北朝鮮問題ってつくづく情報戦だと思う。
冷戦時代も含めてそもそも戦争の7、8割は結局情報戦なんだろうとも思う。なぜならその情報戦の段階で敵を認定し、周知させ、そしてそれに対応できる戦争準備を国民に納得させる（または異論を封じる）わけですからね。だからまず何よりも自国民に対して嘘をつくのは考えてみれば戦争に向かう国の常道なのだろう。
北朝鮮の場合は、極東という情報が粗密で言えば粗のエリアが主体なので、出回っている情報もだいぶおかしい。是非はともかく過去150年かそこらは欧州および欧州出身者が主体の国（アメリカとか英連邦とか）が情報を仕切っているので、いきおい欧州側の情報は細かく知られることとなる。それに対して、極東側の情報は、どうあれメジャープレーヤーの中国が攻撃を受けて没落させられる主体だったため、細かい歴史が世界的に共有されていないのだななどとも思う今日この頃。日本はどうしたんだ、と言ってみても無駄なのは、ここはなんせ自分の歴史も伏せたいような国だから、共有知にしたいなどとは夢にも思わない。また、知らせる時には、欧州人に感心してもらえるようなことだけを広める、というスタンスは明治維新以来顕著ともいえるでしょう（例：外向きには立憲君主制でやっているというが、中は天皇を尊敬させることを通じた宗教支配で国民をコントロールしていた。いわゆる顕密体制）。
さてそこで北朝鮮。
数日前見た、デモクラシーNOW主催とおぼしき会合におけるノーム・チョムスキーのお話が、2つの意味で興味深いんですよ、これが。
Chomsky on North Korea & Iran: Historical Record Shows U.S. Favors Violence Over Diplomacy
まず中身が現在にとって非常に重要な情報が詰まっているというのがひとつ。そしてもう一つは、この会話の取り扱い。
この講演は、デモクラシーNOW!司会者として有名なエイミー・グッドマンさんがチョムスキーにインタビューして知見を得るという恰好のもの。で、北朝鮮に話題が及んだところでは、エイミーは、昨今の米民主党支持者にありがちなといっていいと思うけど、北朝鮮に関してトランプはこうこうこうでとトランプを難詰するような調子で話を振る。
チョムスキーは、トランプ政権はほんとにunpredictable（予想不可能）だからとそこは軽く受け、すぐに話をもっと現実的な方向へとひっぱる。
本当の問題は、これに対処する方法のことで、制裁だのミサイル防衛だのなんだりかんだりとたくさんの提案がある。しかし、一つ無視されている提案があります、と言う。北朝鮮は、あるいは北朝鮮と中国は、提案をしています。しかし米国は直ちに拒否しました。これはトランプのせいにだけできません。オバマも2015年に同じことをしました（以下後述）。
といって、チョムスキーは北朝鮮問題について多くが語られているが、しかし、無視されていることを語る。このブログを見ている人にとっては既になんてことのない話なわけですが、要するに、北の核・ミサイルプログラムの凍結と米（とその同盟国）による北朝鮮周辺での挑発的な軍事演習をともにやめましょうというダブルフリーズ、二重凍結、双方凍結のこと。最近ではこの2人が語ったそれですね。
（双方凍結のアイコン）
チョムスキーはそのようにして、米の側に向けられた提案という見えなくされている問題確認を端緒に、その上で、北朝鮮が朝鮮戦争で米軍におぞましいほどに爆撃され、それは米軍の歴史記録にも残されているから読むようにと聴衆に語る。さらに、ではどうしてこの提案を米は受けられないのか、という切り出しと共に、90年代のクリントン政権の時代から、民主、共和両党がこの双方凍結のアイデアを葬っていることを語る。
が、この手短だが重要かつ興味深い部分が、デモクラシーNOW！のスクリプトにない。
デモクラシーNOW！は通常番組や講演に英語のスクリプトをつける仕立てになっている（多分英語教育に興味のある人なんかもターゲットにしているってことなんだろうと思う）。
日本語版のデモクラシー・ナウを見てみたら、それどころかこのチョムスキーの講演が、
チョムスキー講演：トランプ政権の登場で人類の存続に危険信号
http://democracynow.jp/video/20170102-1
になっていた。
英語でのタイトルは、あくまで、
ノーム・チョムスキー、エイミー・グッドマンと、核、北朝鮮、気候変動、シリアについて語る、なんですけどね。
Noam Chomsky in Conversation with Amy Goodman on Trump, Nukes, North Korea, Climate Change & Syria
https://www.democracynow.org/2017/12/25/noam_chomsky_in_conversation_with_amy
これはつまり、北朝鮮問題というのが、どんなにか政治的であることを示しているんだわな、ってところですね。しかもそれは、どうも民主党系にとって何か問題があるんだな、とも見える。
それもこれも、チョムスキーが語るからこういう矛盾が見える。語られるべきでないことを語らない御用学者だけだったら矛盾は見えない。
■ 書かれなかった部分
ということなので、チョムスキーが語り、動画もアップされているのにスクリプトにない部分のスクリプトを下に起こしておきたいと思います。
だって、これってフェアじゃない、とか思うんですよね。だってだって、アメリカ人は通常スクリプトなんか見ないわけだから、チョムスキーの話をそのままただ聞いて、なるほどとなる。が、スクリプトに頼りたいグループ（つまり、聞いただけでは理解できないから読む≒非ネイティブスピーカー）は全部はわからない。これはフェアではない。
で、中身なんですが、以下の2点を過去にあった合意しそうでできなかった例として挙げている。
1993年、クリントン政権時代、北朝鮮とイスラエルは、それは北朝鮮が中東にミサイルを売らない、その代りにイスラエルは北朝鮮を承認するという合意をした。
しかし、クリントン政権は受け入れず、イスラエルも北朝鮮もこの合意をやめた。そして北朝鮮は、最初の中距離ミサイルを放った。
2005年、北朝鮮は、核兵器とミサイルシステムの解体に合意し、その代りに、米国との不可侵条約を結ぶ、軽水炉を提供するという合意があった。
しかしブッシュ政権は直ちに合意を侵害していって、軽水炉を提供することになっていたコンソーシアムを解体した。その後、金融制裁などの制裁を掛けた。
2005年のは、この間プーチンが語っていたこともありますね。いいところまで行ったのに、誰かがそれ以上を北朝鮮に要求して、ワヤになった、みたいな言い方をしていた。
「誰かが北朝鮮に要求したわけです」：BDA問題を示唆したプーチン
1993年の方は、私ははじめて聞きました。私は別に北朝鮮エキスパートじゃないから知らなくても驚かないんだけど、これって有名な話なの？
ただ、なんとなく北朝鮮・シリア・イランは冷戦時代からの関係があり、それはイスラエルと敵対する関係になっているとは理解していたが。
