DayDreamNote by星玉

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つり橋

2015年03月25日 | 創作帳
山道を、歩いていました。

たくさん歩くと
急な断崖に行き当たりました。

つり橋が、かかっていました。

木と縄だけで、できている、かんたんな作りのつり橋です。

下は川。

急な流れの川の上に
橋は、ゆらゆらと、揺れています。

あたりには、誰もいません。

わたしは、つり橋というものを、渡ったことが、ありません。
それに、こんなに風に揺らぐ橋は、見たことがありません。

濁流の、ごうごうという音が、
山に、崖に、壊れそうな橋に、わたしの身体中に、振動になって、響いています。

今まで、のん気に、山の空気を吸い、道道の草花など、ながめながら、歩いてきましたが、

急に、こわくなってきました。

橋の向こうがわに、どうしても行かなければならない、というわけではありません。

引き返すか別の道をさがそうと、
からだの向きを変えようとした時、

橋の向こうに、きらりと光るものが見えました。

なんだろう?

目をこらしてみました。

銀色をしていました。


あれは……りゅう?

竜?

こんなところに? まさか……


銀色のうろこにつつまれた、長い長いからだ。

それは、まるで、わたしが、ここまで来たことを、歓迎し、喜んでいるかのように、
くねくねと、うねっています。

小さな小さな鳴き声が、聞こえてきました。

声は、わたしに
「おいで、おいで」
と、誘っているように、聞こえます。

美しい銀のからだと、耳に染み入る鳴き声……

わたしは、気がつくと、いつのまにか、ふらふらと、つり橋を、渡っていました。

足もとは、朽ちた木の板。すき間だらけに敷いてあります。

ふみはずすと、真っ逆さまに、下の急流の、餌食です。

ゆっくりゆっくり、慎重に、渡りました。

橋の半ばまで来たとき、突風が、吹きました。

橋から落ちないよう、風に飛ばされないよう、
わたしは、無我夢中で、橋をつってある、縄に、しがみつきました。

下を見ると、恐怖が増すので、ぎゅっと目をつむり……


しばらくして

風が少し弱まったので

そっと、目をあけました。

え?

竜……

竜は……? どこ?


向こうがわに、竜のすがたは、ありません。

うねうねの銀色も、耳に染み入る鳴き声も、ありません。

茶色い断崖があるだけです。


また、突風。

縄につかまって、ぎゅっと目をつむりました。

風が、止みません。

足がすくんで、ここから、動けません。

風は強まります。

目を開ける力も、勇気も、わたしには、なくなったみたいです。

竜……

竜は、どこ?
どこに、行ったのでしょう。
あんなに、わたしを、誘っていたのに……

まぼろしだったのでしょうか?

いいえ、
あれは……竜は、
まぼろしなんかでは、ありません。
確かに、すがたを見ました。
鳴き声を聞きました。


それにしても、

わたしは、橋を渡ることも、戻ることも、できなくなってしまいました。


まだ、つり橋の上に、います。





(画像は「写真AC」acworksさんより。ありがとうございます。)



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