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冷戦をうまく使ったドイツ、冷戦にやられた日本

2014-07-06 04:42:20 | アジア情勢複雑怪奇

またまたTORAさんのところの記事を拝借。どうなんでしょうねぇとかなり疑問に思った記事だったのでうなって終わりにしようと思ったけど、気になったのでちょっと書いてみる。

集団的自衛権で、我が国とドイツは第2次世界大戦の敗戦国は、
臥薪嘗胆すること69年、ようやく汚名返上と名誉回復の時代が訪れた。

◆7.1閣議決定された集団的自衛権行使の限定容認は「専守防衛」から「抑止戦略」への転換点となるか? 7月3日 じじ放談
http://blog.goo.ne.jp/2005tora/e/eaa7bb9ba78d7b78095f3f2f517561ef

集団的自衛権を行使できるようになったことで、日本もようやく軍事力を使える国になった、とお喜びの御様子なのだった。それはそれで評価は控えるけど、それより気になるのは、なんでここでドイツと日本を一緒にするの?ということ。

そして、そういえば日本では常に右も左も別々の理由と視点によって、ドイツを見誤っている気がするのよね、と私はかねがね思っている。日本はドイツよりもずっと複雑な状況だと気づくべきではないでしょうか、と。

とりあえず、第二次世界大戦がらみの話で日本人として重々認識しておくべきことは、日本とドイツはかなり異なった戦争を異なった地平で戦い、それによって戦後も違うということだと思う。一言でいえば、隣人が違うというのがまずある。

日独伊三国同盟を組んだせいで、何か日本とドイツには非常に共通するものがあると考える人が多いように見えるのだが、これは多分私たちの利益にならないと思う。むしろ、害がある。

■ 戦争の目的が違う、相手が違う

いわゆるWW2における日本とドイツで最も違うのは、日本はアメリカと戦ってアメリカに負けたが、ドイツはソ連に攻め込んでソ連に負けたという点。

アメリカ、イギリスをはじめとする「自由主義陣営」が日本、ドイツの「ファシズム陣営」を破ったというのは、英米が適当に流行らせたスローガンに過ぎない。

ドイツは、相手がソ連だろうがロシアだろうが同じことで、歴史的ロシア世界を攻めて、史上稀に見るというか、未曽有の大戦争を引き起こした。これがいわゆる東部戦線のバルバロッサ作戦というやつ。よくこんなこと思いつくな、というぐらいの大戦争。



普通、戦争にはそれなりの理由とか目的があるわけで、例えば、ポーランド領はドイツが占有するのが正しい、だからお前どけといってソ連と戦いはじめた、そのためにまずモスクワを落として、条件を整えてポーランドを占拠を認めさせる、というのなら理解できる。また、前から穀倉地帯ウクライナが欲しかったので侵攻する、つきましてはモスクワを包囲しとかなきゃ、とうのも理解できる(戦争を開始する正当な理由にはならないけど)。

でも、300万の兵を揃えて北、中、南と一気に伝統的ロシア領に向かって攻めてウラル山脈の東側をドイツのものにするという壮大な攻略目標というのは今でも結構な謎で、だからこそここに東方生存権の話が出てくるか、さもなければ陰謀論が出て来る。つまり、ヒトラーとは、ナチスとは何者だったのか、という話で、ここでまたまたアメリカの資本家さんたちの活動が語られるわけ。

それはともかく、なんせこのようにして突飛なまでに攻撃的だったナチス・ドイツは、ロシア領深くまで攻め入って、ついにレニングラードスターリングラード(現ヴォルゴグラード)で敗北し、これ以降体制を立て直せず、逆にソ連側がバグラチオン作戦を敢行して、一気に戦線を西側に押し返し、ドイツは大敗北を喫する。

だから、スターリングラードが落ちた1943年2月(というより、1942年末までには)でもう戦争はドイツの負けで終わってよかったぐらいで、バグラチオン作戦が軌道に乗った時にはドイツ兵は死屍累々になっていた。

ドイツ軍の第二次世界大戦の死傷者は軍人・民間人あわせて700万人程度、ソ連のそれは2000万程度といわれ、ソ連の死傷者は攻め込まれているので民間人死傷者も非常に多くそのほとんどは当然ながらドイツにやられている。一方、ドイツ側は軍人の70~75%は東部戦線で失われたと言われている(つまり、あの有名なノルマンディー上陸作戦で負けたわけではない)。

太平洋戦線でいえば、1942年6月のミッドウェー海戦で日本軍は実質的に(少なくともアメリカ相手には)ここで終わってもいいぐらい、というのと一緒かそれ以上。

で、日本との違いは、ドイツの場合、西部戦線も東部戦線も、特にバルバロッサ作戦については基本的に自衛戦争の要素がないこと。日本の方がずっと複雑な背景がある。

■ 冷戦をうまく使ったドイツ

さてしかし、この話は軍オタにとっては常識だけど、一般的にはあまり話されない。なぜなら、戦後の秩序の中では、攻めて来るのはもっぱらソ連でなければならないから、でしょうね。

