ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

再生エネルギー課税が同意される

2023年11月19日 00時00分00秒 | 国際・政治

 昨日(2023年11月18日)付の朝日新聞朝刊7面13版Sに「『再エネ課税』総務相が同意 全国初 宮城県、来年4月導入へ」という記事が掲載されていました。あまり大きくはない記事ですが、地方税財政法の研究者として法定外税の動きに注意しているので、このブログで取り上げない訳にもいきません。

 「再生エネルギーは環境に優しい」という趣旨のフレーズを耳にすることがありますが、「実際には嘘である」とまでは言わないまでも、事実と異なることが多いことは知られているところです。太陽光パネルの設置のために森林が伐採されるというような話もありますし、風力発電所に設置されている風車が低周波数の音波を出すことによる健康被害の話はテレビ朝日のモーニングショーのような番組でも取り上げられたりしています。上記朝日新聞朝刊記事にも「森林開発を伴う再エネ施設を巡っては、土砂災害などを懸念する地域住民と事業者との対立が各地で起きている」ことから、宮城県が「新税の導入で、再エネ施設を地域の理解を得られる『適地』に誘導していく狙いがある。こうした目的で再エネ施設に課税するのは全国初という」と記されています。

 同県が導入しようとする新税は「再生可能エネルギー施設の開発トラブルを避けるため、大規模な森林開発を伴う再エネ施設に課税する」ものであり、宮城県と総務省との間で協議が行われてきたようです。その結果、11月17日、総務大臣が同意を行ったという訳です。

 新税の名称は再生可能エネルギー地域共生促進税で、法定外普通税に分類されます。宮城県議会では7月に「再生可能エネルギー地域共生促進税条例」の案が可決されていました。同条例は2023年7月11日に宮城県条例第34号として公布されています。

 概要は上記朝日新聞朝刊記事にも掲載されていますが、ここでは同条例の規定の一部を見ておくこととしましょう。なお、後に見ますように、この条例は時限立法となっています。

 同条例の第1条には「課税の根拠」という見出しが付けられており、次のように規定されています。

 「県は、大規模森林開発を伴う再生可能エネルギー発電事業を巡る状況を踏まえ、再生可能エネルギー発電事業の地域との共生の促進に向けて、地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号。以下「法」という。)第四条第三項の規定に基づき、再生可能エネルギー地域共生促進税を課する。」

 第2条は定義規定です。まず、第1号は「再生可能エネルギー発電設備」を「再生可能エネルギー源を電気に変換する設備(当該設備に附属するパワーコンディショナを含む。)であって、自家用又は事業の用に供することができる状態にあるもののうち、県内の開発区域に当該設備又はその附属設備の全部又は一部が所在し、かつ、当該開発区域に係る開発行為の着手からその完了後五年を経過した日までに当該設備又はその附属設備の設置のための工事に着手したものをいう」と定義しています。

 続く第2号は「附属設備」の定義を示しますが、次の第3号に進みましょう。同号は「再生可能エネルギー源」として太陽光、風力、バイオマスの3つをあげています。

 第4号は「開発行為」を「土石又は樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為であって、実施主体、実施時期又は実施箇所の相異にかかわらず一体性を有するもの(当該行為に係る土地の面積の合計が〇・五ヘクタールを超えるものに限る。)をいう」と定義します。0.5ヘクタールというのは広すぎないかという気もしますが、どうなのでしょうか。

 続く第5号は「開発区域」の定義を、第6号は「総発電出力」の定義を示しています。

 同条例の第3条は、再生可能エネルギー地域共生促進税の課税物件および納税義務者を「再生可能エネルギー発電設備(県の区域内にその全部又は一部が所在するものに限る。)に対し、その所有者に課する」と定義しています。但し、次のものは非課税となっています。

 ①「国又は地方公共団体が所有する再生可能エネルギー発電設備」

 ②「国、地方公共団体又は土地開発公社(公有地の拡大の推進に関する法律(昭和四十七年法律第六十六号)第十条第一項に規定する土地開発公社をいう。)により開発行為が行われた区域に設置された再生可能エネルギー発電設備」

