ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

いよいよJR西日本の不採算路線廃止への動きが?

2022年01月11日 01時00分00秒 | 社会・経済

 少し前から、YouTubeなどでJR西日本の不採算路線廃止への動きについて、あれこれと推測する動画や記事を見かけるようになっています。このブログでも三江線(既に廃止)や芸備線などについて取り上げていますが、JR西日本の不採算路線はかなり多いようです。JR東日本、JR東海およびJR西日本は本州にあり、JR北海道、JR四国およびJR九州と比較して財務体質は強いと言われていましたが、本州の3社ではJR西日本が最も弱いようです。COVID-19が一つの契機となり、どの鉄道会社もダイヤなどの見直しを進めようとしていますが、これからの10年間で路線網の縮小が進められるのではないでしょうか。

 昨日(2022年1月10日)、共同通信社のサイトを見たところ「JR西、不採算の見直し意欲 長谷川一明社長『待ったなし』」という記事(https://nordot.app/853163575352983552)が、昨日の16時10分付で掲載されていました。これはインタビュー記事で、かなり短く、あまり具体的ではありません。ただ、JR西日本の姿勢は強くみられるような印象を受けました。

 長谷川社長は、JR西日本の経営状況が悪化していることから、不採算路線の維持が「新幹線や都市圏のサービスにも影響を与えかねない」、「これまで以上に地域の交通の在り方を考える必要がある」として、「今考えなければ地域の輸送自体が廃れてしまう。待ったなしの状態だ」と記者に語ったようです。具体的に何処の路線について見直すかは述べられていませんが、輸送密度2,000以下を目安としているようです。これは、1980年代の特定地方交通線の基準でもあります。

 輸送密度という尺度を使うならば、このブログでも取り上げた芸備線の輸送密度は惨憺たるもので、備中神代駅〜東城駅が73、東城駅〜備後落合駅が9という驚嘆すべき数値(これではバス路線としても維持できないでしょう)、備後落合駅〜三次駅が196、三次駅〜狩留家駅が765となっています。狩留家駅〜広島駅の8,052とは比較にならないと表現してもよいくらいです。ここであげた数値は2018年度のものですので、2020年度および2021年度はどうなっているのかわかりませんが、おそらくさらに悪化していることでしょう。

 改めて2018年度のデータを見ると、輸送密度ではなく平均通過人員という用語になっていますが、2,000以下の数値を叩き出した路線・線区が目立ちます。越美北線の378、大糸線南小谷駅〜糸魚川駅の102、山陰本線城崎温泉駅〜浜坂駅の768、浜坂駅〜鳥取駅の967、出雲市駅〜益田駅の1,257、益田駅〜長門市駅の266、長門市駅〜小串駅および長門市駅〜仙崎駅の358、などとなっています。山陰本線でこの状況です(もっとも、この路線は今に至るまで全線を直通する列車が走ったことがないというほどです)。やはり、と言うべきか、とくに中国地方の状況が悪いようです。中には、1980年代の国鉄改革に際しては幹線に分類されながらも、貨物輸送が廃止されて名ばかりの幹線となった美祢線(平均通過人員は541)のような存在もあります。

 JR西日本の場合は、北陸新幹線の運営という事情もあります。新幹線は、現在、JR各社が建設するのではなく、鉄道・運輸機構が建設にあたるという形を採っています。JR各社が負担するのは貸付料です。その上で、新幹線に並行する在来線はJR各社の経営から離れることとされています(これもJR各社の意向によるところが大きいようですが)。しかし、例えば、既に開業している北陸新幹線の区間との関係で、JR西日本には大糸線の南小谷〜糸魚川(残りの区間はJR東日本)、氷見線、城端線、高山本線の猪谷〜富山(残りの区間はJR東海)、七尾線という孤立路線があります(大糸線および高山本線については、他のJR西日本の在来線と接続しないという意味での孤立路線です。純粋な孤立路線は七尾線のみということになるでしょうか)。このうち、輸送密度が2,000以下であるのは大糸線ですが、あくまでも2018年度の数値によっていますので、他の路線も2020年度および2021年度には2,000を下回っているかもしれません。北陸新幹線が敦賀駅まで延長されるならば、越美北線および小浜線が問題となります。どちらも2,000を下回っています。

 今後、JR西日本がどのような具体的対応を示すかが注目されますが、路線の状況によってBRT化もありうるでしょうし、JRグループの手から完全に離れたバス路線化もありうるでしょう。北陸新幹線の並行在来線となる路線であれば地元自治体が引き受けたり第三セクターが設立されたりすることもあるでしょうが、それはごく限られたものとなるにすぎません。

 たしかに、これは危機的な状況です。地域の交通網が衰退し、全国的に見ても交通網がズタズタにされるということです。

 しかし、私も鉄道ファンであるからこそ敢えて記しますが、結局は地域住民の選択の結果であり、多くの地域は鉄道を見捨てたのです。地域が鉄道を見捨てたのであり、鉄道が地域を見捨てたのではありません。

 昔の国鉄には「乗せてやる」的な態度が強かったと言われています。これは私自身も強く感じたことです。そして、「乗せてやる」的な態度は多かれ少なかれ、国鉄のみならず多くの鉄道会社に共通したものではなかったでしょうか。赤字路線について鉄道会社が地元自治体に利用促進のための協議を申し入れたという記事を見る度に、私は「今まで乗せてやっていたのだからどうにかしろ」という意識が隠されているようにも見えてしまうのです。これでは地元自治体から突き放されたり見捨てられたりしても仕方のないところでしょうし、そのような意識が見え隠れしたからこそ、少なからぬ識者などから「自助努力を!」といわれてしまうのでしょう。「乗せてやる」的な態度は、見方を変えれば甘えの構造の現れです。見当外れを承知で記すならば、鉄道会社は大なり小なり甘えの構造に浸ってきたと言えるのではないでしょうか。「そうでなければ、ここまでモータリゼイションが進んだであろうか」と、7年間ほどではありますが車社会において生活し、自家用車通勤を実践していた私は思うこともあるのです。


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