DayDreamNote by星玉

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さよならの鳥の話

2015年03月31日 | 創作帳
「さよなら」とだけ

鳴く鳥がいました


たくさん
鳴いて

さよならの
空の向こうに

飛んでいきました


その後

じきに
別の

さよならの鳥が
産まれました


そして
また

たくさん
鳴いて

さよならの
空の向こうに

飛んでいきました


飛んでいった
鳥たちの鳴き声が

たまに
とても遠くから届いて

耳を
かすめたり

からだを
かすめたりすることがあります

かすめたところは
ひどく、いたみますが

ふせぎようはありませんし

ふせいだりしては
鳥が、さらに哀しむと思うので

だからせめて

さよならとだけ鳴く
「勇敢な」鳥が飛ぶ空を見上げましょう

さよならだけにある
「優しさ」を刻み讃えましょう


さよならの鳥の話です





(写真提供は「写真AC」IWOZONさんより。ありがとうございます。)





白い壁と金色の鳥

2015年03月28日 | 創作帳
白い壁は、もうずっと長いこと
壁のままでした。

その白い壁の上を
金色の鳥は、飛んでいました。


白い壁は、時々
鳥のように

飛んでみたいと
思うことがあります。

羽がほしいと
思うことがあります。

けれども

自分が、鳥の羽をみにまとい
飛んでしまったら

壁が壁では
なくなってしまうではありませんか。

壁が壁であることを
なくすというのは

(白い壁は金色の鳥を胸に抱きながら思います)

鳥に例えれば鳥が鳥であることを
なくすことなのでしょう。



白い壁は
白い壁である限り
壁でい続けます。


白い壁のままでい続ける
そこの壁を見てください。

金色の鳥が
はたはたと、気持ちよさそうに飛んでいます。











走る

2015年03月26日 | 創作帳
男は、走っている。

どこを?

道だ。

そこにある道だ。

そこにある道を、男は、ひたすら、走っている。

誰に走れと、言われたわけではない。


いつから、走っているのか?

正確な記憶は、ない。

おそらく、男の歴史が始まってから、ずっと、走っている。

走る途中で、おおかたのものは、置いてきた。

住んだ家、乗った車、使った手帳、書いた手紙、着たコート、履いた靴、吸った煙草、飲んだ酒、友、親、女……

捨てたわけではない。
忘れたわけではない。

ただ、

置いてきた。

走るために

置いてきた。

走る道すがら、出会うものたち。

走りながらなので、
すれ違いざまの、瞬間だ。

瞬間の、出会いと別れ

その繰り返し。


ゴールは、あるのか?

知らない。
わからない。
考えたこともない。

ただ、時間が、あまり残されていないことだけは、本能で察している。

走るために、
道の中途に「置いて」きた、
たくさんのものたちを

男は、

振り返ったり、取りに戻ったりは、
しない。


すでに、もう、おそろしく時間が、ないのだ。


走るのは
なんのためか?

考えるのは、むだだ。
意味など、ないに等しい。

あるとしたら

走るのは

走るため、それのみだ。

走るためだけに、

男は、走る。走っている。




(写真提供は「写真AC」スーパーパパさんより。ありがとうございます。)






つり橋

2015年03月25日 | 創作帳
山道を、歩いていました。

たくさん歩くと
急な断崖に行き当たりました。

つり橋が、かかっていました。

木と縄だけで、できている、かんたんな作りのつり橋です。

下は川。

急な流れの川の上に
橋は、ゆらゆらと、揺れています。

あたりには、誰もいません。

わたしは、つり橋というものを、渡ったことが、ありません。
それに、こんなに風に揺らぐ橋は、見たことがありません。

濁流の、ごうごうという音が、
山に、崖に、壊れそうな橋に、わたしの身体中に、振動になって、響いています。

今まで、のん気に、山の空気を吸い、道道の草花など、ながめながら、歩いてきましたが、

急に、こわくなってきました。

橋の向こうがわに、どうしても行かなければならない、というわけではありません。

引き返すか別の道をさがそうと、
からだの向きを変えようとした時、

橋の向こうに、きらりと光るものが見えました。

なんだろう?

目をこらしてみました。

銀色をしていました。


あれは……りゅう?

竜?

こんなところに? まさか……


銀色のうろこにつつまれた、長い長いからだ。

それは、まるで、わたしが、ここまで来たことを、歓迎し、喜んでいるかのように、
くねくねと、うねっています。

小さな小さな鳴き声が、聞こえてきました。

声は、わたしに
「おいで、おいで」
と、誘っているように、聞こえます。

美しい銀のからだと、耳に染み入る鳴き声……

わたしは、気がつくと、いつのまにか、ふらふらと、つり橋を、渡っていました。

足もとは、朽ちた木の板。すき間だらけに敷いてあります。

ふみはずすと、真っ逆さまに、下の急流の、餌食です。

ゆっくりゆっくり、慎重に、渡りました。

橋の半ばまで来たとき、突風が、吹きました。

橋から落ちないよう、風に飛ばされないよう、
わたしは、無我夢中で、橋をつってある、縄に、しがみつきました。

下を見ると、恐怖が増すので、ぎゅっと目をつむり……


しばらくして

風が少し弱まったので

そっと、目をあけました。

え?

