DayDreamNote by星玉

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風の中、リスの声_160427

2016年04月27日 | 創作帳
風の中に、リスの声が、聞こえたような気がしました。

ずうっとまえ、別れたままの、リスです。

よい毛並みで、くるんくるんのしっぽ、丸いきらきらの黒目をしていました。

わたしたちは、とても仲良しでした。
よく一緒に、森の木に登ったり、枝に並んですわって木の実をかじったりしました。

わたしは、運動神経があまりよいほうではないので、ゆるゆると木に登っている間に、
リスは、あっという間に木のてっぺんや、小枝の先まで行き、
わたしのぶんまで、たくさん木の実をとってくれました。
木の実は、わたしが食べやすいようにと、ていねいに、むいてくれました。
やさしいリスでした。

リスは、さわさわと木々をゆらす、まるで森の風のような、すてきな声を持っていました。
その声で、風とデュエットして、歌をきかせてくれたりしました。

けれども、ある日とつぜん、リスは、森から出ていってしまいました。
さよならも言わずに。
春の終わりでした。

リスにはリスの次第があったのでしょうか。

仲良しだった日々のことを思うと、いたたまれず、
わたしは、二度と木に登ることも、木の実をかじることも、しなくなりました。できなくなりました。


風が吹くたび、わたしは、つい、その中に、リスの歌声を、さがしてしまいます。

耳を澄ませると、時々、風に乗ってきこえてくるような気さえするのです。

……いま、きこえたかしら?

……いえ

……いえ、やはり、風の音でした。


リスの声は、耳の記憶のいちばんよいところに置き、春の風を吹かせるのです。

その風を持ち、季節を渡ると、

そうすれば、この世のかなしみはのいくつかは、森から天に吹く風に乗せることができるでしょうか。













きゅうりの彫刻家_160420

2016年04月20日 | 創作帳
きゅうりの彫刻家がいました。




きゅうりの彫刻家は
きゅうりを彫って
彫刻を作るのです。




きゅうりの彫刻家は
きゅうりを彫ることだけに
心をくだいています。




なので、おおかたの記憶や思い出は

きゅうりの彫刻家の頭の中では、定かではありません。





いつから自分は、
きゅうりの彫刻を始めたのか

昨日なのか、何百年も前からなのか
そして、何本の作品を完成させたのか、
そんなこんなの記憶はいつもかすみのように

ぼんやりとしていて、まったくはっきりしていません。


きゅうりの彫刻家が
愛するひとの影ばかり
きゅうりに刻み始めたのも
いつからのことなのでしょう。




愛するひとがきゅうりの彫刻家のそばからいなくなって
どれだけの時が経つのでしょう。




数時間なのか、数百年なのか、

きゅうりの彫刻家にとって

時を流れゆく記憶も思い出も

大したことではありません。


きゅうりを掘り刻み形にするときの、
息詰まる一瞬一瞬の緊張と、

次に来る天国のような安堵に比べれば、
思い出などまるっきり大したことではないのです。


きゅうりの彫刻家の作る彫刻が、
どのような形をしていて、どのような出来具合なのか、
誰も知らないし、誰も見たことはありません。




きゅうりの彫刻家は
出来上がった作品はすぐさま
ぽりぽり食べてしまいますから。


昨夜完成した「しんじつの愛」というタイトルのきゅうりの彫刻は、
塩もマヨネーズもつけず、そのまま丸かじりしました。



数秒でなくなりました。

苦みと酸味が強くてほのかに甘みのある「しんじつの愛」だったそうです。
















「きゅうりの彫刻家」fin.














花びらの煙_160419

2016年04月19日 | 創作帳
桜の花びらを
集めています

集めるのは
散ってしまった
花びらです



何年か前の春のこと

恋人を
亡くしました




桜の散る頃
また会いましょう必ず会いましょう

恋人とは
そう、言って
分かれて

それきりに
なったのです

二度と、会えない人になりました


それから
散った花びらを集めるようになりました

恋人の思い出を
花びらに埋めるため

恋人の顔を、香りを、ぬくもりを、声を
花びらに埋めるため

恋人とわたしが、見た、触れた、聞いた、作った、何もかもを
花びらに埋めるため



花びらは
わたしの家の床が埋まるくらいまで
集めます

2015年の花びらが、集まると
2014年の花びらは、燃やします

2016年の花びらが、集まると
2015年の花びらは、燃やします

2015年、2014年、2013年、2012年、2011年……

ずうっと
燃やしてきました

毎年毎年
燃やしているので

桜の散る季節

わたしの瞳は

桜の煙色に
なります






花と妖精_160417

2016年04月17日 | 創作帳
春に咲く
お花だけ

食べて暮らす
妖精がいました

今年の春も
たくさんたくさん

お花を食べて
妖精のおなかはいっぱい

……にはならず

まだまだ食べられそうですが
春は終わります

春が終わるとまた
おなかがからっぽの妖精にもどります

なので咲いているお花は
今のうちにせっせとおなかに入れてたくわえます

それで春はとても
いそがしい妖精です





春になると少女は_160414

2016年04月14日 | 創作帳
春になると
少女は

さくら色のワンピースを
身にまとい

すみれ色のスカーフを
首に巻き


白いひな菊もようのくつを
はきます


それから

スケッチブックと
黄色の色鉛筆をいっぽん
かばんに入れて

川の土手へ
出かけます

土手には
一面のたんぽぽ

少女は
花のそばに
そっと腰かけると

黄色い色鉛筆を取り出し

たんぽぽを
画用紙いっぱいに
写します


写し終わると

たんぽぽを
描いた

画用紙で
舟を作ります


そして


できた舟を
川面に浮かべ
乗りこみます


少女は
いったい
どこへ?