で、ちょっとサーチしたところ、当時の新聞記事があった。
イスラエル高官によれば、北朝鮮による長距離ミサイルの供給を阻止する方法としてイスラエルが北朝鮮に投資するという計画を米国が反対している、という記事。
Israelis Say U.S. Opposes North Korean Deal
Published: August 15, 1993
http://www.nytimes.com/1993/08/15/world/israelis-say-us-opposes-north-korean-deal.html
JERUSALEM, Aug. 14— Israeli officials said that the United States was opposed to an Israeli plan to invest in North Korea as a way to prevent the North Koreans from supplying upgraded long-range missiles to Iran.
ただ、イスラエルとの交渉がどの程度影響があるのかはちょっと未知数。軍管理の本職の人たちのサイトであるように思われる
https://www.armscontrol.org/factsheets/dprkchron
を読んでいくと、1991年ブッシュ父が朝鮮半島に配備していた核戦力の撤退を宣言し、南北朝鮮が朝鮮半島の非核化宣言をしていくあたりはいいのに、1992年後半から奇妙にぐだぐだな感じになっていっているように思える。（ブッシュ父の任期は1992年末まで。1993年1月からクリントン）
ということで、ここらへんは今になって思えば、ゴルバチョフの多幸感あふれる冷戦終結物語が実はソ連（そして東ドイツ？）にとっての悲劇以外の何物でもなかったことが北朝鮮に見えて来たから、こりゃマズイ、騙されたらあかんなになってきたなんてことも考えられるように思う。
並べて考えるに、どうもこのソ連崩壊前後から数年というのが、実際本当に問題だったんだろうなって感じがあっちでもこっちでもする。つまり、クリントン政権こそネオコン路線への助走だったみたいに言っていいような気がしてきた。
■ 英文
https://www.democracynow.org/2017/12/25/noam_chomsky_in_conversation_with_amy
のScriptの、
So maybe it’s the worst government in human history. OK. But these are still the facts that exist.
の次に以下が入る。
So, why is the US unwilling to accept an agreement, which would end an immidiate threats of destruction against North Kora, and in return freeze the weapons and missiles. Well, I leave that to you. And remembr, that's bipartisan in this case.
Could negotiations go.... the usual arugument is "well, you can't trust them", and so and so forth.
But there's a history. And I, there's no time to run through, it's quite interesting.
It begins in 1993, when Clinton, under Clinton administration, the North Koreans made a deal with Israel to terminate North Korean missile shipments to the Middle East, which is a great, serious threat to Israel and the world, and in return, Israel would recognize North Korea.
The Clinton administration would not accept that. They pressured Israel, which has to do what they're told, to withdraw from it.
And North Korea responded by sending by firing their first intermediate range missiles. I won't go on with the rest. It's a very interesting story.
There was actually an agreement in 2005 that North Korea would complete dismantle its nuclear weapons and missile systems, end them, finish, dismantle them, in return a non aggression pact from the United States, an end to threats, provision by the West, that means by the US, of a light-water reactor, which can't produce nuclear weapons but could produce - be used for peaceful purposes, research, medical, other purposes.
That was basically the agreement, 2005. Didn't last very long. The Bush administration instantly undermined it. It dismantled the consortium that was supposed to provide the reactor.
And it immediately imposed- pressured- and when the US pressures, it means it happens- banks to block North Korean financial transactions, including perfectly legitimate trade.
So the crazy North Koreans started producing missiles and nuclear weapons again.