竜……

竜は……? どこ?


向こうがわに、竜のすがたは、ありません。

うねうねの銀色も、耳に染み入る鳴き声も、ありません。

茶色い断崖があるだけです。


また、突風。

縄につかまって、ぎゅっと目をつむりました。

風が、止みません。

足がすくんで、ここから、動けません。

風は強まります。

目を開ける力も、勇気も、わたしには、なくなったみたいです。

竜……

竜は、どこ?
どこに、行ったのでしょう。
あんなに、わたしを、誘っていたのに……

まぼろしだったのでしょうか?

いいえ、
あれは……竜は、
まぼろしなんかでは、ありません。
確かに、すがたを見ました。
鳴き声を聞きました。


それにしても、

わたしは、橋を渡ることも、戻ることも、できなくなってしまいました。


まだ、つり橋の上に、います。





(画像は「写真AC」acworksさんより。ありがとうございます。)



空気は白く影も白く

2015年03月24日 | 創作帳
白い部屋に
ひとりでいるのです

ベッドも白
シーツも白

机も白
椅子も白

床も白
壁も白

窓がひとつ
ガラスも白

とびらがひとつ


このとびらから

だれか?
だれだったかしら

入ってきて
出ていったような

記憶があるのだけど

いつのことだったか
来て、去ったのが

それぞれ
どんな理由だったのか


記憶は
とぎれとぎれで

大きくなったり
小さくなったり

近くなったり
遠ざかったり


記憶から
流れる

空気は白く
影も白く


それなので


わたしも白く

白くなりました





しの字

2015年03月17日 | 創作帳
こころの

なかみが

あふれて

とまらなくなったときは


しんこきゅうして

しんではいないことをたしかめて

しんけんに


「し」の字をかきます


し 詩死詩死詩
し 志詩死志詩
し 紙糸詩死詩
し 私志死詞詩


しんけんに
しんけんに


かきます


こころの

なかみが

あふれて

とまらなくなったときは

しんこきゅうして

しんではいないことをたしかめて


しんけんにしんけんに


せなかの

けんこうこつをなぞって

かきます




ちょうどいい

まがりぐあいの

「し」が

かけます




















やぎのお手紙

2015年03月17日 | 創作帳
さみしがりやの、やぎがいました。

やぎは、森の奧の奧の奧に行く道をぬけたところにある、
山の奧の奧の奧の、切り立った、がけの、まんなかの、小さなあなに、すんでいました。

めったに、だれに会うこともありません。

さみしいので、遠くのお友だちや知りあいに、毎日、お手紙を書きました。

ゆうびんやさんは、めったに、ここまできません。
だから、書いたお手紙は、めったに、出せませんでした。

たまに、うんよく、お手紙を出せたとしても、おへんじは、ちっとも、きません。

おへんじを、書いてもらえないのか、お手紙が、とどいていないのか、わかりません。

あまりにおへんじがこなくてさみしすぎるので、
やぎは、自分あてに、おへんじを書くことにしました。

自分へのお手紙。
自分へのおへんじ。

さみしがりやのやぎは、毎日毎日、お手紙を書きました。

やがて、やぎのおうちは、お手紙でいっぱいになりました。

しかたないので

古いお手紙から、むしゃむしゃ食べちゃおうかな……と、思い、


ひとくち、お手紙をかじってみましたが、

なんだか、あんまりおいしくないので、食べるのは、やめにしました。


きょうも、お手紙を書きながら
さみしがりやのやぎは、
まっています。


ゆうびんやさん、こないかなあ。




(イラスト提供は「イラストAC」蘭丸さんより。ありがとうございます。)