(一度だけ、少女に聞いたことがあります)


「会いたい人がいるのです
二月の風に吹かれたまま動けないでいるのです」と





春になると
少女は


さくら色のワンピース
すみれ色のスカーフを

風に
そよがせ

それがどこかわからない
水辺を目指し

たんぽぽ色の舟を
漕ぐのです





えんぴつの希望_160412

2016年04月12日 | 創作帳
ある時、とつぜん、
えんぴつは、字や絵が書けなくなりました。

えんぴつは、おろおろと、かなしみました。

「どうしよう。どうしたらいいんだ。
 書けないえんぴつはえんぴつではないではないか。
 どうしたら、もとのふつうのえんぴつみたいに、書けるえんぴつになれるんだ。
 自分は、えんぴつとして、えんぴつであるために、やらなければならないことが、
 まだまだ足りないから、こんなふうになってしまったのだろうか」

えんぴつは、えんぴつだけが描ける希望や夢があるのだと、ずっと信じていました。
その希望や夢を消さないようにと

(どうしたらいいかやり方もわからないので思いつくままに)

ある時は
からだにぎゅうきゅうチカラを入れてみたり
ある時は
冷たい水や熱い湯の中に身を投げてみたり
ある時は
からだぜんぶを、壁や床や机にたたきつけてみたり
ある時は
細いからだを、さらに削って細くしてみたり

そんなことを、やっているうちに、
えんぴつは、書けるえんぴつになるのが、
えんぴつの、希望なのか、反対に、疲れ果てて希望を失うことなのか、
さっぱり、わからなくなりました。


いまだにえんぴつには
わからないままです。

わからないまま、えんぴつは
このままえんぴつにもわからないどこかに
行こうとして
そして、そのことが希望なのか絶望なのかを判断しまうのは
ひどく無意味な気もして
筆箱を出たり入ったりしています。









ぐーちょきぱー_160408

2016年04月08日 | 創作帳
ぐーちょきぱー

ぐーばかり出していたら
手が石になってしまいました

ぐーちょきぱー

ちょきばかり出していたら
指がはさみになってしまいました

ぐーちょきぱー

ぱーばかり出していたら
てのひらが紙になってしまいました


それで


お酒ばかり飲んでいたら
からだがグラスになってしまいました


泣いてばかりいたら
ないぞうが海水になってしまいました


夢ばかり焦がれていたら
心がシャボンになってしまいました



ぐーちょきぱー


ぐーで
海水に泡をたてて

ちょきで
海水をきりさいて

ぱーで
海水をかきわけて


グラスになったわたしは
ジャンケンしながら
海をゆきます





逆立ちキリン_160405

2016年04月05日 | 創作帳
長いお首が、逆さまの
細いお足が、逆さまの
キリンさん

あなたの草原には
何が見えますか。

逆さまの土や草や花や虫?
逆さまのなかまのキリン?
たまにやってくる、逆さまのニンゲンの足?

あなたにはあなたの草原にある
景色がその目にたくさんたくさん見えると思うけれど

あなたの草原の、
その向こうのまた向こうの
キリンの住まない草原にいるわたしのすがたを
見るのは、きっと、かなわないことでしょう。


かなわないことなど
じんせいにはたくさんある?
そうですねそうですね。その通りです。


かなしいことなのですが、もうひとつ
わたしにはかないそうにないことがあります。

わたし、
逆立ちができないのです。

いくらがんばっても
(今のところ)できないのです。

なので
逆さまのあなたが見る景色を見ることは
またかないそうにないことなのです。


でも
わたし、あなたの好物(だと聞きました)青い草を食べ
草原をさやさやと渡る風に吹かれているうちに
気がつきました。

自分の位置が逆さまではないと
思い込んでいましたが
それは単なる思い込みではないかと。

あなたの逆さまはあなたにとって逆さまではなく、
わたしが逆さまでないことはあなたにとっては逆さまなのです。

あなたからみれば
わたしのみる景色は
あなたの逆さまということで。

言い換えれば
どっちも
逆さまということで
どっちも
逆さまでないということで。


むずかしくなりました。
草を食べることにします。


それでつまりは

逆さま笑い顔逆さま泣き顔のあなたへ
ただただ
青い青い草がなびくささやかな風を
送ることができたらと思うのです。