 ③太陽光を再生可能エネルギー源とする再生可能エネルギー発電設備(以下「太陽光発電設備」という。)であって、家屋(住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物をいう。以下同じ。)の屋根その他の当該家屋を構成する部分にその全部(パワーコンディショナを除く。)が設置されたもの」

 ④「再生可能エネルギー発電設備及び附属設備の全部が地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法律第百十七号)第二十二条の三第三項第一号に規定する認定地域脱炭素化促進事業計画に基づき使用される場合における当該再生可能エネルギー発電設備

 ⑤「再生可能エネルギー発電設備及び附属設備の全部が農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律(平成二十五年法律第八十一号)第八条第三項に規定する認定設備整備計画に基づき使用される場合における当該再生可能エネルギー発電設備

 ⑥上記①〜⑤にあげられるものの他、「これらの号に準ずるものとして市町村長が認め、知事が認定した事業計画に基づき使用される再生可能エネルギー発電設備

 第4条は課税地に関する規定、第5条は賦課期日(「当該年度の初日が属する年の一月一日」)に関する規定です。

 第6条第1項は、再生可能エネルギー地域共生促進税の課税標準を「賦課期日現在における総発電出力(その値に一キロワット未満の端数があるときは、その端数を切り捨てた値)」としています(第2項以下は省略します)。

 そして、第7条は太陽光発電設備に対して課する再生可能エネルギー地域共生促進税の税率を定めています。原則として「総発電出力一キロワットにつき、六百二十円」とされます(同条にはただし書きもありますが、省略します)。

 続く第8条は「風力を再生可能エネルギー源とする再生可能エネルギー発電設備に対して課する再生可能エネルギー地域共生促進税の税率」を、原則として「総発電出力一キロワットにつき、二千四百七十円とする」と定めています(同条にもただし書きがありますが、省略します)。

 次に、第9条は「バイオマスを再生可能エネルギー源とする再生可能エネルギー発電設備に対して課する再生可能エネルギー地域共生促進税の税率は、総発電出力一キロワットにつき、千五十円とする」と定めています。

 第10条は「再生可能エネルギー地域共生促進税の納税義務がある再生可能エネルギー発電設備の所有者」の申告義務を定めており、第11条は普通徴収(租税法学にいう賦課課税方式)を定めています。

 第12条以下は省略しますが、附則の第3項に「この条例は、施行日から起算して五年を経過した日に、その効力を失う」と定められている点に注意しておきましょう。また、附則の第2項により、同条例の施行日前に「開発区域において再生可能エネルギー発電設備又は附属設備の設置のための工事に着手したもの」、「施行日前に再生可能エネルギー発電設備又は附属設備の設置を目的とした開発行為に着手した開発区域に所在するもの」および「施行日前に再生可能エネルギー発電設備又は附属設備の設置以外の目的で開発行為に着手し、かつ、施行日前にその目的が再生可能エネルギー発電設備又は附属設備の設置に変更された開発区域に所在するもの」については適用されないことも注意しておくべきことです。

 条例の規定からだけではすぐにわからないのですが、上記朝日新聞朝刊記事には、発電設備の「所有者から毎年、営業利益の20%程度に相当する額を徴収する」と書かれています。

 今後、他都道府県などに同様の課税の動きがみられるようになるかどうかはわかりませんが、注目していこうと考えていますが、この新県税が2024年4月1日から賦課徴収されるようになるからといって、直ちに化石エネルギーから再生可能エネルギーへの転換が阻害されるとは言えないでしょう。むしろ、再生可能エネルギーであっても環境破壊などが起こりうるという現実こそ、見つめた上で反省すべき点です。

 

 追記(2024年2月15日):「再生可能エネルギー地域共生促進税条例の施行期日を定める規則」〔令和5年12月1日宮城県規則第80号。宮城県公報第459号(令和5年12月1日)〕により、「再生可能エネルギー地域共生促進税条例」の施行日は2024年4月1日とされています。

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