だから、冷戦期から今に至るまで、ドイツはロシアにやられる前にやったんだ、みたいな発想がず~っと生きている。しかし、そんな史実は証明されてないと思います。バルト海側のスターリンソ連の行動が侵略的だったので懲罰したい、としてもドイツ軍が攻めたのはロシア全面なので方向が違う。せいぜいあっても小規模紛争ならともかく、といったところ。次に、ヒトラーはソ連が弱いとみて一気に攻撃した、という説で納得する向きも多い。多分それはそれで本当なんだと思う。でも、弱いと見たら一気に攻撃していいのか? 共産主義者の国だから攻めていいと考えていたとしたら、それはそれで別の思想を持った危険な集団ということになる(A主義者は非A主義者を殺していいという発想)。

要するに、ナチス・ドイツ軍の東部(いや西部もだけど)戦線は、自衛というより純然たる侵攻だったので、少なくともロシア系からしたら盛大に腹を立てる権利のある戦争だったし、その驚くべき侵略性の故に少なからぬ欧米人が嫌う理由もあった。しかし、これが戦後反共というグループ分けをしたために問題にしづらくなった。(ドイツが問題になるのは主にユダヤ問題というのは部分的にはこの代償行為なのかもしれない)

私は、これこそが西ドイツが軍やら情報機関を早々に持ち得た大きな原因だと思う。

(ドイツの連合軍軍政時代。1945年から約4年間)


つまり、ドイツが英・米・仏・ソの主に4か国に分割統治され、だいたい東側がソ連の強い支配下に置かれた。ということはそこまでソ連兵がいる。西側で統治をしていたのはアメリカ、イギリス、フランスだけど、あなたがたずっとここにいますか?、あなたたちソ連ってどんな国か知ってますか、私たちはマジで戦ったんですよ、というわけで、西ドイツは自分の価値を反ソ、反共という枠組みの中に売り込んだ、ということだと思うわけです。1)

ざっくり言って、冷戦とかいうけど、俺ら抜きにしてロシアと戦えるわけね~よ、という読みもあったと思う。特に核戦略が盛大になる以前の陸上戦力においてドイツ人抜きになにするねん、だから。(英米にこずかれて戦う気なんかないと言う人とやるならやるという人の両方がいただろうと推察するけど)

そこで1955年、ドイツが再軍備することとなる。この際、ナチスという過去をごっそり切り落として、19世紀までのドイツ諸侯の軍の歴史等々を持ちだして、新しいドイツの軍として創設される。

(これに対して半年遅れで創設された東ドイツ軍は、「赤いプロイセン軍」などと呼ばれたようにプロイセン軍の伝統を保持している、つまりそこはかとなくナチス臭いことで有名。これはソ連からの嫌がらせなのかもしれない)

(東ドイツ軍)

一方、ドイツにやられてばっかりのフランスはドイツの再軍備に反対。しかし、フランスはフランスで欧州でなんとかしようとする根強い傾向があるため、この鼻息の荒さそのものが、NATOを使って、つまりアメリカの力を使ってソ連とバランスしようという西欧諸国の構想の邪魔になる。

ドイツは、ソ連を敵にして、フランスを危険視することで、アメリカの構想を支持して自らの価値を売り込んだといえるんじゃないんですかね。西ドイツがずっとかなり親米だったのはそれが一番自分にとって都合が良かったからでしょう(影では親米じゃないとしても)。

また、東ドイツをWW2というより本当のコアの戦いであった独ソ戦の勝者であるソ連に差し出すことで、西ドイツは西側世界で生き延びる道を選んだともいえるでしょう。

1) 2/3【討論!】さようなら韓国、さようなら戦後体制[桜H26/6/14]で書いた通り、討論3/3で元公安調査庁の菅沼光弘さんがドイツは対ソ情報がいっぱいあってというお話をされている。


■ アジアが問題だった日本

これに対して日本の場合、アメリカに負けてアメリカが単独統治したことから、こういう利害関係の隙間を利用するようなsteppingstoneというか飛び石、踏み台、足掛かりを見いだせなかったことがまず西ドイツの置かれた状況とは異なる。

また、朝鮮戦争、続いてベトナム戦争に出兵したくないという事情があった。東アジアは冷戦じゃなくてリアル戦時が続いていた。

さてここで、現在の保守派の人たちは、このへんで再軍備をしなかった日本を呪わしく思っているようなのだけど、どうなんでしょう。私は、日本人の大多数は再軍備というより、朝鮮やベトナムの戦争をアメリカと戦うなんてまっぴら御免という感情が非常に支配的だったのではないかと想像します。

なぜなら、まだ大多数の人々は大日本帝国の人だったから、ではないでしょうか?