ふでばこのワニ

2015年03月16日 | 創作帳
ふでばこの中に、ワニを飼っています。

透き通った緑色をした
とても綺麗なからだを持つワニです。

ワニは、たいがい、目をつむり、
ふでばこの中の消しゴムを枕にして、
すやすやと、ねています。

ほんのたまに、目をうっすらと、半分くらいあけます。

ワニが目をあけたとき、わたしは、

「ねえ、散歩にいかない?」

と、さそってみます。

ワニは、目を半びらきのまま、
ゆっくりと、長いお顔とお口を、いやいやと、よこにふります。

一度だけ、ワニを、むりやり、ふでばこから出したことがあります。

あまりに動かないので、

「からだによくないよう。うんどうしようよう」

と、外につれだしたのです。

すると、とたんに、ワニの、からだは、どす黒くかわり、半びらきの目はどんより、からだは汗だらけ、みるみる、ぐったりとしてしまいました。

わたしは、あわてて、家にワニをつれかえり、ふでばこにもどしました。

ふでばこの中にもどったワニは、とても安心したようすで、消しゴムの上にアゴをのせ、すうすうと眠りはじめました。
からだの色ももとの緑色のもどりました。

ぐったりしたワニが、回復するまで、長い時間がかかりました。


とても綺麗な緑色のワニ、みんなにも見てほしいのに。
ワニにも、外の新鮮な空気にふれてほしいのに。
季節で移り変わる景色、花や草や川の流れなど見せてあげたいのに。

そう思いましたが。
外へ出て、具合がわるくなるのでは、しかたありません。



ある日、わたしは、また、きいてしまいました。

万が一、ワニの気分が「ふでばこから出てみようかな」と、気が向くしゅんかんがあるのではと。


「ねえ、ふでばこの中から、少し、出てみない?」


あいかわらず、ワニは、いやいやと、長いお顔とお口を、よこにふりました。


「外は、すっかり春だよ。川辺に桜が咲いてたよ」


ワニの「枕」になっている消しゴムの上に、わたしは、ひろってきた桜の花びらを、しいてあげました。

半びらきの目が、めずらしそうに、じっと、桃色の花びらを見ています。
ワニの目が、少しだけ、ほほえみました。

「消しゴム、だいぶ小さくなったね。今度は、これより大きいの、買うからね」

花びらを見つめていたワニが、こっくりと、うなずきました。






(写真提供は「写真AC」キイロイトリさんより。ありがとうございます。)


2015年03月14日 | 創作帳
ノートの間に鳥をはさみました。

ずいぶん前にはさんだので、
どこにはさまっているのか、わからなくなりました。


鳥にとても会いたくなったので、ノートをめくってみました。
でも、めくってもめくっても
鳥は見つかりません。

鳥は、すっかりノートに溶けこんでしまったみたいなのです。

そこで、ノートのページを一枚ずつちぎって
飛ばすことにしました。

その紙が鳥であれば、
飛べると思うからです。





(画像提供は「写真AC」acworksさんより。ありがとうございます。)

月の糸

2015年03月10日 | 創作帳
夜空から、糸が一本、するすると、おりてきました。

見上げると、金色に光るまん丸のお月さまが、ありました。
今夜は満月です。

その糸は、お月さまと同じ金色をしていました。

わたしは糸のはしっこを手にしました。

糸の先は、夜空にすうっと伸びていて、
お月さまに、つながっているようでした。

金色の糸は、とてもやわらかく、やさしい手ざわりです。

そうだ。

わたしは、糸の先を持ったまま、家まで帰ることにしました。

とちゅう、糸は切れることはなく、ぶじに、持ち帰ることができました。

糸の反対がわの先は、お月さまにつながったままです。

その糸で、マフラーを編むことにしました。

まいばん、少しずつ、編みました。

細い糸なので編み進めるのに時間はかかりましたが、
少しずつ、少しずつ、長くなりました。


マフラーが、長くなるにつれ、
お月さまは、少しずつ、細くなっていきます。

月の糸で編んだマフラーは、
気持ちがやわらぐような手ざわり、はだざわりでした。
なので、
編んでいるとちゅう、かなしいことがあったり、つらいことを思い出すたびに、
それを首にまいたり、顔にあてたり、涙をふいたりしていました。

やさしいまきごこち、ふきごこちは、
少しだけ、かなしみを、わすれさせてくれるようでした。



新月の夜になりました。

今夜もつづきを編もうとしましたが、

あれ?

どこをさがしても、マフラーがありません。

マフラーをおいていた、テーブルの上には、
小さな水たまりができていました。

水がこんなところに?
何もこぼした覚えはないのに。

なめてみたら、食塩水のようにしょっぱかったので、
ああこれは涙かもしれない、と、思いました。
でも今までに流した涙のわりには、少なかったので
きっとほとんどは、(マフラーの)糸が吸い取ってくれたのでしょう。



もしかして……
糸は、月へと、また帰っていったのかもしれない。

新月から、お月さまは、また、丸くなっていきます。
お月さまはお月さまを編むために糸が必要なのかもしれません。
お月さまは、その糸で自分を編んでいるのかもしれませんから。

月の糸はまたわたしのもとへ降りてきてくれるでしょうか。
次の満月の夜、金色の糸をさがしてみることにします。




(画像提供は「写真AC」サンサンさんより。ありがとうございます。)