅までの区間の廃止は決定的となりました。山線の中では余市駅から小樽駅までの区間がどうなるのかという問題が残っていますが、余市町が第三セクター方式による鉄道路線の存続を求めているようです。小樽市は態度を保留しています。JR北海道の経営状況からすれば、この区間の前途もあまり明るいものではありません。

 前述のように、北海道新幹線の並行在来線として扱われる区間は函館駅から小樽駅までなのですが、函館駅から長万部駅までの区間がどうなるのかはわかりません。議論が進んでいないようです。ただ、この区間にある池田園駅、流山温泉駅、銚子口駅、石谷駅および本石倉駅は、今年の3月に行われるダイヤ改正に伴い、廃止されることとなっています。やはり、前途は明るくありません。

 ※※※※※※※※※※

 次に、このブログでも何度か名称を出した大糸線です。この路線は長野県にある松本駅(篠ノ井線、アルピコ交通上高地線)と新潟県にある糸魚川駅(北陸新幹線、えちごトキメキ鉄道日本海ひすいライン)とを結んでおり、歴史的経緯から路線名は途中の信濃大町駅と糸魚川駅のそれぞれから1字ずつとられています(余談ですが、このような場合に訓読みで通す路線名はJRにおいて珍しく、他に米坂線しかありません)。また、大糸線は、松本駅から南小谷駅までの区間が電化区間でJR東日本、南小谷駅から糸魚川駅までの区間が非電化区間でJR西日本となっています。

 今回問題となったのはJR西日本が運行する区間で、「やはり」という印象を受けました。朝日新聞社が、今日の11時43分付で「JR西、大糸線の存廃議論へ 一部区間、沿線自治体と協議」(https://www.asahi.com/articles/ASQ233SLZQ23PLFA002.html)という記事で報じているところによると、今日、JR西日本がこの区間の存廃について沿線自治体と協議を始めると発表しました。1月11日1時付の「いよいよJR西日本の不採算路線廃止への動きが?」においても記したように、JR西日本は経営状態の悪化から不採算路線の見直しを表明しており、その具体的な動きがとられたということです。

 大糸線の南小谷駅から糸魚川駅までの区間の平均輸送人員は、2018年度で102です。これは、芸備線の東城駅から備後落合駅までの区間の9、同じ芸備線の備中神代駅から東城駅の73に次いで低い数字です。大糸線のJR西日本の区間における平均輸送人員は、上記朝日新聞社記事によると1992年度にピークを迎えたそうですが、それでも1282人でした(この区間だけであれば間違いなく特定地方交通線に指定されるレヴェルです)。2019年度は102人、2020年度は50人であったとのことです。

 大糸線がJR東日本の区間とJR西日本の区間とに分かれている理由はよくわかりませんが、国鉄時代に長野鉄道管理局(松本駅から南小谷駅までの区間)、金沢鉄道管理局(南小谷駅から糸魚川駅までの区間)が担当していたことの名残なのでしょう。ただ、この路線を利用する通勤通学客や観光客は、圧倒的にJR東日本の区間に多いようです。それは、JR東日本の区間に安曇野市や大町市があるということから推測できます。また、歴史的に見ても、松本駅から信濃大町駅までの区間(私も一度利用しています。信濃大町駅が黒部アルペンルートの入口であるためです)は、信濃鉄道という私鉄によって開業しました。採算なり需要なりが見込まれたからでしょう。

 JR西日本は、既に芸備線の一部区間についても動いていますが、今回、大糸線についても動きを見せたことで、営業路線の見直しを本格化させました。今後、北陸地方や中国地方において、少なからぬ路線が対象となり、JR西日本から切り離されるかもしれません。その際、安易な第三セクター化は望ましくないでしょう。何故なら、第三セクターの多くは経営責任などが曖昧になりがちで、公的セクターと私的セクターの悪い部分のみがよせ集まってしまうということになりがちであるためです。それに、第三セクター自体は民間会社であるとしても公的投資の対象となっていることから、都道府県や市町村の財政を悪化させる可能性もあります。さりとて、民間のバス会社などに引き受けてもらうという訳にもいきません。沿線自治体などの様子を見ても、何処まで本気に鉄道を活性化させようとしているのか、疑問視せざるをえない部分もあります。

 また、大糸線のJR西日本の区間が廃止されるとなれば、JR東日本の区間にも影響が出る可能性はあります。これまでの廃線の歴史を見ても、一部区間の廃止によって一時的には状況が改善されても、結局は全区間の廃止に至ってしまうことが少なくないのです。さしあたりは信濃大町駅から南小谷駅までの区間が影響を受けるのではないか、と懸念されます。

 日本においては何かと「公」が強調されますが「公共」や「公益」に対する関心は低いのではないかと思う今日この頃です。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「である体」と「ですます体... | トップ | モロゾフのビートル(5) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

社会・経済」カテゴリの最新記事