大日本帝国は、アジアの解放のためにあの憎らしい英米を呪ったわけです。また、いろんな成り行きがあるにせよ無秩序の中に秩序を見つけようとした満洲での試みを否定され、侵略者扱いされ、その上で挑発に次ぐ挑発の上に第二次上海事変を突きつけられ、停戦しようにも妨害され続け・・・ということで、それらを総合して、ついに英米の暴挙は許さないとなっていったわけです。

この精神の上で戦った日本人が、アメリカ軍と共に朝鮮人やベトナム人を殺害しに行けますか? 私は無理だったと思います。また、アメリカも日本人をそこまで信じてなかったのじゃないでしょうか。だって、連れていったらどうにかしてサボタージュしたりベトナムを支援したりしそうだ。事実、各地に残置諜者がいたのが日本人だ。

というわけで、60年代とか70年代の多数の日本人をアジア人と戦わせるようなことはできなかったと思われます。現実にそうであったようにアメリカとの関係からという一点で後方支援することがせいぜいだったということじゃないでしょうか。

だから、この時期において専守防衛とは、逃げではなくむしろアメリカへの強い敵対心の表われだったとさえ言えるかもしれない。

■ 反共という特効薬

そこで、今から考えると、反共思想というのは効果的だったと思うわけです。つまり、何人であろうが共産主義を抱くものは敵だと考えられるようになれば、アジア人同士でも殺しあうことができ、日本人がアメリカ人と一緒に行動することも不思議ではなくなります。

とはいえ、これも表面的、あるいは平時の構えとしてはよく効いていたし、革命を起こされるのは御免だという意味では日本にも妥当な範囲で必要な思想ではあった 2)けど、それ以上に、アメリカ軍と共に戦闘行為を行うほどに効いていたかは疑問というべきなんでしょう、多分。実際どこにも派兵してないわけだし。

2) ソ連による革命は阻止できたけど、GHQは憲法を変え、社会制度を変え、思想改造を断行する革命軍には違いなかったので、現実には事実上革命をされたというべきだろうと思う。じゃあ一体反共思想って何よ、と今更ながらそう思う。アメリカの革命はOKだがソ連による革命を防止するという特殊な意味を有していたというべきか。

■ 結論

ドイツは、冷戦を対ロシアと読んで、対露戦のエキスパートである自分の価値をアメリカに売り込むことで再軍備を得た。核戦争がたけなわになるまでは、陸上戦力としてドイツ人の価値は何者にも替えがたかっただろうし。

(一方で、東ドイツを西に統一させることに成功したことを考えると、冷戦期の対露関係は決して悪かったわけではなかったと考えざるを得ない。敵対してたら認めるわけない。ここにも陰謀説がある。総じていえばドイツはそんなんばっかり)

日本は、冷戦よりなによりアジアでの戦争を嫌った。それは大東亜戦争の本旨にもかなっていた。が、そのための手段として憲法を使ったために、自衛の話まで置き去りにしちゃった。また、反共という意味を新しい風潮か何かと捉えていた趣もある。地政学的視点の欠如というべきか。

従って、日本とドイツは別の組み合わせの中で別の相手を主敵として戦争をしており、敗戦国であるという共通性以上のものを見出すことに意味はない。それどころか、同じであると強調することによって、日本はドイツ並みに侵略的だったと思われかねないので、日本側が同じだと言いだすことは百害あって一利なしと思う。

■ 後悔

戦争をしないためには近隣者同士が相応に均衡していることが一番安全だと考える私としては、日本の過去70年間には反省すべきところが多々あると思う。

といってそれは軍備一辺倒の話ではなくて、周辺諸国との関係の将来の見通しの問題がまず最初。例えば、中華人民共和国だろうが中華民国だろうが、どっちにしても多人数を抱えた国が隣にあることは既に明らかだったんだから、その国と適度に敵対しつつバランスする関係になるためにもっとやれることはあっただろう。

ドイツの場合は、自分がアメリカを裏切らない限り、敵はロシア(ソ連だろうがなんだろうが)という組み合わせが確立していて疑う余地がなかった。

日本の場合、ソ連を敵にする場合には日本とアメリカは共同できたが、中国が絡むとそうはならない可能性は最初っからずっ~とあった。なにしろ英米はチャイナ(広い意味で)から日本を追い出そうと戦争をしていたわけですね。それなのに70年代になると、日本はロシアを敵視してチャイナ融和策を取るアメリカに無条件で同調した。ここが非常に大きな曲がり角だったと思う。

中共に対して、核兵器のみならず、ICBMまで保有することを許したアメリカの意図というものももっと深刻になる必要があったなぁと思う。

しかしじゃあどうしたらよかったのかとなると、これがなかなか難しい。そのうちもう一回考えてみたい。


 

文庫 アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか (草思社文庫)
菅原 出
草思社

 


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2 コメント

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あれ? (123)
2014-07-06 11:23:36
レニングラード(現ヴォルゴグラード)?
修正しました (DeeplyJ)
2014-10-03 03:28:35
コメントありがとうございました。修正しました。

今更で申し訳ないです。今後ともどうぞよろしくお願いします。

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