DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

drop87.浜辺

2023年09月29日 | 星玉帳-Deep Drops
【浜辺】


浜辺に「虹」を探している魚がいた


「海の中から虹を見たのです


その美しさが忘れられなくて…


でもあの時の虹は二度と見ることは叶わない」


と魚は体を震わせ


乾いた目から海の雫をこぼす


長く空と海を見つめていた魚の姿が消えたのはいつのことだったか


浜辺の人は誰も覚えていないという



drop87『浜辺』





drop84.月夜

2023年09月18日 | 星玉帳-Deep Drops
【月夜】


月の宿で一夜


言葉を交わした旅人がいた


堕ちてゆく詩をうたっていた


「果ても知らず堕ちてゆくのは悲哀なのか喜びなのか


情けも解らず墜落に溺れるのは破綻なのか望みなのか」


月の光眩しい夜だった


詩人の墜落は誰知ることも無く


溶けてゆくのを見た



drop84『月夜』



drop83.海辺

2023年09月14日 | 星玉帳-Deep Drops
【海辺】


海を眺める人は誰かの帰りを長く祈っているのだと


星間船の船乗りから聞いたことがあった


船乗りと別れた後


海辺の宿で幾季節も過ごし


幾度も別れがあった


いつしか旅に出ては海を探すようになった


朝焼けの刻


日暮れの刻


闇の刻


海を探すようになった



drop83『海辺』



drop81.船影

2023年09月08日 | 星玉帳-Deep Drops
【船影】


長い旅物語を聞かせてくれた旅人と別れた朝


天は灰色の雲に覆われていた


隙間をぬうように銀色の影が風に乗って遠ざかる


あれは船


あの旅人が乗ると言っていた


旅人は終わりの始まりを教えてくれた


もう会うことはない人との終わりの始まりを




drop81『船影』



drop80.宙の欠片

2023年09月06日 | 星玉帳-Deep Drops
【宙の欠片】


砂丘をいくつか越えると


見えてくる


砂の星を旅する人に伝え聞いた「物語を埋める墓所」だ


旅人は物語の伝え人だった


物語を砂の中に埋める


するとそれは長い時を経て砂に混じり


風に舞い


宙の欠片になるのだと



drop80『宙の欠片』